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※6 食い物とったどー



 百聞は一見にしかず。


 そう語ったタマはいくつかの準備の後、『押し入れ』から出た。


 出てすぐ、こちらに来て最初に飛び乗った太い枝に降り立とうとしたが、枝は黒い棒状の何かに取って代わられていた。

 足が空を切る。

 彼女は慌てることなくその黒い棒を掴み、片手で体を持ち上げると、棒の上に立った。普通の高一女子には不可能な動きだろう。タマが言ったとおりである。

 どうやら黒い槍状のあれが枝に当たってはじき飛ばし、代わりにそのまま槍が刺さっているようだ。昨日の包丁も刺さったままである。

 と同時、四方八方からまた黒い槍状の何かが飛んでくるのがわかった。

 一晩明けて少なくなるどころか、明らかに増えている。

 肉体に依存しない俺が来ると警戒していたからこそ知覚出来るような飛翔速度である。

 俺はいつでも『押し入れ』に待避できる準備をし、この先もタマが言ったとおりになるのかどうかを見極めようと、彼女を注視していた。


 彼女は最初から死霊兵スズキを身に纏っていた。

 だが、昨日見せたような全身鱗タイツ姿とは少し異なっている

 バレエの白いレオタードに似ているかもしれない。そのレオタード部分から骨と筋肉構造に沿って幅一センチほどの白い帯が伸び、間接部や手足の先を守っている。当然、一番の人体的弱点である頭部は目出し帽状態である。髪が後ろに出るようになっただけマシか。だが変態度はどっこいどっこいだろう。


 タマは迫る黒槍の群れに目をやり体を捻ると、一気に地面へ向けて幹の上を駆け下りた。

 垂直に走っているのに足裏が幹から離れることはない。運動エネルギーがほぼ完全に進行方向へのみ作用している。人間離れした動きである。そして城でステ振りして逃げていたときよりも明らかに早い。一番重要な実験が成功確定した瞬間だ。

 巨木の表面を駆け、地面スレスレのところで垂直に幹を蹴りつけると、今度は地面と水平に飛んで移動。隣の木の幹にぶつかる直前、猫のように全身のバネを使ってその幹へ両手両足で着地。しかし勢いが殺しきれず体が流れ欠けるが、手足の指を立てて掴み急制動。反動で浮き上がりそうになった体を握力だけで押さえ込み、顔を上げて一点を睨みつけながら即座に地面へと降りて低くしゃがみ込む。

 そのころには最初にいた木へと無数の黒い槍がタマの移動ルートを辿るように突き刺さっていた。

 一歩遅れてタマの睨んでいた方向から飛んできた槍が、彼女の現在地、そのやや上の幹に突き立つ。

 色以外競技用の投げ槍に似ていたそれは、木の表面にクレーターのような穴を作りながら奥深くまで入り込んでいるようであった。

 だがタマは頭上のそれを無造作に掴むとベギンっと音を立てて抜き取ってしまった。

 黒い槍は全長二メートルくらいで、やはり競技用の投げ槍に似ていた。よくしなり、全体が一つの素材で出来ていて金属のような光沢があった。先端部付近に小さな返しが無数に着いていたようで、ギザギザの周囲に木片がこびりついている。


 巨木の下の地面は背の低い草、というよりもこれは背丈のある大きなコケか。そんな植物に覆われており、酷く湿度が高くて薄暗い。種類はわからないが巨木は枝葉のまばらな種類のようで、そのおかげか多少は太陽光が届くようであった。


 抜いてすぐ、タマが巨木を回り込むように横に跳ぶ。

 相当な勢いで跳んでいたが、巨木の影から出ることはなかった。肉体を使いこなせているのだろう。

 元居た場所周辺にまたも黒槍が突き立つ。だが数は少ない。側の巨木が邪魔になっているからだ。

 すでに俺はタマを視界に収めながら移動を開始し、先の射線上を追っていた。

 地に降りてから最初の一撃は地面とほぼ水平であった。この巨木の密度だ。必ず敵は近くにいる。

 考えるが早いか、それらしき存在を捕らえた。


(距離五〇地点で発見。黒い人外。虫とかげ人間。しっぽ含めて全長六メートル以上)


 情報をログに流す。

 俺の目の前には人間の髑髏に角を生やした様な頭部とワニの様な長い尾を持ち、鱗とも甲殻ともつかない物に覆われた昆虫に似た何かがいた。その様相は正しく悪魔のようである。


 そいつは合計八本の手足を持ち、人間の腕によく似た四本で黒槍を、残りの四足で地を叩きながら尾を揺らし、タマへ向かって移動していた。

 早い。

 だがさっきのタマよりは遅――


(っ上からも来ます! 近い!)


