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※1 切り身の正体は巨大なタガメ

 ぅぐう。


 そんな気の抜けた唸り声を上げつつ、タマが上半身を起こそうとして失敗した。ラハッカがタマの体に抱き――巻きついていたからだ。


 赤い厚手の緞子(どんす)が掛けられた天蓋付きベッドの中。

 うつらうつらとした寝ぼけ眼で、自身の体に絡まるラハッカを見たまま動かないタマの様子を即座に描き終えた俺は、掛けれていた緞子の東側部分を風をおこして払いのけ、窓から差す朝日を二人の顔にあててやる。

 うん。やっぱり天蓋付きベッドでの寝起き顔には朝日の描写が一番やね。

 緞子に覆われていたため暗い色調にしていた先ほどの絵に、ハイライトで少し黄色みがかった白を描き足してやる。これだけで一気に朝の一幕だと分かるようになる。ワンポイントとしては強い光が当たっている部分と当たっていない部分の境に、緞子の赤を強い発色で入れてやることだ。これで影になっている物の色まで見た人間に想像させることが出来るようになる。後は謎光源気味だったいくつかのライティングを調整して――


「……おはようウルくん」


(おはようございますタマさん)


 日の光を当てられラハッカの腕の中で完全に目が覚めたタマがもぞもぞと動き、ラハッカの複雑な抱擁から脱すると、あくびの後にぶるりと身震いをした。俺にしか見えない紫の魔法陣が彼女の体内で輝く。

 たったそれだけで睡眠後でも残っていた全身の老廃物などが分解処理され、彼女の体内環境を最適な活動状態へと移行させる。

 この魔法を俺たちは『リゲイソ』と呼んでいるが、システム的な名前はない。これはタマが彼女の異能である『死霊術』の特徴を研究し作り出した、『RPGシステム』外のものだからだ。

 呼び名の由来がこれを使えば二十四時間戦えるところから来ているのは言うまでもない。本当に二十四時間戦うなら『押し入れ』を使えばいいだけなんだけどね。

 タマの『死霊術』は彼女が生物だと認識している物体の死んだ細胞やその欠片全般に作用させることが出来る。

 これによって体内の老廃物を空気として排出したり、ホルモン調整すらもある程度可能となったのだ。

 ただやった後に女の子としてはある種致命的な、大きなゲップをしてしまうという欠点が存在するが。


 盛大な音をたててタマが息を吐き出し、同時に魔力質による遠隔操作で窓が開けられ、俺が風をおこして空気を入れ換えた。


 匂い成分も分解しているからほぼ無臭の二酸化炭素とかなんだけど、やはりタマとしては誰かがいる空間にこの空気を残すはすごく恥ずかしいらしい。ちなみに空気が下側から出ないようにするためだけに彼女はこの魔法にかかる消費魔力量を二倍近くにしてしまっているが、これは余談だろう。現在はゲップという結果にならないよう、大きな溜息程度に出来ないかと試行錯誤中である。


 朝の少々肌寒い空気が室内を満たすが、気にせずタマはベッドから飛び出して部屋の隣に設けられている洗面所にいき、戻ってきてから寝間着姿のまま軽いストレッチを行う。


 同時に、タマが抜け出したことで揺れたベッドからラハッカが起き出す。

 彼女はいつもと変わらない無表情でタマを見てベッドから出ると、水差しにあった水を飲んで一息吐いた。さらに「(おはようなのじゃ)」と挨拶をしてから洗面所に行き、戻ればタマの真似をしてストレッチを行う。彼女の場合も体内に悪魔種であるショーコが住んでいるため、体内環境は最適化されている。

 ラハッカそっくりのショーコも俺にしか見えない半透明な姿でストレッチを行っていたので、俺は朝日に顔を向けて背伸びをする三人の姿を絵に収める作業に従事した。


 朝日に透けるパジャマ姿の女の子っていいよね。


 そんな少女達の艶姿の内、素っ裸のちんまい妖精姿をしていたショーコの褐色ケツに仕上げのツヤを描いていたところで部屋にノック音が響いた。

 タマがどうぞと言えば、失礼しますと入ってきたのは通訳兼案内として雇っている[磁針箇条]のリャムレスだ。もしくは金髪ドリルのリャムレス。


「おはようございますですわ、タマヤ様。ラハッカ様」


 今日もセクシーなフリルドレスの彼女は優雅に一礼する。片側が短いアシンメトリーなスカートの短い方を持ち上げる変則カーテンシーによって、今日も彼女がガーターベルトストッキング着用なのがわかった。


