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※12 嘘に嘘を重ねて真実を塗布するスタイル

 グフア帝国は国の歴史として、なんらかの理由で聖神教から逃げてきた神子を受け入れ、彼らの力を借りることで発展してきた側面を持っている。

 そのため、神子はその多くが精神操作によって無理やり従わされている異世界の者達であることも広く知られており、同情的な視線も多いのだそうだ。

 もちろん首輪無しで聖神教に従っていた神子も多く、騙し討ち同然の行為もあったため完全に信用しきることはないのだが、それでも今日の帝国圏発展に寄与した元神子は多く、強き者として、異世界の文化の伝道者として、彼らを尊重する人間は多い。


 だがそれは神子の能力や彼らが持つ異世界の知識が元であり、ことこの世界の魔法の扱いに関しては帝国こそが最先端であるという自負が帝国民には存在していた。


 先の角っ子と白衣は魔法のエキスパートであり、研究者でもあるのだそうだ。最先端技術を生み出してきた者達の一人として、プライドだってある。

 故に角っ子によるタマへの暴言ともとれる発言はそういった自身のプライドを刺激されたからであったわけだが、同時に彼女達はどん欲なる魔導の探求者として、尊重するに値すると思えば即座に頭を下げ、教えを請うことも厭わない。そんな上昇指向の強い人間でもあったらしい。


「……ぅ、ぐぅう……――あ、ああ゛あ゛あぁぁぁぁ……、また失敗したぁ……」


「……これは難しいね。理屈はわかる。だが今まで考えていたものとの差もある。

 こりゃあ習得にはまだしばらくかかるね。

 ……それに、たしかにいつかは誰でも出来るかもしれねえけど、さ。

 常人じゃ習得は夢のまた夢だし、習得できたとして、小細工以外に実用性もほぼねえな」


 角っ子がうなだれ、白衣が爪を噛んだ。

 二人の手元にあった魔石がその力を使い切り、わずかな光となって消失する。

 アルテノやベシャジュユ達は眉間にシワを寄せ、まだ手元の魔石に集中していた。

 何気に胸部装甲さんが「こうかしらぁ? う~ん。これだとぉ、消えてるだけかしらぁ」と極々一部分で一瞬だけ成功したり、鬼っ子さんは「こういうこと。こういうこと? こういうことでしょう」と呟きながらちょっとだけ広範囲で成功させたりしていた。

 それを見た角っ子と白衣が絶望したような顔になる。こういうのって感覚派の方が体得早かったりするんだよね。


 あれからすぐに角っ子は暴言を謝罪し、アルテノから今朝ここに来る前にあったことを聞いてから、タマに魔力質隠匿について教えを請うた。

 もちろんタダではない。

 ここに来るときに約束したのは三バカのクロネコがやっていた魔力質隠匿(誤魔化し)を実演するためだけであり、その誤魔化しの方法どころか、タマが持つ完全な魔力質隠匿の技術を教える必要はなかったのだから当然である。

 聖神教の誰かが作り上げたものをタマが使っているのではない。タマが一から作り上げたものを教えるのだ。

 彼女達は魔導の探求者として、その先駆者であり教導者でもある者への対価は相応に必要だと多額の報酬を約束した。千年帝国の異名を持つ国が長年かけても実現できていない技術の公開である。それはもうとってもイイ額だったわけだが、直接教えを請うことにしたのは角っ子に白衣に胸部装甲さんと鬼っ子さんにアルテノと、五人もいた。実際のところ誰か一人に教えれば芋づるなわけだが、しっかり金額は上乗せされていったのだから、本当にビックリするくらいイイ金額過ぎて、さすがにすぐには払えないらしい。


 そのツケは四人の夫であるアルテノが持つそうだ。


 そう。ここにいた四人は全員、この都市の市長にしてアルトウン辺境伯家跡継ぎであるアルテノの妻だったのである。

 この集団はガチのハーレムだっったのだ。デシャンさんいれたれよと言いたい。デシャンさんの本心知らんから大きなお世話だろうけど。


 さらに奴隷商にしてギルドの上役の一人であるベシャジュユとその娘のデシャンも授業料を払い、通訳としてきたリャムレスもどうせだからと習うことになった。

 全部後払いだが、問題はないだろう。アルテノ達は勿論のこと、ベシャジュユ達は大商人でお金持ちだろうから心配はしていないし、リャムレスはわからないがもし支払いが無理そうなら雇用の契約内容から調整したらいい。まだタマ達との相性や人となりが定かではないが、彼女はこの都市の外も詳しそうだから、専属契約もいいかもしれない。


