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※4 ギルドにおけるテンプレートの有用性について

 白ローブのフードを目深にかぶったタマを一瞥し、イノシシが再度口を開く。


「そんなちいせえの入れるくらいだ、困ってんだろ? この俺[灼天地断]のケラウコウクが[墨塗り]に氏族替えしてやる」


 登録証発行の待ち時間を潰すためギルドの食事処で席についたタマ達の前に現れたのは、身長二メートルオーバーの大男であった。

 同じくらいの大きさの両刃戦斧を背負うそいつが近付くと、側にいた給仕のお姉さんがラハッカを前にしてもかろうじて笑顔であった表情を歪め、道をゆずり後ずさる。


 この世界の人間は元世界基準でいうところの黄色人種と白人種のダブルに近い顔立ちをしている。

 ビフトア人とノーレフ人とで比べると、ビフトア人の方が全体的に肌の黄色が濃いようだが、目鼻顔立ちは似たようなものだ。

 そして体つきは非常にいい。身長二メートル超えてるんじゃないかという大男を街に入ってから何度も見かけている。

 これは多くの冒険者を擁する現在のスメ・シュガ市の状況のせいもあるのだろうが、そこまでいかなくても一九〇付近はざらにいる。

 先の商人のように背が低い人は普通に低いようなので、平均すれば男性で一八〇くらい、女性でもラハッカと同じくらいの一七〇付近になりそうだ。


 だからこんな大きさの男を見ても今更驚きはしないが、近付かれると顔をしかめてしまうの仕方がないだろう。


 鼻が潰れ、下あごが若干突き出た独特の顔立ちに、先ほどまで食べていたのであろう食いカスやら油やらに塗れた無精髭。どことなく豚のそれを連想させる、少し欠けていて大きいが品のない灰褐色の魔毛角。髪型はただのソフトモヒカンかと思いきやチビッコなどで見かけてしまうと少し切なくなる襟足の後ろ髪が長いあれ。あまり手入れが行き届いていないらしい革素材主体の鎧の下ははち切れんばかりの筋肉だと一目で分かるが、あんまりにもあんまりなほどに逆三角形な体型は、すなわち驚くほど見事な短足具合故にでもあった。

 総合すると、人型オオイノシシである。


 とはいえ実はそこまで醜くはないのだ。なんというか、逆に愛嬌があるような気さえする顔立ちだ。男である俺としては下手な美形男子を見るよりは好ましくすら感じてしまう。特にこの筋肉と体のバランスがいい。ギャランドゥな毛深さにも満点をあげよう。頬の傷跡とゲジマユによるものか、つぶらな瞳には野性味が溢れ独特の格好良さも持っていた。

 だが如何せん、この手の輩というか、現代日本のような環境でもない限り仕方がない部分もあるのだろうが、


(くさい)


(くさいな)


(くさいのじゃ)


 おそらくは狩りから帰ってきて、そのままここで食事をしていたのだろう。

 俺は絵に起こしてニオイを嗅いでいないからわからないが、どうやら相当臭いらしい。ラハッカがログとはいえ単語を出すくらいだからかなり酷そうだ。


 そんな男達がイノシシを筆頭にタマとラハッカの席を囲むように現れたものだから、たまらない。


「今ならこいつらもついてくるぜ」


 総勢七名。皆ほどよく疲労して汗をかき、水分も摂った後であるためにいい具合に仕上がっている筋肉である。

 筋肉の抱き合わせ商法らしい。

 素晴らしい大胸筋や上腕二頭筋だ。背筋の繋がりも美しい。


 ちなみにラハッカはショーコが、タマは死霊鎧が体臭を処理してしまうのでほぼ無臭である。それはそれで残念な話だがさておき。


「ん」


 ラハッカは視線も向けず首を横に振るだけ。

 タマも意に介せずといった具合に視線を向けず、こっそり死霊鎧上に隠匿魔法の一種である消臭魔法を連続で発動させると、今度はラハッカの手を掴んで周囲に見えないよう、手の影の中でもさらに連続発動させた。こうすることによって周囲の臭いもある程度は消せるらしい。

 この場だと臭いの元に直接かけるか全体に一気にやらないと焼け石に水だとは思うが、まあやらないだけマシだろうし、タマの魔力も消臭魔法を連続使用したところで自然回復が勝るから問題ないのだろう。