「おはようございます。リャムレスさん」


「ん」


『おはようございます』


『おはようなのじゃ』


 聞こえていない返事を俺とショーコも返したところで、ストレッチが終わったタマが『時空・異空間収納』の黒い渦から白い外套を出して身を隠すと、一瞬後には蜘蛛絹の寝間着姿からいつもの赤黒軽鎧姿へと変わっていた。ちなみに正体がばれた今でもまだネコミミシッポは付けっぱなしである。俺がいつもいじるからだそうだ。

 ラハッカは変わらない。タマの『押し入れ』内にあった綿シーツ製の肩口までの上着とショートパンツ姿。起きたら腰に縛った紐に愛刀を差すだけで、寝ても起きても変わらない服装である。服も肌もショーコのお陰で汚れることはないし、破れても同じような服を量産してあるので結局同じ格好なのだ。


「馬亀での旅路でも見慣れてしまいましたが、いつ見ても見事な早き着替えでございますわね。

 朝食の準備が出来たそうですので、ご案内いたしますわ」


「お願いします」


「ん」


「起きたばかりのようでしたけれど、お手洗いは大丈夫ございますか?」


「大丈夫です」


 ラハッカは頷くだけで、早く朝食に案内しろとばかりにそのお腹がキューとなった。朝から元気なものである。


 その様子を見たリャムレスは扇で口元を隠し、上品に笑みをつくる。


「お二人が最後ですので、ご案内した後はすぐに朝食になるはずですわ。

 さあ、参りましょう」


「ん」とリャムレスに続くどころか先導しようとするラハッカの後をタマが追う。


 室内もそうであったが廊下も全て木製で、日本人にとっては暖かみがあると感じられるこのお屋敷はザサ王国王都にあるアルトウン家の別宅だ。

 総木製だが外観は明治の洋館といった風情で、しかも幅広の六階建てという大型建築である。周囲の貴族屋敷はドイツ屋敷などに見られる木骨作りで、漆喰や石材の白が眩しいのに対し、アルトウンの屋敷だけ石材無しで黒檀のような黒ツヤ木材が外壁という目立つ屋敷であった。


 先日の内に都市入り口門から王城までの四時間かけた凱旋パレードを済ませ、王様やその重臣、さらには帝国の皇子とのメンドクサイやり取りの後、時間も遅いからとスメ・シュガ市やアルトウン市でもそうだったように、同行していたアルテノ達の世話になったのだ。


 王都までの旅の途中は発散できなかったためだろうが、昨晩のハーレムとプラス一名は全員でとてもお盛んだった。この世界の住人は朝が早いのに、完全に朝日が昇りきってから朝食の呼び出しがかかったのはその辺りが原因だろう。

 もちろん全編に渡って俺が付きっきりで絵に起こしたのは言うまでもない。

 角っ子が帝王結界とかいうの張ってたけどそんなの俺には意味がないのである。

 しっかりセリフも回収してあり、ログにも残っているのだが、そんなログもタマ達はもう慣れっこなので気にしていない。なんかすんません。


 食堂に三人とプラス見えない二人が入れば、リャムレスが言うとおりすでに全員が揃っていた。


 次期アルトウン家夫婦であるアルトウン・リ・アルテノと、その妻である角っ子(メリベル)胸部装甲(オーパーチ)白衣(アイシェ)鬼っ子(セベニィエス)。そして商売の都合でおっさんことベシャジュユの代理として王都に着ているデシャン嬢を含めた六人だ。

 昨夜のプラス一名はデシャンである。俺が気を揉むまでもなく、どうやらしっかりと公認愛人枠にはまっていたらしい。外部雇いの官僚扱いらしく、一種の秘書のような役割もこなしているようだった。結局秘書なんかいっ。と俺がログを流しても仕方がない事だろう。