 それに、彼らが使うには有用性が低いことがわかっていたから、授業料は大分値下げしたしね。


 タマが自身に施している魔力隠匿は、簡単にいえばカメレオンやタコなどが行う体色変化に近い。

 魔力を気体だとすれば、魔力質は固体のようなもので、大きな体を目視からは障害物無しに隠せないのと同じように、魔毛角などの魔力感知器官から隠す事は出来ない。

 だが目視と同じように誤認させることは出来る。

 目は光の反射を網膜で受け取り、信号として視神経を通して脳へ行くことで映像を知覚する。鼻は嗅細胞で匂い物質を受け取り嗅神経で信号を通して脳へ伝えられる。耳も同じようなものだ。音波を受け取り、その信号を脳へ伝えることによって音を知覚する。少々乱暴だが触覚や味覚も同じようなもの。

 となれば魔毛角などの魔力知覚器官もそれに近い構造なのでは考えた。

 魔力という物質を受容して、その信号を脳で知覚する。

 森にいたとき、いくつかの魔獣も魔力を感知する能力を有していた。彼らはタマを見ると必至になって逃げたものだが、それを容赦なく俺とラハッカが捕まえて魔力の動きなどから感覚器官の構造を調べたものだ。

 それ自体は結局のところさっぱりわからなかったが。

 だが捕まえた彼らの反応によって実験を繰り返し、彼らの魔力感知器官が他の感覚器官と似たように、魔力質から自然放射された魔力及び反射した魔力を感知するものだと確信を得ると、鱗蟻人を見て覚えた最初の隠匿方法同様、その放射や反射される魔力に色を付ける実験を行ったのだ。

 それが正解だった。

 要は視覚で例えれば、物が存在しないかのように隠すために、その物体の前にそのすぐ後ろの光景の映像を投影しつければいい。ゲームなどではおなじみ夢の兵器である光学迷彩とかいうやつだ。

 実験に実験を繰り返し、タマが魔力の扱いを完全に会得し、俺が空間の魔力の動きを常にトレースし、自動的に隠匿が行われる方法を模索し続けた。

 最終的なかたちは少々違うものとなったが、これを元に出来上がった魔力隠匿は確かに魔力知覚能力に優れたビフトア人達を誤魔化せるものに仕上がった。


 ただ問題があるとしたら、タマと同等の魔力質隠匿をするには、どうしても彼女と同等クラスの魔力とその操作速度、そして俺という魔力を自在に操る第三者が必要になる点があったが。


 一応上記の内二つを改善する方法はあるのだ。

 魔力は魔石を使うことで補えるし、操作速度というのも魔力を操る速度がビフトア人の魔毛角による知覚速度を超えられる程度まであればよい。

 ただ濃い色を隠すには濃い色を用意しなければいけないように、隠匿する対象の魔力質が強ければ強いほど必要になる魔力は多くなり、必要になる魔力も、補うための魔石も高価な物が必要になってくる。しかも色変えに使った魔力は周囲の魔力へ近づけるため、普通は後の魔法には使えない。結果的に魔力が垂れ流しになるため周囲の魔力の濃度が上がるが、それだけだ。

 知覚速度を超える操作速度は、脊髄反射で行えるほど鍛錬したとしたとしても知覚速度より早くできるはずがない。だから最低でも未来予知と同等レベルになるほど、魔力の動きに慣れ親しんでおくことが必要となる。


 一見普通の人間には無理そうな要求だが、ここにる人間は一般人が化け物と思うほどの強者揃いである。ポッチャリオッサンにしか見えないベシャジュユですら、魔力だけで見れば現役の無色(A)級冒険者と遜色ない。


 そんな彼らだからこそ、とっかかりまではなんとかなった。なってしまった。

 だがこのまま習得できたとしても、実戦での継続利用はまず不可能だろう。

 大型の魔石を大量に用意し、それらを魔力質隠匿に使用し続け、しかもその制御のために全力で集中し続ける。

 隠匿は出来てもその状態では戦えないし、時間単位のコストがアホらしすぎる。要は採算が合わないのだ。

 逆に魔力質が弱い者であれば必要な魔力も少なくなるが、それは隠す意味があるのかという問題にもなる。


 まあ、三バカのクロネコがやったように暗殺というか、暗器的な使い方なら充分だともいえた。


 ちなみにクロネコの方法は少し違って、彼のやり方はあのときは近くにいたトラの魔力に近い魔力を模倣して小さな壁を作り出し、その影に隠れるように、本当に誤魔化すように一瞬だけ使ったという感じだ。さらにそれはユキヒョウが話しかけていて、勝手に席に座ろうとした瞬間でもあった。観客の注意を引きその隙に行動する一種の手品と同じである。

