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※6 力ずくで拘束して金で頬を叩き無理やりヤっちゃうロリ

 上の階から何事かと問う叫びやバタバタとした足音が聞こえてくるが、事が起こったギルド本館の食事処は静まりかえっていた。


 タマが斧に突き刺さったままだった手を無理やり引き抜いてイノシシに返す。

 渡されたイノシシはそのまま押されるように後ずさっていた。

 それはイノシシだけではなく少し離れた場所にいた彼の取り巻きやゴリラも同様で、衝撃でへこんで傾斜がついた足下をわずかに滑らせながら、中心地のタマから離れようとゆっくり下がっていく巨漢達の様子は滑稽だった。


 よくある異世界転移でのテンプレとは違い、面倒だからどうだからと目立たないようにするつもりなど俺たちにはなかった。

 だから[化鯨の髭]は売ったし、ラハッカと一緒に行動しているし、[墨塗り]にも入った。

 MAT隠匿を施したのはあくまで最初から交渉の余地無く敵対しないためであり、むしろ積極的にタマの力は誇示する予定だったのだ。


 だからこの状況は渡りに船ではあったが――


(試されているのか)


(そういうことでしょうね)


(だから言ったじゃろ? もう少し魔力質は見えるようにしておくべきだったんじゃ。ご主人様やあなた様が過小評価されるのは我慢ならんのじゃ)


(ん。ん)


(いいんですよこれで。説明したじゃないですか)


(正直なところ、あまりこういった試され方をするのは好きじゃないがな)


 ギルド奥の影にちらりと視線をやったタマに、斧に空いた穴とタマの手とを見比べていたイノシシが頭を下げた。


「……疑って悪かった。あんたマジでつえぇんだな」


 タマが首を傾げるフリをした後ラハッカに視線をやると、無表情ながら少々面倒臭そうに聖神国語で「攻撃謝る」と言う。聖神国語なのはわざとだ。

 聞いていたほとんどが意味を理解しなかったようだったが、極一部はどこの言葉であるのか知っていたようで眉を顰めた。イノシシとゴリラはわからなかったようで、特に反応はなかった。

 そしてそれを聞いたタマは、


「ユルス」


 即答である。

 驚き顔を上げたイノシシにタマが近付き手を取ると、取り巻き達が小さな悲鳴をあげて俺たちが悪かったからアニキを許してくれと声を上げ始める。ガチムチ強面連中がロリータに手をとられて命乞いとかおかしな話だが、どうやら本気らしい。

 タマはそれらを無視して、懐から出した一掴みの赤い宝石をじゃらじゃらとイノシシに渡す。髑髏虫こと鱗蟻人の髑髏部分から取りだしたあの石である。


「ワタシ、ワルイ、ヒト。

 アナタ、ヨイ、ヒト。アゲル」


 そういって即座に消臭魔法と軽度の回復魔法を握った手の中で発動した。そんな柔な鍛え方はしていないと思うが、手首を痛めた可能性があったからだ。

 魔法の発動にイノシシがビクリとしたが、何がおきたのかはわからなかったようで首を傾げていた。だが渡された物の正体に気付いて叫び声を上げる。


「ってこれ魔石じゃねえかっ!」


「オノ、ナオス、カネ」


「はあ?! 直すって、これ一個で充分――」


 ラハッカから教えてもらったことだが、ギルドの登録証にも使われているこの赤い石は非常に高価な代物らしい。

 強力な魔獣や巨獣、悪魔などの体内で生成される魔力の結晶であり、大きければ大きいほど利用価値は高く値段がつり上がっていくが、市場に出回ってもほとんどが一番安い米粒大であり、鱗蟻人から取れたこのビー玉大の物ともなれば一つでも一財産なんだそうな。

 それを小さいとはいえタマの手で一掴み。

 さすがに斧の修理代か買い直しには足りるだろう。


 今更言うまでもないことだがこのイノシシ、そう悪い人間ではない。どちらかというとイイ人属性持ちである。もしかすればロリコンなのかもしれないが、暴力的な支配者欲求は持ち合わせていないらしいことが今までの言動だけで察せる。


