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※7 どんぐり美味しいと言ったら小学校で可哀想な目で見られた思い出



 タマが出した対案は十分に彼女の条件を呑むに値する結果を出した。


 やったことは簡単だ。


 俺たちは『押し入れ』を出る前、死霊兵スズキのステータス自由値をVIT、MND、STR、CONなどに振り分け、元から高い防御力をさらに強化した。

 MNDは魔法系の防御力に大きく関係するし、STRも攻撃力だけではなく防御力にも関係してくる。

 元々これは俺が考えていた死霊兵の強化案とも離れていなかったので、渋る理由はなかった。


 その強化された死霊兵をタマが着込む。


 彼女の注文に沿い俺が実用性重視でデザインしたものだ。

 人体の主要器官は守る必要があったが、四肢は例え吹き飛んでもなんとかなる。胴体を守るためのレオタードと頭部を守るための目出し帽。四肢に這わせた帯は彼女の注文を反映させた結果だ。


 タマが構想したのは、死霊兵スズキのステータスやスキルをタマが扱うというもの。


 タマは死霊術士として、自身が生み出した死霊兵スズキを自在に操ることが出来る。

 それこそ下手な金属よりも固い骨片を全身タイツ状に纏い、まともに動けるはずもない硬度の骨片一つ一つを連動させて操り動けるくらいには自由度が高い。


 もともと死霊兵スズキのステータスは物理防御関連に特化されていた。

 物理防御力には筋力値とも訳されるSTRも関わっている。このSTRだが、城から逃げるときにタマのステータスもAGIと一緒に上げていた。足の速さや行動の早さにはAGIだけではなくSTRも必要になるからだ。だが死霊兵スズキのSTRは防御のための補助分とはいえ、タマのそれをとっくに凌駕する数値になっている。タマは自由値分を移動速度のためにAGI、STR、CONに振ったが、基礎ステータスはMATお化け状態であり、その数値の反映を受けている死霊兵スズキのステータスもバカみたいに高くなっているからだ。これもあって城にいたときは自由値を割り振らなかった。

 なんにせよだ。そのステータスの自由値もさらに割り振った死霊兵スズキの防御能力は非常に高く、同時に付随して高いSTRやCONによって攻撃力もなかなかのものとなっていた。というか近接物理攻撃力に大きく関わるステータスが、優先順位が違うだけで物理防御力と同じSTR、CON、VITの三種だったのだ。必然的に死霊兵スズキの物理攻撃力は相当高レベルのそれになっていた。


 その死霊兵スズキを身に纏い、自分の体の一部として扱う。

 いうなればよくロールプレイングゲームにある、防具にステータス上昇の付属効果がついているようなものだ。いや、魔法で動くパワードスーツの方が正しいかもしれない。


 タマのステータスはMATとAGIに特化している。

 MATは最初から備わっていた部分ではあるが、そこにさらにレベル上昇分の自動振り分けで魔法関連のMAT、MND、SESが上がっている。城での走り込みもあったのでAGIなどにも入っているが、多くは最初のサロン爆破で上がった部分なので魔法関連が強い。

 そして逃げるために自由値で割り振ったAGIとSTRとCON。このうち特に高くなっているのが敏捷性であるAGIだ。


 彼女が全身タイツとして死霊兵スズキを纏ったときに俺も気付いて然るべきだった。


 魔法と速度重視のキャラに、防御と物理重視のキャラのステータスを重ねた状態。


 それが死霊兵スズキを着込んだタマの現状である。

 ゲームでの実行値とされる攻撃力や防御力は、色んなステータスが高い方が最終的に高くなりやすい。つまり今のタマは完全に人間離れした攻撃力や防御力、速度を得るに至っているのだ。


 ちなみにまだ死霊兵スズキのスキルツリーは少ししか進めていない。城にいたときに取得させた体術ツリーの初期スキルをいくつかだけだ。『拳武術・正拳突き』は数少ないその内の一つだ。

