※16 原始人がマンモスを狩るときのメイン武器は食欲
偉大にして強大なファンタジー界の暴君ことドラゴン氏、ロリっ娘に殴られて泣きダッシュをかます。
なお、お家にママンはいなかった模様。
まあ気持ちはわかる。
自慢の電撃は反射され、一度首から上が消し飛んでいる。
その後の電撃もやはり反射され、物理的に強襲をかけてもあえなくカウンターで殴り返された。
直接電気流して探ってみたら、おそらくは元が調査用のレーダーみたいな使い方だったのだろう、微弱だったこともあり完全に防がれた。バフも無数にかけていたから彼?からみてどういった結果になったのかわからないが、たぶん何もわからなかったのではないかと思う。
さらには全く意味不明なことに自分の魔力でまた自分の頭が消し飛び、首も凍り付いてしまった。
この間、相手は全くの無傷である。
わけがわからん、となったのかもしれない。
黒い人型と戦っていたときに使った、包み込んでの電撃みたいな攻撃。実はあれはプラズマとマイクロ波加熱、つまり超高出力電子レンジ攻撃だったのではないかと考えているのだが、タマが着込んでいる死霊兵の鎧は水分ですら流体でありながらも物理的に固いという謎仕様だ。そこに魔法防御という謎概念が加わり、魔法的だろうとなんだろうとマイクロ波というエネルギーの指向性を完全に無視して防いだ、つまりは遮断か、マイクロ波の特性を考えると反射したのではないかと考えられる。
おそらくはあのドラゴン、物理的にも電気という特殊能力的にも、攻撃そのものが効かないどころか完全に反射される経験などこれまでなかったのではないだろうか。もちろん自分の魔力を自分以外に勝手に使われるのも。
タマの『押し入れ』のような異能がない限り、ドラゴンの体は再生するし雲が本体の特殊な生命体だったとしても、活動のエネルギーは無尽蔵ではないはずだ。一回一回の行動が大出力であり大量のエネルギーを消耗するというのにまるで攻撃が効かず、代わりに使った分のエネルギーで逆に攻撃される始末であり、再生にはまた莫大なエネルギーが必要になる。タマの前には黒い人型と一戦やらかした後でもあった。体力回復前に連戦したようなものだ。
雷は反射され、噛み付きにいっても返され、調査用とはいえ微弱なマイクロ波も遮断された。さらには意に反して自分から自爆する始末。
もしかすると本気の電子レンジ攻撃も反射されるかもしれない。
ドラゴンからしたら、やってられるか、という気持ちにもなっておかしくはない。
冷静に調査が出来るほどの知性を持つのだから、引き際も冷静だったということだろう。
あの積乱雲もタマの『押し入れ』のように一度入ると全てリセットの完全回復が出来るかもしれないと考えたが、それもなさそうであった。
遠すぎるため正確な量は何とも言えないが、最初に確認したときよりも明らかに雲の魔力量が減っている。つまり戦闘によりあの雲自体が消耗しているということだ。ドラゴンと戦い続ける事が出来ればいつかはあの雲の魔力も尽き、倒せていたのかもしれない。
とはいえいくつかまだ手はあったものの、体力が尽きるか俺が強制するかして、タマが『押し入れ』に引きこもる方が先だったろうけどね。
一回かけるごとに時間がかかるバフを一撃で複数剥がされていくような戦いだったし、防御術のリキャストもあるので長期戦はタマの方が断然不利だと考えていた。
実は最初に粉砕された頭部が再生した時点で勝つ気などなかったのだ。