 明かな無視の姿勢に、自信満々だったイノシシが声を荒げる。


「――ちっ、あんだその態度は? あ゛あ? 知ってんだぞ、[墨塗り]の仲間になりゃ、誰でも不死身になってえれー強くなれるらしいじゃねえか。

 そんなガキを入れるくらいなら、俺たちを入れろや。森に入って一人じゃやべーってんで仲間集めてんだろう? こいつらは青色(C)だが俺は黒色(B)だし、連携すりゃあ巨獣だって余裕だぜ」


 ラハッカはもう反応すらしない。

 代わりに給仕のお姉さんへと視線を向けた。

 それに気付いて慌てたお姉さんが少しだけ近付いて木製のメニューボードを広げるが、ラハッカは「全部」とだけ言ってあごをしゃくり、追い払ってしまう。お姉さんは素直にそれに従い、さっさと注文しにいった。


 やっぱご飯関連だけは声出す気になれるんだねえ。


 そんな様子に、一応規則で酒類はここでは出ていないらしいのにイノシシの顔が赤く染まっていく。


 彼が言っているのは帝国圏で間違って伝わっている[墨塗り]の噂だ。

 古き悪魔と契約している[墨塗り]の一族に入れば誰でも不老不死になり、一人で、ただの一太刀で巨獣を狩るラハッカのような強さを手に入れることが出来る。そんな噂である。

 実際は、氏族に入るのにまずラハッカが新たな黒水悪魔を生み出すためにツガイが必要になるし、生み出してもそのツガイに近い魔力質を持ったものでないと黒水が適合もしない。魔力質の適合は千年かけて集めた数が一〇〇〇人くらいだったというから、狭き門だろう。強さだってラハッカのようにはいかない。元が相当強くないと、ただ黒水に適合して氏族となっても逆に魔力をそちらにとられる分、一時的にでも確実に弱くなる。放出型の魔法が得意なビフトア人であればそれは顕著なはずだ。

 そしてタマが[墨塗り]の一族に入ったのは利便性のためだ。別にツガイになったわけでもなければ、もちろん黒水に適合したわけでもない。


 だがこの噂のために[墨塗り]に入りたがる輩は後を絶たない。


 ラハッカが身に纏う魔力質は、ぱっと見だとそこまですごいものではない。

 タマ本来の魔力質がゾウだとすればこの都市の兵はアリで、ラハッカのはカブトムシやクワガタとかそれくらいだ。今のタマもあまり小さくしてナメられすぎても困ると、同じぐらいに見えるようにしている。これもあって最初から赤色(D)級だったのかもしれない。

 充分すぎる差に思えるが、万の軍を一蹴できるとされる魔石(S)級としては非常に少なく思える。そしてこのぐらいだと、目安としては青色(C)級程度に分類されるらしい。冒険者のボリュームゾーンが黄色(E)級らしいので、青色(C)級はそれよりは大分少ないはずだが、極端に珍しいものではないと思われる。通常では魔力の多寡がそのまま戦力に繋がるので目安としてはわかりやすいが、ラハッカのような例外も冒険者には多いのであてにはならないようだが。

 ラハッカの魔力はMPもMATもほとんど体外に表出せず、ショーコが抑えてたり食べちゃってたりしているからね。仕方がないね。

 そしてアリは種類によっては容易く他の節足動物を捕らえてバラし、捕食する。そんな万のアリを潰すほどの大きさがなければ、それ以外の何かがあるのではと誰もが思う。そしてラハッカはソロで活動することが多く、近くで彼女の本気の戦いを見る機会があるものは少なくて、彼女自身が口べたというよりもほぼ喋らない。そして噂の内容が全て間違いというわけでもなく、むしろ半分くらいはあたっているとも言える。かつては病弱で外もまともに歩けないような少女が適合し、氏族でも上位の猛者になった例もあるとのことだ。

 それにラハッカが百年以上同じ姿のままでいることは、多少長く生きている有力者であればみな知っている。帝国圏では非戦闘者である市民の平均寿命がおよそ六十年ほどだそうだ。噂の中には全盛期まで肉体が若返るというのもあり、むしろこれはその通りで、老いた者が適合すると肉体は全盛期の状態へと戻るし、不老化もする。幼い者が適合した場合は二〇を超える前には肉体が歳をとらなくなる。

 この魔法の世界には老いに抵抗する手段が幾つか実在するらしいが、全て困難を極める道なのだそうだ。ラハッカの噂を知って交渉することすら我慢出来るかといえば、難しいだろう。