 つまり事前に準備してタイミングを合わせることで操作速度問題を克服し、毒薬を極々少量動かすだけだったから必要な魔力もそこまでではなかったというわけだ。それでもアルテノが押収した薬品入れの底には魔石が入っていたようだけど。


 この話と解説を聞き、明らかに帝国の政治と縁が深そうな角っ子が眉根を顰めていた。

 魔力隠匿関連は帝国でも研究中の技術だ。それが一部とはいえ完成され、すでに利用されている。しかも貴族騎士による犯罪利用だ。もしかすると実は随分前からこの手段は存在していた可能性もある。クロネコのそれだけ見ても、こんなに安易に利用されるような技術ではないほど権力闘争において有用であった。

 安易に利用できるほど暗部では一般化しているのか、それともクロネコが特別だったのか。

 帝国で研究されていた隠匿手段は光学迷彩式ではなく、本当に魔力質そのものを小さく目立たなくする方向だったらしい。それというのも研究の根底にあるのは帝王結界による魔力の封入、封印であり、随分昔からそれを使うことで物体中の魔力質を感知しづらくすることが出来ると判明していたからだ。

 もしかすると、帝国の学会でこの方法を主要理論としていたこと自体が何かしらの研究遅延策であった可能性も考えられた。


「まあいいわ。今考えてもわからないし、メイフル・ワークワークとやらについては取り調べも含めてまた今度にしましょう。

 タマヤのお陰で魔力質隠匿について原理はわかったわ。ありがとうね。

 でもまだ気になることがあるの。

 貴女はどうやって聖神教の首輪を外して、どうやってあのゴーチェの神島を崩壊させ、どうやって脱出することが出来たのか」


 実はカカア天下なのだろうか。実際のこの場の最高権力者であるアルテノを押しやり、その第一夫人らしい角っ子が魔力質隠匿以外の、ここに連れてきた本当の理由であろう質問を続けた。隠匿技術などの話の横道にずれた理由は彼女が原因なので、それもあってかもしれないが。


「魔力質隠匿の説明のためにお話ししたとおり、私の神子としての能力は『押し入れ』と呼んでいる個人結界と、『多重思考』と呼んでいる魔法使用技術です。

 『多重思考』は簡単に言って、同じ私が何人もいて、それぞれが別の思考と魔法操作が出来る能力です。

 この『多重思考』によって魔力質隠匿を補助させ、消耗するはずの魔力を常に循環させているのと、周囲にある元私の魔力を使って同時に複数の魔法を使える状態にしている。ここまでは説明しましたが、よろしいですか」


 もちろん『多重思考』なんて大嘘ですけどね。俺という存在を誤魔化す方便である。

 この帝国圏でも死者を自在に操る『死霊術』は外聞が悪いらしいのと、俺の存在はタマにとっての最後のセーフティーであるともいえたからだ。だから最初からばれているショーコ達は置いておくとして、他には安易に教えないことに決めていた。

 ちなみに隠匿はほぼタマ自身で自力でやっていることだ。ビフトア人の魔力知覚速度を桁違いのレベルで超える魔力操作速度と、単純な魔力の操作技術で無理やり実現させているだけである。完全な力業だともいえたが、恐ろしいことにこの子寝た状態でもずっとこれを切らさない。

 俺がやっているのは、彼女が『遠隔術・魔力走査』極小版で得る情報の補助と、消費された魔力を使って絵を描いて、その絵を使って回復させているだけだ。これが循環の正体である。エコでしょ?


