※13 すでにチープ化した最強の代名詞
タマは『遠隔術・広域知覚』のレーダーを利用できない。
と思ったがどうやら杞憂に終わったらしい。
(なるほど、やはりこういうことか)
試したいことがあると『押し入れ』から外に出てから少し。
周囲に張り巡らされた『水冷・氷結華』を自ら殴り壊し、出て来た彼女は検証後ログにそう呟いた。
理由はわからないものの、戦っても敵わないと学習したのか出て来た当初から髑髏虫は氷結華の壁から大分離れた場所で待機しており、さらにはタマが出て来ても攻めもしなければ逃げもしなかった。早くも経験値入れ食いシステム崩壊である。
――いや、地中から数匹、大ケラ型がどこか遠くへと移動を開始していた。
とはいえ当然そこに警戒がないわけではないようである。
ギリギリギリギリと例の異音で何かしらのコミュニケーションをとっているらしく、散発的に耳障りな音が一帯の森から木霊してくる。そして髑髏の視線はタマへと釘付けである。
よくよく見てみると髑髏の奥にある複眼が魔力を光などに変換し、特定の波長で流しているようで、ゆっくりと赤黒く明滅していた。奴らが魔力を読み取る能力に長けているのならば、もしかすると音だけではなくあの光もなにかしらのコミュニケーション方法なのかもしれない。
まあ現状ではわかりようもないからどうでもいいだろう。
タマは奴らが攻めてこないと見ると、しばし考えてから俺と相談して検証を開始し、ゆっくりと歩いて一番近くにいた髑髏虫に近付いた。
すでに自爆や手に持った槍だけではなく、純粋な腕の長さだけで攻撃可能な距離まで近付いても髑髏の視線を向けるだけで何もしてこない。髑髏の目が明滅しているあたり、てっきり自爆から逃げられない距離までくれば即自爆する準備かもと考えていたのにそれもないようである。
もちろん実際に近付いたのは城でも使いゲームでは幻惑魔法と呼ばれていた『時空・朧空蝉』で作ったタマの幻影だ。
いかにも罠な状況に突っ込ませるワケがない。
魔法の幻に絵を一枚消費して大量の魔力を持たせてみた実験作だったが、上手くいったようである。髑髏の視線は幻影にしかいっていない。
もちろんタマ本人には自分で強化をかけるだけかけてもらい、さらには俺が隠匿魔法を施して、彼女自身で例の魔力隠匿をやってもらっている。
こちらもこちらで成功のようで、魔力を透明化し続けるのに四苦八苦しているものの、幻影のタマが制御できず垂れ流しにしている魔力の影に隠れるようにしているお陰かどうにかなっているようである。
もちろんこれらの魔法を使う前に先に魔法で土壁を作り、隠れてからやりました。
そうして幻影ちゃんが近付いても何もしてこない、動こうともしないのを確認したタマ本人はさらに接近し確認だけを行うとそそくさと離れた。
そしてさっきのログが流れたわけである。
(『遠隔術・広域知覚』の内容がわかった。ウルくんが幻影を出した時点でわかっていたのだが、どうやらウルくんで言うところのプレイヤーキャラクターである私自身にはレーダーとしてではなく、魔力のそれに近い第六感として感じ取れるもののようだ。近付けば敵意の有無のようなものが伝わってくる。
ただ実際には何を感知しているのかがよくわからないな。幻影の位置も感じ取れたし、まさか心を読み取っているわけでもないだろうが……。
それにやはり、ウルくんのことも感じ取れないな)
(ふむ、とりあえず覚えた意味があって良かったってところでしょうか。『押し入れ』では感知できる対象がいなかったからわからなかっただけということですね。幻影はゲームでもそうでしたので、特に理由もなくそういうものだから、の可能性があります。
『遠隔術・魔力走査』はもう少し待って下さいね。時空ツリーもう少しなので)
(わかった。許可が下りて良かったよ)
(まあ何よりも重要なのは、髑髏虫が魔力を感知しているのも確定で、幻影に魔力持たせる案や魔力隠匿なども上手くいっていることですね)
(おそらく完全な魔力隠匿はこの方法では不可能だろうから、幻影なしで誤魔化すのは難しいとは思うがな。
とはいえ都合が良かったから実験を行ったが、なぜ奴らが何もしてこないのかがわからないな)
(攻撃された理由からして不明ですからね。攻撃されない理由もさっぱり。
脳がそこそこ大きいことから知能が本当に虫並に低いということもないと思うのですが。
これ以上被害を増やさないために手を出さないのは、無防備に残っている時点でありえませんし。
最終手段であろう集団自爆しても殺せないから、攻撃しないで見に徹している可能性はありそうです)
(自爆することに躊躇いのない点といい、群れ型生存戦略で生きていそうな生物だからな。ここに残っているのは情報を得るための捨て駒である可能性もあるか。
もしくは集団性が高すぎて指揮官がいないと何も出来ないというのもあるかもしれないが、最初に少数で来ていたからそれはなさそうか)
(わかりませんよ? 様子見に指揮官が来て待機命令が出たから、今は忠実にそれに従っているだけかもしれません)
(普段の命令は目に付くものを殺せ、とかかもな。そして出来なければ自爆。まるで殺戮のための機械だ)
(とはいえ互いにコミュニケーションをとっているフシはあるので、やはり個々に多少の知性はあるんだと思いますが。
う~ん、この目から出ている魔力に何かしらの意味がありそうななさそうな)
(わからないか)
(髑髏から脳にかけて魔力が消費されているっぽいんですけど、この光がその結果なのか、それとも別の何かに消費されているのかがさっぱりですね)
(そこまでわかるだけでもすごいと思うがな。
なんにせよただ立っているわけではなさそうか。私としては何かされる前に経験値の足しにしたいと思うのだが、ウルくんの意見はどうだ?)
