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非実在青少年は異世界で死霊術師を愛でる  作者: A・F・K
長いプロローグ・城脱出編
3/54

※3 俺より頭良さそうなアホの子



 俺の『RPGシステム』と『描画』同様、ヤマダ タマヤという少女には『死霊術』の他にもう一つ特殊能力が備わっていた。


 王子達への説明の際に聞いた内容では、それは少女ヤマダを中心とした非常に強力な防御結界的なもので、彼女が許可したもの以外は人や物はもちろん空気も魔力も進入不可能とのことだった。

 ただし効果範囲が人間三人分ほどと非常に狭く、さらに発動までに準備が必要でとっさに使用出来るものではないとのことだったのと、エルフ耳達は首輪がその内部でも正常に作用するかどうかが不明であると話し合い、これの動作確認を見送らせていた。


 俺は少女ヤマダの魅了を解いたら、彼女がまずどんな行動をとるかをある程度予想していた。

 数パターン考えた内、もっとも可能が高かったのがこの結界を使おうとするだろうというものだった。


「スズキウルイ君、でよかった?

 私の声が聞こえていたら返答をお願い」


 首輪の破壊と魅了解除を行ってすぐ、彼女の姿が消えたと思ったらまた目の前に少女ヤマダの姿があった。

 もちろん俺のせいで裸体のままだ。

 だが周辺の状況が変わっていた。


 先ほどまでいたはずの、彼女ために用意されていた二十畳を超えそうな広さの石造りの部屋は、艶のある木材で出来た非常に狭い一室に変わっていた。

 見回した感じ、変則的な構造だが歩ける範囲は四畳ほどしかない。

 足下は畳で、天井高は三メートルくらいか。

 一つだけ引き戸があり、その隣には小さなシンクと、どう見てもガスコンロにしか見えない物や小型の冷蔵庫があった。台所だ。いくつかの調理器具と、ご丁寧に古い型の換気扇も上にある。

 逆側の目線より少し上のあたりには、押し入れの中段分け板のようなものがあり、その上には布団が敷いてあった。

 少しはみ出ているそこには死霊兵スズキの骨塊が当たり前のように鎮座している。

 板の下には小さなちゃぶ台。その上にパソコンとディスプレイ。座布団。

 真新しい感じはない。

 窓がない完全な密室なくせにどことなく生活感が漂う室内の雰囲気は、超格安の木造アパート的というか、古い家屋の収納スペースだけを改造して一人住まいにしたようで。


「――いないのかな?

 言い出しづらいかもしれないけど、私の声が聞こえていたら、返答をお願い」


 俺がいる方とは逆方向を向きながら少女ヤマダが白いぷりっケツをさらしつつ首をひねる。

 全体のサイズこそ小さいものの、妙にエロスを感じる。

 そうか、俺は二次に逃げていただけだったのかと脳内モノローグを流しつつ、それがただのモノローグというか、いつもの物語を考えるときに現れる一種の妄想というか、疑似感情的なものだと気付くと、なんとはなしに寂しさを感じつつもその白桃に声をかけた。

 すでに絵筆は握っている。

 この桃の滑らかさと柔らかさをいかに表現するかが問題であった。


(聞こえています。

 こちら鈴木潤一(スズキウルイ)です。普通の鈴木に潤う一と書いて潤一です。

 気付いたらここにいたのでちょっと呆けていました。予想はついていますが、ここはどこだか聞いてもいいですか?)