「ええ。それとタマヤの巫山戯た様な魔力質も魔力量も、隠匿を解いて見せてもらった。

 私が知る限り、あれだけでも魔法特化型の神子二人分に匹敵すると思う。

 でもそれだけでは、神子も手練れの騎士も大勢居たはずの神島を、単独で攻略出来るとは思えない。

 正直にいうと私はね、なんで奴らを滅ぼすまでに至ったのかを知りたいの」


 まあ気になるだろうなあ。

 今タマはアルテノ達に攻撃の意思を示していないし、友好的な態度をとってこそいるが、見知らぬ場所に連れてこられた即日に大量虐殺と大破壊をやらかした人物でもあるのだ。もしかすると今この場でいきなり破壊活動に移る可能性も否定できないだろう。

 だからまず言うべきは。


「まず最初に、今までの行動通り、私に皆さんへの敵対の意思はありません」


 うん。と角っ子が頷く。それはもうわかってるといった彼女の態度だが、隣の旦那さんが露骨に安堵した表情になっている。態度で示してても言質取ってなかったからね。


「帝国には逃亡した神子が何人かいるとのことですでにご存じかと思いますが、私は元々こことは違う世界にいた人間です。命の危険がほとんどないような平和な国で、平和に暮らしていました。

 そこには大切な家族が居て、私自身努力の結果が実り、人に認められるような成功も収めていました。

 それをあの場にいた者達に神子として強制召喚、誘拐され、魅了の首輪で自由と意思を奪われたのですが、あの場には私以外にもう一人、召喚された人がいました」


「もう一人……、いたの?」


 二人以上が一緒に召喚されるという事例がありえることを知らなかったのか、各々がわずかに驚いた様子をみせる。


「はい。その人は召喚される時に一緒にいた私の恋人でした。

 よくもっと年下だと勘違いされるのですが、これでも私、十五なんですよ?」


 ふふっ、とタマが思い出したように薄く笑む。自然に、自然に、いつかの嬉しかったことを思い出したように。

 だがここにその恋人がいないのは誰が見ても明らかであり、続く話がどういったものか想像できたのだろう、角っ子達の表情が歪んだ。


「彼は私が召喚されて、そこに巻き込まれたのです。

 彼も私と同じように魅了の首輪を付けられていました。

 そして私は、彼を、最愛の人をこの手で殺すことを強要されました。殺し合いを見せ物にされたんです。

 結果は見ての通りです。

 その私が復讐を考えない理由など、どこにありますか?」


 あっさりと、さも当然のようにタマは復讐の理由を答える。


 とりあえずあのときは俺たち初対面だったけどね。

 まあここで話す分には時系列は関係ないし、嘘でも本当でも、ドラマ性が高い方が彼らには、特に女性にはウケがいいだろうし納得もしやすい。

 感情的だってことで危険視されやすくもなるが、その状況で感情的な部分が出てこない人間の方がヤバイしね。不自然でもないだろう。


 とはいえ、タマがあの場にいたエルフ耳達を殺し尽くすことに躊躇いがないくらいに本気で怨んでいるのは事実だ。

 内容のせいか、それともそんな凄惨な感情が籠もった微笑みに気圧されたのか、アルテノ達の体が強ばった。


 沈黙。


 そして角っ子が席を立ち頭を下げると、魔力質隠匿の件で謝ったとき以上に張り詰めた声で謝罪を口にした。


「ごめんなさいタマヤ。知らなかったとはいえ、思い出したくないことを言わせたわ」


「頭を上げて下さい。

 それに、まだ話は終わっていないのです」


 角っ子が顔を上げ、未だ柔らかく笑んだままのタマへ、視線でどういうこと? と問いかけてくる。

 いやだってどうやってあそこぶっ潰したのかまだ説明してないからね。隣の旦那さんとか白衣なんかはより真剣な目になったから、わかってるんだろうけど。


「鱗蟻人の森の奥で、生きた屍と呼べる存在が闊歩していることをご存じでしょうか?」


「命亡き者どもですか。何度か戦ったことがあります」


 ついて行けていない角っ子からアルテノにバトンタッチ。


「なぜ彼らが著しく欠損した体で動く事が出来るのかは?」


「詳しくはないのですが、悪魔種が乗り移って動かしているという説が昔は主流でした。

 現在では高濃度の魔力が命の代わりとなり、魔力そのものが欠損の補完を行ってる自然現象説が有力だったかと」


「原理としては魔力が死体内で結晶化。魔石となって疑似魔獣化、疑似生命化するなどして、魔石が魔力質の変わりとなり魔力だけで肉体の欠損を補助、稼働させている、とかいう話だな。

 それ故に魔力渦巻く悪魔の領域奥地でよく見られ、魔力が死体を元に疑似生命化するだけなので本人の意志も理性もなく、疑似生命の維持や稼働のために近い魔力質を摂取し続ける必要があり、非常に凶暴になるとかかんとかだったはずだ。

