※11 負けるとわかったら先に白旗を振るタイプの負けず嫌い
何度か出入りを繰り返し、『水冷・氷結華4』の効力などに変化がないか、髑髏虫達がどれくらいでここまで到達出来そうかを確認しながら休憩した。
注ぎ込んだ魔力量が尋常ではなかったおかげか、ヤツらの自爆ですらも大した効果を上げることは出来ておらず、これは一日単位で大丈夫だと判断。
ドングリ飽きてきたと言い出したタマはそれでもお腹いっぱいになるまで詰め込んで、室内でいくつか動きの確認を行いながら話し合いをした後、すぐに寝てしまった。
俺は彼女が寝ている間に、使用してただのデータとなった絵に魔力を籠めなおした。『押し入れ』内部は消費した先から魔力が回復する無限湧き仕様なので、いくら使っても彼女への影響は全くない。
タマの魔力を籠めて描いた彼女の絵は、そこに貯まった魔力を消費しても消えずに『描画』のデータだけの存在となる。魔法陣と同じだ。そこに魔力を籠めることで、また同じように使えるようになる。
ただし魔法陣の場合はそれによって魔法を行使できるが、タマの絵はそれだけで何かが出来るわけではない。彼女の姿そのままのため、負った傷などは絵に沿って修復されるが効果としてはそれだけだ。
いやこれ、十分すごくて重要な内容だとは思うんだけどね。
だが籠める事が出来る魔力量がタマ本人の絵であるがためか、彼女の持つ魔力量、つまりMPの分だけ籠めることが出来る。最初から神子としての大量のMPに、さらに『RPGシステム』が加わって強化され続けているMP総量をそっくりそのまま貯蔵できるのだ。
そして先ほど使った『水冷・氷結華4』で確信した。そのタマの絵のMPを使った魔法は、タマのステータスの影響を受ける。つまり魔法の種類にもよるだろうが、『水冷・氷結華4』の場合はお化けMATやMNDなどの影響を受けているということだ。
元々このゲームの魔法はそれぞれ効果や威力値に下限があり、魔法そのものや属性へのレジスト率を除けば、つまり相手の魔法防御力などによる軽減を除けば、基礎威力値はどんなキャラクターが使っても変わりがなかった。言い方を変えると、上限だけは使用者のステータスなどいくつかの理由で変動するが、下限はほぼ一定であったといえる。例えば属性場形成がわかりやすい例だろう。それを十全に施した場に、魔法特化ステータスによるごり押しである。今回の『水冷・氷結華4』は外に充満していた魔力や、内部から凍らせるために髑髏虫の魔力も使ったが、やはりタマの魔力を使ったエリアの方が強度が高そうであった。サロン爆破時に『炎熱・爆炎3』から先の威力が上がっていたのはタマの魔力を使ったからで、1・2はエルフ耳爆破の為にヤツら自身の魔力を使っていたからだというわけだ。
魔力を籠め終えたら次はいつものタマの全身寝姿描きである。
枕元に座り、無心で描く。丁寧に丁寧に筆を動かし、何枚も何枚も描く。もちろん『描画』に使われるのは彼女の魔力だ。
『描画』の視点で見た際、人が内から生じさせている魔力は一色ではない。だがその人が多く生じさせている色、メインカラーと呼べるようなものはそれぞれ異なる。タマの場合は軟質だが不透明度が非常に高い黒紫色だ。
『描画』の筆で掬いパレットを通すことで俺はその色を自在に変えることが出来るのだが、エルフ耳達が魔法を使用する際も自分の主色をそのままや変化させたりして使っていたように見えた。
これにどのような意味があるのかわからないが、先ほど寝る前にタマと話し合ったことがある。
髑髏虫達は魔力を感知して攻撃してきているのではないかということだ。
当然の思考の帰結だ。俺も『描画』で見る事が出来ているし、エルフ耳達も感知していたのだから、おそらくは同じ世界のどこかだろうこの森に住む髑髏虫達が同じか似たことができてもおかしくはない。
他の何かを感知している可能性もあったが、ヤツらの使う力の種類を考えれば魔力が一番妥当だろうと考えた。
では魔力を感知しているとして、問題はどういった方法で感知しているのか、またはそれから隠れることが出来るのかという点になる。