 冒険者は力を求める者が多い。老いによる衰えも恐れる。

 冒険者というものが一般化し、昔は逆だったらしいが今は一つの氏族に拘る者は珍しくなった。利があれば氏族を途中で変えるのは、むしろ当然だそうだ。


 二ヶ月前もそうだったらしい。

 噂の[墨塗り]が居ると聞いたとある貴族崩れの冒険者がおしかけるも、今のように交渉すら受け付けないラハッカに怒り、掴みかかったのだ。


 ギルド建物内での暴力沙汰は御法度だが、肩や腕を掴んだだけでどうこう言うことはない。多少のいざこざには不干渉が普通だそうだ。

 だからただそれだけのつもりだったのかもしれないが、結果どうなったかというと――


 顔を赤くしたイノシシが、ラハッカの頭を包めそうな手で彼女の肩に触れようとする。


 だがその手首を、さらに大きな鋼鉄製の手が掴んで止めた。


「やめとけ、[灼天地断]の」


 でかっ。

 白髪のネコミミイケメンゴリラだ。明らかにゴリラ顔なのにイケメンで、なんか知性が溢れている感じがする。この世界にあるか知らないけれどメガネが似合いそう。なのにネコミミ。身長は二メートル二〇センチくらいありそうだ。つか上半身がネコミミゴリラなのに足が長い。

 ラハッカのようにチェーンに通して首からつるしたギルド登録証は黒色(B)だ。


「うお、ポンパさん」


 いつの間に。

 そんな言葉が続きそうな様子で、イノシシの取り巻きの一人が声を上げる。他の取り巻きも一様に同じ様子で、だがイノシシだけは驚いた様子がなかった。


 いや、俺も最初から気付いてましたよ?

 こんななりだが彼の動きは確かに速く、そして滑らかで静かだった。俺も生身だったら目で追えなかっただろう。


「ははっ、こりゃあ[灰色の魚虎]のペルパポンパじゃねえか。ギルド守の仕事中かぁ? だったら今のはただの売り込みだ、手前には関係ねえ。

 それに俺にはてめえみてえに男と手を繋ぐ趣味はねえんだよ、さっさとこの手を放しなてくんねえかなぁ?」


 威嚇するように笑い、イノシシが魔力を滾らせ睨みつけるも、ゴリラは動じない。手も動かない。


「ラハッカさん触らねえなら、放す。

 ラハッカさん、あれ見せてやっていいですかい?」


「ん」


 ゴリラを見る事もなく半ば背を向けたままラハッカが頷くと、彼はイノシシの腕を掴むのとは反対の手で腰の手斧をとった。

 一瞬でイノシシ達が殺気立つが、彼が手斧を向けた先はラハッカである。


 上から下への単純な、だが常人の域を超えた鋭さをもった振り下ろし。


 ゴリラの手にとって手斧というだけで、打ち下ろされたのは刃渡りだけで五〇センチメートル近い代物だ。


 防具を身に纏わず、ただ綿シーツから作った衣服だけのラハッカを頭から両断するかと思われた斧はしかし、ゴリラの拳が下を向くころには握り込まれた木製の柄の部分しか残っていなかった。刃の部分を含めた大部分が何処かへと消失していたのだ。


 もちろん、ラハッカは無傷だ。痛みどころか衝撃すらも感じた様子はない。大きな拳が近くを通り過ぎた事によって、銀緑の髪がわずかに揺れただけだ。


 これには流石にイノシシも驚いたようだ。


 後ろを向いたままのラハッカの体から滲み出た黒い水が、瞬時に手斧の大部分を取り込んで食らい尽くしたのだ。


 出て来ていた黒水が、ラハッカの肌に染み込むように消えていく。


 黒水は不老や再生能力だけの存在ではない。完全自動でもって、宿主の危機を防ぐ防壁にもなる。


(ま、こればっかりは自分(わし)でも制御出来んところが欠点なのじゃがな)


(何度も見ているが見事なものだ。危機に対する反応速度が予知じみているとすら思う。

 ショーコやラハッカにとっては心臓が動いているのと同じくらい当たり前な反射行動で、本能に刻まれた防衛機能とのことだが、さて……)


(人間もとっさに頭かばったりしちゃうもんですし、不随意筋は自分の意思で行動決定出来ないですからね。その程度の認識でいいのでは?)


(反応は、ううむ、人間にはあまり馴染みのない感覚のようじゃからのぉ。

 こう、その場所の魔力がの、敵意や害意を纏うのじゃ。そうなるとわしらに害が及ぶというかの?

 害が及ぶとわかってしまうと、どうしても食べてしまいたくなるのじゃ)


(ん)


(魔力の敵意や害意か。だが誰かが故意にやったことではなくても、傷を負いそうになれば自動で防いでしまうのだろう?)


