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非実在青少年は異世界で死霊術師を愛でる  作者: A・F・K
長いプロローグ・城脱出編
2/54

※2 お絵かき楽しいれす


 俺がよくやっていたMMOはコンシューマー機で遊ぶ、西洋風ファンタジーな要素の強いゲームであった。


 追加課金要素もあったが基本サービスは定額制で、課金してもちょっとだけいい装備や見た目特殊な装備があるぐらいの、ゲーム要素に大きな影響を与えることはない内容。

 複数人で遊ぶことを前提とした作りをしており、特定の誰か一人や一部が無双することなど夢のまた夢。

 パッチ次第で各種要素ごとの優遇不遇こそ出るものの、それも一月から半年ほどで廃れるか逆転してしまうことなどザラ。


 操作性に関しても普通に手に握るコントローラーでキャラクターを操作し、行動は各種ボタンを押すだけのもの。


 だから間違っても思考操作やタッチパネル操作などできなかったのだが、宙に浮かぶログを見たときについついタッチパネル感覚で動かしてしまったのは、いつも手にしていたスマートフォンの影響だろう。

 おもしろいウェブ漫画がいっぱいあったから仕方がない。


 仕事柄ソーシャルゲームにも手を出していたのもある。エロもあれだったら気軽に見られたしね。

 相棒は鞄の中に入れていたので、召喚されたときに持っていなかったのが悔やまれる。


 だからレベルアップによる各種変更点や出来ることの確認をしていたとき、首輪を着けられたまま浴場を前に服を脱がされていく少女、ヤマダ タマヤへ嘲りの視線を向けたまま呟きをこぼしている方々のログを確認したいなーと思っていたら、開いてたスキルツリー項目の脇で小さくなっていたログが大きくなって見やすくなったのには驚いた。

 思考操作まで出来るらしい。


 僕の考えた最高のゲームっぽくて嬉しいです。


 そう、この能力は見たところ基本は俺が好んでいたゲームと同じような仕様なのだが、随所に俺がこうだったらいいなあと夢想していたシステムや構成が導入されていた。

 俺の体が持っていたもう一つの能力といい、ここに召喚された際に付与される特殊能力は、その人物が元から持っていた願望に影響されているようだ。


 今やれることを確認した俺は、そこからこの状況を打破するために必要なことはなにかと考えを巡らせながら筆を動かしていた。


 視線の先には裸身の少女ヤマダと、彼女の体を磨く、幾分地味な首輪を付けた美熟女。

 他の建物からは独立した大ホールの隅に浴場を設けたようなここの近くには、先ほどの場にもいたエルフ耳の女性方がお茶している姿や、他の首輪付き女性の姿がある。

 離れた場所で奏でられる竪琴に似た楽器の調べがここまで届いていた。

 少女ヤマダの初夜準備のために訪れたこの一帯は後宮のような扱いのところらしく、エルフ耳女性方は俺が召喚された大広間のあるお城、そこに住まう王家と神に操を捧げた王侯貴族の巫女達であるとのことだ。

 操を捧げる対象として真っ先に王家がくる辺り、ここ王族とやらと宗教の内容が垣間見える。


 ここはそんな後宮の内に設えられた、サロンのような場所みたいだ。


 首輪付き女性は彼女たちの聖隷なのだという。

 召喚された俺や少女ヤマダは神子と呼称されていた。

 正直、名称の意味など今は考える必要はないだろうけど。


 今重要なのは、少女ヤマダの裸身を描くこと。


 重要だが、これ自体にあまり意味は無い。

 癖みたいなものでなにか絵を描きながらの方が思考がまとまりやすいというのもあるが、彼女のロリ体型を見てたら描きたくなったから描いているだけだ。


 これが俺のもう一つの能力『描画』である。


 俺の家には両親がいない。


 姉三人と末っ子で長男の俺の四人家族で暮らしていた。

 一家揃ってオタ趣味であった家の両親が事故死し、当時大学生だった一番上の姉が大学を辞めて仕事を始めると、二番目の姉も高校に通いながらなぜか漫画を描き始め、一年後には賞をとってきて漫画家になっていた。

