※10 ばかめ
タマの行動目標は死霊兵スズキこと鈴木潤一の骨を集めることである。
そのために必要なものは何であるかと考えた際、まずは世界中に散らばったと思われる骨の位置を知ることが挙げられた。
だがこれはタマの『死霊術』としても、俺の『RPGシステム』としても、すぐには無理であることがわかっていた。
元からタマの能力には遠隔地における感知能力など存在せず、俺の方にある感知・探査能力的なのはすでにタマに習得させた『遠隔術・広域知覚』と『遠隔術・魔力走査』ぐらいが関の山だったからだ。何かしらのブレイクスルーがなければ、自力では不可能だと結論づけられた。
ラハッカとショーコのお陰である程度の距離からであればわかるようになったが、それでも全然足りないのは言うまでもないことだった。二人がわかるのは数十キロメートルまでの話であり、帝国圏全域を隈無く探すだけでもかなりの範囲を歩き回る必要があった。
いきなり答えを得るのは不可能だとわかったところで、次は答えを予測・模索することにした。
現在判明している例が二件しかないため、転位の正確な法則はわからず完全な予測となるが、俺たちは現在手元にある状況から考えて転位は高い魔力が集う場所、主に悪魔の領域と呼ばれる場所にしているのではないかと考えていた。それはつまり危険領域にこそある可能性が高いということでもあった。
さらに帝国圏よりも聖神教圏の方が多い可能性も高い。その中心地で散ったのだから、当然の思考である。あの重要施設と思しき城を住人ごと吹っ飛ばした聖神教が今どうなっているのかわからないが、犯人であるタマがなんの問題もなく探し回ることが出来る安全地帯であるということはないだろう。
むしろ聖神教圏で多くが存在するのであれば良い方だと言えた。
本当に世界中に散っていた場合、危険だと分かりきっている場所ばかりを地道に探し回るしかないことになる。
この世界が地球と同じ広さだとしても、途方もない話である。
だからこそ省ける手間は省くに越したことはない。
人類が出入りしている領域であれば、俺たち以外の誰かが見つける可能性もある。ラハッカ達二人の話では、俺の骨はそう簡単にはあれ以上壊れないだろうとのことだった。
破片となっても死霊兵スズキとしての防御能力が生きているからだ。
ラハッカが持っている分もだが、不思議と俺とタマの魔力が保持され続けておりステータス効果も存在したままとなっている。同時に、他ではあまり見ない特殊な魔力が多く宿っているめ、魔力に敏感な冒険者などなら価値があるかもしれないと拾っている可能性もあった。
ならば拾った人から買い取ればいいのだ。
帝国圏なら冒険者ギルドが各地に存在しており、その冒険者ギルド経由で買い取り依頼を出せば売ってくれる人も出てくるかもしれない。
それにラハッカ達の話からすると一緒にあの場所の土砂や城の建材が転位している可能性も高かった。悪魔の領域とはそのほとんどが人が住めない場所であり、そういった不自然な異物があれば通りがかっただけでも目に付き、記憶にも留まるだろう。その手の情報にも値段を付ければいい。あるいはそういった場所に骨が落ちている可能性が高いことを依頼に明記し、冒険者に宝探しをさせるのもいいかもしれない。
色々と問題は考えられるが、おそらくそれが現段階での最適解だろうといえた。
この手法が可能なのは帝国圏だけだろうが、帝国圏自体が広いのだ。発見場所から転位のパターン考察などにも使えるので、充分な助力となる。
そしてそのために必要となるのは、人の欲をかきたてる報酬だ。
一番効果的で即物的なのは金銭だろうか。これはタマの実力を持ってすればおそらくそこまで困らないだろうと考えている。
大量に補完している鱗蟻人の素材に魔石があるし、必要とあらば森で出会った白いドラゴンのような存在を狩って売ればいいだけだからだ。
あのドラゴンは帝国に二十三人しかいない魔石級冒険者のラハッカが勝てなかったほどの強敵だ。何体か狩ってまるごと売れば、それだけで国を買えるような額になるはずとショーコが言っていた。相当な値段になるのは想像に難くない。
狩るのは簡単ではないがラハッカたちもいるし、以前よりも強くなっているタマならそう難しいことではない。どうやって出会うかという問題があるが、目処はたっているので今はそこはいいだろう。
次に報酬として考えられるのは力だ。