 これだけ重婚していて愛人枠な理由は現在のところ不明である。この旅に同行させている辺り、父親であるベシャジュユも分かってるとは思うんだけどねえ。


 そんな御貴族様ご一行なわけだが、タマ達とは違う馬亀車に乗っていたとはいえ、ザサ王国の最南端であるスメ・シュガ市から王都までの旅路を同行した仲である。

 元々アルテノがショーコやラハッカと仲が良いことや、タマが角っ子ことメリベルから愛称であるメリーと呼んでいいと言われるようになったこともあり、すでに勝手知ったる仲といった空気があった。

 とはいえ当のメリベルは帝国の皇族だったため、現代日本人からすると多少砕けた仲程度のお偉いさんと平社員といった具合とも言えたが。


「おはようございます。

 皆様申し訳ありません。お待たせしました」


「お二人ともおはようございます。

 大丈夫ですよタマヤさん。我々も先ほど席に着いたところです」


「おはよう。タマヤもさっさと席に着いてしまいなさい。

 見て、パーチが泣きそうになっているわ」


 挨拶もそこそこに、アルテノの後、メリベルからややもすれば責めるような発言が飛び出るが、これは別に責めているわけではなく彼女なりの冗談であると俺たちは知っている。

 現に話題にされた胸部装甲ことオーパーチが恥ずかしそうに顔を赤くしていたのだが、言われるまで彼女の視線が皿の上の白身魚らしき切り身に釘付けだったのは周知のことであり、皆ほがらかに笑ってタマに席を促すだけだった。

 そしておそらく、席に着いたばかりというのは本当なのだろう。まだ彼女達の髪が乾ききっていない。彼らなりに慌てて準備したようだ。


「ほらタマヤ嬢。ラハッカ嬢はすでに朝食の用意が出来たようだぞ」


 とは白衣ことアイシェ。


「メリーちゃんそんなこと言わないでよ~」


 とオーパーチが泣きそうになっていたが、その手からはナイフとフォークが離れることはない。さっさと席に着いていたラハッカも同じ体勢だ。


「つまりそういうこと。うん。そういうことでしょう」


 そんな様子を見ていた鬼っ子ことセベニィエスが結論を言う。


「はい。ありがとうございます。では失礼します」


 そうしてタマも女中さんに促されて椅子に座り、リャムレスも客人扱いなので席について、それぞれの宗教に乗っ取った挨拶をして朝食となる。


 夫婦でもバラバラの宗教挨拶というと不思議なものだが、帝国では珍しいことではないらしい。とくに異種間婚姻の場合はよくあることなんだそうだ。

 帝国圏は宗教の自由が確約されている。

 なんと、それは永年の敵である聖神教であろうと変わりない。

 ただしどんな宗教の頂点にも初代皇帝がいるということになっており、初代皇帝が決めた幾つかの言葉が宗教や神話より上にあるので、それによって聖神教のような戦争に特化した宗教は政治に入り込めないようになっているのだ。


 この言を変えたければ朕を殺せ。


 これが法の最後の条文なのだというのだから、凄まじい。

 ちなみにこの初代皇帝は今もどこかで生きているのだそうだ。今は皇族すら所在を知らないとのことだが、どういう方法か知らないが初代が作った当時の帝国貨に宿る魔力から彼の偉人の生存は確かなことなのだと特定しているのだという。


 タマ達は和やかに食事を終え、リャムレスがお茶を淹れてしばし歓談し、それから解散となった。


 とはいえこの後また一緒に王城に出かける予定のため、正確にはアルトウン夫人達のお色直し待ちである。

 メリベルなどは由緒正しいお姫様なので朝食はちょっとしたドレス姿だったのだが、次は冒険者であるタマ達と同じ戦装束だ。


 本日は先日の凱旋パレードに引き続き、王城の近くの大闘技場にて鱗蟻人女王討伐の祝賀会が開かれるからだ。

 それに際し望ましいと言われたのが戦うに相応しい格好。つまり冒険者としての一張羅である戦装束。

 祝賀会なのに場所が大闘技場でこの格好なのはつまりそういうことである。


 女王を討伐した根幹メンバーと、ザサ王国が誇る精鋭部隊との力試しが行われるのだ。



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