 当然のように長女以外はその漫画家業の手伝い。

 長女も仕事が休みの日は手伝い。

 気付いたら長女は仕事を辞めていて、家は完全に漫画家一家になっていた。


 鈴木が四人で、鈴鈴森・鈴・鈴木。リリモリー・R・鈴木といえばそこそこ売れている漫画家だと自負している。

 俺はそこで主に背景や小道具やメカ・クリーチャーなどを担当していた。

 キャラ絵の画風が姉たちと少々違うのと、そういった物の方が得意だったからだ。


 ちなみに二次オタに傾倒しすぎて、俺はずいぶん前から現実の女性には性的興味を失っていた。

 これは姉の姿を見て育ったからというのもあると思う。

 ヤツら家族しかいないのをいいことに、自らをデッサンモデルにするために裸でポージングとってたりするし、俺も脱がされる。

 二番目なんて何かにつけて身につける物を邪魔だとして、普段着は裸エプロンだ。


 バカみたいで本当にバカな家族だったけど、もう会えないと思うと、自然と謝罪の言葉が漏れ出てくる。ごめん。


 俺は小さな頃から絵ばかりを描いていたし、手伝いとはいえ仕事ととして最初から自分の分の給料をもらっていた。

 最近では個人でもソーシャルゲームを主としたイラストの仕事を請け負っており、金銭的な面だけであれば半ば自立している状態であった。

 性欲も現実の女性に向かず、ぶっちゃけ二次エロじゃないともう無理というレベルだ。

 二次元だったらいくらでも恋人がいるので、俺自身の認識はリア充である。


 こう言うと同じ趣味連中でも負け組っぽい認識を持たれるとは知っていても声を高らかに宣言してやる。


 俺はリア充である。


 ただ学校では勉強、家では仕事という状態だったので、絵を純粋に楽しむとかなにそれなのは姉ちゃん達によく心配されていた。

 俺としては空いた時間にゲーム出来るし、MMO仲間待ちながら仕事するのもオツなものなので気にしていなかったが。

 遊ぶための時間捻出でモチベ上がってたし、忙しいときはゲームの街中にキャラクター立たせて喧噪ログをチラチラ見ながら、たまにかわいい子見つけて見抜き想像とかいろいろ捗る。

 片手で絵描きながら片手でコントローラー操作して街中で補助魔法発動させまくりのスキルレベル上げとかあるある。


 まあ、だからこそ、この『描画』と名付けた能力が付与されたのだろう。


 内容はまんま、俺だけに見えるPCソフトのイラストツールみたいな画面で絵を描くだけである。

 絵自体も俺にしか見えない。

 空気中どころか地面にも人体にも流れている魔力を絵の具に見立てて、それで絵を描くだけの能力だ。


 一応魔力を利用して描くので、火を描くなどして指向性を持たせればそれを魔法として使うことは出来るのだが、事前に俺の体がやった際にはしょぼいライターみたいな火をおこしただけであった。

 でかい絵を描いて大量の魔力を消費できればもっと大きな火にも出来たのだろうが、でかい絵を描くにはその分時間がかかるし、それなりに丁寧に描かなければ効果が現れない。

 炎が出る魔法の杖でばーんした方が断然効率的だ。


 そう思って、エルフ耳達は俺を切ったのだろう。


 とはいえこの能力は今の俺にとって最高の能力ともいえた。

 だって、幽霊みたいなこの体だと実際の筆握れないんだもん。

 操作権がないキャラクターを前になにもしてないとか、超手持ちぶさた。

 なので考え事をしながらも、ついいつもの仕事のノリで絵を描き始めてしまったのである。


 あとね、なんかね、肉体の枷から外れたせいか、なんかいつもより凄い筆早い。

 超捗る。

 快☆感ってレベル。


 姉ちゃん達の裸は見慣れているが、初めて見る他の女性の生裸はさすがの俺でも少々興奮する。

 しかも顔立ちは二次化すればなかなか映える美少女だ。

 これで体型がロリでなければ最高であった。

 いや二次元的にはロリは最大派閥でさいつよなんですけどね。とりあえずロリキャラをキラキラロリロリさせながらエフェクト入れておけば大きなお友達が色々と支持してくれること間違いナシですし。