(少し追加実験をしましょう。タマさんが出て来てから移動したオケラ型の方向は全て同じでしたから、そっちにタマさんが動こうとした場合にどういった行動をとるかを見たいです。
幻影を先行させますので、魔力に隠れることも考慮してぎりぎりの範囲から後を追って下さい)
(わかった。樹上を行く)
(お願いします)
実はこの『時空・朧空蝉』で作った幻、本体となった人からあまり離れることが出来ない。操作の視点の問題もあり、ゲームのころからプレイヤーとキャラクターの最大距離同じくらい、つまり俺と同じように五〇メートルほどが最大距離であった。
さらに魔力は付与してあるがそれだけで、音も匂いもない視覚的な幻でしかないから、聴覚に優れているタイプなどには通じない欠点がゲームの時から存在する。
主にダンジョン内を移動する際の視覚系の敵に対する囮にしか使えず、一回攻撃を受けたり物にぶつかったりすれば消えるため、複数種類の感知能力を持っていたり、とりあえずで遠隔範囲攻撃をしてくることが多い上位タイプの敵には意味がない場合が多かった。
対視覚タイプ戦で戦闘中に使えば一回だけ単体攻撃を高確率回避できるから、かなり有効ではあったけど。複数感知タイプでも視覚持ちだと適応されたから非常に重宝したものだ。
幻影が目の前の髑髏虫を避けて、大ケラ型が進んだ方向へと足を進める。
元々視界全てが森しかなく戦闘で地形が大分変わってしまったためあまり自信はないが、その方向は髑髏虫が来た方向でもあった。何かがある可能性は高いだろう。
しばらくは何も動きがなかったが、そろそろ髑髏虫がたむろするエリアを抜けるかというところで変化が生じた。
『押し入れ』から出て『水冷・氷結華』の中央にいた当初、直径一〇〇メートル以上の氷の薔薇を囲むような形で髑髏虫達は待機していた。全体でみればおそらく一〇〇〇は下らなかっただろう。故に薔薇からタマが出て来た側の反対側にも相当な数の髑髏虫がいたわけだが、それらの大部分、おそらくは全てが動き出し、タマの進行方向へ先回りするような動きを見せたのだ。
視覚的には森に阻まれているため目視できず、通常型も飛行型もオケラ型と同じように魔力隠匿をしていたが、俺の『描画』の視点からすればあまり意味はない。さすがに距離がありすぎて多少他の魔力に紛れていたが、およそ五〇〇メートルほど先を両脇から囲むように先んじているのは確かであった。通り過ぎてきた場所の髑髏虫達も同じくらいの距離を空けてつけてきている。
だがそれだけで、なにもしてはこない。
(少し道をそれてみるか)
タマの提案にのり、右に九十度直角に方向を変えさせる。ちなみに移動ルートは普通に地面である。木の上を枝から枝へ跳んで移動させれば早いのだが、それだと本来発生するはずの音や振動がないことを誤魔化せない。離れているしヤツらがそれを感知しているかどうかはわからないが、一応である。
だが変わらずヤツらは距離をおいてつけてくるだけだった。
青空に浮かぶ巨大な入道雲があまりにもいい絵図らなもので筆が進む。
(わからんな。離れているということは警戒をしているのだとは思うが、何をしたいんだ)
(もしテリトリーのようなものがあって、追い出したり追い込んだりしたのであれば移動方向を限定させる何かがあるはずですが、今のところそれらしきものはオケラ型の例しかありませんしね)
(一体倒してみるか)
(うーん、もうちょっと待って下さい。もう一度オケラ型の行った方へ進みましょう)
(ヤツらの知性が本物だった場合、それすら偽りである可能性もあると思うが)
(そうなんですよねぇ。この警戒具合から考えて、それぐらいやりそうだと考えていたところです)
ああだこうだと考えながら進行方向を元に戻し、タマが見かけた食べられそうな果物やいつもと形の違うドングリなどを拾っていたときだった。
タマの進行方向、視界の端に、燃え上がるように赤く燃やし尽くすように白い魔力が見えた。
力強く巨大なそれは一瞬にしてそこにいた髑髏虫達の魔力を呑み込むと、次の瞬間には雷が落ちたような光が瞬き、追って爆音が俺たちを通り過ぎていった。
(なにが起きた)
魔力が見えていなかったら雷が落ちたのだと思っただろうが、それは事実であると同時に俺には違うことがわかっていた。
(……やっぱファンタジー異世界にはいるもんですねぇ――)
その先のログを見たタマの眉が顰められる。
ドラゴン。
中央ほど白く縁に行くほど赤い魔力は、そう呼ばれるファンタジー王者のシルエットだった。




