表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/54

※1 異世界名物ケモミミシッポはいずこに

 俺とタマが召喚されたこの世界には魔力という要素があり、大なり小なりほぼ全ての存在はその恩恵を受け、無意識的にも意識的にも利用している。

 もちろん意識的に利用しているということは、その存在をある程度以上認識しているということでもある。

 認識する術がある、ということだ。


 基本、魔力は可視光や可聴域としては認識出来ない。

 もちろん嗅覚にも触覚にも味覚にも不可能だ。

 だから魔力を認識するためには、それらとは全く別の感覚器官が必要になる。


 最近になって知ったのだが、エルフ耳達のあの耳は魔力の感覚器官としての役割を持っていたらしい。

 正確には全身で触覚のように感じているらしいのだが、あの耳がもっとも敏感なエリアであった。

 聖隷になっていたような普通耳の人たちはあの特殊な耳を持っていないため、そこまで鋭敏に知覚は出来ないようである。

 感覚を鍛えていない一般人はなんとなく魔力がわかる程度だそうだ。

 そしてこの世界的にはエルフ耳と普通耳はノーレフ人と呼ばれる同一種族という認識であった。

 普通種と上位種という認識だそうだ。

 どういった理由か知らないが、長い耳は普通耳種族であるノーレフ人が、先天的に多くの魔力を持った際に生じる特徴なのだという。


 さてこの段階で同じ種族間でも明らかな特徴差、性能差が出ている。

 そしてノーレフ人という呼び名があるとおり、さらに見た目で識別可能なほど別種の人種が存在する。


 ビフトア人と呼ばれる彼ら最大の特徴を挙げるとしたら、端的に言えばそう、ケモミミしっぽだ。


(なんとかなったか)


(ええ、大丈夫そうですね)


(わしらがそういうたのじゃから、当たり前じゃろう。

 こやつらで試しも終えておったし、だあれも異など唱えんよ)


(ん)


(ああ、ショーコとラハッカには助けられる。ありがとう)


(二人ともありがとうございます。

 とはいえやはり初めてのことでしたので、多少は不安だったのですよ。

 なにせ住人ほぼ全てが魔力感知に優れているという話でしたからね)


(ご主人様の魔力は異常じゃし、あなた様の魔力に至っては意味不明じゃからのう。まあわからんでもない。だがの、もう少しわしらのことを信用してくれてもいいと思うのじゃ)


(信用はしていますとも。ただそういう二人も、どうやら十二分に非常識なようですからね)


(ラハッカの身分証をみたビフトア人門兵が顔を青くしていたぞ。今もそこかしこから遠巻き見られているようだ。

 あ、いや、別にラハッカを責めているわけではない)


(……ん)


(そうですよ。お陰ですんなり通れたのですし、ラハッカもそう気を落とさず。

 むしろ内実を知る人は、美少女なラハッカよりショーコが怖いんだと思いますしね)


(強者とは畏れられてなんぼじゃよ。それに本当の意味で理解出来ない怖さなど、わしよりもあなた様の方がよっぽどじゃろうて)


(そうかもしれません。でも個人的にはこのまま隠者になりたいですけどねぇ。

 まあ話は戻りますが、獣人っぽい人たちのが魔力感知能力に優れてる後衛タイプなんて思いませんでしたからね。一般常識の重要度がよくわかります。

 ただなあ、ビフトア人のケモミミ、個人的には邪道の耳四つにしか見えないし、しっぽ小さいし……。あのケモミミのもっさり感は悪くないのですが。あれほんと細い髪の毛がみっちりだからふかふかですし)


(わしにはよくわからん拘りじゃの。

 それにあなた様が育ったという世界はビフトア人種はおらんかったと聞くが、なぜにいたことが前提となるような拘りをあなた様がもっておるのじゃ?)