(だから、その場所の、なんじゃが、なんというのじゃろうなあこれは)


(うーん、その場所で起こりえる事象が云々であれば、運命とか?)


(結局のところ、反応に関しては本当に予知能力が近いのかもしれないな。

 本能という点で見れば、ネコがびっくりすると固まってしまうのに近いとは思うが)


 ああ、確かに猫は明かな危機が目の前に迫ると、逆に固まって動かなくなることがある。

 なぜ自動車の前で固まるのか問い詰めたくなる、と猫拾ってきたとき姉ちゃんが言ってた。


(でも、これがそんなかわいらしいものですかね)


 ゴリラが柄だけになった元斧を掲げる。


「おめえ、あのまま触ってたらこうなってたぞ」


 イノシシは手に持った斧の柄のことだと思っただろう。

 だがそうではなかった。

 肘から先を覆っていた鋼鉄の籠手が二回転半して、柄を持ったまま宙に浮かぶ。そこにあるはずの中身ごと。否、浮かぶ籠手の中に肉体はない。ゴリラの肘より少し先もない。いつの間にか、イノシシの腕を掴んだままの手も肘から先と籠手とで分離していた。

 ゴリラの両腕は切断されて癒えたのだとわかる突っ張った皮膚で覆われていた。反対に籠手の中には木で出来た簡単な仕組みの義手が存在していたが、俺が中を覗いてもそれ自体に可動するための動力があるようには見えなかった。よく出来てはいるが、ただの木組みである。

 そんな義手が動き、外れて宙に浮いている手品の種はなんてことはない。魔力質を通して魔法で動かしているのだ。そういった意味ではタマの死霊鎧に原理は近い。


 だが問題はそこではない。

 先ほどゴリラはこう言ったのだ。


(こうなっていたぞ、ねえ)


([灰色の魚虎]のペルパポンパは、たしか三十ニ年前じゃったかの)


 一体どれだけの数の冒険者が同じような悲劇に見舞われたのやら。ショーコのこの口ぶりだと全部覚えていそうではあるが、聞くだけ意味はない。


 さすがにゴリラの言いたいことを理解したイノシシの顔色が悪くなった。


「……さ、さっきのはなんだったんだ? お、俺ぁただ、触ろうとしただけだぜ」


「俺だってそうだった。

 でもこりゃあよ、話に聞いた限りじゃラハッカさんでもどうしようもねえ、悪魔の呪いなんだそうだ。[墨塗り]になるってこたあそういうことらしい」


 ちなみに、この悪魔の呪いだという説明はショーコが大昔にギルドで起こるいざこざに呆れ、喋らない、上手く説明できないラハッカに代わって黒水筆記でそのように答えたらしい。別に呪っているわけではないむしろ祝福なのじゃ。と言ってたけど、まあ他人に分かりやすく説明するにはこれが一番的確だったのは理解出来る。


「……ギルド内で流血沙汰になっちまったら、やったヤツが罰則受けるじゃねえか。

 そんなことになりゃ[墨塗り]だって……」


「それを取り締まるためにギルド守がいんからな。

 だがラハッカさんにはそれが通じねえ。俺らじゃ捕まえらんねえし、牢屋も嫌がって出てくる。大昔にさっきんで帝国の貴族が死んで、罰金とギルドでの商取引凍結されたらしいがよ、この人あ期間中の五年間、都市に寄りつかず目に付く獲物全部狩って、ギルド取引無しで素材を全部()()()()()()()んだと。

 お陰で近隣のギルドは素材不足になっちまうし、冒険者も商売あがったりになった。それでもこん人あ、全然困んねえんだ。根っからの冒険者だかんな。

 だからそんときに決まり事が出来たんだよ、ギルド内で[墨塗り]に自分から触って怪我したら、自己責任だってな。代わりに今みたいに事情があってラハッカさんに攻撃してもギルドからお咎めはねえ。

 当然、ラハッカさんの許可無く攻撃したらやり返されっけどな。

 ギルドに入ったときに説明あっただろ。魔石(S)級は全員特別扱いだから無闇に触るなって」


 その攻撃許可も、こうやって人の話を聞かないバカを見せしめにしたり間引いたりするための意味合いが本当だろうけど。ラハッカが今もギルド内施設を自由に利用できるままにしているのは、つまりそういうことだと思うのだ。


 ゴリラの発言に思うところがあったのか、ショーコが懐かしむというよりは言い訳するようにログを流す。


(牢屋のう……。牢屋の食事は不味いしすごく少ないのじゃ。

 あのときはラハッカもわしも腹が減ってしまってな、わしらは食わんと体が保たんし、仕方がなかったんじゃ。

 金はすっからかんになるし、街に入っても買い取りを受付なんだから、闇市で卸すか自分達で食うかしかなかったんじゃよ)


(ん。懲り懲り)


(あ、やっぱり闇市とかあるんですね)


(ちょっと大きな街なら、大概は郊外に一つ二つあるものじゃ)


(へえ、そうなんですか。二つあったりするとか、一つは半公認だったりなのかな?)