 最悪なのは、魔力の形質が近いために人の命亡き者どもは生きた人を優先的に襲うことだ。しかも、血縁者が最優先になる」


 アルテノの回答に、白衣が補足した。

 そして、今この質問したことへの理由に行き当たったのか、語り終えた白衣が目を丸くしてタマを見た。


「まさか」


 タマが頷く。


「そのまさかです。おそらくは私の魔力質の大きさも要因の一つだったのでしょう。

 私の魔力でもそれと似たような現象が引き起こされたのです」


「似たよぉな現象をですかぁ?」


 間延びした声で胸部装甲さんが食いついてきた。


「人為的に、命亡き者どもを作れるというのですか?」


「いいえ。あれは彼だからこそでした。

 操られるままに彼を殺して私が亡骸に近寄ったとき、彼は再び立ち上がり、私を助け出してくれました。

 自分では外すことが出来ない首輪を、壊して解放してくれたのです。

 私の魔力のせいもあったようですが、それが彼の神子としての能力だったからです。

 ただ一人を見守り、守護する力。

 死んだことで首輪の魅了を脱した彼が、私の魔力で黄泉がえり、その力で助けてくれた。

 私が自分の力だけで脱したわけではないのです」


 タマの顔に浮かぶ先ほどとも異なる微笑みに、女性陣が息をのむ。

 警戒や忌避感ではない、ある種の憧憬に近い感情。特に胸部装甲さんが顕著で、わぁと声を漏らし、瞳を輝かせている。


 だいぶ耳障りが良い改変がされているが、これを話すのは少々危険な賭であった。だけど結果は上々なようだ。


 死した者が、愛する人を助け護るために再び立ち上がる。


 彼女達の様子から見て、それは死者が凶悪な怪物になるこの世界基準でも奇跡なのだろう。

 そんな世界だからこそ、なのかもしれないが。


「命亡き者が生者を救ったというのですか? 貴女への攻撃行動が偶然そうなっ――」


 アルテノの信じられないという意志がありありと伝わる問いかけを、横にいた角っ子が睨みつけて黙らせ、真剣な顔で問い直す。


「……その、彼は……?」


 どこか祈るような表情の彼女へ、しかしタマは首を横に振った。


「転位の前の戦いで、私を庇い……」


 たったこれだけでウルっときてる角っ子が直情系チョロインであることはあきらか。アルテノに落とされた後だけど。


「彼は私を庇いながら、もう一度召喚された場所へ行こうとしていたようでした。

 そこから私を元の世界へ帰そうとしていたんだと思います。

 帰ることが出来るとすれば、そこにある魔法陣からだけでしたから。

 戦って、戦って、でも召喚の間に待ち構えていた人達が居て、魔法陣が壊れて。

 それでもなんとか地下にあった魔力を利用して魔法陣を起動させたのですが、その結果が、あの島まるごとの転位です」


「神島の地下……魔力……転位……噂に聞く召喚の魔法陣が、破損したことで暴走でもしたのか?

 たしかにそうでもなければ、個人で島一つを分断転位させるなんてマネが出来るはずがねえ。辻褄は合ってるか」


 白衣が小さく呟いた。

 そのログを俺が拾うとタマも目の端にそれを捉えたのだろう。ここが押し時だと考えたらしく、聞かれる前に再度口を開く。


「彼はあの戦いの段階で、すでに幾つもの魔法にさらされ骨だけのような状態でした。そして戦いで砕かれバラバラになったまま、転位は発動しました。

 あのとき転位したものは各地の悪魔の領域に飛んだ可能性が高いと考えています。

 おそらくは、彼の遺骨も、私たちを召喚した魔法陣も」


 あの魔法陣も最初の赤い線でバラバラになって黒い穴に吸収されていたが、どこかに転位している可能性が高いと俺たちは思っている。

 あれを揃えることが出来れば、神子召喚のメカニズム解明に大いに役立つだろう。実はすでに神子召喚の内実はある程度予測出来ているのだが、俺たちがいた地球へ戻るには、きっとあれが必要になる。


「魔法陣を再構築できれば、もしかしたら故郷への道が開けるかもしれません。

 ……あのときは偶然が重なっただけで、いくら骨を集めても、今はもうそこに彼の意志は存在しないでしょう。

 あの段階で、すでに彼は死んでいた。私が殺した。

 ただ能力の残りが、私を救ってくれただけ。

 それでも、

 ――私は、彼と共に故郷へ帰りたい」


 あ、角っ子泣いた。



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