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※7 そしてまたロリコンが増える


 演舞の途中から出現したスメ・シュガ市のミニチュアは、俺の『描画』によるものだ。


 戦闘で『RPGシステム』の魔法陣を描くことが多いため忘れがちだが、元々この『描画』は魔力で描いた物体や現象を現実にする、一種の万能魔法である。制限の問題があるため理想とする万能とはほど遠いが、条件さえ整えれば大体のことは実現可能だ。

 そして俺は訪れた場所を一度は絵に起こしていた。

 特に最も長い時間滞在したスメ・シュガ市は行動できる範囲のガワだけでも全て絵にしていて、内部や細部、影部分はどうとかを除けば街中を全て絵にしていた。

 そう。あのミニチュアは俺の『描画』とタマの無限ともいえる魔力を使い、一時的に再現したスメ・シュガ市そのものといってよかった。そのセットを使い、あの時の戦いを嘘のない程度に脚色短縮して上映したのだ。

 もちろん女王も絵にしていたし、あの街で出会った多くの人達も絵にしていた。

 先ほど披露したミニチュアでは、サイズと観客席との距離問題でほとんどの人達には良くできた人形くらいにしか見えていなかっただろうけれど、実際のところしっかりと対面したことがある人達は細部まで作り込んであった。目の良い人間であれば生きているのと変わらないその姿に驚嘆したはずである。

 そして途中に挿入した声については『RPGシステム』によるものだ。

 ロールプレイングゲームといえば冒険である。そして各地で起こる各種イベントであり、『RPGシステム』の基礎となっている俺のハまっていたMMOではそういったイベントをリプレイする機能があった。MMOの特性上一度しか体験出来ないイベントとというものも多く、会話劇などのストーリーシーンを再体験・再上映することが可能となっていたのだ。

 その機能を利用して声を抽出。俺が再体験。

 本来俺では体験出来ない匂いや味という感覚も『描画』による漫画表現でもって俺でも体験可能で、さらにそれを現実化してタマやラハッカでも再体験可能であったので、俗に言うふきだし表現でもって観衆に聞こえるようにしたのである。

 そうやって出来上がったのが今回の演舞もとい舞台もとい上映会だったわけだ。


 多くの王都住民、特に上流階級所属者はスメ・シュガで起こった鱗蟻人女王の奇襲や討伐戦を噂や詩人の歌として知っていた。

 ギルド経由でそうなるように仕向けたし、あの戦いをスメ・シュガから見ていた商人や、戦闘には参加出来なかった一部の下位冒険者が酒の肴に流布したからだ。

 女王の処理やアルトウン市でのやり取りなどもあったので、実際にタマ達が王都に着くまでは結構な時間があった。それまでに新たな領地の開放という商機に直面した商人達の足と口は素早く回り、噂が浸透したというわけである。


 そうして芽吹いていた環境に水どころか化学肥料までこさえてやれば、誰もスメ・シュガで起こった事態の当事者達を無下になど出来なくなる。

 映像という概念が未だ存在しない世界だ。

 言葉や文字での情報伝達が未だ主流の世界で人間にとって最大の知覚手段である視覚と、『描画』が魔力を使用したものであるためにビフトア人にとって重要な知覚器官である魔毛角を刺激した先の上映が、一体どれほどの影響力を持った()薬かなど、言うまでもないだろう。

 ザサの王侯貴族としては微妙どころか勘弁してくれといった具合かもしれないが。


 まあ少なくとも試合のせいで若干落ちてたメリベルの株は、「絶対助け出すからねっ」によってじわ上がりしたと思われ。

 この国の庶民は仲間思いな人間を嫌えないらしいからね。釣られて他の嫁ズの株も上がるかどうかはこれから次第だろう。オーパーチとからへんもフォローしたかったんだけどね。ほら、彼女の女王戦、いっちゃなんだけど地味だったから。


 そしてタマの評価だが、戦闘面に関しては若干低下した模様。

 上映の都合というか、被害を出さないために実戦闘で攻撃全てを防いでいたせいなんだけど、物が全く壊れていなかったため迫力に欠けてしまい女王弱体化説が市民間で有力視されそうだわ、コレ。スメ・シュガで生実況見てた人達は魔力ビンビン感じてたから、そんなことなかったんだけどね。

 ……オーパーチもそうだけど、盾役(タンク)ってのはどうしてもね。ほんと、居ないとパーティーが全滅する重要ポジなのにね。ヒーラーはチヤホヤされるけど、タンカーは防いで当たり前の風潮はどうかと思うの。それどころか全回避してノーダメージ当たり前とかヌかすヒーラーマジ臼ぃ。忍ぶサブアタッカーがメイン盾兼ダメージディーラーとかマジ汚ぃ。

 とはいえ、代わりに前面に出続けたことはしっかり伝わったようなので、それで十分だろう。

 アタッカーの派手さはラハッカがそこそこ持っていっただろうしね。


 とまあこのように俺が観衆の反応を確認し終え、藪を突つけば損するとわかっているのか大魔法人形劇ともいうべき謎の立体映像の詳細をその場で王侯貴族に問われることなく、[墨塗り]の二人が舞台から去ろうとしたときだった。


