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※5 決着の瞬間にアルテノが押し倒されたように見えた奥様が続出した件

 舞台に出たアルテノが持ってきた木武器は長剣型だった。

 対するのはザサ王国の北部ナズーノッチ地方を取り纏めるケプスエスス公爵家の嫡男で、彼が持ってきた木武器も長剣型だ。それも二本。ロマン優先スタイルらしい。ロマンを突き抜けた先のガチ勢かもしれないけど。

 アルテノもそうだが、彼もまた少女漫画あたりで男なのに美人と称されそうな美形であり、黒髪をポニテにしているアルテノと赤銅色のストレートロングの二人が立ち会う姿は非常に絵になる物だった。

 髪型や体の線が太くないこともあって遠目にはなんかもう女騎士が二人いるようにしか見えないけどね。


 どうやらそれなりに因縁のある関係らしく観客席がざわめくが、二人は無言で歩み寄り、中央付近で剣の先を軽くぶつけてニヤリと笑い合うと、後退して試合開始の合図を待った。


 合図と共に一気に前へ出る嫡男と、剣を構えて待ち受けるアルテノ。

 ぶつかり合う寸前に二人の見た目に変化が生じた。

 嫡男は髪が赤光して陽炎に揺らめき、アルテノは肩や腰の鎧の隙間から植物の芽が生じ、青々とした木の枝が羽根のように成長して大きく羽ばたいたかと思えば、彼の前面に出て守る緑の盾のようになる。

 激突。

 見た目通り嫡男の変化はやはり熱を操っているらしく、彼から発生した熱量によってアルテノの植物が燃え上がる。

 不思議と嫡男が持つ木剣や木の兜には火が付かないのは、相当巧みな魔法操作能力を持っていることを窺わせた。おそらくは火や燃焼という現象ではなく、熱量を操る類のものに近い能力ないし魔法なのだろう。

 植物を操るアルテノには相性が悪いように思えたが、彼の植物魔法も然るもので燃える端から木が生長していき尽きることがない。あまりの密度にとっくにアルテノの姿は見えなくなっていた。

 さらに周囲一帯の地面から錐のように尖った枝が伸び、嫡男に攻撃を加えようとする。それは彼の姿を覆い隠すほどの密度で行われており、三百六十度全方位からの同時攻撃であった。

 だがそれもなにもかも、嫡男が見た目に似合わない大喝をしただけで燃やし尽くされてしまう。

 急激な熱量の上昇に、周囲の植物が内部から水蒸気爆発によって弾け飛んで辺り一面を炎の海に変える。

 だが消し飛ばされたアルテノの木盾の向こう側に、あるはずであったアルテノの姿がない。

 瞬間呆気にとられたような表情になった嫡男であったが、とっさに両手の剣を頭上に掲げれば、受け止めた衝撃によって彼の足が少しだけ地面に沈んだ。


 観客からはよく見えていたが、アルテノは嫡男を植物で覆った辺りで木の大盾内部に自分と同じ姿の木人形と魔力を残し、彼の視線の死角から退避。足下から木を生やしてその木をバネと踏み台して上空へ飛び、さらにはさっきと同じように植物の羽根を生やし、下方の熱による上昇気流を受けながら旋回しつつ速度を得て下降。爆発に煽られながらも嫡男へと剣を振り下ろしたのだ。多分爆発無ければヤれてたね。


 つかあの熱量だと十分致死魔法判定になりそうだけど、いいのだろうか。

 どうやら自分を中心とした非常に小さな範囲の熱を操っているようだけど、余波による放射熱で植物が爆発するレベルである。現に彼の足下の地面は溶岩のようになっており、近くであんなものを浴びてはとてもではないが人間では耐えられないはずである。

 あ、そう思いきや普通にアルテノ耐えてるわ。

 考えてみれば当然なことで、魔法が一般的なこの世界の住人、特にビフトア人は周辺の温度調整程度は本能的にこなせる者が多い。そして俺のような例外は除き、人の魔力質範囲に他人が無理やり魔法を発動させるのは不可能とされている。嫡男の魔力質範囲に入っているのであろう地面はあの様相なのに、爆発するまでは植物だって耐えていた。アルテノの木剣にも彼の魔力が通っていて、焦げ付いてはいるが未だ火が付く様子はない。

