表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非実在青少年は異世界で死霊術師を愛でる  作者: A・F・K
長いプロローグ・城脱出編
6/54

※6 見えない幽霊が魔法使えるとやばい=レイス系はリッチ系より強い



(思ったよりうまくいきすぎました。やりすぎたかもしれません。

 それとエルフ耳や聖隷はもしかしたら特殊能力を持っていないのかもしれません。

 見たとこみんなキャストタイムなしの無詠唱で魔法を使っているけど、魔力の流動なしに現象が起きた様子はありませんでした)


(――そうだね。特殊なものはやはり神子のみのもの、もしくは使える者が極端に少ないとみていいかな。

 あと魔力感知能力を持っているのも、反応から見て確実か。

 先に混乱を起こして正解だった)


 周囲を巻き込んで崩落したサロンから昇る炎に炙られながら、俺はタマに報告していた。


 正面から戦っても勝ち目がない。それは彼らに特殊能力があろうとなかろうと、確かだった。

 だが不意を打てばどうだろうか。


 結果はご覧じろ。

 現在の俺の能力である『描画』による魔法と、この『RPGシステム』のプレイヤー視点は暗殺、不意打ちにおいて最高の性能を発揮することが証明されたのだ。


 特殊能力という、おそらくは魔力とも違う力による誰にも感知されないこの体と、魔力さえあれば魔法陣を描くだけで発動可能で強力な魔法。

 しかもその魔力は誰からでもどこからでも採取、利用できるし、純度が高く扱いやすいタマの魔力はプレイヤーとプレイヤーキャラクターという繋がりだけではなく、『描画魔法』そのものの起動キーを持つ死霊兵スズキが彼女の手元にいる関係で距離が関係ない。

 魔法陣はコピー&ペーストで一度描いて記録しておけば何度でも利用可能。

 サロンでのあの反応から見て、他者の体内で魔法を発動するというのは本来不可能なのだろうことも拍車をかけた。

 それを本人の魔力を勝手に利用することで実現させ、『描画』の副産物とも言える魔力で描かれた絵が俺以外には見えないという隠密性が、完全な不意打ちを実現させたのだ。


 これはおそらく、ゲーム中でも壁の向こうの対象へ第三者視点であるプレイヤーがターゲットカーソルを合わせられたからだろう。

 それでもゲームだったらこれでシステムにのっとってキャラクターに敵愾心(ヘイト)が自動でいっていたところだが、予想通りここではそんなことにはならなさそうだ。

 システムは俺とタマにしか適用されていないのだから。


 しばし被害状況を確認していた俺の視界が不意に暗転した。

 次の瞬間には目の前にタマの姿と、狭い木造部屋の様子が。

 タマが『押し入れ』を発動させたのだ。


 経過は順調である。

 が、やはりタマには刺激が強すぎたようだ。顔色が悪い。

 先ほど空になるまで一度に大量に魔力を使用したからというのもあるだろうが、それは『押し入れ』に入ったことで強制回復している。

 これは補助系統の遠視魔法でサロンで起きたことを途中から見ていたためだと思われた。


「ありがとう。よくやってくれた。このまま作戦通り城へと向かおう」


(少し待って下さい、今回のでまたタマのレベルが上がっている。死霊兵も。

 少しスキルツリーをいじりたい)


 だがこれは二人で考えた作戦だ。

 慰めの言葉はかけない。

 彼女は事実上すでに俺を殺しているし、下手なことを言えばこじれるだけだ。

 代わりに少しでも気持ちを落ち着けられるように今は時間を与えるしかない。

 と思ったのだが。


「あんまり時間がない。悪いが早くしてくれ。

 予定通りとはいえ、生き残った聖隷が多かったからね、時間がかかりすぎると何人かはこちらへ来るはずだ」


(わかりました)