 それに今のタマには人の善悪を見極めるとある対人チートがあった。

 これを使っていたので、イノシシが見た目ほど悪い人物ではないことは最初からわかっていたのだ。


 『死霊術・霊視』

 効果説明は、同種族の霊を見る事が出来る。

 死霊術ツリーの魔法スキルである。


 森などで色々実験して予測したことだが、この魔法でいうところの霊とは空間中に漂う魔力に籠められた残留思念であり、『死霊術・霊視』はこの残留思念を読み取る一種の魔力感知能力だといえる。

 これで見て恨みを持った霊が憑いていればつまりはそういうことであり、そして効果説明だと見る事しか出来なさそうだが、実際は霊の状態次第で話をしたり記憶を共有することも出来て、しかも霊はタマに嘘を言えない。

 そんなミステリー展開殺しな魔法であった。


 しかしこの魔法、霊(生体魔力残滓)は空間中の他の魔力で流されてしまうため何十年も人種の意識を保つことは出来ないようで、さらに最初に跳んだ森の奥地は人外魔境で人の残留思念がない。ラハッカは殺した対象を人も動物も悪魔も問わず全魔力をまるごとショーコが捕食してしまうので、殺人の経験もあるそうだがさっぱり霊が憑いていない。当初はあまり使い道のない魔法であった。

 聖神国にいたときはそれどころじゃなかったしね。


 ちなみにこれを使っても俺のことは見えない。俺の魔力が『描画』後などでも残留せず別空間に移動、吸収されて云々。ということらしい。


 だが使いこなせれば対人において恐ろしいアドバンテージとなるのは確実である。

 だから森の中でこの魔法を使い続け、[化鯨の髭]などを相手にも実験を繰り返したのだが、スメ・シュガ市に入るときに結局そのまま使い続けることは諦めた。

 街に入る前に一度使い遠目に見たのだが、今のタマでも頭が痛くなるほど奇々怪々で中途半端なのがうじゃうじゃだったらしい。

 街には生きた人間も多い分魔力の流動も大きい。死者の想念が弱いと生者の魔力で散り散りにされて、でも活き(・・)がいいから半端な意思が飛び交う。そんな状況なんだそうな。

 姿も人とは言えず、散り散りなせいで文脈に沿って話を聞くことも出来ず、活きはいいから好き勝手に視界に入り支離滅裂な話を聞かせていく。


 これがおそろしくウザイのだ。ログが高速で流れていくし。


 さらにこの魔法には大きな欠点があり、他のシステム魔法同様、使うと顔の前に小さな魔法陣が出現して、効果時間中は両目に紫の光が灯ってしまうためやたらと目立つのだ。


 よって街中で不用意に使うのは止した方がいいと結論づけられたのだが、同時にこうなることは予想できていたのでこの魔法を改良した別の手法も編み出していたため、今はそちらを使っていた。

 魔力感知の一種であれば、俺の存在すら見つける『遠隔術・魔力走査』で代用できるのではという試みで生まれた手法である。


 簡易版『霊視』


 結果は成功。

 正確なその霊の想念まではわからないし話も聞けないが、誰かに取り憑いているとか、その霊が悪意を持っているのかはたまた好意を持っているのか、呪いたいのか守護したいのかくらいはわかる。

 ビフトア人相手だと『遠隔術・魔力走査』で放出する魔力を逆に感知される恐れがあったが、元が微弱な魔力しか使わないこともあり街に入るために獲得した魔力隠匿術の応用で誤魔化せたし、本当に話を聞く必要がありそうなときは本来の『死霊術・霊視』を使えばいい。


 ちなみにノーレフ人の霊もビフトア人の霊も問題なく見えることは[化鯨の髭]のときに確認出来ていた。タマの能力判定では、とりあえずこれらの種族は同族判定らしい。他種間でも子供はちゃんと産まれるらしいので、根本は同じ種族なのだろう。


 なんにせよ、そんな簡易版『霊視』でイノシシを見れば、憑かれてこそいるもののそれは未だに他の霊に恨み憑かれているほどの悪人の霊で、おそらくは逆恨みさんであろうそれであった。