話によるとタマが倒したあのドラゴンのような強力な個体は龍種と呼称され、倒すには魔石級の強さを持った者が二人以上必要なのだという。ラハッカは一人で龍を狩ったこともあるらしいが、あの白い電気龍は龍の中でも強い方で、相性も悪かったためあのような結果になったのだそうだ。
そして新鮮な内に限るらしいが、龍のような強大な存在の肉は食べることで捕食者を強くする効果がある。魔力質をそのまま取り込み、消化することが重要らしい。
実食したタマにとっては微々たるものでしかなかったが、危険領域に行くだけであれば無色級や黒色級の集団でもいいわけで、そういった者達やそれ以下の者達にとって自己強化に繋がる龍肉は喉から手が出るほど欲しいものなのだそうだ。
これは冒険者に限らず、王侯貴族などの特権階級なども同じなため需要は尽きず、金銭だけではどうにもならない部分もあるため、報酬としては有効だろう。
もちろん肉に限らず鱗や皮、牙、骨なども加工することで龍の魔力質を内包したまま武具に使える。これらも報酬には充分な代物だと言えるだろう。
この辺りの金品か素材かは、金にしてから払うか現物支給かの違いだけともいえる。
あとは先日ゴリラにやったような治癒魔法もいい報酬になるはずだ。
金があれば大体の外傷病症は癒せる世界だが、あの欠損のように無理なものある。
だが俺たちであれば治せるのだ。歴史上稀に見る伝説級の治癒魔法である。需要は高いはずだ。
だが問題もある。
報酬を提示したとして、それを信じられるかという部分だ。
冒険者ギルドは狩猟商人ギルドであり、つまり商人の組合である。
依頼を出すならば、当然支払い能力に信用がなければ依頼を受け付けてすらくれない。
俺たちとしては積極的に骨を回収に行ってもらいたいが、魔石級冒険者がやっと獲ってくるレベルの代物をほいほいと報酬に提示し、かつそれが一つ二つではなく複数種類である。成功時に本当に支払われるのか、疑われるかもしれない。ラハッカが一緒なのだからギルドとしてはある程度は信憑性もあると見て依頼は通るだろうが、確実だとは誰も言えないだろう。治癒魔法に関してはラハッカの能力詳細を知っていれば彼女には無理だとわかることでもある。となれば他の誰かが治癒を施すことになるが、伝説級の治癒魔法士はその全員が死亡が確認されているか、引き籠もって外部依頼を受けていない状態である。誰がやるのかと問いかけて、年端もいかない少女が手を挙げれば、疑いの目を向けられて然るべきだ。
かといって報酬のレベルを下げれば積極的に動いてくれるかは微妙となる。
悪魔の領域を探索するというのは無色級ばかりが集った集団でも簡単な話ではないのだ。当然である。
だからタマはまず、それらを証明することにした。
証明し、そしてそれを広めてもらう。
簡単な話、[墨塗り]に入った正体不明の新人がなにやら途轍もなくすごい奴であると、各方面に知らしめることにしたのだ。
素行不良の冒険者に半ば絡まれにいったり、強さを証明したり、支払い能力の高さを示したり、伝説とされる治癒魔法を実際に使って見せたり、ほとんど一人で活動していた[墨塗り]に入り、ラハッカと実際に行動を共にしているところを見せつけたり、都市の最高責任者が自ら出迎えに来たかのように見せかけたり。
なにより社会的に友好であり、理性的で、良くも悪くもやると決めた報いを与えることには太っ腹で誠実であると信用させるのが重要であった。
だがいくら種を蒔けど、必要充分となるほどの信用は早々には手に入らない。芽吹いて目標に届くほどの大きさの木だと言えるほど育つには年単位の時間が必要になる。
特に強さの証明や、治癒魔法に関しては噂だけでは半信半疑となる可能性が高い。どうしたって、直接目で見なければ信用しきれないだろう。
文明圏とのファーストコンタクトはなんとかなったので、強さはMAT隠匿を解くことによりある程度の証明はされるだろうが、なんの脈絡もなく見せるのはあまり効果的だとはいえず、やはりただ恐れられ拗れる可能性を考えると消極的になる。
だったら、それらに対する信用が得られるだけの出来事と立場があればいい。
事件が起きて、かつタマが友好的で理性的な怪物であると、知っていないといけなくすればいい。
埋めたドングリが、メイちゃん探しを手伝った謎生物のタケノコニョッキ踊りによって即日大木になるような、そんなミラクルがあればいい。
だから――
三クズ貴族が拘束され審判騎士団というらしい部隊に引き渡された後、タマ達はラハッカに会いに来たこの城塞都市の市長、アルトウン・リ・アルテノが用意してきた馬亀車に乗っていた。
