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第二章のエピローグで第三章のプロローグ



「お帰りなさいませ殿下。

 予定では殿下がアルトウンに残り、我々がスメ・シュガまで行くことになっていたかと思いましたが、なにか問題でもございましたか?」


「まだ爺のところまで情報は来ていなかったのか。女王が討伐されていた」


「……女王と申しますと、鱗蟻人の女王が、でございますか?」


「それ以外に何がおるよ。

 例の『最後の神子』の娘だ。どうやら鱗蟻人の森に転位していたらしくてな。スメ・シュガの者達と[墨塗り]とその神子で討伐したらしい。我がスメ・シュガに着いたときにはすでに女王討伐で湧いておったわ」


「そうでございますか。では、予定も変更せねばなりませんな。

 王子討伐に関しては予定通りで?」


「うむ。アルトウン卿に確認もさせた。このまま帝都へ戻り報告を済まそうと思う」


「では我々も帝都へ戻るということで。

 何もないこのような場所にあ奴らを留めるのは骨が折れましたぞ」


「いや、爺達は帝都まで戻らずにムルガガ砦で待機しておれ。

 陛下へは我だけで報告を済ませ、再度ザサへ入り王都の解放祭に参加しようと思う。その後の森の開拓事業にお前達を使うことになるかもしれん」


「なんと、開拓を手伝うのでございますか? 鱗蟻人の森への解放戦がなくなった今、ザサを基盤にするのは旨みが少ないと愚見いたしますが。

 たしかに王子個体討伐は継承権争いの追い風となりましょう。

 ですがそれだけでは陛下と議会を納得させるに足りず、女王討伐によって森の解放を成すことが必要というのが、殿下のお考えだったと記憶しております。

 しかしそれなしで此度の開拓に手勢を送るのは……」


「うむ。そのために捕らえていた王子個体をスメ地方の外で討伐したことにし、森の管理の甘さをザサとアルトウンに説いて女王討伐軍を編成する計画を立てた。

 だが女王がすでに他の者に討伐されていた以上、王子討伐は帝国どころかザサ内でも名声としては我が求めるものよりほど遠くなっておる。

 特にアルトウン卿の庭であるスメ地方では女王討伐を成し遂げたアルテノや、それに協力した[墨塗り]と『最後の神子』の人気は相当なものとなるだろう。なにせスメ・シュガの目の前で戦い、全ての住人が彼らの戦いを見ていたというのだからな。それでいて街には被害が及ばず、死傷者もでなかったそうだ」


「街の目の前で討伐でございますか。成人の儀のときの殿下を思い出しますな。

 ですがそうなりますと、なにゆえ開拓の手伝いなど?」


「ここまで話をして、まだわからんか」


「……そうですな。森の開拓事業には確かに戦力が必要でしょう。鱗蟻人が居なくなったといえど、あそこは未だ魔窟。あの森に住む魔獣に巨獣、かつて女王討伐を掲げた英雄達のなれの果てどもは、女王や王子には及ばねど非常に強力だと聞きます。それこそ今あの森の深部にいるのは、鱗蟻人の群れに襲われ続ける環境で数百年生き延びるほどの強者揃いのはず。

 ですから戦力があって困るということはないはずですが、どこの国でも自国単独で解放した領地の開拓事業に、横から他国が首を突っ込んできていい顔はしますまい。

 さらにスメ・シュガに死者は出ていないとのことで、国にも地方にも戦力にいささかの陰りもないものと思われます。

 如何に宗主国と属国の関係といえど、多大な利益を生む開拓事業に我々が介入すれば、帝国の品位すら問われる可能性がございますかと。

 開拓への横入りは腐肉あさりと呼ばれますからな。

 はて? そうなりますと、態々嫌われにいくようなものでございます。

 殿下のお立場と王子討伐の実績があれば介入に否はないでしょうが、かといって王子討伐の借りをここで返し、さらに悪感情だけ買っても面白くはない。

 そうまでして殿下が得たい物。

 凡庸なザサ王の困惑? 有能だが病に臥せる現アルトウン辺境伯の不審? それともその跡継ぎであり、殿下の妹姫様を娶ったアルテノ卿の監視?

 ――あいや殿下、わかっておりますとも、そう睨まないで下され。

 殿下がお求めなのは、新たな側室でございましょう?」


「わかっておるなら、最初から答えを言えばよいものを。

 ――そうだ。今爺が提示した全てが、あれを手中に収めれば如何ほどのものでもなくなる。そのためにはザサに我が滞在する理由が必要だ」


「『最後の神子』でございますか。

 神島を崩壊に導き、鱗蟻人の女王討伐に助力したその娘を殿下が娶ることが出来れば、たしかに殿下の継承権は不動のものとなりましょうな。

 ですが、ザサに滞在するだけでは意味がないのでは?」


「一目しかまみえなかったが、あれは件の骨と同じ魔力を有しておった」


「ほほっ、それはまたそれはまた。

 となると、あの骨の本来の持ち主はやはりその神子ということでしょうかな?

 そして殿下がお持ちの骨片を求めて、自ら殿下の下へやってくると?」


「うむ。捕らえたノーレフが言っておった『死霊兵』というものの破片だろうよ。

 どうやらあれはこの骨に執心しておるようであったからな。鱗蟻人の森に跳んでいると目されていた分は、すでにあれに回収された後であろう」


「ではそれとなく殿下が骨片をお持ちのことを流しておく必要がございますな。

 いや、それともすでに、神子は殿下がお持ちになっていることに気付いてますでしょうか」


「気付いているだろう。これを知るものを釣り出すために、あえてこうしてなんの細工もせず首から下げているのだ。逆に気付いてもらわねば困る。

 だが我の内に埋め込んだモノに関しては分からぬだろうな。我だけに許された帝王結界の魔力完全隠匿と、暗部が考案していた放射魔力隠匿法で隠しているのだ。見つけようがあるまい。

 これを探しているというのなら、我が下へ来れば共に探してやろうぞ。いつまでもな」


「おや、もしや王子個体と同じにはしないのでございますか?」


「あれは聖神教の首輪を破ったのだぞ。あれが持つ異能がどのような力かわからぬが、おそらくは似たような真似は通じまい。

 それにあれの側には[墨塗り]がおったからな。見たところ[墨塗り]の悪魔に憑かれたわけではないようだったが、どういうわけか[墨塗り]の氏族になっているという話であった。慎重に事は進めた方がよいだろう」


「[墨塗り]の氏族にでございますか。それはまた厄介でございますなあ。[墨塗り]は聖神教の首輪も効かないうえ、現帝陛下のお気に入りでございますからなあ」


「[墨塗り]も引き込むことが出来ればいいのだがな。あれは我好みの強者だ」


「好きでございますな殿下も。ですが的は絞りなされよ。一射は二股に別れませぬ」


「うむ。わかっておるよ、爺」


「であれば構いませぬ。

 一射が一兎を貫き、二兎目を貫く分には問題ありませんからな」


「我にとっては帝位も的の前の障害物であることは知っておろう?

 一兎二兎といわず、何羽でも貫いて届けてみせる。


 ――神と悪魔が住まう場所までな」



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