※17 食欲が満たされた後は他の三大欲求が来る
ドラゴンを入道雲ごと倒した事による経験値は凄まじいの一言だった。
ログを見る限り大量の経験値を複数回取得していることから、あの入道雲はなにか多数の存在が寄せ集まった存在だったのか、もしくは中に複数何かが住んでいたのか、空間を壊したっぽい行動が変なバグ的作用を引き起こさせたのか、さっぱりわからないが、とにかく凄まじい量の経験値を得ることが出来た。
それこそタマの時空ツリーを彼女が求めていたところまで進行できるほどに。
(とういうわけで、時空ツリー八割が実現可能となりました)
戦いが終わったらとりあえず安全確保。で『押し入れ』に入り状況の整理をすることにしたタマへ俺が宣言すると、彼女はぽかんと気の抜けした顔になった。まだ付き合いは浅いが、多分この女の子が滅多にしない珍しい表情なんだろうなと意味なく思う。
と思いきや突然表情を歪め、しゃがみ込んでしまった。
「……ああ、ごめん。すごいレベルの上がりようだったからもしかしたらそろそろかなとは思っていたんだが、実際聞くと、今更ながら不安になってきたんだ」
まあ不安にもなるだろう。
彼女が目的としていた死霊術と祝福と時空の複合魔法スキル『仙術・地魂天魄現世乃尸解』で俺が生き返られる保証はまだどこにもない。なにかしらの理由で不可能だったとなる可能性も大いに存在するのだ。
ちなみに『仙術・地魂天魄現世乃尸解』の内容が死者蘇生であることはまず間違いないと考えている。魔法の説明文がどうとかではなく、俺たちが持っている特殊能力は自然と能力者がその能力の詳細を理解出来るようになっているので、死霊術が主体となっている仙術はタマがそうであると確信しているのならその通りであるはずだという考えからだ。
さらにちなみにで尸解とは仙人の種類、もしくはなり方のことであり、死んでから仙人になった者かその方法を指している。これで生き返ったら俺は仙人になってしまうのだろうか? 後頭部長くなる恐れが微レ存? 宝貝貰える?
(ま、ダメならダメでいいんですよ。
むしろ俺が生き返ったら死霊兵鎧がなくなって、不可視の描画魔法高速連発も出来なくなる可能性が高いです。緊急強制『押し入れ』も出来なくなるでしょう。二人分の要素で『押し入れ』内装がこうなっているのだとしたら、『押し入れ』内で蘇生した場合に強制排出の可能性もあります。蘇生した後すぐに俺が死んだとしても、また取り憑くことが出来る保証もない。今度こそ本当に死ぬかもしれない。
今やったら戦力の低下が著しいどころか外がアレで自殺レベルですから、この間決めたとおり、生き返るとしても完全な安全を確保できてからですよ)
仙術の話が出たときに相談だけはしてあるのだ。
その時点では俺が生き返った際のデメリットは描画魔法だけだったが、今では死霊兵スズキ消失によるデメリットの方が大きいだろう。
タマの生存のことを考えると俺という道具の消失は痛手では済まない。
現状では致命傷の域に値すると断言できる。
だけどそんなことをログに流した俺の慰めは少々スベっていたらしかった。
「……ああ、いや、その、な?
ここまできて今更なんだが、その、ウルくんは生き返られたら、嬉しいか?」
え、そっち?
(今更すぎませんか? タマさんなら俺の注意無視して生き返らせるかもしれないと危惧してたくらいなんですけど。
むしろそんなこと今更訊くタマさんこそ、俺生き返っていいんですか? 嬉しいですか?
ぶっちゃけ生き返ったら俺、タマさんになにするかわからないですよ?)