一介の冒険者集団でしかなかった[化鯨の髭]が持っていた幌馬亀車とは比べものにならないような、黒光りする木組みの大型馬亀車である。
先導する馬上の騎士などは青い旗を持っており、車体にも旗にもこの一帯を治めるアルトウン辺境伯家の紋章があった。脇を固める騎士の装備にも同じものが彫られており少々どころかかなり物々しい。
そんな貴族馬亀車が余裕ですれ違えるほどに大きな道を進む車内には、乗車してから先、硬直した空気が充満したままとなっていた。
が、俺はそんな車内を無視して外の大型馬亀をスケッチし続けていた。
(馬亀カワイイよ馬亀。もう名前からしてアホバカワイイ)
(罵倒が増えてないかい? それにしても、ウルくんは本当に馬亀が好きだな。
言ってしまえば足の速い大きな陸亀だと思うのだが)
(俺としては横幅が最低でも三メートルの陸亀種という時点ですでに最高だと思うのですけどね。
しかもワニガメ系の刺々しさがないフォルムなのに、なぜか丸みも少ない某角瓶を横に倒したようなデザインの甲羅。上部なんてほぼ完全な平面で、乗りきらない分を車輪付けて引いているだけで、上に小さな家を乗せているみたいなものなんですよ? 野生種も上に木とか乗せてるんですよ? そのせいで甲羅に日光が当たらないから、日光浴中は手足も頭も尻尾もだらけて全解放なんですよ? 脇の肉がダルダルのぶにぶになんですよ? そのくせして腹筋と腹部甲羅が異常発達して六分割されていて、新しい手足みたいに体を支えるわ、走るときは四肢の補助するわ、お陰で上は揺れが少ないわ、足短いのにこの世界の馬並に早いわ、早すぎて上から見ると動きがG系だとか、岩場に放っておくと腹筋で叩いて地面平らにして来るわ、メ゛~って鳴くわ、マジで意味不明な乗り物系生き物なんですよ?)
(G系とはまた。確かに各種特性は似ているかもしれないが)
現実には表情が変わらないままだが、タマから苦笑するような気配を感じとる。
(馬亀は数年前までは人に馴れない危険魔獣扱いだったんじゃがのう。
田畑は荒らすわ家畜は食い荒らすわ、なんでも食べて石や魔木の壁も食い荒らすものじゃから、見かけたら要討伐対象だったのじゃ。
わしらの二つ名に『小巨馬亀』があったときには頭に来たものじゃが、あなた様がカワイイと言うてくれるのなら、悪い気はしないのう。
ところでG系とはなんじゃ?)
(ん、ん)
ショーコが喜ぶところがずれている気がするが、ラハッカも嬉しかったらしく会話のない車内で突然頷き、ログを流す。
(G系とはですね――)
かの生物について説明を始めたあたりで意味不明ながらも空気が変わったことを察したのか、ラハッカ達の様子を伺い続けていたアルテノが口を開いた。
「あらためてですが、無事のお帰りを嬉しく思います、師匠。
ショーコ様もお変わりなくでよろしいでしょうか?」
帝国語での挨拶。ラハッカから黒水が躍り出て壁で文章となる。これも帝国語だった。
『アルテノも変わらず壮健なようじゃの。ただ今は少し待て。
あなた様その生き物は――』
途中まで描かれた文は突如として崩れて消える。
ログと混同してしまったからだが、それほどまでに説明したGの一般的な嫌われ具合がショックだったらしい。
ちなみに俺自身はあの手の生物が大丈夫というかむしろ好きな方なので、その辺もログに流すと明らかにショーコとラハッカはほっとした様子を見せた。タマも平気な方だったらしく、彼女からフォローがあったのも大きい。ほぼ実害ないタイプの生物だからね。偏見無ければ嫌う要素があまりないっていう。あの早すぎる動きが怖いとか言われるけど、某夢の国の象徴たる小型生物の汚さと早さに比べたら、ねえ? いやあっちも可愛くて好きだけど。
濃紺の瞳を点にしてショーコの文字跡を見ていたアルテノ前に、またショーコが文を描く。
『すまんすまん。先のは気にするな』
あ、はい。と素直に首肯するアルテノ。
彼は幼少期に数ヶ月間ラハッカから剣の扱いを教えられたらしく、そのときにショーコのことも知っていたので、会話をするならラハッカに問うのではなくショーコに聞けばいいのだと熟知している。
ラハッカへの問答をショーコが応えるのは、かつての教育の失敗からショーコがしたがらない。現状を見るとすごく今更でさらに問題をややこしくしているだけに思えたが、それは今のショーコの決まり事らしい。