 王様達が座る貴賓席がにわかに騒がしくなったかと思えば、最上階であるその場所から誰かが飛び降りたのだ。

 貴賓席から一蹴りで舞台中央まで飛んで(・・・)きたそいつは高さ五十メートル分の重力加速度を得て、それに相応しい派手な地響きをたてて着地したというのに、着地の瞬間わずかに膝を撓ませただけで衝撃の全てを受け止めきり、何事も無かったかのように歩き出した。


 土埃を割って現れるトラミミと小さな角、オールバックに撫でつけられた金髪、野生と野心でギラつく眼光、如何にも自信に満ちあふれている笑みは男臭く、まだ若いのにそういったパーツや仕草が嫌みにならないどころか、男の俺でも素直にカッコイイと思わせる空気がしっかりと存在する。

 重厚な青い鎧に身を包んだその男――グフア・ル・ウ・グル皇子が拍手する。


「見事な劇であった。帝都でもあれほどの人形劇は見たことがない、実に素晴らしいものだったぞ。あれはヤマダ・タマヤ嬢の魔法か?

 我はお主を気に入った。

 ショーコ・ラハッカ嬢は以前に皇帝陛下の誘いを断っているそうだがどうだ、二人我の下で働いてみる気はないか?」


 おお、飛び降りてきて何を言い出すかと思えば、属国とはいえ他国の英雄を堂々とスカウトしてきた。しかもしっかり聖神国語でである。

 まあザサ王国の上役からそういったお誘いは一切来てないし、今コレ見ている観衆がどう思うかは別として、ザサとしてはそこまで問題はないんだろうけどね。

 いや、もしくは今まで全くそういう動きがなかったのは、皇子がこうするつもりだったからとか?


 ちなみに彼とタマが直接面会するのはこれが二度目である。

 最初はスメ・シュガに鱗蟻人王子の死体を持ってやってきたときで、あのとき女王討伐の立役者として挨拶をしたくらいで後はアルテノが対応してくれた。王都入りの凱旋パレードに参加するような話があったのでそこでも接触すると思っていたのだが、彼は先に凱旋を済ませて王城に入っていたのだ。これは身分の問題とかも色々とあってのことだろうと思う。


 そして凱旋時などにまた接触があると思っていて、彼の思惑次第ではスカウトもあり得るだろうなーと考えていたので、そうなったときにどうするかもすでに決めてあった。


 タマもラハッカも頭は垂れずに片膝を地に着ける。

 そして簡潔に返答した。


「お誘いありがとうございます。

 ですがそのお誘い、丁重にお断りさせていただきます」


 完全に慇懃無礼レベルのお・こ・と・わ・りである。


「ほう? それはなぜだ? 働き次第では報酬は思いのままだぞ?」


 そしてばっさりと断られた皇子はまくし立てるように理由を問う。


「私の望みを殿下では叶える事が出来ないからでございます」


「我にも叶える事が出来ない望みか。してそれはなんだ?」


「お答えしかねます」


「なぜだ?」


「答えることで私に不利益が生じるからです」


 歯に衣着せぬ物言いに、う、む。と皇子が動揺したように頷く。


 地球で国の要人に一般人がこんな受け答えすればガチ喧嘩売ってるレベルだけど、現帝とラハッカの会話はもっと酷かったらしいんだよねこれが。


 人間種の中にも超然とした強い個体が発生するこの世界では、強い者が我を通すこと自体は悪ではない。

 地球などであるようなチンピラ理論の、ナめられたら負けだから絶対負けると分かっている相手にも喧嘩売る、というのが無いわけではないのだが、個人が機関銃や焼夷弾の山やそれこそ核弾頭を持っているような世界故に、国家レベルでそれをすることの危うさを統治者は学んでいる。魔石(S)級冒険者がアンタッチャブルとされる理由である。

 国々を束ねる帝国といえどもそれは変わりない。

 そして巨獣や悪魔種を狩るために火力に偏りがちなこの世界で、突出した防御能力をもった一族が皇族となっている理由の一つであるといえた。


「ショーコ・ラハッカ嬢はどうだ?」


 矛先を変え問われたラハッカは首を横に振り、拒否の意志を示すと、タマを見て「同じ」とだけ声を発した。


「……そうか。では仕方がないな」


 と、意外とあっさり引き下がった皇子だったが、


「本音を言おう。ヤマダ・タマヤ嬢、我の妻となってほしい」


 タマの前で片膝を土に着け、腕を差し出したのだ。


 おお、貴賓席が思っていたよりもバタついている。この皇子の思惑なんて誰でも予想できそうなものだけど、わかっていなかった者もいたようだ。

 観客席もざわつくどころの騒ぎじゃなくなっている。

 皇子に気を使ったのか魔法の気配もなく、聖神国語で声量は大きくなかったので会話は正確に拾えていないと思うのだが、これほどの身分の人間が同じ高さに頭を持ってくることの意図は限られてくる。