しゃがんで顔を隠すように膝を抱え込んでいたタマの体がさらに縮こまってしまったことで、今のが失言だったことに気付いた。
(あ、なにするかって、怒ったりはしませんよ? 死んだのだって、死ぬ前から仕方がないかとか考えてましたし。そりゃ体の方がなに考えていたかなんてわかりませんけど、どうせ魅了されててあっぱらぱーでしたし、あのままだったら俺殺されていただろうし、なにするってナニするってことですよ? ストレートに言いますと、この数日で実感したんですけど俺タマさんのこと本当に好きだから、今は肉欲がないですけど体あったら襲いかかるかもしれないですよって話です)
後半は思いっきり、本当に正直に自分の気持ちを言葉にした。
死ぬ前の俺だったらこんなこと言えなかっただろう。
死んだせいで肉体の制限を外れたのはなにも絵筆の動きだけではない。脳そのものがないからか、それとも死んでからの独り言を全て聞かれてしまっていたからか、嘘を吐いたら最後まで貫き通しそうなこの山田珠弥という少女に甘えているのか、その全てなのか、俺の精神はどこかしら吹っ切れてしまっている。元々ちょっとどころではなく変態で他者から見て度し難い部分があった自覚はあったが、それでも生きていたころは臆面もなくこんなことは言えなかっただろう。
でも、触りたいのだ。
見るだけではなく、聞くだけではなく、描くだけでもなく。
触れて、熱を感じて、嗅いで、味わいたい。
変態度が上がっている気がするが、二次元専門だった俺の思考に、現段階でそうしたいという意思が存在している。欲求ではなく意思なのは肉体がないからというだけで、肉体があったら今目の前で膝を抱える少女を抱きしめたいと思っている。本当に今肉体があったら衝動的に抱きしめていたかもしれない。逆にびびって何も出来ずおろおろしていた可能性の方が高いが。
ぶっちゃけてしまったが、彼女の守りは弛まない。むしろより強固になり、イヤイヤというようにわずかに頭を振るだけだった。
でも、この回答で間違いではなかったらしい。
ぼさぼさの髪の隙間から覗く耳は真っ赤になっていた。
しばらく待っていると、彼女は口頭ではなくログで返してきた。
(ロリコンなオタク男子に都合の良い女になっている気がしてきた)
(俺はロリコンじゃないからセーフですね)
キレイ系身長高めで胸は大きめ推奨というか、そもそもにして二次元の貧・微乳は幼女かまな板属性以外は美乳なだけですし。タマさん案外ありますし。
なにより甘えられるより甘えたいし俺の言う我が儘を否定しないで引っ張っていってもらいたい派ですしおすし。
そう考えると身長以外タマさんは俺のストライクゾーンをカスっているんですよねえこれが。最初だけ曲がるけど後がストレートな変化球ってなにか種類あるのだろうか?
(私みたいなのでも、ウルくんは満足出来るのか? 二次元じゃないし、スタイルよくない)
(満足出来るどころか惚れた弱みというのを実感中で、むしろ多分タマさんじゃないとダメですねぇ)
愛さえあればとはよくいったものですよホント。あばたもえくぼ。蓼食う虫も好き好きでもいいけど。
え? 俺の場合本気で二次元でもロリ体型は恋愛対象外だったんで、三次は惨事で蓼でしたよ?
リアル子供は普通に可愛いと思うし、ロリっ子ショタっ子の造形美や商業的人気は理解しているから、イラストとして愛でたり描いてたりはしてたけど。とりあえず三次で惨事のペド野郎共はタヒねばいいと思います。
(というか俺がこんなこと訊かれる側でいいのかという疑問がふつふつと)
美形テンプレのエルフ王子が求めるほどの美少女であるタマの相手が、俺のような中途半端オタでいいのか。
「ウルくんは格好良い。
押したらすぐ倒れそうでやる気なさそうな見た目なのに芯がしっかりとあって、自分が出来ることを確立している。その出来ることに自信があって媚びない。諂わない。
自分のことを変態だと語るが自重しなくなったら誰でも同じようなものだ。そして自重を忘れるとほとんどの人間はゲスになる。だけどウルくんは自重していないのに優しくて、自分より私なんかを優先してくれて、それで良かったと言える男前だ。これ以上格好良いことがあるだろうか。
肌も綺麗で、眉や髪型を整えたらイケメンだと思う。全体の線が細いけど指の節がしっかりしていて男らしかった」
自嘲的疑問を口にしたら、まくし立てられる褒めちぎられたでござる。
