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非実在青少年は異世界で死霊術師を愛でる  作者: A・F・K
長いプロローグ・城脱出編
5/54

※5 非実在青少年の実力行使


 汚物を消毒する。


 つまり俺たちを召喚したあのエルフ耳達を全員ぬっころす。


 というわけではない。

 そうしたいのはやまやまだが、奴らは俺たちみたいなのを魅了して複数従えていると見ていいだろう。

 絶対忠誠の、高い魔力と特殊能力を持った者達の軍団。

 しかも話の限りでは、あのエルフ耳達も魔力とやらが高いはず。つまり戦闘能力が高い。

 どの程度かはわからないが、少なくともこの世界になれておらず、未だ能力を使いこなせているとは言えない状態で、俺たちが正面から勝負を挑んでも勝てる見込みは万に一つもない。

 だがその優位性を逆転させる要素を、俺は見つけていた。

 簡単な話だ。


 魅了の首輪が使えなくなればいい。


 俺が消毒するものとは、魅了の首輪。

 人の心をいいように操る汚物のことだ。


 いや、使いようによってはすごいイイモンだと思うけどね、あれ。世界平和も夢じゃないレベルで。

 でも反吐が出るほど邪悪で腐った奴らが使っていたら、汚物でしかない。

 どんな聖者が使っても、俺からしたら使った時点で汚物でしかない。


 聖隷と呼ばれていたここの使用人ぽい感じの人たちは、デザインの違いこそあれ全員アレを付けていた。

 魅了の首輪が機能しなくなれば、少なくない混乱は確実だ。

 場合によっては大反乱が起きるだろう。

 どれぐらいの期間あの首輪をされているのかわからないので、すでに元の心が麻痺するか死んでしまっているような状態もありえるが。

 なんにせよ、行動を起こすには魅了の首輪の存在が邪魔すぎるのだ。

 こんな強力なアイテムがあったらゲームバランスもクソもあったもんじゃない。


 だから取っ払う。


 実は、それを可能とする方法の目処はすでに立っているのだ。

 そのための手順を珠弥と打ち合わせして、彼女の『押し入れ』から元の部屋へ戻る。


 本当であれば俺だけ『押し入れ』から出て行動をとれれば良かったのだが、残念ながら俺も彼女の一部扱いらしく、幽霊みたいな俺でも出ることは出来なかった。出ようとしても顔が外壁を透過出来ないのだ。

 だから外に出られないし、『押し入れ』から直接の外がどうなっているのかもわからない。繋がってそうな換気扇の向こうとか真っ暗で何も見えないし。


 これは『押し入れ』の特性によるものだ。

 元々この能力は、正確には防御結界ではない。

 こことはちょっとだけ違う世界に能力者を移動、隔離する能力なのだ。

 ここに入れば能力者は全ての傷が癒え、病気も治り、万全な体調で活動することが出来る。

 外部から干渉を受けることもない。

 故にエルフ耳達は彼女にこの能力を使わせなかった。

 タマ曰く、元は彼女が引き籠もっていたころに使っていた実家の離れだそうで。執筆作業とかもそこでやっていたから、それが反映されて生まれたものだろうと言っていた。

 だから元の状態がやたら狭い空間だったらしい。

 それが俺の影響でゲーム内の部屋化したのだ。


 ちなみに発動しなくても能力が変化したのがわかったのは、魅了のせいで精神と肉体とで分かれているときにいた脳内空間がこれに変化したことで、なんとなくわかっていたとのこと。