(どうじゃろうな。そういったことは地域によるのではないか?)


 政治的だったり経済関連だったりな部分はショーコもあまり興味がないらしい。


(ですか。

 んー、それにしてもこの人、この状況に馴れてるなあ)


(? ああ、[灰色の魚虎]のペルパポンパは腕を無くしてから魔力質の扱いが上手くなっての。前は随分と怨まれとったが、こやつが黒色(B)級なったくらいからかの? 何故か感謝してくるようになったのじゃ。

 まあこれで案外無色(A)級にいけるぐらいはデキるんじゃが、黒色(B)級で冒険者(外回り)は止めたらしいの。今はここのギルド守ばっかりやっているようじゃ。

 それでわしらが()るときはこうやって新人共に教えてまわっとる)


 あれだろうか。腕を無くしたからこそ体格だけではない魔力を磨いて、強くなったクチとかそういうの。それで最初怨んでたけど逆に強くなって歳もとったから、丸くなって云々みたいな。


 ちなみにギルド守とは読んで字の如くで、ギルドを守る雇われ守衛さんみたいなものだ。大体が年とって半引退した冒険者達で、その中でも戦闘力が一定水準を超えて高い者はギルド内で起きた武力問題を解決する役割を持っているらしい。

 他にも領主から騎士小隊が維持に派遣されているようで、たとえ内部で戦闘が起きてもある程度は対処が可能なようにしてあるとのこと。

 ラハッカが絡まれる可能性が高い、ここのような食事処を利用できる理由の一つだろう。


 でもまあ、それにしてもというかなんというか、うちの子がご迷惑をおかけします。って感じである。


 意思疎通がまともに出来ないで無口無表情って、勘違いモノ物語のテンプレ属性だからなあ。実際にそんなのが他者を圧倒する力を持っていると、関わった人は面倒ばかりかかって迷惑だっただろう。

 補助でショーコがいても明らかに人外で、見た目的にむしろ人類の敵っぽいし。何より彼女自身も喋ることは出来ない。奴隷商との取引のときにやったように文字を書くことは出来るが、それだって相手が読めなければ意味がない。この世界、というより帝国圏の識字率は五〇パーセントを超えているぐらいらしいが、地方によって区々で根無し草生活が主体の冒険者は残りの五〇パーセント未満に入る者が多いはずだし、緊急時や頭に血が上っていたら読まずに手を出す者の方が多そうだ。

 完全に理解するならまだしも、良い方向に勘違いするとか、まずありえなかったんじゃないだろうか。


 今までご迷惑をおかけしてすんませんした。しばらくはタマや俺がなるべく面倒みますんで。


 そんな想いが通じたわけでもなく、イノシシの視線がタマへと動いた。


「……じゃあよ、そっちのちびは何だってんだ?」


 うん。その疑問はこのイノシシが最初に声をかけてきた理由を考えれば当然だよね。


 彼はおそらく、二ヶ月前にも起こった同じような[墨塗り]の事件を見ていなかったのか、もしくは知っていて行動する必要があったのだと思われる。見ていなかった場合、最近このスメ・シュガ市にやってきたばかりの冒険者というわけだ。

 そんな彼だからこそ、よくいる勘違いした輩のようにラハッカにからみにいった。そして周囲もそれを止めようとしなかった。

 それはギルド守であるゴリラも同じである。

 彼はこちらを確認しつつも、わざわざイノシシがからんだ後に登場したのだから。


 冒険者としてギルドに新規登録したばかりのタマが、それまで百年以上誰も入れなかった[墨塗り]に入った。


 この場所にいた者達が皆その理由を知りたがったからこそ、今このような状況になったともいえるのだ。


 ほら、ゴリラもタマを見た。


「それは俺も知りてえ。

 ラハッカさんよ、なんでその新人を[墨塗り]に入れたんだ?

 ラハッカさんが喋れないようなら、あんたが教えてくれてもいい。なんであんたは、ラハッカさんに自分から触れるんだ?」


 タマ、消臭魔法を使うときにラハッカの手を握ってやってたからね。




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