逆をいえば、聞きたいことがあるときはショーコに聞けばいいだけでもある。
とはいえ[墨塗り]に寄生する黒水の悪魔と認識されているショーコに、個人としての意識があることを認識出来ている人間は少ない。はためには黒水の文字もラハッカがやっているようにしか見えないのだから仕方がないのだろう。ショーコが説明をしたところで悪魔に人並み以上の知性と社交性があるなどとはにわかに信じがたいものらしい。
面倒を避けるためにギルドなどでは散々説明したらしいが、それだって何十年も前のことのようなので、今となっては世代交代も進んで実感を持っている者の方が少ないのだろう。話として知っているのと実際に触れて知っているとでは、情報の確度が全然違う。ましてや映像記憶などない世界での話なのだから仕方がないだろう。
日本、というか地球サブカル的には悪魔というと逆に頭が良さそうなイメージだが、この世界ではそういった悪魔の方が少ないようだ。
『して、まずは依頼の件だの。結論から言うとじゃが、今回も鱗蟻人の王子が生まれた予兆はなかった』
「そうですか、それは良かった。依頼の完遂ありがとうございます」
『よいよい。この依頼は例年のことじゃしの』
鱗蟻人の王子とは数十年に一度生まれる強力な鱗蟻人の個体のことで、かつてザサ国はこの王子個体によって滅亡の危機に瀕したのだという。
今のザサ国が属国とはいえ存在するのはそのときにグフア帝国が王子個体を討伐し、大規模な援助を行ったからなのだという。あえて王家を残し属国となっているのは、帝国が領地拡大主義ではなく経済的植民地主義だったからだけだ。偽造不可能な帝国貨幣の強みをしっかり理解しているからこその選択だったのだろう。
そして今目の前にいる黒髪ポニテに青い瞳のビフトア青年は、当時王子を討伐したザサ国と帝国の英雄の血を受け継ぐ、下手をするとザサの国王よりも権威がある大貴族、アルトウン辺境伯家の跡取り息子なんだそうだ。
そのアルトウン家がこうして鱗蟻人の森を監視し、王子発生の際には討伐する役目を負っている。
ラハッカ達はアルテノの親、つまり現アルトウン家当主の代になってから縁があって数年に一度の森の調査依頼を請けていた。
王子が成長しきるには十年以上の年月が必要とされているため、このぐらいのペースでの調査で充分らしい。そして[墨塗り]ほどこういった危険域から情報を持ち帰ってくる仕事の適任はない。少数どころか個人で潜行可能で、不死身と言われるほど生存能力に長けているのだから、当然である。まあ某伝説の蛇ばりの隠密行動には向かないし、ラハッカと意思疎通して話が出来ればではあるが。
今回ラハッカ達が鱗蟻人の森の奥まで来ていたのは、その定例依頼があったからである。
ちなみに王子個体が生まれていた場合、鱗蟻人の個体数が激減し、森の奥に巨獣の死骸が食いかけで放置されていることが多くなるとのこと。王子が仲間も関係なく食い荒らすためにそうなるらしい。
鱗蟻人王子が発生していないとわかったことで胸をなで下ろしたアルテノが、再度表情を引き締める。
もともと馬亀車内の空気が重かったのは彼が今のように気を張っていたことが最大の原因である。
そこにあえて戻ったということはつまり、ここからこそが本題であるという意味でもあった。
「……ところで師匠、ショーコ様。なぜ今回は森側からではなく、逆の首都門側からお戻りになったのですか?」
依頼で森に入っていたラハッカがなぜか森とは逆側の門からスメ・シュガに入ってきたことぐらい、彼であればすぐに調べられることだ。[化鯨の髭]の件も含めて、ギルドでの出来事も当然知っているだろう。
問い。同時に青の視線がタマに向けられる。
彼はずっとタマを警戒していた。
馬亀車には奴隷商ベシャジュユの使いであるデシャンや[磁針箇条]のリャムレスも一緒になって乗っており、今のアルテノとショーコのやり取りも見聞きしている。本来鱗蟻人王子の調査結果だけでも、戦闘奴隷も扱う奴隷商にとっては重要な情報なはずだ。それを当然の様に晒しているのは、このアルテノとデシャン、もしくはベシャジュユとの仲に強い繋がりがあるということに他ならない。
あのときあえて三クズへラハッカが切り出したのも、アルテノ達がやってきたことを感知していたからだが、彼らは来るときも一緒の馬亀車に乗ってやってきていた。もちろん追ってやってきた騎士達も一緒になってだ。何人かは三クズを連行するために別行動となったが、残った人員は馬亀車の後を護衛よろしく付いてきている。相当な警戒具合だ。