 おそらく、精神に該当する部分だけが『押し入れ』に待避して魅了を防いでいたのだろう。

 俺同様、自分の能力に関しては気が付いたときにはもう理解していたみたいだ。

 俺が持っていない言語理解に関しても同じらしい。


 これだけ聞くと恐ろしく有用な能力に思えるが、欠点もある。

 発動までに三十秒ほどその場から動かず、目を閉じていないといけない。

 自身を含め、周囲二メートルほどにその間目につくような変化がないこと。

 発動準備中は他の魔法や能力の能動的使用が出来ない。


 まんまではないが、MMOなどでのログアウト行程に似ている内容だ。

 だから誰かが近づいて来て範囲内に入るだけでも発動がキャンセルされるし、とっさに使うことも出来ないし、三十秒間は無防備にならざるを得ない。

 先ほどすぐに使えたのは、すでに精神の部分が使っていて、正常に戻った体の方がそれに引っ張られて自動的になっただけ、らしい。

 一種の裏技で同じようなのはもう無理とのことだ。

 そして別空間にいる以上、元の場所の状況がわからなくなる。

 一応そこに新たに何かがあっても、それを押し退けて当初の状況と同じ空間が再構成されるので、完全にいしのなかにいる状態になることはないらしいが。


 そのため元の部屋に戻るのは危険な行動だったが、どうやら奴らはこちらの状況に気付いていないようだ。

 部屋内部に変化はない。


 首輪をかけられたものが反逆するとは微塵も思っていないのかもしれない。

 この場所自体の安全性も高いのだろう。

 今のところ監視系の能力・魔法みたいなのがあってこちらの行動全てモロバレしてる、みたいなことはなさそうだ。

 泳がされている可能性もあるが、そこまで考えても仕方がない。

 少なくとも俺が取り憑いた際の状況から見て、珠弥がなんらかの能力を使ったことがバレていたとしても、俺の存在がバレている線は薄い。


 壁から俺だけ抜け出してみれば、少し離れた場所にあの美熟女とは別の女性聖隷が一人いるだけだった。

 部屋を気にかける様子がないあたり、監視ではなくなにかあった際の案内・世話係みたいなものと思われる。

 そのことをタマにも伝える。


「わかった。では予定通りで」


 その場にあったベッドのシーツで体をくるんだタマが指示を出す。

 首には、壊れたものを無理矢理修復して形だけ整えた魅了の首輪がある。


 聞き届けた俺はタマから離れ、例のサロンぽいところに進入する。まだエルフ耳の女性達はそこで歓談していた。


 彼女たちの今一番ホットな話題は俺のことらしく、俺が燃やされたときと自分たちが聖隷や奴隷を嬲り殺したときの比べ合いをしていた。

 まあこいつら俺の体が燃える様を笑って見てたしなぁ。

 こんなところで日がな一日暇してたら、刺激も欲しくなるってものだろう。

 周囲には女同士で事に及んでるのもいるし。女同士は操の内に入らないのかしらん。


 嬌声や笑い声が響く中、俺は床や壁などところ構わず『炎熱・爆炎5』の魔法陣エフェクトを描いた『描画』を潜り込ませ、出入り口には『炎熱・爆炎3』を二つ仕込んだ。

 仕上げにその女性達の内の四人の体内にも『炎熱・爆炎1』か『炎熱・爆炎2』を入れておいた。


(準備完了。実行します)


(頼んだ)