ただドラゴンの戦闘能力を測る上で好機だったから戦っただけ。それだけだ。
絶対に勝てないと判断した場合は数日『押し入れ』の中ですごし、文字通り嵐が去るのを待つつもりであった。髑髏虫の行動を考えるとこれも少々不安な部分があったが、『押し入れ』自体が安全であることは確かだったので、これぐらいしかやり過ごす方法がなかったのだ。
あんな怪物が頭部消失から即再生とか、普通は絶対勝てないの範疇だろう。
だからある程度戦い、通じる攻撃などを確認したら終わりにするつもりだったのだが、先にドラゴンの方が折れてしまったというわけである。
とはいえこっちが勝ったかといえばそうでもないのは確か。
損もないが、益もない。
そして喧嘩売ってきた輩が悠々と逃げていく。
どうやらそれがタマはお気に召さなかったらしい。
「経験値落とせーっ、肉落とせーっ、素材落とせーっ」
森の中逃げる雲を追いかけながら、そこいらで拾ったものを雲へ向けて投げる少女の姿があった。
ドラゴンが色んな意味で美味しいというイメージが現代っ子に存在するのは仕方がないことだろう。
ここ数日はドングリだけだったし。いやあれ美味しいんだけどさ。でもちょっと今のタマさんキャラじゃないことやってるよね。やはり地が食いしん坊属性なのかもしれない。
そういえば経験値取得の判定はどうなっているのか不明だ。ドラゴンの首跳ばしても貰えなかったということは、やはりあの雲を殺せば貰えるのだろうか。
しかし、この距離では徐々に遠ざかるあの雲に対しまともな攻撃手段がない。
魔法をぶっ放そうにも、そういった超超遠距離攻撃用魔法というのはゲーム上に存在しなかった。イベント用の特殊攻撃であれば存在したが、そういったものをプレイヤーキャラクターは自発的に使用は出来ず、普通の遠距離攻撃魔法もターゲットカーソルを合わせられないし、目測撃ちしてもほらご覧の通り。
バンッ
雲から生じた雷が撃ち込んだ魔法を弾き落とした。
巨岩も炎弾も氷弾も届かない。元々これらは飛距離も少なく、あんな上空まで打ち上げたら魔力にものをいわせてもまともな攻撃にならないのだ。熱線によるビームじみた攻撃もあったが、減衰も激しく熱線そのものも細いので効果がなさそうだった。
一つ二つあたっても、あんな巨大積乱雲には焼け石に水だろうしね。水蒸気だし。
「……ぬぐう」
タマの投げる物も同様だ。驚異的なことに届くには届いているようなのだが、雷に弾かれたり、あたっても雲に呑まれるだけで効果があるのか疑問なものばかり。
つうか空気割っての周辺破壊しながら飛んでいく小石すごい。戦っていたときに繰り出した徒手空拳もだけど、投げるためにタマの手ぶれた段階で周囲が爆発したみたいになるからね。
行動そのものがマッハ超えかあ、パねえ。
だがその小石も、樹海の足下が深い腐葉土と異様に大きな苔で覆われているため、地表に存在するのはそう多くない。追いかけつつのため掘り返したりする時間もなく、あってもタマが投げた途端にほとんどが衝撃に耐えられず四散している。戦闘による破壊の影響で木切れはそこらにあるが、それらも同様だ。
森林火災で上昇気流が発生しているからかよく飛ぶが、同時に雲の移動速度も速くなっている気がする。
俺が魔法陣で生み出す石は撃ち出すことまでが魔法としてプログラムされているようで、それを掴んで投げるという行程も不可能だった。撃ち出す前にタマが無理やり掴んだら、崩れて消えてしまったのだ。