(それはですね――)


 街中の風景に筆を走らせながら、ラハッカの眼帯に覆われた左目に向け、俺は講釈を垂れ続ける。


 タマと俺、そして森の中で出会った褐色肌のノーレフ上位種であるショーコ・ラハッカは今、ビフトア人が治める国の悪魔種や巨獣の侵入を防ぐための最前線である城郭都市、スメ・シュガ市に侵入していた。


 ガタガタと揺れる幌馬亀車の後部に座ったタマが、今し方通り過ぎていった巨大な門を見上げる。

 魔法で築き上げたであろう鋼鉄の塊と、それを支える両脇の崖。

 崖も木や白い石材で補強されており、補強の仕方も鋼のような硬度の木を魔法で異常成長させて絡ませるなど、異世界情緒溢れるものだ。

 巨獣が住む森に面していない側ですらこれだけ堅牢で凶悪な作りをしているあたり、この地域一帯の歴史が窺い知れる。


 革帯に包まれた大杖を抱えた彼女は、見上げた先にあったじりじりと肌を焼く日差しに眉をしかめると、煤けたような印象のある白色外套のフードを目深にした。

 頭頂部にある二つのとんがりが、内部の動きに合わせてぴくぴくと動く。まるでそこにもう一つの耳があるかのように。

 その隣には、『押し入れ』のシーツを加工して作った真っ白い貫頭衣を纏った濃褐色肌のエルフ耳ノーレフ人、ラハッカが愛刀を抱えて座っている。


 俺たちがこの世界に召喚されてから一月とちょっとが過ぎた。

 幸いというべきか、やはりというべきか、王城崩壊後に強制転移させられた場所も同じ世界だった。

 時間の概念も確認出来た。一日の単位はシステムの時刻と変わらず。おそらくだがつまりは地球の二四時間とほぼ同じで、一年の区切りは驚くことに三百五十四日の十二分割で十二ヶ月に、三年に一度の閏月が挿入される太陰太陽暦だという。

 他にも色々と面白いことが判明しているがそれはさておき。


 あの召喚魔法陣の暴走により転移させられた森は、俗にこの世界の人間が悪魔の領域と呼ぶ場所の一つであった。

 魔力に溢れ、時空が歪みどこまでも続くかに思わせる大樹海と、アリの巣のように張り巡らされた地下世界。

 自分たちとは異なる魔力質を持つ者を無条件で襲う、爬虫類と昆虫と人とをかけ合わせたような、俺たちが髑髏虫と呼称し、現地人が鱗蟻人種の悪魔と呼ぶ地下住人達。

 多くの地上部分には魔力質の変質により生きた屍となった人などの動植物と、彼らを捕食する大小様々な魔獣達や、何らかの理由で外部から訪れる生きた人間達。

 俺たちが最初に飛ばされショーコ・ラハッカと出会ったのは、この森の奥の奥、鱗蟻人の本巣穴の近くで地上部分すらも鱗蟻人の支配エリアとなっている場所であった。


 あれからその奥地でさらに数日をすごし、鱗蟻人エリアから脱出。

 ラハッカ達から情報を取得していたため、森と人類生存圏の境目であり巨大な壁と門を持つこの軍事基地都市には近寄らずにいたが、準備も整ったのでこうして侵入を試みたわけである。


 なにせこのビフトア人が治める国、ザサ国は俺たちが最初に召喚されたノーレフ人が主要民族の聖神国と呼ばれる場所とは言語が違う。

 タマが召喚時に得た言語知識はあそこの言語のみだ。

 しかもザサ国は同じビフトア人種を主体としたグフア帝国という国の属国であり、そのグフア帝国は聖神国を中枢とした宗教国家群とは戦争状態が千年近く続いており、戦争地帯であの言語しか操れないことが知られれば、最悪それだけでお縄になりかねないという状況。このため下手に近付くのは躊躇われたのだ。


 幸運にして俺のログはゲーム仕様なのか、どこの言葉でもとりあえず翻訳はしてくれる。

 見た文字も俺が意識を集中することでログに翻訳されたものが表示されるという、完全な言語翻訳チートであった。

 自動翻訳されたものが表示されるだけなので喋れないし書けもしないが。


 さらにこの獣人もどきというか、ハイスペックケモミミさんのケモミミ部分は魔毛角(まもうかく)と呼ばれる魔力感知器官であり、その性能は一般人でもノーレフ人の上位種であるエセエルフと同等だというのだから酷い。


 この世界における個人が持つ魔力の力強さ、もしくは一人一人が持つ魔力の本体とでもいおうか、電気で例えると電圧にでも該当するだろう魔力、俺のステータス画面ではMATと表記される部分を、ビフトア人種は強ければ強いほど体が強大な筋肉に包まれているのと同じように知覚する。