エルフ耳達は姿の見えないタマを探す際、その場所に視線を向けていた。だがいくつかの事例を考えるに、彼らの魔力知覚方法は俺のような視覚ではなく、音などに近いものとして感じ取っていたのではないかと俺は考えていた。視覚外のものも知覚していたようだからだ。視線を向けていたのは視覚に優れた人間の本能や、そこにいるはずのタマの姿が隠匿魔法によって見えなかった事などが原因だろう。
ゲーム中でも魔力感知能力を有する敵はいた。ただこれは一部の魔法生物タイプや所謂拠点ボスタイプなどに見られる感知能力で、魔法を使おうとすると通常では感知範囲外である距離からでも見つけてきて遠距離攻撃を放ってくるなど、非常に厄介だが個体数としては少ない感知タイプであった。
それ故に魔力を隠す術がゲームシステム上存在しなかった。
奥に宝箱があるとわかっている場所で、拠点ボスを無視して先に進められるのであればこれほど楽なことはない。そのゲーム性のため、魔力だけに限らず一部の隠匿方法が存在しなかったのだ。
今のところ、本質的に外来種であるせいか神子は出来なかったようだが、エルフ耳や髑髏虫は全員魔力を感知してきている。つまりこの世界では一般的な知覚能力である可能性が高いということになる。
タマの魔力は強く、多い。
知覚の内容次第だが、敵にとって位置特定はおそらく容易だろう。だから魔力を隠す、または誤魔化す方法が存在するのであれば、なんとしても習得したい。させたい。
幸いなことに、参考になりそうな例を見つけることが出来ていた。
「だけど正直なところ、私は今のところ魔力隠匿は必要ないと考えている」
起きたタマに魔力隠匿の習得について相談してみたところ、最初の言葉がそれであった。
「わかっていると思うが、これは私の目的がレベルを上げ、『仙術・地魂天魄現世乃尸解』を得てウルくんを生き返らせることとなっているからだ。
昨日は危ない場面もありウルくんに助けてもらったが、このまま髑髏虫を倒し続けてレベルを上げるのが今のところ一番安全で最短の道筋だと私は考えている。
その場合に、現在の髑髏虫による進攻は都合が良く、出来るかわからない魔力隠匿をわざわざ研究し、時間をかけて覚える必要はないのではないか。
という結論に至ったわけだ」
ドングリの殻で作った蒸し器でドングリの実を一度蒸らし、崩してから小判状にしたあと、フライパンで焼き固めながら彼女は持論を述べる。
「先ほど確認で一度外に出てみたわけだけど、ウルくんのお陰で未だ髑髏虫は氷の壁を越えることが出来ないでいた。
これを絶対だと考えてはいないが、魔力隠匿もまた、ウルくんがその能力を看過していたように絶対ではない。
あのオケラ型が隠行じみたことをしていたといっても、そのことを知っているウルくんは最初から気付いていた、ということでもあるのだろう?」
(いや、そう言われてしまうとその通りなんですけどね)
俺が見つけていた魔力隠匿の参考例。それは前日の戦闘で初お出ましとなった大ケラ型髑髏虫であった。
ヤツらはその仮名通り、地中を掘り進んで期を窺って潜み、奇襲をかけてきた。
その際に見たおもしろい観察結果として、移動中や潜伏中に放出されていた魔力が少なくなり、色が透明になったことが上げられる。
俺からすればだが、透明になろうがなんだろうが『描画』の視覚ではそういう色の魔力として認識されて見えるためちょっと見づらいくらいでしか無く、放出されている量が減ったところでその分が内に留まり濃く見えるだけなので、これも意味がない。
だから当然の様に潜んでいたところを認識できたわけだが、観察中、ヤツらがタマに奇襲をかける直前に、透明に近かった魔力が髑髏虫特有の赤茶色に早変わりしたのだ。
大ケラ型の不可思議な行動が本当に魔力隠匿であったかどうかの証拠はないが、俺に対しては意味がなかっただけでそれに近いなにかであったことは確信していた。
そして彼女にとっては意味がなくても、俺にとっては意味があるのだ。
焼きドングリを口に放り、今にも弛みそうな表情でタマが問う。
「ではなんで、ウルくんは魔力隠匿を私に覚えさせたいんだい?」