 先の戦闘は強化されたステータスと、ほぼ彼女が自分で鍛えた技術によるもだったのだ。


 この娘の家、実は古武術道場を営んでいたんだそうな。


 どこのラノベ主人公なんですかねえ。


「体格に恵まれなかったこともあって、何かあった際の逃げるための技術くらいしか私はまともに習っていないけどね。

 でも基本的なところは一通りやっているし、いつも見ていたから、徒手空拳でもそこそこ出来るつもりだよ」


 とはタマの弁。

 まああれだけやれれば十分すぎると思う。いくらステータス的に強化されていようと、スキルによって動きと威力に自動補正がかかろうと、不気味生き物の上半身を吹っ飛ばしてそのまま追撃かけるとか、そこそこ出来るだけの(たま)じゃ無理だと思う。エルフ耳共をやったから踏ん切りは付いてるんだろうけどさ。


 余談だが、『拳武術・正拳突き』などの物理ツリーから得られる技スキルと呼ばれるものは、戦闘継続中に行動することで得られるタクティカルポイント(TP)魔力量(MP)を消費して発動させることが出来る。

 TPは敵への攻撃もしくは攻撃を防御することによって貯まり、ゲームの中では相互の魔力が衝突する際に周囲に発生するエネルギーであるという設定だった。その設定上戦わない状態で時間が経過するとTPは拡散してしまうし、逆に戦っていれば敵にもTPが貯まる。大きく場所が離れること(エリアチャンジ)によってもなくなっていたのだが、それはこの世界でも同じようだ。『押し入れ』に入ったらTP消失しちゃってたからね。

 おそらくTPはこの世界だとタマだけのもの、もしくは『RPGシステム』だけに存在する概念と思われる。俺の『描画』視点でも特に周囲にそれらしきエネルギーを確認出来ないからだ。

 まあ見えないだけかもしれないけど。

 そしてそれがどちらにせよ、バカみたいな量のMPを持ち『押し入れ』で瞬間回復出来るタマにとって、このTPシステムはあってもなくてもどうでもいいものであることに変わりはない。

 一応ゲーム中だとTP使用の方がMP使用より色々と効率が良かったんだけどね。ゴリ押しって楽でいいよね。


 防御に関しては鎧と化した死霊兵スズキがどうにかしてくれる。攻撃に関しても死霊兵スズキが獲得した物理スキルの使用がタマの自由となっており、消費されるMPも消費した先からタマがスズキに補充可能ときている。必要になるのは|再使用可能になるまでの時間リキャストタイムくらいなものだ。

 斯くして、懸念材料であった戦闘能力はとりあえずは大丈夫だろうとなったのだ。


 『描画』による『押し入れ』の「いしのなかにいる」対策機能を利用した緊急回避と不意打ちも成功した。

 回避と全回復と立て直しを同時に行えるとか、完全バランスブレイカーだよねこれ。


 ただ予想されていたことではあるが、『押し入れ』に入ると発動待ちしていた魔法がリセットされて魔法陣が消えてしまったのは少し残念だった。原因はゲームとしての設定部分だろう。魔法詠唱が別の行動やエリア移動でターゲットカーソル消滅と共にキャンセルされるのはあるあるだと思う。

 これが出来れば魔法セットだけして『押し入れ』入るだけの簡単なお仕事になったのにね。


 あれから俺たちは魔法で水をかけて消火し、タマのこぶし大はある大きなドングリを五個ほど抱えて『押し入れ』に戻った。

 ついでに槍一本と黒い奴らの腕一本、攻撃を受けたときに切れてしまったタマの髪も回収した。

 幸いなことに黒い奴らの追撃はなく、普通に『押し入れ』に入ることが出来た。


 白鱗レオタードごとシャワーを浴びて汚れを落としたタマが問いかける。ちなみに完全に水分は弾かれていて、これ以上透けることはないようだった。まあ元々ちょい透けてるんですけど。色々濡れて艶っぽいんですけど。


「どうだいウルくん、追加実験の内容は」


(……たぶん、生きてますね。『押し入れ』はタマさんが許可すれば生物を入れることも可能だということですね)


「次は私たちが出た後にどうなるか、か」


 一個だけだが、あえて中に虫が入っているドングリを持ってきたのだ。

 そいつは大きなドングリの中を食べきって成長しており、タマが持ったとき重心のバランスがおかしいといって俺が確認して発覚した。まだ中に入ったままだが、見た目は巨大なカブトムシの幼虫であった。

 他は虫が入っていないことを確認済みである。小さなのは見過ごしている可能性があるが、まあそれはそのときだろう。


「問題は毒だな。固い殻を持ち、その中身を虫が食べているのだから、日本基準だと大丈夫だとは思うけれど」


(こればかりは異世界の謎ドングリですからねえ、ちょっと判断が付かない部分ではあります)