 意識的に魔力で防御をしていればいきなり死ぬことはないので、このぐらいまではギリ致死魔法の判定に入らないということだろう。ちょっと放射熱で目玉が煮えちゃってもこの世界なら治せるだろうしね。……脳とかへの後遺症とかはどこまで考慮しているのかは不明だけど。


 両者が雄叫びを上げ、再度切り結ぶ。

 アルテノが木を生み出し、それを嫡男が燃やして切り開く。

 その隙をアルテノが突いていく。

 牽制や視界を狭めるためにか、植物の中に逆に松やユーカリのように良く燃える物などが混じり、陽炎と煙で二人の姿は隠れ気味となる。熱中症や一酸化炭素中毒なんかが気になるが、それぞれ自分の能力でへまをするほど愚かではないだろう。スロースターターなのか、二人の動きのキレは逆に良くなっていっているようにさえ見える。


 これまでの戦闘でもそうだったが、本当に殺すつもりの戦いであればもっと派手どころではないのだ。

 女王戦のときにアルテノ達の戦いを見ていたので知っているが、彼の本気はあんなものではなかった。今だってもし女王戦で使っていた巨木ゴーレムを使えば質量で押せるだろうし、鱗蟻人の雑魚を殺すときに使っていた枝の槍は、防具にも使われる奴らの装甲を貫いていた。ちょっと燃やしたぐらいだと逆に木材や竹材は強度を増す。建材などでも一部では炙った木材が使われていたことがある。それは基本的に密度が高い素材であればあるほどそうなるし、密度が高い生木はそう簡単に燃えない。鱗蟻人相手に使っていた枝なら、今の相手の火力であれば十分貫けるように思える。それに彼の十八番の一つである植物を使った魔力吸収を行っていない。

 だがこれは相手も同じだ。

 能力の相性を考えれば確実に嫡男の方が有利な戦いだが、そのあまりに攻撃的な能力のせいで逆に彼は制限が大きくなり、使っている武器や兜が木製ということもあって十全の戦いが出来ない状態になっているようだった。


 何度か剣をぶつけ合った二人が突然動きを止め、何事かを話しだした。


 すると二人とも剣を収め、魔法を使って周囲の鎮火作業を始めた。

 観客は困惑するが、嫡男は熱量操作で、アルテノは普通に魔法で水を生み出して完全に消火すると風をおこして空気を入れ換え、再度剣を構える。


 仕切り直しということらしい。

 これ以上自分達が魔法を使い続ければ危ないと考えたようで、今度は熱も植物もなしに、肉体強化と剣技体術での戦いに絞るようだ。

 剣を両手持ちして正眼に構えるアルテノと、フェンシングのように半身になって突き構える嫡男。特に嫡男のスタイルは不思議なもので、片方の剣は前面に出しているのだが、もう片方は肩を上げ剣先を下に向けるように吊り持った状態で、アルテノから見えないよう体の陰になるような位置で保たれている。スゲー疲れそうな構えである。

 だが基本的な動きはやはりフェンシングのそれに近いようで、ダンッと彼が半身で跳びだし、肩から手首の腕全体の捻りを使って剣を突き出せば、アルテノが下がる素振りと同時に剣先で嫡男の剣を強くはじき、下がらないで一気に前へ出て兜を割ろうと剣を振るう。

 だがそれも兜を割る前に、いつの間にか下から突き出るように迫っていた嫡男の一撃を柄で受け止めるのに向けられてしまい、さらにはさっき弾いた剣も再度アルテノに迫ってきていたので、また距離をとって離れるところから仕切り直しになる。

 下から来た一撃は半身で隠すように持っていたもう片方の剣だ。前に出していた剣が弾かれるより先に振り子のような腕の動きで突き上げを行い、死角から攻撃したのだ。

 多分これあれだわ、決闘術や暗殺術とかそんな感じの戦い方。しかも本来なら両方とももっと細くてしなる武器でやる上に、熱操作も加えるのだろう。体格が大きな魔獣や悪魔種にはあまり意味がない戦い方だが、対人にはもって来いなタイプだ。

 ザサは全域的に魔獣が強く、本来であればあまり好まれないはずのスタイルだと思うのだが、帝国と接するために人の流れが多い北部の名家の跡取りらしいといえばらしいスタイルである。