 パーティーチャットを通してタマのログのみが俺に届く。

 この距離だと俺からの声は彼女に聞こえるのに、彼女の声は俺には届かないという理不尽が判明した。

 なんでだよ。

 プレイヤーとプレイヤーキャラクターの違いということなのだろうか。

 正直読むのメンドイ。相互ボイスチャット実装キボン。


 そんなことを考えながら、俺は『描画魔法』を発動させた。


 大火力の魔法が発動しようと『描画』魔法陣が現実の魔法陣へと変化し、絵の具に使われていた魔力もまた現実の魔力へと戻り、それを消費して魔法陣が輝き出す。

 だがその輝きは壁や肉壁に阻まれて、誰の目にも届かない。


 しかしゲーム中での『炎熱・爆炎5』が発動するまでには時間がかかる。

 それはここでも同じだ。

 およそ十秒。

 範囲大火力魔法なため、どうしてもこれぐらいはキャストタイムが必要なのだ。


 さすがに一秒のあたりでここにいるエルフ耳女性達も突如生まれた高濃度の魔力の流れに気付いたのか、声が上がった。

 やはり見えなくても魔力を知覚する能力は備えているらしい。

 二秒目あたりにはもう、浴場にいた一人がその湯と石材を使って浴場全体を包む防御結界魔法のようなものを発動させていた。

 込められた魔力もなかなかのものだ。

 この世界一般の魔法形態はよくわからないが、使用された魔力量なら俺にもわかる。

 量としては今発動準備中の『炎熱・爆炎5』と同等。

 直撃でも一撃なら防げるかもしれない。

 数瞬でこれなのだ。残りの時間でさらに強度を上げれば、複数同時でも確実に防ぎきれるだろう。

 魔法の質によっては現段階でも余裕なのかもしれないが。


 共に浴場にいた者達がその防御を見届け、今度は『炎熱・爆炎5』の魔力が渦巻く箇所へ同じ様な魔法を逆展開していく。

 魔法そのものを封じ込めようとしているのだろう。

 浴場に近くない者達は、足下などの石材だけだ。

 彼女達も今発動しようとしている魔法が火のものであることを経験から感じているのか、だから完全に防ぐためには水が欲しいと何もないところから水球を生じさせる魔法も発動させつつ、おそらくは無意識に浴場へと視線を向けた。


 だが、向けたところで彼女たちは見てしまった。


 薄膜の向こう、最初に防御結界を発動させた女性がギョッとした表情になった後、内側から爆発し燃え上がるのを。

 彼女は体内に『炎熱・爆炎1』を仕込まれていた一人だった。


 もし魔力を正確に知覚できるものがその場面を見ていたら不思議に思ったことだろう。

 その様はまるで、自分で自分の体内に攻撃魔法を発動させたようにしか見えなかったからだ。


 彼女自身の魔力で描かれた『炎熱・爆炎1』の魔法陣は、低位であるが故に『炎熱・爆炎5』よりも断然早く発動した。彼女が最後表情を変えたのは気付いたからなのだろうが、それではもう遅かったのだ。


 爆死した彼女から生まれた火炎と破片が、まだ残っていた防御魔法の中にいた者達へも襲いかかる。

 彼女達の脅威になるほどの威力はその時点でなくなっていたが、そんな中でももっとも高い魔力と判断力を有していた女性の無残な結末と状況に、防御結界の中にいた者も、外でそれを見ていた者も、端から見ただけでもわかるほど呆然として思考を機能停止させてしまっていた。


 そちらを見ていなかった、見えていなかった者の中には、他のもう一人の『炎熱・爆炎1』の犠牲者に気付いてしまい、同じ様相を示した者もいた。

 もう一人の犠牲者はサロンに一つだけある出入り口近くにいたため、防御魔法はそこそこに身体強化魔法で退出しようとしていたところであった。

 密集しつつあった人垣が吹き飛んでいた。


 生じた空隙を縫って、『炎熱・爆炎2』を仕込まれていた二名が爆発炎上する。


 一瞬の後、一部のエルフ耳達には恐慌と疑心が生じ、一緒にいて巻き込まれてはたまらないと、近くの者から離れて個人防御結界を使おうと動き出していた。

 主人を守ろうと強力な防御結界魔法を発動させていた聖隷に対してもそれは同じだ。

 命令して聖隷だけを結界から出させ、自分でさらに防御結界を使う。

 『炎熱・爆炎5』を封じ込めようとしていた魔法もそのせいでおざなりだ。

 混乱により思考放棄した者達は、近くにいた聖隷に防御結界をかけられ、呆然としたまま。

 我先にと出入り口から逃げだそうとして、また入り口付近の者が自分から爆発するのではないかと疑心に駆られ他のエルフ耳に攻撃を仕掛けようか迷っていた者達は、出入り口に仕込んでいた『炎熱・爆炎3』で吹き飛んだ。


 俺は亀の様に防御結界に閉じこもった奴ら自身の魔力で『炎熱・爆炎1』をプレゼントして回った。


 いくつかのくぐもった小爆発の途中で、とうとう本命の『炎熱・爆炎5』が多数同時発動する。


 十数秒前まで美しかったサロンは派手に崩壊し、周囲を巻き込んで火の海に包まれた。


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