 これを彼らは『魔力質』と呼んでいる。まあ俺たちはMAT(魔法力)でもどっちでもいいだろう。

 つまりMATが大きければ大きいほど、実際の体が小さくても魔力そのものは力強く魔毛角には感知される。

 常人を遙かに上回るガチムチ巨体の男がその上背をどんなに丸めたところで裸ではガチムチが隠せないように、そのままではMATは隠せない。

 MATとは、一種の質量的なもので、個人ごとの魔力の肉体だと考えていい。

 実際には質量の体からMATが大きくはみ出ることはないが。

 それでもMATが大きい対象を魔毛角で知覚してしまうと大きい物を見たように威圧感を覚えるらしい。

 MP、つまり『魔力量』は使えば体力と一緒で減るんだけどね。こっちは消費される熱量(カロリー)といったところか。


 そしてタマのMATはとっくに常人のそれを凌駕している。

 元から持っていた部分に、さらに『RPGシステム』のレベルアップで自動的にグイグイ上がっているのだ。

 タマ自身がこちらに来た当初より鍛えられ成長した部分もあるが、なにより森の中でもレベルが上がり続けていた。

 言ってしまえば魔力に特化した神子二人分だ。

 俺が今こうして見るビフトア人の兵士と比べてもアリとゾウほどの差がある。


 アリとゾウの差。戦闘を生業とする者の数千から数万倍はあるMATの塊の接近。


 素のままで彼らがタマを知覚した場合どうなるかなんて、すぐに想像できるだろう。


 当然この話を聞いたときには思った。大ケラ型鱗蟻人を真似て習得した魔力隠匿で大丈夫じゃない? と。

 だがそれだけではダメだったのだ。

 俺が『描画』視点で見て絵の具に見立てているのはMP、つまり魔力の量であり、魔力の質たるMATではないのだ。ドラゴンに会う前に鱗蟻人を騙せたと思っていたのはどうやら間違いで、全く騙せていなかったらしい。あのときの鱗蟻人集団はタマまでドラゴンの誘導が出来ればよかったので気にされていなかったのだ。幻影を視線で追っていたのは、逆に魔力質が存在しないためになんだこれという疑問からだったのかもしれない。

 ほとんどの種族はこれらMPとMATの両方を知覚しているため、一応全くの無駄ではなかったのだが。


 そんな状況で鱗蟻人エリアから出た際、それでも深部近くなため滅多に人がいないはずの場所であったらしいのだが、運悪くラハッカ以外の現地人が近くにいたようで、今この都市は森方面に向けて最高度の警戒状態を維持している。

 超ド級の魔力質を持った怪物が深部から出て来たぞーっ、と大騒ぎになったというわけである。

 なんでも森方面から近付く登録外超級反応には、感知と同時に容赦ない遠距離攻撃が雨あられと降り注ぐ可能性が高いらしい。

 幸いなのはその際にタマの姿を見られたわけではなさそうなあたりか。

 逆に反対側、今し方俺たちが入ってきた方面は、すぐ近くにこの地域を直接治める領主一家が住むもう一つの城壁都市しかない。

 さらに向こうにある隣の領は広大な農耕地域で、森の異変と警戒から、今は物も人も出入りが激しい。

 入ってくるほとんどが軍人か狩猟商人と呼ばれる移動型集団であるようだが、戦える者はいずれのならず者でも、森に向かうのであれば歓迎という体だ。


 もちろんそれがノーレフ人だとしても。


 帝国は主要な民族がビフトア人だというだけで、ノーレフ人がいないわけではないのだ。


 元々、ビフトア人はその魔力に対する外的知覚能力の高さから外へ向かって魔法を行使する、いわゆる放出型の魔法を得意としている。

 中間距離から長距離の、中衛後衛型なのだ。


 対してノーレフ人は肉体の範囲内に魔力を貯めることを先天的に得意としており、身体能力強化や自己再生能力強化、一部の者は他者への治癒などの系統に優れる。

 近接距離から中距離の前衛中衛型を得意としている。


 故に生まれ持ったものとしてノーレフ人はビフトア人よりも頑丈で打たれ強く、見た目以上に単純な腕力も強い。

 餅は餅屋というやつである。

 前衛騎士や単純労力にはノーレフ人が重宝されているのだ。

 元々奴隷として聖神国周辺から連れ去られてきた者も多いため、使い捨ての駒に近い部分もあるが。


 なんにせよタマの行動目的最上位である俺の肉体復活と、次点の元世界への帰還。

 その二つを叶えるには人社会を利用しないわけにはいかないことが森にいたときに判明している。


 だが、こんなMATの塊が最寄りの人里にそのまま近づけば先刻の通り。

 