 そして今の一合でアルテノもそれを理解し、だが構えは変えずに今度は彼から攻める。

 嫡男のような体の向きを横にして半身にするフェイシング風の構えは正面の敵には素早い攻撃が出来るうえ、相手に見える自分の体の面積が少なくなり受ける攻撃範囲を狭くする事が出来る。だが逆をいえば半分背中を向けているということでもあり、死角の多い背後を取られやすいという子供でわかる弱点が存在する。

 だからアルテノもその分かりやすい弱点を突くために、剣を片手で持ち、特にこれといった奇策を用いるでもなく、嫡男の背後を取ろうと円を描くよう走りながら攻撃を繰り出す。

 嫡男もそうなるとわかっているので足捌きによって体の向きを変えて迎撃を続ける。

 当然何歩も円周を描いて走らなければいけないアルテノより、円の中心にいる嫡男は体の向きを変えるだけなので必要となる動作が少なく、素早い。

 故に両者の状況に根本的な変化はない。

 これでは意味がないように見えるが、それを見ていた俺はなるほどと思っていた。

 剣先を嫡男に向け、走り込みながら何度も何度も嫡男の背に攻撃を入れるアルテノ。

 それを前の剣で弾き続ける嫡男。

 弾かれるとアルテノはそれを逆に押し返すように、さらに弾き返す。自分の背中側方向へ、嫡男の体正面方向へ、弾き続ける。すると自然に嫡男の背は走るアルテノに開かれ、そこに向けてアルテノがまた剣を振る。嫡男が体勢を戻し迎撃する。繰り返し。繰り返し。

 構えと足捌きの関係上、嫡男はこのように背後へ走り込まれると自ら進み出ての攻撃がほぼ不可能となる。出来なくはないが、やってしまうと――

 剣を弾かれた嫡男が大きく足を動かし、無理やりアルテノを正面に捉えて剣を突き込もうと進み出る。

 だが足の動きを見ていたアルテノはそれを事前に察知していたので、逆に地面を這うように自ら前へ出ることで嫡男の懐に入ろうとして、やはりそうなると分かっていた嫡男も即座に後退し、難を逃れる。

 今の攻防では嫡男もさらに前に出て、さっきアルテノにやったように隠している方の剣ですれ違いざまに斬りつける事も出来た。だがさっきとは違い、アルテノは剣を片手持ちしており、空いている方の手が突き出て伸びた腕を掴もうとしていた。

 この世界の人間は非常に力が強いが、だからといって見た目以上の体重があるわけではない。アルテノ達のような存在なら、片手でも十分大人一人を引きずり回せるような腕力を持っている。隠し剣の軌道も見られた後なので懐に入れば対処もされやすい。あのまま腕を掴まれていれば、嫡男は地面に引き倒されていただろう。

 大きく後退した嫡男を見たアルテノが、再度背後に回ろうと走り回り始める。

 再び始まる攻防。

 普通ならアルテノは走り続けで体力が切れるような事態が発生しそうだが、そこまで柔な鍛え方も魔法の使い方もしていないらしい。肉体強化と治癒魔法などを使用し続けることでペースが落ちるどころか、逆に時間経過で速度もキレも増していく。魔力量の消費ペースで見ても植物を操っていたときよりも断然少なく、このまま一日中戦い続けられそうなくらいである。だがそれは嫡男も同じであり、彼もまたアルテノの動きに馴れていき、対処が早くなっていく。

 これはタイムアップで審判判定かなと思い始めたころ、嫡男が動いた。

 背後に回り込もうとするアルテノ。それに合わせるように、逆に自ら背中を見せるように半回転し、今までとは逆の向きでアルテノへ突きを繰り出したのだ。

 両手に一本ずつ剣を持ち扱うのだ。そういう事も出来るかもしれないとは最初は考えていたが、これまでやらなかったので、てっきり出来ないのだと思っていた。

 だがその思惑を裏切るようにその突きは今まで以上に早く、鋭い物だった。

 しかしアルテノも然るもので、予測していたのか嫡男の足の向きが変わった瞬間には一歩を踏み出し、半ば懐に入った状態で突き出されていた剣を掌底打ちして弾くと、迫る隠し剣の突きを同じ突きで迎撃したと思えばそのまま剣を手放していた。剣が二本とも吹き飛んでいく。