 精神的なものかうまく力が入らない様で、拳を開いたり閉じたりしながらそんなことを言う。

 だが同時にそれは、そういった確認が出来る程度には冷静でいられているということでもあるのだろう。

 俺の配慮にも気付いて、次の行動のために。

 どういった心境の下か知らないが。


 ぶっちゃけ俺ちょっと吐きそうなんですけど吐くもんないせいかストレスヤベーよスキルツリーいじる指先おもっくそ震えてやがるチクショウ。

 エルフ耳の超美形女性ばかり直接爆破したからなぁ。

 見た目だけなら二次化したら好みだったのに。

 もっと地味な方法でヤれば良かったかもだが、混乱させるには演出も必要だったしなぁ。

 まあ後悔など微塵もしていないが。

 俺たちに不幸しか与えず、恨みもない人を殺して悦に浸れる奴らなど、どう考えたって俺という主観からすれば邪悪な怪物と同じだ。

 そこいらの獣ですらない。


 サロン爆破に使った『炎熱・爆炎5』は派手に建物を壊すように内側から外向きに配置したので、実は内部にはあまり爆炎がいっていない。

 逆に周囲をかなり巻き込んでしまったが。

 近いここも何気に危なかった。

 『炎熱・爆炎1』はイメージ通りだったけど、『炎熱・爆炎3』あたりからゲームイメージより飛躍的に爆発が大規模化していた。まあゲームのは画面処理の問題とかから、威力の割に範囲やエフェクトもそこまでではなかったからなあ。

 だがそれは外に向いていたのだ。

 そのため倒壊と延焼、高温ガスによる危険は大きいが、意識があった者はあの様子だと防御結界などでなんとかなっているだろうことはわかっていた。

 エルフ耳や聖隷の魔力はタマほどではないにせよ相当なものだ。

 様子を見ている間にも炎の海の中から這い出してくるエルフ耳や聖隷がいたし。

 とはいえログには今も着々と広がる被害状況更新が出ていたが。

 元々精霊魔法の炎熱系統だから熱量重視の魔法なのだ。

 石材が燃える高温の中、生きて自力で出てくる奴らがいるだけ普通ならおかしい。

 てか文字通り飛び出してくるヤツいたし。『炎熱・爆炎1』が近くで爆発しても少々の火傷だけのもいたからな。

 エルフ耳は天然で頑丈さチートをもってそうだ。もしくは魔法が効きにくい体質とかだろうか。

 内部からでも吹っ飛んでたし、エルフ耳なのだから後者だと思っておこう。身体強化っぽい魔法使ってる奴多かったのは見なかったことに。


 ところで延焼とかで死んでも経験値判定が入るようだ。火傷や毒とかと同じ扱いなんかね。


 今のところタマに必要な魔法や技能は俺の体を倒したときのレベルアップ分で充分だったが、死霊兵スズキも今回ので一気にレベルが上がったのはありがたい。

 ちゃんとこちらでスキルツリーもいじれるようだ。


 スキルツリーに現れているものを幾つか取得し、伸ばす。

 残念ながら死霊兵スズキに自立した精神がないためか、魔力はあってもほとんどの魔法は不可能な様子のため、タマの魔法ツリー系とは別の物理ツリー系による補助系統だが。

 『体術・気配遮断』のスキル名でどうして姿が半透明になるのか私気になります!


(終わりました。

 死霊兵も気配遮断とか、他に猫足っていう歩行音消しとか覚えさせましたから)