「神子達がいたところと同じ世界なら、彼らが生きていたわけだし、基本的な食事事情は場所が変わってもどうにかなるレベルだとは考えられるが……」


(考えても仕方がないでしょう。この中だと傷が自動回復しましたし、例え毒があっても大丈夫だとは思います。

 一応解毒の魔法陣も描いてありますから、異常を感じてすぐに治る気配がなければ退出。外で俺が解毒魔法を試し、即座にまたこっちに来る感じで)


「一応確認するけれど、食料を加工する魔法なんかはない?」


(ゲームにも生産系はありましたけど、調理は決まったレシピでやるだけでしたから。魔法やスキルではなかったんですよねえ)


 ドングリは数日流水にさらすか煮続けて渋みを抜かないと食べられた物ではないと、中学のころの社会科教師が話していたのを覚えている。縄文時代とか、ドングリ食べるために土器が発達した面もあるとか言ってたなあ。


「なんでもいいか。お腹空いてもうどうにかなりそうだ。

 包丁入らない……やたら滑るし、スズキくん着たままなのに固いと感じるほどなんだけどコレ……」


(ちなみに殻の厚さは五ミリはありますね。表面に魔力が流れていて、それが固さとつるつるの秘訣だと思われます。虫食いのはそれがありません)


「その情報に腹が立つのは、理不尽だとわかっていても抑えられないものがあるね」


 タマが苦心して分厚い殻を剥き、荒く潰してざっと虫がいないことを確認。それをフライパンで炒ってみる。一個でも結構な量だし、油がないので不安だったが、置いてあったのはどうやらフッ素樹脂フライパンだったらしい。思ったよりは焦げつかないで済みそうだが、茹でる方がよかったかもしれない。でも鍋がないから底の浅いフライパンで無理やりしか出来そうにないんだよね。

 ちなみに炒めることで渋み抜きになるとかかんとか。タマが曾祖父から聞いたことがあるらしい。


「これだけなのに、すごい美味しそう……」


 タマの呟きにつられ、絵におこしたものから俺もニオイを確認してみる。


(なにこれ栗そっくりな香りじゃないですか。ちょっと毒味を)


 描き上げたもののデータを舐めてみた。


「どうだい?」


 焦ったようなタマの問いに、淡々と答える。


(『描画』によってニオイだけではなく味も知覚出来ることが確認出来ました)


「わかっているんだろう? 私が食べても大丈夫そうかい? 本当にお腹が空いてどうにかなりそうなんだ」


(栗そっくり)


 冗談じゃないですよと言う前に、彼女はフライパンから直接手づかみで口に放っていた。


 ちょっと引くぐらい必死な顔ではふはふした後、表情が溶ける。

 溶けたと思ったら次を口に運んでいた。


(もうちょっと火を通した方がよくないですか? まだ毒の有無も分かっていませんし)


 咀嚼しながら火力を高くすることで答えるタマの姿にさすがに憐憫の情が湧いてくるが、俺ではこれはどうにもならない。フライパン焦げ付くからほどほどにしましょうねー。

 一応はまだ理性が勝っているらしく、その後タマは水を飲むと親の敵でも見るような目で丁寧に炒り続けた。


 さすがにもう大丈夫だろうと判断したのか面倒になったのか、一度強火にしてフライパンに押しつけ焦げを作った後に火を止め、炒りドングリを茶碗に移し替えると、いただきますして噛みしめるように食べていく。


 その間、タマちゃんマジ恍惚の顔である。


 俺もまた『描画』して確かめてみたが、もうこれ地球は日本国で食べた某コンビニの期間限定濃厚マロンプリンだよね。ちょっとだけ苦みがあって、でも甘さがヤバイ。酒入ってんのかってくらい香りもヤバイ。実食できないから歯触りはわからないし高いケーキ屋のマロン物食べたことないし語彙もないけど、とりあえずこれうめぇ。自分で描いた絵をべろんべろん舐めることになるとは思いもしなかったよ姉ちゃん……。


 結局、ログはもちろん、状態異常があれば表示される場所には特にこれといった変化はなく、タマも異常は感じなかったそうだ。


 この後、虫入り以外の他三つも炒めて食べきった。


 まだ外には同じドングリがいっぱいあったので、当面の食料もどうにかなりそうである。




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