 一応よそ行きの言葉遣いと声音で応える。

 こちとらつい最近まで中学生ながらに社会人歴は多少アリである。

 漫画家として外に対応するのは長女か次女であったが、最近は個人でも仕事をしているのでこの程度は、というだけだが。

 基本、メールだけで事足りるし。


 ヤマダは桃をこちらに向けたままやや上へ視線をやりつつ、得意げな表情をした。


「よかった、あなたもやっぱりここにも来られた。

 知っているだろうけど、私は山田珠弥。よくある山田に王辺に朱色の朱で珠、弥生の弥で珠弥だ。

 ここは私の能力、『押し入れ』の中だ」


 話し方に、どことなくだが好意を覚えるほど嗅ぎなれたチュウニの香りがした。ヅカ系というか、そんな雰囲気だ。

 が、能力名を『押し入れ』にするあたりのセンスから、チュウニが好きなままダイニに至った者の貫禄を感じた。

 ただのコウニかもしれないが、それもまた良し。

 二次に落とし込めば全てのカワイイが正義である。


 未だ全貌は見えなくともここまでの状況と会話内容。

 どの程度かわからないが、彼女は少なくとも一般レベルで見ればテストの点数的な意味ではない方面での頭が働く方のようだ。

 漫画や小説ではこの程度は普通だが、現実はそうもいかないものなのだ。

 いや、確かめたこと無いからもしかしたらこんなのがぞろぞろといるのかもしれないけど。

 確かめる機会なんて普通ないじゃん。


「そして、まず、というとなんだけど。

 鈴木潤一君、あなたをこれに巻き込んだこと、殺したこと、謝らせて下さい。

 ごめんなさい」


 いちいち息を呑み、少し緊張した様子の彼女が、頭を下げたために突き出された瑞々しい桃を拝む。

 うむ。これは許されざる光景だ。

 自然、筆を握る手の動きが早まる。


「首輪で操られていても、私の意識はずっとあったんだ。

 理性と感情が別にあるみたいに、感情の部分が操られて、理性だけはこの私のままだった。

 あなたの体を殺して、あなたに取り憑かれてからはそれがもっと顕著になった。

 完全に体と私とが分離して、主観視点で映画でも見ているみたいだった。

 多分、あなたが『RPGシステム』と名付けた能力の影響下に入ったからだと思う。

 同時に『押し入れ』の内容もこのように変わった」


 頭を下げたまま語る彼女の言葉を聞きながら考える。

 当然の話であるが、MMORPGなどのゲーム中で魅了を受けても、プレイヤーキャラクターが操られるだけでそのゲームのプレイヤーそのものはなんともない。

 だからチャットは普通に出来るし、操られながら次の作戦や立て直しまでの方法を他のプレイヤーと相談できる。

 そしてそれは操られたプレイヤーキャラクターはその会話に関知しない。出来ない。

 なるほどこの世界で魅了の状態異常になってもそれは適応されるようだ。

 今ここにいる俺の存在もそういった切り離しが絡んでいるのかもしれない。

 これが俺たちだけなのか、それとも他もそうなのかはわからないが。


 そしてこの『押し入れ』が最初に王子達に説明した内容からこのように変化したのは、たしかに俺のせいかもしれない。

 規模こそ大幅に縮小され、調度品も現代のものばかりだが、この空間、壁や天井の艶のある木目の雰囲気は覚えがある。

 俺がゲームで拠点にしていた自然味あふれる樹上魔法都市の自室のそれだった。


「謝って済む問題ではないのは重々承知しているつもりだけど、本当に、ごめんなさい」


 すっぽんぽんで腰を折っての謝罪を、寝っ転がって背面ローアングルから見上げつつ描く。

 超描く。

 お尻もいいけど膝裏もヤバイな。

 腰折りでぴんと張った膝裏の筋がキレイなことといったら。

 薄くなった肌が透ける様もすばらしい。

 この体勢を維持しながらも震えない辺り、やはり相当鍛えているし柔軟性もある。

 細かな傷跡が膝回りや臑、かかとに見受けられるということは、サッカーとかでもやっているのだろうか。

 それにしては色白だが。


 てかまだ徐々に筆早くなっていってるんですけど。

 これなら足下見まくりな取引先相手でも時給一万に余裕でいけそう。大手から取り次ぎ経由で来る仕事大体クソな現実。


(とりあえずそのままで。俺から質問をいいですか)


「……はい」


 そのままで、の意図に気付いたのか、瞑られていた彼女の眼が開き周囲を伺うようにせわしなく動いた。

 頬も耳も影になっていてもわかるほど真っ赤である。

 それでも体勢を変えない辺り、この子すごいわマジで。

 まあ最初から意識があったなら今更な面もあるんだろうけど。


(俺の声は最初から聞こえていたということでいいですか)


