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非実在青少年は異世界で死霊術師を愛でる  作者: A・F・K
長いプロローグ・城脱出編
4/54

※4 デッドエンドのちハッピーエンドの予報



 姉さん、事件です。

 俺、死んだ初日に結婚or交際を申し込まれました。


(は、話の筋が見えないのですが)


「なに、簡単なことだ。私は私に釣り合う同年代の異性というのをこれまで見たことがなかったんだ。

 だけどそこに潤一君が現れた。

 しかもこんな状況下で、さらに私の顔は潤一君の好みだと言うじゃないか。

 もうこれは一生切っても切れない関係を築くしかないな、と」


(ど、どこがどう釣り合ってるんですかねぇ)


「二人は同い年で、潤一君はプロ漫画家で二次元創作物にしか性的反応を示さない変態。

 私はプロ小説家で一次元創作物にしか性的反応を示さない変態。

 互いに我が強く、元々は一人でも生きていくのが不可能ではないほどのスペックがある。

 少なくとも私はこんな能力が出てきてしまうくらい、孤独を好むタチだ。実は元引き籠もりだしね。

 潤一君のその『描画』で描いたものを他人に見せず生じた結果だけを見せるという点も、なかなかどうして他者を拒絶した感じじゃないか。

 孤独の良さ、自分がしたいことをする精神性。

 さらにお互いの恥部はすでに知り合っているし、頭の回転は私ほどではなさそうだが、察しが良くてバカではないことぐらい、現段階でもわかる。

 ダメな部分が似通っていて釣り合いもとれているから、距離の取り方がわかっている。

 互いに得難い存在だと思わないか」


(え、ぇえぇ?)


 新事実発覚。

 この子は俺以上の変態だった。

 一次だけとか、それってつまり文字だけってことでしょう?

 現在の彼女にとって俺の存在が視覚的にはログだから? ログだからなの? 高レベルすぎるわ。

 しかも露骨に貶してくるようになった。


「大丈夫。あなたが気にしてた黒乳首と黒菊とクロマティを見た責任はとらせてもらう。

 焦げてたけど内臓も筋肉も見たから、私の穴という穴から内臓を見てもいい。

 けど、ほどほどにはしてほしいかな。

 処女確認作業も見たんだろう? ただ、胸が小さいのだけは許して欲しい」


 本当に俺が言っていたことを全て聞いていたようだ。それらの表現は非常に恥ずかしいので勘弁して下さい。


(いやあのとき俺別件の確認作業していたので見てないっす)


 浴場であのおばさん聖隷に股間確認されてたのは知ってるけど。

 別に体がそっち向いてないきゃいけないだけで、顔はそっぽ向くことが出来るの。

 勘違いしないでよね。


 第一、表面だけならまだしも、惨事の股ぐら内臓とかグロイだけじゃないですかヤダー。


「い、今から見る?」


(無理すんな処女)


 なんだかんだ言いながらこの子、涙目で顔真っ赤である。


(第一、そんな無理してまで三次女子と付き合いたくないわボケ。

 こちとら夢見がちな紳士童貞やぞ。

 何するにしても好いて好かれてじゃないとイヤに決まってんだろアホか。

 シンデレラ女子はグイグイ攻めてくるオレサマ系王子様探しなって。

 近くにいる王子様は腹黒系変態だからオススメしないですけど)


「ウルくんは語彙が少ないな。罵倒にパワーがない。

 あと最近のシンデレラ女子はオレサマ系に否定的だ、どう考えたってDQNだからね。

 やれやれ系男子だってツンデレ女子には否定的なこと、最近は多いだろう?

 あとウルくんも未経験で安心した。

 現在恋人なしでこの年で経験済みだと、どう考えたって考えナシな恋愛脳である率が高くなるからね。裏切りの可能性が高すぎる。

 私にNTRの気もNTLの気もはない。

 まあ、初めて同士だと色々失敗が多いとはいうけど、そっちの方が断然燃えると思うんだ。

 今までの発言から察するに、初物が嫌いということもないんじゃないか?」


 くっそこの女くっそ。

 いつの間にか名字呼びから名前呼びに変わっていたのが、ついに愛称になりやがった。


 まあなんだ、話が合うなぁ。結構俗オタっぽいじゃないか。


「全部、本当のことだ。

 私はウルくんを好きになりそうな気がする。愛してしまいそうな気がする」


 照れっ照れに輝く笑顔で恥ずかしげにこんなこと言いやがるし。

 好きって言い切るわけでも、愛してるって言い募るわけでもない。


 だがそこがいい。


(……この世界で生きていくってんでも、帰る手段を探すってんでも、手助けします。

 言っちゃ悪いけど俺はもう死んでいて、後も先もない。

 独占欲はないし、傍観者してるのも構いません。

 こんなんでもどちらかというと博愛主義者です。

 ハッピーエンド至上主義者でもあります。

 読書の時間は静かものですよ。でも見続けるなら、主人公が幸せな物語がいいんです)


「私が書いたのを知っているなら、わかっているんじゃないか? 私は自分が納得できるなら、バッドエンドでも構わない」


(俺を殺したこと、恨めしく思ってないとでも考えているんですか? 俺が嫌だって――)


「嫌でも、恨んでも、私たちはもう離れられないんだよ。

 おそらく、召喚されたのは私だった。

 巻き込まれて殺されたのはあなただった。

 謝っておきながらだけど、実際は謝ってもどうにもならない。

 でも私は、今の段階ですら、一緒にいたのがウルくんで良かったと思っている。

 私一人だったら魅了を解除できなかったし、ウルくんではなかったら状況を脱することも出来なかった。

 もうとっくにウルくんはバッドエンドなんだから、その先にハッピーエンドを探しに行こう。

 私はウルくんにもらったこの命と意志の恩を返したいんだ」


 ハッピーエンド至上主義者もどん引きの超前向きなひでぇ言い草である。


(……返すったって、返せるもんじゃないでしょう。

 もう俺に利点がないんじゃないですかね)


「だから、この命はウルくんとの共用にしたいと考えた。故の家族だ。

 それに、失うものもないだろう?