(解せぬ。俺はいつから少女漫画の掘り出しヒーローになったのだろうか)
俺イケメン説はないわー、マジナイワー。中学のころ授業で描いた自画像が自分なりに上手く出来たと思ったら美化率200パーセントとかキモイとか言われた古傷がうずくワー。でも正直あのころはリアル中二でリアル派思考が強くて一番デッサンに力を注いでいた。
でもでも人間、左右のブレをある程度抑えるそこそこ綺麗に見えるもんなんすよ。鏡で誤差を修正していくとあら不思議本人そっくりだけど美形に。なんてざらなんすよ。いやほんとですって。
まあ多少肌には自信があったんですけどね。ほら登下校以外外に出ないし、一日でも風呂入らないと怒る家族だったから。姉たちは屋内にいる間あんなナリで入らない日もあるのに理不尽だと小学生の頃は思ったもんですよ。ずっと子供扱いで、学校あるからって原稿終わって無くても俺は最優先で寝かされてたし。高校入る以前から背景メインでデジタルばかりだったから指にあまり墨付いてないんすよ。ベタですら家族で一番下手くそだったせいだけど。最初はこの扱いに反抗したくてソロ仕事獲ってきたんだっけ。思えば遠くまできたもんだ。
吹っ切れたと思っていけど、思い出すとやっぱりちょっと染みるね。
ぐだぐだとある種の思考停止をしていた俺の存在を、顔を上げたタマがやはり度々のようにどうやってか視界に捉え応える。
「思春期女子の想いが屋根上のカラスに及ぶのはよくあることだ」
つまり愛は屋烏に及ぶと。
酷いよね。ここまで来ても好きだって言い切らないんだぜこの娘。せめて俺が言ったように惚れた弱みとかだけでも言ってくれたらいいのに。
よしっ。とタマが自分自身に発破をかけて立ち上がる。
「ウルくん復活は当初の予定通り一時凍結とし、実行のための安全確保を次の議題にしようじゃないか」
うん。これは逃げたのかな?
まあ仕方がないか。重要なところでヘタれる素直系強気女子ってのもの悪くない。
(では安全確保の面も踏まえて、ツリーの進行をどうするかですね。こちらも予定通りポイントは少し残しておいて、単純に時空ツリー総数で八割ではなく一部上位狙いでいきますか?)
『仙術・地魂天魄現世乃尸解』の取得に必要な時空ツリー条件は総数で八割だ。つまりは数が重要なのであり、質が問題ではない。
だが同系統の上位になるほどポイントが多く必要になるシステムなので、ツリーシステムの浅く取得ポイントが少ない下位層を重点的に狙っていけば現時点でも取得条件を満たせるが、そうした場合どうしても必要性が薄いものを多く取得する形になる。少しでも時空ツリーの有用性を上げるならそういった無駄を省いた方がいいが、その場合は必要になるポイント数も加速度的に大きくなり、他に回せる余裕も少なくなる。
「いや、そこはそのまま八割取得を最短で行こうと思う。
時空ツリー後半のスキル群は魅力的だが、主要なものを一つ選ぶにしても必要となるポイントが大きすぎる。
それに私が自分で安全を確保する必要を考えると、残したポイントで他を取得した方がいいだろう。
ウルくんが生き返ったとき、私が『RPGシステム』の恩恵を得られているかわからないがな」
(わかりました。では時空ツリーはそういうことで。取得するスキルなどは追々でいいですか? あ、遠隔術はどうします?)
魔力感知の代案としてタマが覚える予定になっていた複合スキル『遠隔術・魔力走査』は、時空ツリー中程のところにある『時空・魔力測定』と、遠隔術ツリーの付属スキルである『遠隔術・広域知覚』を二段階目にすることで覚えることが出来た。『時空・魔力測定』は今回の時空ツリー進行で取得することが確定しているが、『遠隔術・広域知覚』を二段階目にするには遠隔術ツリーを一割以上進める必要があり、遠隔術は死霊兵スズキが今後メインとして進めることにしたので、タマがこのまま取得すると被りが生じてしまい無駄になる部分が多くなる。全くの無駄にはならないが、なるべくタマと死霊兵のスキル重複は避けたいところだった。
「当面の間ウルくんの蘇生は叶わない。ならばやはり魔力感知は欲しいのが正直なところだ。
最終的に制覇するかどうかは置いておくとしてスズキくんの遠隔術ツリーはこのまま投擲方面に進めて、私の遠隔術ツリーは射撃方面へ進めようかと考えていたが、どうだろうか?」
(死霊兵のツリーが投擲方面はわかるとして、なぜタマさんは射撃なんです?)