「わかった。では行こうか」


 言うが早いか『押し入れ』が解除される。


 と、室内には廊下にいた聖隷がいて、突如現れた骨塊を抱えるタマを見て警戒の動きを見せた。

 とっさに俺は魔法陣を彼女の体内に仕込むが、発動はさせない。まだ様子見だ。


「そこの聖隷の方、先ほどの振動や爆発音はなんですか?」


 丁寧語で、なんでもないようにタマがすっとぼけた質問を投げかける。

 そんなタマに対して聖隷は警戒を解き、状況を説明してくれた。

 曰く、盛守宴殿が何者かの魔法で崩壊。近いここは危険であるため、神子様を避難誘導するために来たとのこと。

 警戒したのは何もないところから突然現れたからだという。

 あの場所そんな名前だったんだと思いつつ、もう関係ないのでサロンでいいやと考え直す。

 この聖隷は俺たちが召喚された場所にはいなかった。だからもしやとは思っていたのだ。

 どうやら事前に想定していたとおり、この聖隷はタマの能力も、そのうち一つを使用禁止に指定されていることも聞かされていないようだ。

 エルフ耳達は本当に首輪を過信しているのか、それとも。


 とりあえず誘導に従いながら、先ほどのはタマの能力で、防御壁と透明化の魔法だと説明する。

 危険だと判断して使ったこと。

 そして外部の様子は見えるが声とかは聞こえなくなるので、この聖隷が入ってきたので出てきたのだとでっち上げて話した。


 避難場所はどこかと訊けば、神子様の避難場所は本城にある地下だという。

 そこは俺たちがもしこの聖隷がいなかったら隠匿魔法を使用し、潜入しようと考えていた場所の近くのようだ。

 どうやらタマや死霊兵に隠密行動用の魔法とかを覚えさせたのは無駄になりそうである。

 あれ? でもそういえば――


 考え事をしていたのもつかの間。

 本城へと続く巨大な渡り廊下の途中、何度もすれ違った者と同じ鎧を着込み帯剣したエルフ耳男性に足止めされ、誰何された。

 その後ろでは同じように揃いの騎士風武装をした者達が、逃げてきた他の女性達に保護という名目の拘束を施し、別所にて尋問を行っているようである。

 名乗り、共に来た聖隷女性と一緒にエルフ耳男性に誘導される。


 そのタイミングで俺は先行して配置しておいた描画魔法を起動させた。

 タマ達がいる場所からやや本城に近い場所に『炎熱・爆炎5』を二つ。逆の後宮に近いところに一つだ。


 予想通りその起動魔力を感知した一部のエルフ耳女性達が叫んで逃げ出そうとし、慌てて聖隷騎士達が留めようとするが強行も出来ず、上司と思われるのエルフ耳男性の一人が声を張り、代わりに女性達をなだめようとした。


 しかしその第一声は、逆に混乱を助長させるだけとなった。


 注目を集めた者も含め、数人いたエルフ耳男性達が同時に爆発したからだ。タマと一緒にいた聖隷女性と共に。


 もちろんのこと、狂乱の様相を呈するその場にはもうタマの姿はない。

 不可視化の魔法、消音の魔法、消臭の魔法、さらに敵を撒く際に使う幻惑の魔法を同時発動させ、死霊兵スズキの骨塊ごと俺視点で半透明、おそらくは他の者からは完全に姿を消失させて本城へと駆け込んでいた。

 もちろん幻惑魔法の幻影は別方向である。


 ちなみに結局彼女も死霊兵も隠匿系統を自力発動させることはなかった。俺が描画魔法で全てやってしまったためである。

 寸前になって気付いたのだが、彼女は俺みたいに魔法を同時多重発動は出来ないはずなのである。

 なぜならゲーム中では魔法は一つずつしか起動できないのだから。

 描画だとストックして起動すれば同時になるのだが、自然とそれを実験段階で俺がやっていたため、失念していたのだ。

 今この場で一つずつなんてちんたらやっていたら、駆け込む時間がたりなくなる以前に誰かには異常を気取られる。それでは意味がないのだ。

 死霊兵が覚えた技能を発動させることがなかったのは、どうやら骨塊を抱えたタマごと魔法の対象となったようで、使用する意味が無くなったからだ。


 そのむねを直前になって説明したところ、タマは黙って頷いていたが、それから彼女はどことなくむすっとしていた。


 死霊術は操られている時だからノーカンだし、魔力を使うとはいえ特殊能力だ。

 『押し入れ』は劇的な効果があるが、魔法とはいえないだろう。

 如何にも物語的でファンタジックなそれという感じがない。

 そして押し入れ内部では魔法や技能が使えない。

 つま自力で彼女はまだまともに魔法を使っていない。


 まあ、気持ちはわかるよ。うん。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