 放した手は上にあった伸びきっている嫡男の腕を掴んで、さらに掌底の形のままだった方の手は進んだ先にあった手首を掴んでおり、上下に力を入れるだけであっさりと肘関節を折ってしまう。そしてそれで止まらず、逃げるどころか残った手で攻撃を加えようとする嫡男を勢いのままに引き寄せ、否、引きずり倒しながらするりと脇を抜けて立ち上がり、その背中を足で踏みつけて、首に手刀を落とす真似だけをして止めた。


 間があった。

 だがすぐにくぐもった声で嫡男が負けを宣言し、審判が勝者の名にアルテノを呼んだのだった。


(最後の攻防、アルテノさん絶対狙ってましたよね)


(利き腕が逆だと知っていたんだろうな。隠しておかないで最初から利き腕でやっていれば、また違う結果になっていたかもしれないが)


 アルテノは右利きで、ケプスエススの嫡男は両利きないし左利きだった。


 利き腕が逆の者同士の戦いの場合、この世界でもそうだが右利き主流の社会だと左利きの人の方が有利に試合を運べることが多い。理由は単純に経験の差だ。少数派の方が多数派と練習することが多くなるので、自然とノウハウが貯まるからだ。

 そして両手に剣を持つということは両利きであるということでもあり、両利きというのはどちらも同じように扱えるのではなく、少数派の方、この場合は左利きだった者が右利きに合わせていく過程でそうなることが多いのだ。

 見ていた限り、アルテノの場合は単純に知っていたのだと思うけれど。


(そのときはアルテノの坊やも本気でやっとったと思うのじゃ)


(ん)


(やはりあれは本気ではないのですか)


(手が逆)


(あー、もしかして両手持ちしてたとき、左右逆に持ってたんですか。そこまで見てなかった)


(ん。あと遅い)


(踏み込み方が浅かったからな。足の指先が蹴っていなかった)


(魔力も足先まですんなり行くのに、躊躇うように一瞬停滞してましたしね。

 肉体強化をわざと十全ではない状態にしていたのでしょう。

 でもこれ、相手の方もそうでしたから、示し合わせていたのかもしれません)


(二人とも、本来の肉体強化は植物の補助や熱エネルギー操作などを使ったものだろうから、制限をかけた途中からは仕方がない部分はあったのかもしれないな)


(あの二人が本気の肉体強化でやりあっとったら、そこいらの武器じゃ保たんだろうしの。

 キエルの嬢ちゃんと槍使いも木武器が邪魔になっとったようじゃし、仕方があるまいて)


 そんな評価を勝手に下しつつ、治療が完了した二人が大歓声の中退場していく。

 魔法を交えた後のやり取りがあったことから、観衆は二人が全力を出し切ることが出来なかったことはわかっているようだが、それでも双方の研鑽の一端は見る事が出来たのだ。それなりに満足出来たようである。

 彼らだってわかっているのだ。

 最上位に近い強者はこういった場で全力を出し切ることなどそうそう出来ない。単純な力のぶつかり合いで百メートル級の巨体を保つ巨獣を狩ることもある魔石(S)級の魔力持ちが、こんな狭い場所で全力を出したらどうなるかなんて子供でも想像できてしまう。


 でも、だからこそ一度は見てみたいと思ってしまう。

 超人の域に達した者達の全力の武がどれほどのものなのかを。


 下がったアルテノ達に代わり、タマとラハッカの[墨塗り]が二人揃って進み出る。


 先日、この試合があることを教えられた[墨塗り]の二人は対戦相手をどうするか指定した。

 ラハッカが今までそうしてきたように、立場上試合への参加を断っても問題なかったわけだが、ちゃんと依頼としてギルドを通してきたし、こちらとしてもメリットがあったので受けることにしたのだ。もちろんメリットは女王のとき同様、観衆に実力を示せること。報酬はついでだ。


 だがそうなると、タマ達の実力が伝わるようにしないと意味がない。

 それに女王戦は完全な人類の敵との戦いで防衛戦だった。

 弱いものならまだしも、タマ達の実力をそこそこでも伝えられる魔獣や巨獣、悪魔種をここまで連れてくることなど出来るはずもなく、対人戦となれば相手は国軍の誰かだ。下手に圧倒してしまえばやはり力の差を怖がられる可能性が高い。


 ならどうするか。


 簡単である。


 タマとラハッカが戦えばいいのだ。



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