 でも俺ロリ派じゃないんで。

 まあ俺ぐらいになればデッサン中に体すげ替え余裕どころか無意識でやっちゃってますけど。


 でも今回はこのロリ体型のまま描きたい。

 かわいげの少ないキレイ系のつり目って大人びた印象を与えやすいから、ロリ体型と掛け合わせるとバランス悪くなることが多いのだが。

 ううむ、背が小さいだけでスタイル自体は均整がとれているな。

 あと太眉のせいかそこで幼さが増して、これでバランスがとれてる感がある。

 ……なによりも、まな板かと思ったが想像していたよりもあった。

 予想していたAマイナスから目測B程度の差とはいえ。

 それにさらし派とか初めて見たぞ。

 しかもこの腹回りと腕回り、背中もか。脂肪が薄く、かといって骨が浮きすぎてるわけでもない。

 目立つ傷はないが相当体を鍛えてるようだ……なにもんだこの娘。


 そうこうしている内に長い時間をかけた湯浴みが終わり、少女ヤマダはナイトガウンみたいなローブを着せられ、先に一度だけ来ていた、死霊兵スズキの骨塊を置いた部屋へと戻らされた。

 洗われ水気を含んだ長い黒髪は、三つ編みの跡が取れないというよりもそういう髪質だったのだろう、ウェーブを含みながらもちょこちょこと跳ねていた。

 ここで待てということらしく、湯浴みを手伝った聖隷の女性が退室する。

 俺は少女ヤマダ正面全身裸婦画をなんとか完成させ、彼女の魅了を解くための準備を始める。

 とはいっても基本プランは出来上がっていた。


 内容は単純だ。俺のこの描画で魔法を使い、首輪を破壊してしまうだけ。

 だがこれには問題があった。


 この能力、実は元々は俺のものではない。

 もっと正確に述べれば、これは俺の体が持っていた能力なのだ。

 それが俺の体の死亡と同時にこちらの俺に譲渡されていたものを、今使っているだけなのである。

 もし体の方が死ぬ前から俺の方が使えていればあの状況を切り抜けられた可能性もあったのだが、過ぎたことは今はいいだろう。


 そして使えるといっても、この能力の絵を描く部分だけが使えるだけなのである。

 魔力で描いたものを魔法にする技能、または発動スイッチにあたる部分は未だ俺の肉体、つまり少女ヤマダが使役している死霊兵スズキの方にあるようなのだ。


 能力の使用権が俺に移っている理由は、エルフ耳達が言っていた同時召喚者死亡による能力譲渡が関係あるのだろうと予測できる。

 魔法発動に関してはゲーム性の問題だろう。

 昨今のタッチペン式体感ゲームなどにも見られるように、魔法発動のための作業をするのはゲームプレイヤーだが、何かを実際にそのゲーム内で魔法を発動させるのはゲームのプレイヤーキャラクターなのである。


 これに気付いたのは彼女が死霊兵創造を使用した際、そのステータス表記にパーティー編成中のアイコンと、リーダー権限アイコンが表示されたからだ。

 パーティーメンバー項目を開いてもメンバーは彼女と死霊兵スズキ一体のみであったが、メンバー兼使役モンスター表記された死霊兵スズキの使用可能スキル欄に描画魔法、つまり描画で描いた魔法を起動させるためのキーがあった。

 これと同じものは無事だったころの俺の体にもあったのだが、同時にそこには描画のスキルもあったので、無くなったものはどこにいったのかと考えたら自然と自分が使えるようになっていることを理解できた。


 なによりこの描画魔法、以前の俺の体や少女ヤマダのようにアイコンが灰色になっていない白、つまりこちらからの使用決定が可能となっていたのだ。


 当然と言えば当然だが、すでに死霊兵となった俺の体には首輪は残っていない。

 骨片になった際に外れ、床に転がったままになっていた。

 残っていたとしてもあの魅了効果が骨にまで適応されたとは思えなかったが。


 なんにせよ先ほどの浴場では周囲の目があったし、首輪が俺の体が受けたあの炎でも歪んでいないことを確認していたので、もっと強力な攻撃でもない限り壊せないであろうことはわかっていた。

 そしてあんまり強力だと少女ヤマダを傷つける可能性が高いのもあった。

 だから壊せるだけの威力を持たせるための魔力と、そのせいで少女ヤマダが傷つかない方法が問題だったのだ。


 そして問題はまだある。

 首輪を破壊できたとして、魅了の効果がそれで切れるとは限らない点だ。

 ゲームでは魅了効果のある装備が登場することはなかった。

 魅了は敵が使う魔法などの効果でしかなく、基本的には一時的なもので時間経過か状態異常回復魔法などで解呪可能なものであった。

 上位エネミーの中には一度かかったらそのキャラクターを戦闘不能状態にしないと解けない魅了攻撃持ちもいたが、他の者達も首輪を付けっぱなしにしているのを見る限り、そういうわけではなさそうだと予測できる。