打つ手なしかと思ったところで、タマが近くの木に刺さっていた物を引き抜いた。
(お、イイのありましたね)
「うん、これはいいものだ」
二メートルほどの長さの黒い槍。
髑髏虫達が使っていた槍だ。
突き刺すことに特化しているそのフォルムは大きな爪楊枝にも見えるが、陸上競技の投げ槍のそれにもよく似ていた。記憶にあるのよりも短くしなりも少ないが、タマの投擲にも耐えられそうである。
ドラゴン出現の際に髑髏虫が襲撃にあった場所だったのかもしれない。
その先の一帯には髑髏虫の残骸と放棄された槍が無数にあった。
飛行型髑髏虫を初めて仕留めたときと同じように、足を止めて集中。槍を振りかぶり、投げる。
爆音。
『遠隔術・鵜の目』を発動させているからというのもあるだろう。あのときはノーコン気味だった一投は、美しい黒紫色の軌跡を描いて積乱雲の真ん中へと飛んでいった。
雷が打ち落とそうと瞬くが、どうやら失敗したらしい。
次の瞬間にはぽっかりと雲に穴が空いていた。
(へ? マジですか……)
小石を投げているときにもあたっていたようであったが、あんな風に明らかに穴が空くことなど無かった。この距離ではっきり向こう側が確認出来るほどのサイズなのだから、穴は直径数十メートル、下手をすれば一〇〇メートルに達しているかもしれない。『描画』の視点で見てもあのドラゴンの魔力に大穴が空いていた。というか軌道上の魔力も含めてかき乱され、そこだけミキサーでシェイクされたようになっていた。
「もしかして思ったが、どうやら成功のようだ」
さらに近くの槍を拾い上げつつ、タマが呟く。
俺はそのタマの莫大な魔力の奔流が、槍に流れ込んでいくのを見てなるほどと思った。
さっきはちゃんと見ていなかったが、同じことをやっていたのだろう。そういえば黒紫色の軌跡だなんて、タマの魔力の色ではないか。どうやら『描画』の視点と混同していたようだ。
実体があるのか不明で魔力しか見あたらない存在を傷つけるなら、とりあえず大きな魔力をぶつければいいのではないか。マンガラノベ的にはあるあるな発想である。
「石だとすぐ崩れてしまったが、この槍は魔力をよく吸う」
ということらしい。さっきから石が砕けてたのはそれか。
元々髑髏虫の魔力をふんだんに含んでいた黒槍は彼女の魔力も上乗せさせられ、溢れ出させながらも再度投擲された。
今度は一度ではなく、遠距離から何度も雷が黒槍を防ごうと走る。
一撃までは大丈夫だったようだが、二撃目には耐えられず黒槍が弾け飛んだ。三撃目以降が槍を塵に変える。
だがそれは、この一撃を雲ドラゴンが脅威だと感じたことに他ならない。
あの雲は魔力の塊のように見え、もしあれがドラゴンの本体であれば魔力そのものによる攻撃を防ぐ機能が備わっているのかもとも思ったが、どうやらそれも無いようだ。
いや、正確には存在するが、すでに知っているものだった。
一気にいこうとタマが槍を集め魔力を籠めている間に、雲中からドラゴンが姿を現したのだ。
ドラゴンが吼え、体表に紫電を纏う。視線はタマを射貫いていた。
つまりはあのドラゴンが雲の防衛機能で攻撃手段そのものなのだろう。
雲を背に羽を大きく広げ、一相に激しく雷土を湛えた両腕を突き出すと、彼の魔力が盾のように円形に展開されたのが俺にはわかった。
「ウルくん。スズキくんのツリー、防御術の次は体術が最有力候補になっていたと思ったが、まずは遠隔術で進めるのはどうだろうか?