「聞こえていた。それだけではなく、ログも見えている。

 声はあなたが遠くに行ってるらしきときも、近くにいるときもかわらない。

 両方とも頭の中に声と文字で浮かんでくる感じで、私からはあなたの位置がわからない」


 ログ機能も変化していたということか。

 誰も聞いていないことをいいことに、俺めっちゃ独り言いいながら能力検証とかしてたしなぁ。

 仕事中は基本家族みんなヘッドホンつけっぱだから、集中のために呟く癖がついているのだ。

 勉強のために問題文や暗記物暗唱するのと同じ感覚だ。


 故に状況はだいたいわかっている、ということだろう。謝罪のしかたもそれを前提に彼女はしていたし、そのことが俺にも伝わるようにもしていた。

 問題は俺の恥部も全力で開放していたことだが、だからこそこの子は今こうしているのだろう。

 殺した相手が変態でその変態に助けられて謝罪してもどうしようもなくて、だからその変態が喜びそうなことをしているのだ。

 知っているのだろうけど、彼女としては俺に純粋な意味での性欲がないことが救いなのかどうなのか。

 下手をしなくても彼女にとって俺の存在はあの王子達とそう変わらない可能性のが高いのだけど。


(そうですか。なら、山田さんは今後どうしたいですか)


「まずは、この場所を脱出したいと思っている。

 あの王子達の慰み者なんてごめんだ」


 まあそうだよな。

 彼女からすれば、この状況を変えるところから始めないといけない。

 隔離結界ともいえるこの『押し入れ』を使ったということは、少なくとも王子側に積極的協力をするつもりはないということだろうし。

 如何に超美形がお相手になるとはいえ、どんな扱いを受けるかわかったもんじゃないし。

 俺は和姦であればいいので、彼女がそれを望むのであればそれも吝かではなかったが。


(俺は多分、今後も山田さんから離れることが出来ないと思います。

 それについてはどうしたいとかありますか)


 検証の結果、俺は彼女からおよそ五十メートルほどしか離れられないことがわかっている。

 それ以上は離れることが出来なかった。

 あの浴場と彼女の部屋が近かったのは運が良かったといえるだろう。

 そして俺は、どんなに遮蔽物を挟んでも彼女の存在を感知することが出来る。

 透視でもしているかのようにその位置が見えるのだ。

 俺の視界から山田珠弥というこの少女は逃れることが出来ない。

 このことは検証中に呟いていたため、彼女も知っているはずだ。


「それについて相談がある。

 図々しいけど、顔を上げさせてもらってもいい?」


(あ、ちょっと待って下さい。

 …………どうぞもう大丈夫です)


 全体像は無理だったけど、なかなかいいアングルが描けたので満足です。

 さすがにあのアングルは姉相手でもヌード描いたことないから新鮮でござった。

 姉には描かれたことあるんですけどね。


「あの、今どこにいるか聞いてもいい?

 見えなくても、出来れば面と向かって相談したいんだ」


 なぜかさっきまで赤面しつつも堂々としていたのに、今更ちょっともじもじしている風な少女山田に位置を教える。


(山田さんの五十センチほど後ろで腹ばいに寝転がって見上げてます)


 途端にびくんとハネて振り返りとバックステップ同時にしたら備え付けの二階ベッドに後頭部ゴンした山田ちゃん涙目である。

 どこをどのような角度で覗かれていたのかわかったために反射的にやっていたのだろう恥部を隠そうとしていた手もすぐさま退けられ、両手で後頭部を押さえしゃがみ込む山田ちゃん。

 やだこの子ちょっとアホの子混じってるのかしら。

 今の俺の現在位置からするとこれM字開脚みたいなもんなんですが。

 狭いからほとんど後退出来てないしね。


 てか今の五十センチくらい跳んでたし、頭ぶつけなかったらもう少し跳んでたんじゃないという感じだった。

 今更こんな反応をするとは。

 全身じっとり見られていることぐらいとっくに織り込み済みかと。


(すみません。ちょっとした冗談です)