遠隔術ツリーは大別して弓術、射撃術、投擲の三つに枝分かれしている。
装備や使用スキルにもよるがそれぞれに大凡の方向性があり、弓術であればダメージ重視、投擲であれば特殊効果重視、射撃であれば両方の中間といった具合であった。
投擲具に『祝呪・栄枯無常』を付与するエイコ投げのような例外を除き、投擲スキルを上げているプレイヤーキャラクターの目的の多くは薬品系アイテムを投げて使うことである。仲間相手には問題なく使える消耗品アイテムも、敵相手に使う場合は投擲行為が必要である場合が多かったからだ。
このあたりも呪怨ツリーではなくアイテム生産と関係が強い錬金ツリーと遠隔術の相性が良いとされた理由であるが、今は置いておくとして。
現在、射撃武器などという文明と戦争の理器は手元に存在しない。
射撃と聞くと銃を思い浮かべるが、ゲームと同じ仕様であればクロスボウなども射撃武器判定で使えるはずではある。だがこの世界に銃はもちろんクロスボウのような武具が存在するかどうかも不明であるし、あったとしても今この森の中にいる状況では入手不可能である。まったくの無駄になる可能性が高いといえるだろう。
「射撃系統へツリーを進めると、比較的早くにAGIステータス補正や短距離即時移動、隠微のスキルなどが手に入るだろう? 技スキルは無視してこれらを取得するのがいいかなと思ったんだ」
(なるほど)
いわゆる盗賊職向けのスキルというヤツだ。
この手のスキルは片手持ち武器全般を扱う剣術ツリーの枝の一つである短剣系統が本場であったが、このような一部は射撃や投擲にも多く含まれている。『遠隔術・隠微』は動かないでいる間だけ、魔法でお世話になりっぱなしの姿消し隠匿魔法と同じ効果が得られる、つまり視覚的に見えなくなるというものだ。ノーコストアクティブスキルでMP消費のデメリットがないし早期に覚えるのだが、その場から動いたり攻撃したりすると解けて見えるようになってしまうため、攻撃すると効果が切れるが移動だけだと効果が切れない『体術・気配遮断』の完全下位だったためにゲーム中ではあまり人気がなかったスキルである。攻撃行動で解けた場合に関しては、その一撃だけ敵へのヘイトが発生しない隠し効果が発見された以降は一部で大人気だったけど。
まあ、ぶっちゃけ隠微は現状だといらないスキルである。ステ補正は有用だが、移動スキルはタマの使い方次第とはいえ重要性は薄いだろう。
実際、他に幾らでも有用なスキルは存在する。それこそ物理なら短剣系統に進めばローグ系の主流は押さえることが出来るし、体術ツリーならステ補正が多く、防御術ツリーとの複合で防御や回避に繋がるスキルが盛り沢山となっている。遠隔術と防御術の複合はほとんどない。というか遠隔自体が魔法ツリー全般との複合が多く、物理ツリーとの相性が良くないのだ。
だが魔力感知習得は彼女の好意感情の発露らしいので、なるべくなら妨げたくはないところである。
ん? もしかしてさっきの話の流れを作ったのは、俺にこの意識を持たせるためだったりして?
とかとも考えたが、考えるだけ無駄だとすぐに気づき、俺は了承した。
(わかりました。それで行きましょうか)
そういえば死霊兵鎧を着たまま死霊兵スズキが『体術・気配遮断』を使ったらどうなるのだろうか? 鎧の下に何も着ていないから、薄い本展開しか想像できないんですけど。とはいえ体表が見えるくらいどうってことないぐらい、彼女の体を隅々まで見慣れてしまった感はあるけれども。
「ありがとう。実は他にも理由があったんだが、出来るかどうかまだ不確定でね」
(え? なんですかそれ)
「先の戦いを踏まえた戦闘力向上案だ。とはいえ本当に実行可能か不確定なので、準備が出来てから説明してもいいだろうか?」
なにかしら考えがあるらしい。
(では楽しみにとってきましょう。
じゃあ確認しますね。時空ツリー最短での八割取得と、『仙術・地魂天魄現世乃尸解』の取得。
遠隔術ツリーの射撃系統で有効なスキルまで進めるだけ進め、『遠隔術・魔力走査』の取得可能となったら取得。
ステータスポイントに関しては今まで通り。
残ったポイントは両方とも予備でいいですか?)
「ああ、それでお願いしたい。
特に『仙術・地魂天魄現世乃尸解』は最優先でお願いする」
(りょーかい)
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