今回のことを踏まえるに、私たちに必要なのは超遠距離の決定力だと思うんだ」
(俺も今それを考えてました)
接近戦で凌ぐだけであれば防御術とタマ自身の格闘能力があり、わずかな時間があれば俺が体内で魔法を使うという卑怯すぎる決定力が存在するため、殺せない相手は少ないだろう。致死の攻撃が可能な距離が五〇メートル。普通に攻める分には十分すぎる能力だと思っていた。
防御術の次に体術ツリーをと考えていたのは、『体術・気配遮断』や『体術・猫足』などの特殊技スキルや、タマの格闘能力を強力な技スキルでさらに強化出来ると考えたからだ。
だがあのドラゴンのように巨大すぎる上に接近に危険を伴い、遠距離攻撃が出来る存在は難しい。『押し入れ』があるためそうそう負けることはないが、勝つことも出来ない状況になり得る。
この世界にはああいった怪物が居るのだ。
考えてもみたらエルフ耳や神子達も強力な遠距離攻撃手段が豊富だった。髑髏虫ですらやたらと魔力が籠もった槍を投げつけていた。飛行髑髏虫の不可視の技は物理と魔法両方の特性があったではないか。
おそらくはあれが特別ということではない。同じような存在が複数いて、全く出会わないほど少ないというわけではないと想像できた。
同時に、それと正面から戦ったらしきあの黒い少女のような存在も。
だからこそあのドラゴンも体表に紫電を纏い全方向へ雷を落とすという攻防機能を所持していたのだろう。巨大であればそれだけで強いはずの自然の理は、魔力や特殊異能という枠組みが存在するこの世界では重要性が低い。いや、元世界でもそうだった。細菌やウィルスだけではなく、人類は多くの小型動物にも負ける程度の戦闘能力しか有していなかった。
多くの人類サイズへの決定力だけではなく、ドラゴンのような存在に対しても決定的なアドバンテージが、タマの生存の為には必要になる。
そうとわかったら躊躇わない。
(じゃ、さっそく)
防御術ツリーを制覇したあとに残っていた死霊兵スズキのスキルポイントを、遠隔術ツリー進行に割り振る。もしもの時用に体術に振らず残しておいたのが功を奏した。
現在の状況に合わせ、遠隔術ツリーの中でも投擲に分類される方向へ進めた。
それを確認したタマが自身もやっていた鵜の目などのアクティブスキルを死霊兵鎧にも使用させていく。内容はまだ初期のものばかりなので、この戦いでは気休めにしかならないだろう。本命は直接攻撃に関連する技スキルだから問題ない。
ゲーム中、投擲という行為はどんな武器でも出来た。盾や二刀流、弓などを装備するための副装備枠という枠に装備し、遠隔攻撃コマンドを実行するだけの簡単操作である。
当初あまりに簡単すぎたため誤って盾や二刀流の片方を投げてしまい武具が消失や、セットしていた矢弾が尽きて弓本体を投げるプレイヤーが続出し、初期人気狩り場に響き渡る盾持ち遠隔持ちの叫びは風物詩ですらあった。
以後修正されて副装備品を投げる場合は二重確認ログが流れるようになり、弓や射撃武器の場合は矢弾がないと『矢弾が装備されていません』ログが流れてアイテムボックス内の矢弾を表示しセットを促すように変更された。
だが遠隔攻撃コマンドで副装備枠の装備品を使用し遠隔攻撃するというシステムは変わらなかった。そこに装備すれば事実上なんでも投げる事が出来た。
投擲は基本的に一撃の威力も飛距離も、弓術系統や射撃系統に劣っている。石ころや手裏剣など投げる物によっては速射力はあったが、威力と飛距離が足りなすぎて意味がないどころか、逆にヘイトやTPばかり上昇させてしまうため邪魔者扱いになることが多かった。
さらに元々遠隔術による攻撃は武器種類や距離によってダメージ判定も異なり、ステータス値による攻撃力の算出方法も特殊であったため、本格的に遠隔術ツリーを進めるなら初期からそのためだけのステータスを組み、都度都度の最適な行動に馴れておかないと、他の戦闘スタイルよりも活躍が難しい欠点があった。