 好きなだけこの世界をプレイしたらいいし、好きなだけ絵を描いたらいい。

 あなたのリア充は、そういう意味も込めて、ではないのか?」


 わかってらっしゃる。


 俺はあちらの世界でリア充を自称するほどには充実していた。

 家は少し貧しいくらいだったが、そこそこの才能と運と愛情に囲まれて、満足できていた。

 それこそ、今なら死んでもいいくらいには。

 姉孝行もしたいし絵をもっと描きたいし続きをやりたいゲームもあった。

 でもそれはどこまでいっても果てがない。漫画家業もどこまで出来るかわからない。

 だから、最高だと思える時点で死ぬのもアリかなぁ、と冗談みたいに考えているところがあった。

 恋人を欲しいと思わなかったのは、あの環境を変えかねない要素を無意識に排除していたのかもしれない。


 厨二なそれはどうやら本心だったらしく、この山田珠弥という少女と話している今、まるで彼女への恨み辛みが湧いてこない。

 むしろちょっとワクワクしている。


 気になる最新号の漫画誌を手に取ったみたいに。

 好きな作家の新刊を手にしたみたいに。

 新しいゲームシリーズのパッケージを開ける前みたいに。

 妄想に妄想を重ねたものを描きだし始める瞬間みたいに。

 わくわくしているんだ。


 唯一その喜悦に対抗して虚無感と共に迫るのは、生きていたときに世話になった人たちへの恩返しが出来ないことか。

 急に俺がいなくなったら、人気が出つつあった姉ちゃん達の漫画連載が危うくなるかもしれないのも意外にじくりと来る。なんとかして背景得意なアシさん確保してくれ。


 ハードディスクの中身は姉ちゃん達絶対知ってるだろうから、そっち方面はどうでもいいや。


(でも恩返しとか、重たいのめんどくさいんですけど)


「共用だからな。重さも半分だ。

 私も好きなことをやりたいし。

 そしてなにも、絶対に男女の仲になってほしいわけじゃない。

 私たちは今後一生一緒の可能性が高い。

 だからケンカしても一緒においしいご飯を食べるような、家族になって欲しいんだ。

 共にあることが当たり前の存在という、前提がほしい」


(……それって、仲のいい友人じゃダメなんですかね)


「正直に言うと私は友人が少ないのでわからない。

 少なくとも女同士の友人で先の状況は、寒々としたものしか想像出来ん程度の交友関係しかなかった。

 異性の友人で体の隅々まで見られたら友人とは違う気がする」


(んじゃ、兄妹ってことで)


「よし。今はそれで手を打とう。

 ……言っておくけど、普通の姉弟は裸の見せ合いなどしないからね」


 意外にあっさり。

 と思いきや知っとるわそれぐらい。


 まあ、結局丸め込まれたのは自覚ある。


 これは、不仲になっても助けてもらえるようにするための、理由付けという布石なのだ。


 俺とは違い、彼女は生きている。

 死にたくもないのだろう。

 もし俺の助力が得られなければ、簡単に危機に陥る可能性がある。

 得られていれば、生き残れる可能性が高まる。

 そして俺が裏切れば、いとも簡単に死ぬ。


 彼女は言った。孤独が好きで我が侭だと。

 飼われるのも嫌だし、死ぬのも嫌なんだと思う。

 そして、根本は真逆っぽいけど似た思考の俺を飼い慣らすのも難しい。

 だからこその対等。


 二匹の首にはまった見えない首輪は、今や互いを短いロープで繋いでいるのだ。

 飯を食うときは頬を寄せ合わせなければいけないほど短いロープだ。

 だから吠える相手も噛みつく相手も一緒にしましょう。

 隣の相手を咬んでもいいことなんて無いのだから。


 そういう対等の錯覚だ。

 実は隣の一匹は飯を食う必要がないけど、一緒に食べたらおいしいよ、と。


 ちと中二思考すぎるか。


(……中二な思考も嫌いじゃないけど、ハッピーは中二からは生まれにくい)


「高二思考もだね。頭が賢しいだけじゃ、幸せなんてどこにもなくなる。

 偉い人も言ったものだよ、少しのお金と多少のバカが幸せの秘訣だって。

 ウルくんも肝に銘じたまえ。行動に移せるようだったらバカだから、本人だけの分なら幸せも近いんだけどね」


 俺の考えを知ってかしらずか、うんうん頷く珠弥。


(つまりバカな中二高二だったら幸せになれる可能性が微レ存?)


「ヒャッハーは最高だと思う」


(死ぬまで治らない系のバカはちょっと……見てるだけならいいんですけど。

 てかあれ中二なん?)


「ヒャッハーの存在はエッセンスとしては最高だよ、これは否定しようがない。

 だが関わるとなると、指先一つでダウンさせたくなる。

 そして爆散という末路まで含めることで、初めてヒャッハーは中二を得て完成されたものになる」


(ああ、そういう。……ところでタマさん、俺、実は汚物を消毒できる気がするんですよ)


「知ってる。私はサウザー様役やっていればいいのかな?」


(よろしく)


 ほんと、話が合うなぁ。



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