「……い、いや、大丈夫。少し動揺しただけだから」


 今更だからと思って素直に応えたけど、やっぱり少しはオブラートに包むべきだったのだろう。

 死んだせいかなんか妙に気が大きくなっている気はする。

 お互いわかっていながらも誤魔化しの言葉を投げかけあう。


 と、ふいに山田珠弥は潤んだ瞳をこちらへ向け、微笑みかけた。


「本当に、大丈夫だから。

 きっとこれから私は、ずいぶんと長い間鈴木君の世話になることになる。

 独り言は聞こえていたから、鈴木君が現実の異性に興味がないのは知ってる。

 でも、鈴木君がどんなに嫌がっても、私のせいで私からは離れられない。

 それにあなたを殺した私を、あなたは助けてくれようとしてくれた。

 それも、無理矢理助けるんじゃなくて、私自身の自由意志を確認するために手間をかけて」


(……いやに理解がいいですね)


 ぶっちゃけ、ちょっと不気味なレベルである。

 肯定的に捉えてくれるのは嬉しいが、俺の呟きは結構酷い内容もあったはずだし、ここまでの行動だって彼女のためであるとは限らない。

 山田珠弥がこのような少女でなかった場合、好意だけを抱かせるという説明だった首輪の魅了を解除するということは、現状認識による憎悪と絶望を覚えさせるということだ。

 それが彼女の幸せとは限らない。

 まあ、だから俺は彼女が首輪を再度求める可能性も否定しなかったんだが。


「私も異性にあんまり興味がないんだ。同性も同じだけどね。

 やたら臆病なくせに理想が高すぎるんだと思う。顔よりも、中身や状況への。

 シンデレラ症候群みたいなものさ。

 とても我が侭で、独りよがりで、妄想癖がひどい」


 何気なく俺へも毒を吐きつつ、四つん這いになって山田が近づく。

 この辺りかな、とすぐに止まり、どこを見ていいか困ったような表情で、でも運がいいのか勘がいいのか、正確に俺の顔の前で語りかける。


田中奏太(タナカカナタ)という小説家を知っているかな?」


(一応知ってます。たしか、新進気鋭の作家さんですよね)


 二年ほど前に某小説新人賞からデビューした作家の一人だ。

 小説をあまり読まない俺でも知っているのは、田中奏太の年齢が俺と同い年ということで気になって読んだからだ。


 絵を描ける同年代は腐るほどいる。

 プロ級の実力者もちょっと探せばごろごろ出てくる。

 だが一般文芸賞で受賞できるレベルの高校生・中学生作家というのは、そうはいない。

 ましてや作品投稿時中学一・二年生あたりとなると、話題性目当てにムリヤリ低年齢受賞させたのを疑われて然りだ。

 だが意外なことに思ったほど内容に幼さはなく、代わりと言っていいかなんというか、すごい独特の空気感がある文体と内容だった。


 とある山奥の廃道場に住む凶暴な痴呆老人と強烈な妄想癖のある一人の少年との交流を描いたそのデビュー作品は、一部ではハートフルなクトゥルーと呼ばれていて、二人の痴呆と妄想によって生まれる不気味さと明るさは、独特な切なさがあって俺は嫌いじゃなかった。

 ただし、あんまりにも独特だったもので人気は出なかったが。


 ただ年齢公開されていても顔写真が公開されていないため、実年齢が本当にそのとおりなのかという、詐称の可能性での話題性も高かった。


「現役の売れっ子漫画家であるあなたに言うのも何だが、その田中奏太は私だ」


(それは、また)


 話の流れから予想はしていたけど。てか作者女の子だったのか。

 あの話男しか登場しないぞ。

 薔薇な香りもなかったと思ったが。


 それと俺はただの背景描きで漫画家と呼べるのは姉ちゃんたちの方だと思うし、恥ずかしながらそこまで売れてないのよね、ウチの漫画。ここのところジワ売れしつつある感じだったけど。


 俺の内心を知ってか知らずか、目の前で山田珠弥が微笑む。うっとりと、照れたように頬を染め。


「だから、鈴木潤一君。

 私はあなたに、夫に、家族に、なってもらいたいんだ。当面は恋人でもいい」


 ――……前後の脈絡がなさすぎませんかねぇ。


 この子、本当にアホの子なんじゃなかろうか。



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