とどめに、遠隔攻撃全般が一撃ごとに投擲品や矢弾を消費するため金銭的出費が激しく、文字通りの銭投げ行為であったため、遠隔術に絞って本格的にやりたがる、実際にやれる、プレイヤーが少なかったのだ。
だがこうやって遠隔術を進めると決めて思い出してみれば、イベント対人戦やイベントボス戦などで表示される一撃の最大ダメージランキング上位には、毎回確実に投擲によるものが存在した。
しかもそれは多くの場合、中衛デバッファー型のツリー進行を行ったプレイヤーキャラクターであった。
その最大の理由がこれだ。
『祝呪・栄枯無常』
タマの手に握られた黒槍に、ログと共に浮かび上がった黒白半々の色に輝く魔法陣が絡みつく。彼女の足下にある他の槍にも同じように魔法をかけていく。
以前にゲーム内では有用だった魔法として内容を教えていたのを覚えていたようで、彼女もそれをみてニヤリと笑った。
ツリーの進行にもよるが、『祝呪・栄枯無常』は呪怨ツリーの最終付近と祝福ツリー初期の複合魔法スキルだ。
種類としてはデバフ系統に入り、効果は一定時間対象の攻撃力を倍にし、効果終了と共に同じ時間だけ攻撃力を九割減少させるという非常に強力なものだ。
だがこの魔法は魔力を持った造物系、つまりゴーレム種か植物型モンスターなどにしか使用が出来ず、設定されていた魔法成功率の倍率が極端に低いため簡単にレジスト――効果無し――にされ、さらには効果時間が対象の最大MPに比例するため、ボス級モンスターに間違ってかかってしまうと長時間攻撃力倍で暴れ回られることになるという、どうにも使いどころに困る魔法であった。
しかしこの魔法の使い道は別にあった。
その方法とは、味方に使用するというもの。
効果は武器の耐久値をランダム量消費し、消費に比例して攻撃力値に変換するというものだった。
とはいえ武器がいきなり壊れてしまう恐れがあるが大ダメージを叩き出せたり、逆にほぼ効果がない事があるなどギャンブル要素が強い上になぜか味方対象でも失敗率が高く、過剰ダメージによるヘイト管理問題などMMOでの集団戦闘においては不確定・不安要素が強すぎたため、一部では非常に重宝したが結局これもあまり人気のある運用方法ではなかった。
だがそれすらもこの魔法の本当の使い道ではない。
呪怨ツリーはデバフ魔法主体のツリーであり、『祝呪・栄枯無常』を使えるということはデバフ型魔法使いだということ。呪怨ツリーを最終付近まで進めていれば大抵の場合残りのスキルポイントも魔法ツリー進行に振っているものであったが、中には火力を完全に他人任せにした雑魚連戦や一部の対ボスなどで活躍する釣り師、マラソンマンと呼ばれるスタイルとして、デバフ魔法と移動速度の速さ、そして遠隔術攻撃を組合わせた育成をした者達がいた。
これは遠隔攻撃の攻撃力計算式に必要なものが移動速度と同じSES、AGI、DEX、STRであったことや、魔法の使用にもSESが重要であったことから生じたことであったが、当初このスタイルはステータスや使用魔法の関係上、呪怨ツリーではなく錬金ツリー進行型のデバフ魔法と相性が良い戦法であったために、効率重視したいプレイヤーはそちらでこのスタイルを組んでいた。呪怨魔法はMATの影響が大きいものが多く、変わって錬金魔法は低効果ながら効果下限固定型や必中型が多かったため、そこまでMATがなくても何とかなったからである。
だがそこはMMOゲーム。中にはひねくれ者や不遇好き趣味人などが、峠妖怪スタイルやシュシュッと忍者プレイと称し、呪怨ツリープラス遠隔術ツリーで戦う者達も一定数存在していた。そして、彼らは気付いてしまったのだ。
この魔法と投擲攻撃組み合わせたら最強じゃね? と。
その企みは成功した。
まずは主装備となる近接武器を外した上で副装備枠に投擲したい武器を装備し、自分自身に『祝呪・栄枯無常』をかける。すると自分自身にかけるのでもちろんレジスト現象も起こらず、副装備になっている投擲武器にこの魔法の効果がかかるようになるのだが、投擲された武器は一回の使用で壊れて消滅する。そのためか武器耐久値をその一回に全て消費するシステム判定が行われており、本来さほど威力が出ない投擲攻撃が空恐ろしいほどの攻撃力を生み出すことになった。