 おそらくだが、正面から戦っても負けることはないだろう。

 かといって勝てばいいというものではない。

 最悪その手段もアリではあるが、俺たちには彼らの情報網が必要なのであり、無駄に恨み辛みを買って出ても気分も効率も良いものではない。


 聖神国であれだけのことをしながらだが、ある程度は逃げる上で混乱が必要であったし、あのときは逃げ切るために首輪のシステムを確実に破壊しなければいけなかった。

 俺もタマもやられたらやり返すだけで、基本自分がやられたくないことは相手にもやりたくないのだ。

 敵は敵だ。

 悪意には悪意をとはいわないが、悪意を持って殺しにくる相手から生き延びるには、殺し返すのが最善であることが多い。

 俺もタマも想像力は豊かな方で、知識もそこそこにはあり、倫理観は想像力より小さい。

 実際のとこ、現代日本で表立って推奨される類の倫理観なんてまともに持っていては、現代日本でもあの手の商売は売れないのだから、成功している時点で当然とも言えた。

 故に足りない倫理観を補っているものまた、突出した想像力だ。

 想像できるが故に、仕返しに対する恐怖はしっかりとある。

 同時に、仕返しを恐れるからこそ状況や場合によっては人を殺すことに躊躇いはない。


 ではどうするか。


 こっそり侵入して溶け込み、友好的に接していくのが最善だろう。

 だがそれはタマのこのMATが枷となる。

 真っ先に強い警戒心を植え付けては対話すらままならない。


 俺の『RPGシステム』には魔力を知覚する類はあっても、生命力や魔力の類を隠す方法は存在しない。

 元となったゲームに存在しなかったためだ。

 プレイヤーの完全隠匿による万能性から遠ざけ、ゲームとして成り立たせるためだと思われる。

 だから俺が魔法陣を描いての隠匿系による隠密侵入は諦めた。

 ここの住人には視覚的にだけ隠れても意味ないし。


 ならば残りは決まっている。この世界にある方法でMATを、魔力質を抑えるか隠すかするしかない。

 もしなければ、作ればいい。MPを誤魔化す魔力隠匿を覚えたときのように。

 どちらにせよ森から出た時点でタマの魔力は他の神子をも凌駕するものとなっていた。

 この世界の常識が無くとも、悪目立ちがすぎるのは理解できる。

 タマは『RPGシステム』の恩恵を受けると同時に、この世界独自の魔法体系も利用可能だ。

 この世界の魔法は端的に言って、想像力と意志力と知識、そして魔力次第だ。それらがあれば大抵の事象は起こせる。タマがMP隠匿を習得したときのように。


 そう考えて試行錯誤するのに一週間。

 大回りして森を抜け、別の場所から国内部に侵入しつつ、MAT隠匿術の形が出来たところで常時それを施し、改良を重ね、対獣、対はぐれ悪魔、盗賊等で対人をしながらで二週間。

 やっとこの対悪魔の領域用城壁都市であるスメ・シュガ市に戻ってきたのである。


 なぜわざわざ大回りして戻ってきたのか。

 いくつか理由はあるが、一番はここ以外に今比較的自由に出入り出来る大型都市がなかったからだ。


 グフア帝国の権勢圏一帯から出て聖神教圏までいけばタマの言葉が通じるが、タマの現在の扱いがどうなっているのかわかったものではないし、距離もある。

 目的達成のためにはいつかはあちらに向かう必要も出てくるとわかっているが、現在はいいだろうと判断。

 聖神国よりはずっと近いグフアの帝都やザサ国の王都は身分を持たない流民への出入りが厳しいらしく、ビフトア人軍人などの魔法で戦うことを職業としている者にタマのMAT隠匿が通用するかどうかの確認という部分もあって、聖神国から遠く近辺では最大級の武装都市であるここに戻ってきたのだ。


 ここまでの情報の一部は、あの日生き返らせたショーコ・ラハッカと名のった少女()から教えてもらった。

 彼女の様な褐色肌のノーレフ人というのは珍しいらしいが、かつて聖神教によって迫害される対象となったため大昔にビフトア人の生存圏まで逃げ、生き残った者達がグフア帝国を中心に活動しているため帝国内では多少珍しい程度の存在なのだそうだ。