そして冒険者らしいリャムレスもだ。まだタマは彼女を正式に雇っていない。デシャンを通してベシャジュユからの紹介がされただけの段階のままであり、そういった契約のやり取りが入る前に馬亀車で移動する流れになったからだ。そんな彼女が同じ馬亀車に乗り、にこにこ笑顔で話を聞いている。ベシャジュユからの紹介ということで彼の意向を汲んでいる人物が来ると考えていたが、どうやら本格的にこのイケメン市長と奴隷商はずぶずぶな仲らしいことが伺えた。それを隠す気もないようだ。
まあベシャジュユもアルテノも以前からラハッカやショーコと付き合いがあり、ある程度信用している人物だ。まず悪い人間ということはないんだろうけどね。アルテノなんて『霊視』的にはガチの善人みたいだし、リャムレス達も善人寄りらしい。
なんだよ良いイケメンもいるじゃんと俺安心である。
これで気持ちよくイケメンの絵も描けるってもんである。リアルにクズいモデルとかあんまり筆ノらないんだよね。誰だってDQN自慢してくる相手と仕事はしたくないでょう? モデルって結構会話しながら描くからねあれ、人間性結構出るんよ。
まあそんな彼らからタマは警戒されているわけだが。
むしろ彼らからすれば、タマが露骨に怪しすぎるのだ。
ラハッカの謎の行動にタマが関与していることくらい、誰だってすぐに思いつく。
アルテノなどはラハッカを師と仰ぐほど信頼していて、[墨塗り]に入るということの意味も知っているとのこと。なのにタマは肌が褐色になっていない。当然、タマが本当の意味で[墨塗り]になっていないことぐらいわかっているだろう。ベシャジュユがどうだったかはわからないが、ギルドの上役のようなので彼も知っているとみていい。
ギルドでの出来事に、今朝の騒ぎだ。そこでタマが示した能力は、充分に権力者を警戒させるにたるものであった。
今タマがこの馬亀車に同乗しているのもラハッカ達が何かを言ったからではない。タマが見せた魔力隠匿による毒物の利用の詳しい話を聞かせて欲しいという話にタマが了承したからだ。今向かっている領主館にはその手の技術に詳しい者がいるとのことだが。
『話してもいいがの、まずはそう警戒するでない。
それに言っておくが、ご主人様――タマヤは帝国語も理解しておるぞ。理解しておっても、聖神国語しか話せないだけじゃ』
そう綴られてもアルテノは警戒を緩める気配がない。当然ながらむしろ警戒が強くなった。他の二人もだ。
ぴんと張った魔力の動きは洗練されていて、デシャンは昨日の段階で気付いていたことだが、三人ともが実戦慣れした強者であることを容易に予想させた。そして特にアルテノのそれは素晴らしい。馬亀を描くのに忙しくなければ、俺は代わりに彼を描いていただろう。いややっぱ都市景観が先かな。うん。さっき気付いたけどここの地下施設スゴイの。排水溝辿って潜ったら廃棄されたぽい地下都市があってデカイ蟹が住んでました。ファンタジー侮れないわあ。
『魔石級一人と無色級二人。それに外も黒色級で囲んでおいて、まだそこまで警戒するか。臆病になったのうアルテノ坊や』
「……オレももう妻帯者ですから。そこは大人になったと言っていただきたいですね。
それに同じ魔石級でも、オレ一人で師匠達を止められると思うほど自惚れてはいません」
『倒せないとは言わんのじゃな』
「ん」
なぜか嬉しそうな気配と共に愛刀を持ち上げるラハッカに、アルテノが慌てた。
「本当に勘弁して下さい師匠。
お二人が正体を失うことなどないと私はよく知っていますし、お二人だってオレの力は知っているでしょう?」
『さあての。魔石級になってからの坊やは知らんのじゃ』
「……止めましょうこの話は。胃に穴が空きそうです。
警戒は……もう少し維持させて下さい。外の部下への示しもありますから、あんまり気を抜けないんですよ」
『面倒臭いのう』
「ん」
「オレが直接出向かないと不機嫌になる師匠やショーコ様のせいですけどね」
『ぞろぞろ引き連れてこんな大仰なもので来なければよいだけなのじゃ』
「ん」
「自分から館には来ないし、迎えに行くといっつも問題おこしている真っ最中じゃないですか。
最初から連れて行った方が最終的な負担が少なくなるんです」
言い争う二人と一人を横目に、タマがデシャンとリャムレスを見る。
二人もタマを見ていた。
頷きあう三人。
結局は仲良いだけだよねこれ。