余談だが、もちろん弓矢や射撃武器でも可能であった。だが最初から消耗品として存在する矢弾の耐久値は最低の1固定。弓本体や射撃武器本体には耐久値が存在したが、こちらに効果がかかっても普通に使ったのと変わりがない結果であったそうだ。
さらに余談で、後衛中衛主体な者達がなんらかの理由で攻撃力や耐久値が高いけど譲渡不可なうえ自分では使い道がない武器を手に入れるとホームの壁に飾るか捨てるしかなくなるのだが、エイコ投げと称されるようになったこの利用法により日の目を見るようになった。それがイベント戦でのぽっと出ダメージランキング上位者の正体である。
そして今、俺の中にはもしかしてという期待や思惑が生じていた。
俺という存在があったため当初は必要だと思わなかったが、考えてみればタマのステータスは遠隔攻撃にも高い適性をもった構成である。
特に元のゲームは投擲だろうと弓矢だろうと射撃だろうと遠隔攻撃の威力に敏捷性であるAGIが大きく影響するという謎が存在しており、その理由も考察スレなどではキャラクターの早さがそのまま飛翔物に計上されているから、ただそれだけのゲームシステム上他の近接物理との差別化以外の何物でもないとされていたわけだが、そこにさらにSTRやSESがバカ高くDEXもそこそこ以上に高いとなればどうなるか。それがただ石ころを投げたあの結果であるならば、『祝呪・栄枯盛衰』を使用すればどうなるというのか。というか射撃にSTR関係ある時点でそこも謎すぐる遠隔屋優遇されすぎと言われていたがどうなったのか。攻撃力や防御力だって装備品の上からVITなどが関係しているとしか思えない実行値算出方法なんだしこちとら全部一発消耗品だ近接共が文句をいうなと遠隔屋と度々スレ内ゲリラ戦に発展していたのは勝負がついたのか。
なにより、今タマが持っている武器にはもちろん耐久値という数値は顕在化されておらず、ゲーム中で『祝呪・栄枯無常』を敵に使用した際に比例対象にされていたのがMP、つまり魔力だったわけだが――
タマが右手に槍を構え、左手に四本の槍をまとめ持ったまま、技スキルを発動する。
『投擲・連投1』
単純に足止め状態から複数装備可能な石ころや手裏剣などの投擲専用道具を投げるだけの、初期投擲技スキルだ。だが投擲には珍しい、敵も味方もステータスが低い最初期ぐらいしか効果的ではないが、金さえあれば連続してダメージを稼げる有用な一発逆転技でもあった。
ログと共に振られたタマの腕が音速を突破し周囲の空気を抉る。
彼女の手から解き放たれた黒槍は飛翔の直前、絡みついていた魔法陣からも解放され、同時にその物理的な構成物質を全て魔力へと変換、黒紫の光線となって蓄えられていたタマの魔力と共にドラゴンを雷の盾ごと貫くと、雲に到達したところで物理的にも魔力的にも大爆発を起こした。
それは運用方法が違うだけで、髑髏虫が行った自爆と同じ物質の魔力変換からの爆発攻撃であり、そして城で死霊兵を貫いたあの光の槍を思い出させるものであった。
勢いのまま瞬時に第二投を投じたところでタマも腕を止めた。
胸に大穴が空き背後で起きた爆発の勢いで下へ落ちていくドラゴンをかすめて、黒紫の光線が雲のあった場所で再度魔力爆発を引き起こす。
だがそこには既に魔力すらも吹き飛んで一時的な空白となっており、その空白へ戻ろうとする魔力と再爆発で生じた魔力とがぶつかり合って奇妙な一瞬の停滞を生み出すと、二つが結合して空間ごと魔力が消失した。
空間ごと消失したと思ったのは、その場所に何もないか逆に何もかもが存在する、そんな真っ黒な穴が空いたからだ。
だがそれも、すぐさまそこから溢れ出た魔力と何かによって埋まり、しばし歪んだ景色を映し出し続けたあと元に戻った。
「……今見えたの、『押し入れ』の向こう側に似ていた」
レベルアップの光に包まれながら呟いたタマの言葉に、俺は頷いたのだった。