 ビフトア人にとっても肌の色が違えど白い肌のノーレフ人と同じ特性をもった彼らの存在は無視できないらしく、帝国には貴族位を持った家系や自治区も存在するのだという。純血を保つことで貴重な近接戦闘力として重用しているのだ。

 ただそれは、褐色であった場合である。

 ラハッカの肌の色は、それよりも濃い濃褐色。戦闘時にはこれが真っ黒に染まる。左目も今でこそ顔の三分の一を覆うような眼帯で隠しているが、黒い白目と虹色の複眼瞳を持っている。

 特殊な生まれと事情を持つラハッカは、左目にこの世界の古代語で[墨塗り]を意味するショーコという名の悪魔種を住まわせ、共生しているからだ。一つの体に二つの人格があるような状態に近い。


 彼女達は彼女達の事情でタマと俺に味方している。


 死者蘇生の影響なのか、それともドラゴンと相対していたときの状況から彼女が敵ではないだろうとなんとなく思っていたからなのか、その両方か。

 生き返るとともに最初から彼女達はパーティーメンバーに追加され、ログ会話に参加してきた。彼女達にはログは帝国語に翻訳されて見えるらしい。


 それから互いの事情を話し合い、現在は一緒に行動している次第だ。


 残りの情報はここに来るまでに襲ってきた無法者もとい山賊集団からだ。


 山賊は狩猟商人という仕事を表向きの仕事としていた男女十人の集団で、森の異変を察知し高給で人集めを始めたスメ・シュガ市に向かう途中だった。

 MAT隠匿をしていたし、タマが聖神国語しか話せず、ラハッカの言葉が不自由に見えたため与しやすいと考えたらしい。道中にいたタマとラハッカを馬亀車に誘ってきたので、もしやと思いつつもほいほい釣られてみれば案の定毒を盛ろうとしてきたので返り討ちにした。

 その中に聖神教圏の国出身である元奴隷ノーレフ人がいたので、主にそいつから情報を聞き出したのだ。

 毒も致死性のものではなく、極端に魔法を使いづらくさせ酩酊感や身体感覚の麻痺を与える類のもので、帝国圏ではよく戦争奴隷や一部の騎獣のしつけに利用されているものだった。

 帝国語を喋れないので、海外拉致奴隷として売り出すつもりだったようだ。


 そんな彼らは現在、タマが乗る馬亀車に一緒に乗っている。

 というかタマが乗る馬車が元々彼らの馬車だった。

 過去形である。

 奪ったのだ。

 彼らは現在、タマ達に脅されて言いなりになっていた。

 黒猫耳の屈強な女御者も、脇を固める灰熊耳や茶犬耳の男達も、まだ幼さが残る白犬耳の少年も、タマ達の近くに控えるノーレフ人の男も、彼の肩に寄りかかる狐耳の女性も、タマが乗っているものとは別のもう一つの馬亀車に乗る人々も。


 タマも俺も、実行されたとして自分たちの価値観で笑い話になりそうなものだったら見過ごすだろう。

 だが悪意と害意を持ってやられたらやり返す。

 例えそれがこちらの実力が上であったことで未遂や無意味なものになろうと、実行されたらそれ相応の仕返しをする。

 彼らはタマ達を騙し奴隷にして、利を得ようとしていた。

 男達は快楽を得ようともしていた。


 それがまかり通る世界なのだ。

 あの城の中だけの話ではなく、それが当たり前の世界なのだ。

 弱肉強食。力の理に生きる世界。


 だから彼女と俺は彼らをただ単純な暴力による脅しによって征服した。


 この世界の人間と関わりを持つことを考え、タマに圧倒的な力があることはわかっていても騙し討ちや毒への脅威はあった。

 だからその辺りへの対処法も考案していたので、服毒しても問題はなかった。

 毒の効果が出ているふりをして油断を誘い、彼らから情報と毒の理由を聞き出し、MAT隠匿を解いて力の一端を示すことでその意志を挫いたのだ。

 化け物と変わらないMATを持ち死霊術の扱いに慣れたタマと、ほぼ感知不可能な俺による魔法。そしてドラゴンとも渡り合えるラハッカの剣技。

 屈服させることなど造作もなかった。


 そして仕返しが怖い俺たちは、目的を達成したら処分することにも躊躇わないのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