 だが首輪の破壊だけでは魅了が解けない場合、魅了されたままの彼女が異常を周囲に知らせてまた首輪を求める可能性がある。

 故に首輪破壊と同時に魅了解除もしないと意味がないかもしれないのだ。


 状態異常回復をどうするかは、スキルツリーとそこにゲームと同じ名前の魔法群があるのを確認していたので、すでに実験をしてそれが可能かどうかの目処がついていた。

 俺自身は魔法を覚えることが出来ない。

 少女ヤマダは俺を倒した経験値で大幅レベルアップしたとはいえ魅了解除可能な魔法『祝福・正常化4』を覚えることは未だ不可能であり、可能だったとしても今彼女が覚えところで意味はない。


 だがここでこの魔法がスキルツリー内とはいえ存在するという意味と、俺の持っている能力を考えれば自ずと答えは出てくる。


 ゲーム中、魔法を発動する際に必要だったのは、呪文ではなく魔力量(MP)発動までの時間(キャストタイム)だけであった。

 そして発動した際に現れるものは、発動したことを示す魔法陣のエフェクト。


 杖を使ったときと、俺の体がライターのような火を描いて直接魔法を生み出したときは、魔法陣なんて出てこなかった。

 燃える俺の体から熱を遠ざけるために聖隷達が起こしていた風の魔法にも魔法陣などはなかった。

 召喚の時に出てきた魔法陣ぽいものも、ぽい感じというだけでどちらかというと複雑な形をした無数の球状ひび割れの集合体みたいな、矛盾した立体的な図(・・・・・)柄であった。

 実際には作ることが不可能な騙し絵を本当に作り上げたみたいな、数式的に存在するけどリアルには存在しない図形みたいな感じだ。

 少なくともフリーハンド感皆無だったし俺には描けん。

 だが少女ヤマダが死霊術を使ったときに現れた魔法陣は、どういうわけか魔法陣らしい魔法陣であった。

 さらにそれはゲーム中でモンスターテイムに使われる契約系魔法の魔法陣と酷似していた。


 そして浴場で少女ヤマダが洗われている間に彼女から距離をとり、部屋に置かれたままの死霊兵スズキの骨塊で実験をした。

 結果は予想通り。


 覚えている限りの非破壊系補助魔法は、相応の魔力を込める必要はあるが、その魔法陣を描くことで発動したのだ。

 部屋が荒れるとマズイので物理的な攻撃力があるものは控えたが、おそらくこれらも使用可能だと思われる。

 そして俺はあのゲームの設定資料集で、魔法陣のパターンを見て覚えている。

 魔法陣としての特色を出すため、複雑にしすぎるのではなく記号的な簡略化を図っていたあれは、パターンを覚えてしまうと簡単に描き出せるものだった。

 しかもスキルツリーの見栄えのためか各種魔法アイコンはそれぞれの魔法陣となっていて、現時点でも調べようと思えばいつでも調べられる。


 死霊兵スズキは生前の体以上に魔力が少ないので、このままでは『祝福・正常化4』の魔法は使えないが、この描画魔法にはそのための抜け穴があることも確認済みだ。


 描画は周囲の魔力を使って描く能力だ。

 魔力は空気中や土中にもあるが、これらの魔力は水に溶かしたみたいに色が薄く、そこそこ高位である『祝福・正常化4』の魔法を使うには広い範囲からかき集める必要がある。


 だが、少女ヤマダの魔力があればどうだろうか。


 俺は少女ヤマダの魔力を使って描いた、傷一つない彼女の裸婦画に、同じく少女ヤマダの魔力で破壊された首輪の絵と、『祝福・正常化4』の魔法陣エフェクトを描き重ねた。


 死霊兵スズキを操作して、魔法を発動させる。


 ベッドの端に座っていた少女ヤマダを魔法陣と光が包み込み、魔法陣と光が同時に砕けて散った。

 首輪が彼女の首からぼろりと落ちる。

 着ていたローブも完全消滅して推定Bのちっぱいがポロリされる。

 描いた物のとおりになるということで、理由は言わずもがなであろう。

 わかってて描いた。


 光に驚き顔を伏せ目を瞑っていた少女ヤマダが、眼を開いた。


 瞬間、彼女の姿がその場からかき消えた。



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