 さらに皇子の方から手を差し伸べたのだ。

 配下に迎えようという態度ではないことぐらいは伝わる。


 だけどもちろん、


「お断りします」


 なんだよねえ。


「……それはこの骨片の主に操を立てているからか?」


 わずかに動揺したフリ(・・)をした皇子が懐からロケット細工のペンダントを出し、開けた。そこには確かに俺の骨が、死霊兵スズキの骨片が収まっていた。

 アルテノからザサ王国の上層部へ、奴隷商ベシャジュユからギルド上層部へと以前話したタマの事情は渡っているはずである。どんなルートからにせよ、彼が知っていてもおかしくない。そして彼ほどの地位にある人間であれば、どこかでこの骨片一つや二つ入手する程度雑作もないだろう。


「はい」


「そうか。ならばこれを対価としてタマヤ嬢と繋ぎを作りたい。

 我は諦めが悪いのでな」


 挑戦的な笑みを浮かべる皇子殿下。


(繋ぎってなんです? パン粉?)


(パン粉? この場合は偶に会いにいく許可をくれという意味じゃな)


(なる。てかこれ最初からこれも予定の内かね。フられた瞬間顔や魔力だけ動揺した演技してたけど、心臓の鼓動や呼吸が変わってないんよねえ)


 コンマ数秒単位でログを流す俺たち。


「殿下がよろしいのでしたら、その骨片はありがたく頂戴いたします。

 ですが、やはり諦めた方がよろしいかと」


(『遠隔術・魔力走査』で演技がバレていると気付かないのは仕方がないが、それにしてもこの男は寒気がするな。

 誠実なフリと諦めが悪いフリで強気な態度なんぞされても気持ち悪いだけなんだが)


 皇子に返答するのと一緒にログを流すタマ。


(それ言ったら少女漫画のヒーローの半分以上がキモイ事になるんですがそれは)


(いや、あれは物語(フィクション)や傍目に見るから良いのであって、現実(ノンフィクション)で関わるとなれば気持ち悪いだろう?

 しかも本当にそういう性格ならまだいいが、この男の場合全てが演技だ。

 少女漫画好きな女子を口説くための指南書通りに動く俺様男子の行動を、そうと分かった状態でやられるといえばいいか、とにかく居たたまれなさが、こう、な)


(あー、なるほど。

 男もラブコメのヒロインみたいなキャンキャンするだけの女の子には引くしなあ。

 でもこれそう考えると、恋愛小説や漫画とか大衆娯楽が発達してないこの世界だと、たぶんすごい恋愛指南書レベルのことやってるのかも。

 一目惚れした相手に外堀埋めようとしてわざと(・・・)失敗して、焦ったフリで誠実っぽい告白、好きな相手がいると断られたら条件を提示して、連絡先の交換紛い。まだまだアタック続けるよと押せ押せ宣言。から始まるラブロマンスですかね? ウェブ系やハーレムなクイーン小説だとあるあるですねえ)


(ウルくん詳しいな)


(その端的な感想止めて下さい。なんか色々邪推されてそうで結構クル。

 最近の流行っぽかったからチェックしてただけですよ?

 つかヒーロー役の押せ押せをタマさんが叩くとブーメランしかねないですよ? てかほとんどブーメランしてません今の)


(……私は気持ち悪かったか?)


(めちゃ可愛かったですよ?)


 可愛いは正義って言った人は偉人だと思う。

 戦争で正義を語るエライ人にはわからんのですよ。


 そしてこの間約一秒である。


 発言後、ログ会話による不安に眉尻が下がったタマの忠告を聞いた皇子が、ククッと笑った。


 そして話は終わりとばかりに彼は立ち上がったのだが、あえてそこにタマは言葉を投げ込んだ。


「殿下が欲しているのは私ではなく、私が成した事になっている功績でしょう。

 特に求めているのは、神島を崩した功績。ですがそれを成したのは私ではありません。()です。

 どれほど足掻き、どれだけ時間を掛けても、嘘で表面を取り繕うだけの貴方では()には追いつけません」


 聞いた皇子が振り返り、タマへ視線を寄こす。

 獣じみた獰猛な笑み。


「実に、実に気に入ったぞ。ヤマダ・タマヤ。

 いつか貴様が自ら進んで我のものなりに来るようにしてやる」


 うわあ、酷いテンプレ。

 あれでしょ? ヒロインに真実言い当てられり怒られたりすると、「今まで俺様にそんな態度を取ったやつは~云々」とかして惚れるプリンスオブテンプレ。

 俺知ってる、あれってただのMだって。


「先ほどまでずっと変わらなかった心臓の鼓動が早くなっていますね。緊張しているのですか?」


 そして煽りまくるタマさんはどう考えてもSです大変ありがとうございました。


「ああ、久しぶりに胸が高鳴っているぞ。これほど昂ぶるのも久しぶりだ。

 覚悟しておれ」


 そう言って、皇子は舞台から去っていたのだった。


 あ、普通に出入り口から出るんだ。



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