(なんでと言われましても、俺としてはタマさんがそういう言い分を出すとなると、俺の目的が好きな人の安全だということも考慮にいれて欲しい、と言わざるを得ないですね。
というか、これで満足ですか? 誘導したかったんでしょう、好きとかこういう方面に)
すねたように言えば、タマがクスクスと笑う。
「贅沢を言うなら、もうちょっと粘ってから言って欲しかったな。じわじわと追い詰めていって言わせたかった。
あとわざわざ誘導とか言わないで、わかっていたならそのまま道化を演じててくれても良かったのにとは思う」
(タマさん表情に出し過ぎ。
それに俺は負けると思ったときにはすぐに白旗振るタイプなんですよ)
「負けず嫌い」
彼女の笑いがケタケタへと変わった。
こっちとしては恥ずかしいから、そんなシチュエーションで好きだとか口にするのは止しておきたいのだけど。
(タマさんて、少女漫画のヒロイン役よりもヒーロー役の方に憧れるタイプですよね)
「なにせ王子様を元に戻すための大冒険中だ。俺様ヒーロー嫌いなのも、私自身が俺様タイプだからさ」
俺はカエルか。
飽きたと言っていたドングリを頬張りながらタマが続ける。
「話を戻すよ。
魔力隠匿は将来的には必要になるだろうが、今のところは重要度が低いというのは変わらない。
というよりもね、ウルくんが見たオケラ型の魔力隠匿というのは、もしかしてこんな感じじゃないのかな?」
言うなり、タマの体から漏れていた魔力の流出が止まり、体表に張り付くように滞留し始める。そしてわずかにだが色が透明になったのがわかった。
(おお、それですそれ)
「――ぬ、ぅ、い、色はどうだい? ちょっと自分ではわからないんだ」
(わからないのに出来るんですか。とりあえず魔力は体の表面から先に出てないです。色はゆっくりとですが透明になってきてますね。あ、ちょっと茶色になった。
でもどうして出来ているんです? 今までこんなことやってなかったですよね?)
「体内に魔力を留めるのは簡単さ、鎧のスズキくんを扱うようなものだ。むしろそれよりも細かな指示がない分だけ楽だといえる。
色はウルくんが言っていたように、城にいたときや髑髏虫が自爆した後の魔力の感じを真似ているだけだ。色は少し練習が必要になるだろうが、これも指示出しに近いな。透明の感覚さえ掴めれば問題ないだろう」
なるほど理屈はわかる。
元々タマは知覚速度が肉体速度よりも極端に早く、それを補うために死霊兵スズキの鎧を身に纏っていた。そして死霊兵スズキを動かすのは口頭ではなくタマの意志がのった魔力そのもの。死霊兵の肉体を十全に動かすという早すぎる思考速度に追随できる、否、それ以上の速度を生み出すことが出来るタマの魔力を流す速度や技術は、自身の体表に魔力を留まらせるぐらい、やろうと思えばすぐに出来てしまうほどのものだったというだけのことだ。
色に関しても指示出しに近いとのことだし、それと同じような感覚なのかもしれない。
とはいえやはり聞いただけの概念を理解し実行できる彼女は、一種の天才に分類されるであろうことは間違いないだろう。
(……よくもまあ)
そんなのを目の当たりにして、感嘆とも呆れともいえる感想が浮かぶのは仕方がないと自己弁護する。
「体表から漏れている魔力があって、魔力を感知できるという情報があれば、なにをどうしているかは大体予想が着いていたからな。
ウルくんもそこまで考えていたから、隠匿は魔力を持つもの全般が技術的に習得できる可能性があるのではないか、と考えたのだろう?」
(確かにそうですけど、即実行できるようなものだとは考えていませんでしたよ)
「そうか。少しはウルくんを驚かせることが出来たかな。
では魔力隠匿に関しては目処は立っていて緊急性もないことから、何度か外で実験をして、あとは暇を見て練習するということでいいかい?」
(そうですね。ここまで可能であれば、多少の練習で同じようには出来るでしょうし)
「なら、相談がある。実は私も習得したいものがあるんだ」
(なんですか? ツリーもう一本とか無理ですからね)
「その辺りがどうなるのかわからないんだが、私も魔力感知を使えるようになりたい」