 むしろジっちゃバっちゃや幼児の幽霊からやたら祝福されているまである。微笑みのジジババに幼女がイノシシ庇うようにしてタマ睨んでるとかオタ思考じゃ完全にいい人でしょこれ。取り巻きの筋肉も似たようなものだし。こいつら全員孤児院出身で、その孤児院の運営手伝ってる系の善人テンプレだってガイアが囁くんよ。


 まあ、簡易版『霊視』だと俺にはさっぱり聞こえないし見えてないんですけどね。

 『死霊術・霊視』ならログで流れてる声だけは見えるけど。


 そして俺も『描画』で魔力が見えるが、そういった魔力の性格的な部分は色として知覚している。多少はそこから推察できるが、タマのそれのように魔力の元の持ち主の顔を認識し、話を聞いて死者の想念をくみ取ることなど出来ない。

 ショーコの話ではこの手の交霊系の魔法というのは他にも存在しているとのことだが、帝国では使用を禁止されているそうだ。さらに、永い時の記憶を継承している彼女の中にもタマと同レベルで扱う存在の記憶はないらしい。あっても非常に面倒臭い儀式などを必要としたりするものばかりとのことだった。

 もし現段階で他に同じようなことが出来る者がいたとしても、それは神子などの特殊能力によるものだろう。


 そういえばタマは以前この世界の魔力が持つ特性に形状記憶能力があるのではと話していたが、はてさて。


 そんなわけでこのイノシシ達はいいのだが、となるとどうにも彼らが絡んできたことが不自然だという話になる。


 そしてタマ曰くゴリラ――も悪人ではなさそうとのことだが、ギルド奥にいた細身の老人には死者の恨み辛みが重なっているようなのだ。


 どんな仕事でもだが、意図的に綺麗にしなければ上役というのはそこそこ憎まれるものだ。負の感情を受けないということは、その分をどこかの誰かに擦り付けることに長けていると考えた方が真実に近いだろう事は俺でもわかる。汚れ役を買って出ている善人というのは実際に存在するし、彼がそうではないとはいえない。それにこの世界の上辺だけで見ても人死になど珍しくもないだろうし、まして戦うことが生業の冒険者と関わりの深い商人の集まりであるギルドの職員だ。色んな可能性が考えられるし、まだ俺たちも参考となる簡易版『霊視』のサンプルが少なく、それだけで彼が悪人だとも善人だとも言えないが。


 しかしそんな彼とゴリラとイノシシが魔力の線で繋がっていて、どうやら何かしらの意思伝達を行っている気配がある。


(つまりここまでの流れは奥のギルド職員考案か主催によるご主人様の性向確認だったというわけじゃな)


(可能性としてはその辺りだろうな。

 奴隷商人と交渉していたあたりですでに目を付けられていて、都合良く冒険者登録に来たからこの流れにしたんだろう。

 あとは[墨塗り]に触れるとこうなるというのを、実地で見せるために体よく使われたというのもありそうだ。今は人の出入りが激しいということだからな。そうと知らなかったとはいえ実際[化鯨の髭]の例があるんだ、最近この都市に来たばかりの冒険者には見せておいた方がいいと判断したのだろう)


(でも随分とずさんで強硬なやり方ですよね、これ。タマさんに手を出したのなんてかなり危なっかしいですよ。

 まあこの状況引き出すためにラハッカに挑発してもらった自分たちが言うべきことではないでしょうけど)


 タマが強いとかイノシシが弱いとかね。


(ラハッカが許可したからといって、私が色んな面で大丈夫だという保証などどこにもないのにな。

 イノシシはああいったが、まだ正式には私の登録証もないから規則としても止められたはずだ。

 なのにあの老人とゴリラは攻撃の許可を出すか黙認した。

 私が問題なく攻撃を捌けても、言葉がわからない私は「ユルス」の発言の意味もわかっておらず、もしかしたら激高してイノシシを攻撃していた可能性もある。

 本当に私が先の攻撃を受け止められる存在だった場合、むしろイノシシの方が危険であったという見方も出来る)


 仮定の話だし、事前に「ユルス」と言ってあるので、もしイノシシが攻撃を実際に当ててきても[化鯨の髭]のように同じことをやり返すということはなかった。

 だけどその場合彼の斧は完全に破壊され、修理費として魔石を渡すこともなかっただろう。

 そしてこれがやらせであれば、彼もある程度は了承したうえで行動しているはずだ。

 そういった考えのもと、デモンストレーションとしてタマは斧を貫いて止めた。

 あの一撃で見ていた者達は確信出来たはずだ。

 タマはあの斧を受け止めることも、回避することも、黒色(B)のイノシシを戦闘不能にすることも出来たのだと。


(ま、今回は都合が良かったということでいいんじゃないですか)


(そうだな。次の段階にも進みやすい)


 タマがまたカウンター奥の影に隠れる老人の方へと一度視線をやり、次にゴリラへと移した。


「ユカ、ナオス、カネ、ヒツヨウ?」


「……いんや、不要だ。ギルドが許可を出したからな」


 ゴリラはしっかりタマの視線を追っていた。彼女がカウンターの向こうを見たことの意味を、ある程度は察しているだろう。そしてその意思は老人にも伝わっているはず。

 攻撃許可を出した一人であるこのゴリラはあまり好きになれそうにないが、簡易版『霊視』で見る限り明確な悪人でもなさそうだし、今は色々と都合がいい。

 またラハッカに聖神国語で「いらない」と声に出してもらい、それに頷く演技をした後で、ログでショーコに言いたいことを翻訳してもらいながら話し出す。


「ワタシ、ヒキョウ、キライ。

 ヨイ、ヒト、バショ、スキ。

 ナカマ、ナオス……タスケル。

 ミンナ、キズ、ナオス、マホウ、イッパイ」


 話ながら小さなタマが巨大なゴリラの側に寄り、木組みと金属の塊でしかない彼の右腕の先、肘から先を掴んだ。


 一瞬で白い光を放つ魔法陣生じ、強烈な魔力を伴ってゴリラの右腕、次いで左腕を覆った。


「――っん゛?!」


 異変にゴリラが叫びを上げようとして、さらにとっさにタマの手を振り解こうとしたようだったが、彼の体はおろか口もぴくりとも動かない。


 見る者が見れば気付いたかもしれない。彼の体表がうっすら汗をかいたように濡れていることに。それが衣服どころか鎧や金属靴すらも濡れたような光沢を放っていたことに。悶える彼がそれ以上汗をかけないでいることに。


 この世界の魔法には、魔法陣なんてものは存在しない。

 人種も魔獣も悪魔も、こんな間怠っこしく無駄な演出過程を経てまでして魔法を使わない。

 だからこれがなんであるのか俺たち以外には理解出来なかった。ただ非常に強大な魔力の塊が奇妙な模様となって光っている。それだけにしか見えなかったはずだ。そういう無意味な魔法であるように見えてたはずだ。

 なにしろショーコに聞いたことだが、ビフトア人は子供に魔法を教えるのに光を灯してそれで絵を描く練習をするらしいのだから。


 そして肝心のゴリラが動こうとしないので、数瞬の間イノシシや他の面々もどうしたらいいのかわからず見守るだけとなっていた。


 しかしそれもわずかな時間で、どうにもおかしいと気付いた冒険者の一人が行動を起こそうと魔力を練り始める。

 だがそれも瞬時に魔力が霧散し、何故か魔法にならない。

 もちろん犯人は俺の『描画』である。


 そこまでくれば混乱していただけの者達も、今の事態が異常であると認識する。

 だがタマは先ほど黒色(B)冒険者であるイノシシの一撃を止めていた。生半可な攻撃では止められない。その事実が行動を躊躇させる。

 ついには直接体当たりでタマとゴリラを引き剥がそうと、イノシシやその取り巻き達が動こうとしたところで、一際強く光った後に何事もなかったかのように魔法陣が消え去った。


 『祝福・癒しの光5』のログが流れる。


 ごとりごとりとゴリラの義手が床に落ちる音が響き渡った。


 義手が落ちた腕に、あるはずのないものが生えていた。

 ゴリラがそれを見て「う、あぁ」などと呻く。


 三十二年前に失ったはずの彼の両手が、指が、動き、握り込まれてから開かれ、再度開かれた。

 困惑に見開かれていた彼の目の色が、徐々に歓喜へと変わる。


「……マジかよ」


 イノシシがギルド内のほとんどの心境を代弁した。


 どうでもいいけどイノシシそのセリフ二度目。



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