 俺からは障害物を無視して見る事が出来るタマの姿が動く。

 そこに上空――木を伝って飛び降りてきた、目の前にいる昆虫悪魔と同じ姿の怪物が降り立ち、持っていた槍を地面に突き刺す。

 そいつはそのまま、別に持っていた槍をタマに向けた。

 目の前にいた昆虫悪魔も、木の陰から飛び出した彼女へと槍を投げつけていた。他からも槍が飛んでくる。


 タマは目の前の敵が向ける槍を片手で掴み、膂力でもって逆にそれを伝い前進。持っていた槍をそいつの頭部に突き込んでいた。

 槍が黒い髑髏面を貫通する。

 さらにタマが槍を手繰り寄せるように懐に飛び込み、投げつけられていた槍の一部を回避していく。

 それでも躱しきれない一本がタマの背中に当たったが、衝撃でわずかに体がぶれただけで槍ははじき返され、その勢いもあって彼女は貫いた昆虫悪魔の下に潜り込んだ。

 そんな彼女に向けて、頭部を貫かれたはずのそいつが打ち下ろしの拳と膝蹴りを同時に放ってきた。

 対してタマは手首を掴んで拳を逸らしつつ、膝をもう一つの拳ではじき返してしまう。

 はじかれた膝はそこから先が砕けてちぎれ飛び、掴んでいた手首を逆方向へと捻り砕きながら、さらに追加で迫っていた拳を掴んで引き寄せ、その体を無数の黒槍の盾にした。


 一体目と戦っている間に他の個体が近付いてきていたのだ。総勢七。


 だが――


(ぼかん)


 喋ることが出来ないタマからログだけが流れた。

 同時、俺が仕込んでいた『炎熱・爆炎1』が起動した一体が、上半身外骨格の隙間から火を吹き出して燃え上がる。


(ぼかぼかぼかん)


 あのような状況の中、彼女には画面端に生まれる魔法のキャストタイムバーを見ている余裕があったらしい。

 最初のに若干遅れてだが、ログに合わせて三体分、同じ光景が生まれる。


 残りの三体は俺が最初に向かった方角からは遠く、魔法陣の仕込みが遅れていた連中だ。


 仲間の状況にも目もくれず、その体から槍を抜くのは遅いと判断したのか、そいつらは当然のようにタマに身一つで躍りかかった。


 腕を広げ、ハリネズミになった仲間の屍骸と自分とでサンドイッチの具にしようとするもの。

 その後ろから長い尾をしならせ、叩きつけ、パン志望者のダメージも無視して加速させるもの。

 タマにとっての最善の回避ルートへと回り込み、腕を振りかぶるもの。


 逃げ道はなかった。


 だからタマは一言、ログを流した。


(ウルくん)


 おそらく奴らの認識からするとタマの姿が一瞬で消え、わずかな時間の後に二枚のパンをはじき飛ばしてその中央に再度現れたようにしか見えなかったはずだ。

 実験がもう一つ成功。


 はじき飛ばされたパン――仲間の昆虫悪魔にぶつかり、尻尾を叩きつけていた昆虫悪魔が一緒になって吹き飛ぶ。結構な威力があったらしい。

 回避ルートを塞いでいた昆虫悪魔は空振りで打ち下ろした腕の反動を使って、躊躇無くタマへ突っ込んできていた。

 タイミング的には遅ればせながら仕込んでおいていた『炎熱・爆炎1』が発動していたはずであった。

 だがそこにはすでに置き土産にしたはずの魔法陣はない。あったはずのキャストタイムバーもない。

 実験の一つが失敗。


 全身のバネを使うように八本の足で地を叩き、髑髏の顎をいっぱいに広げて噛みつこうとしていたそいつは、わずかな光を身に纏い身構えていたタマの正拳突きで上半身が吹き飛ばされることとなった。

 体術ツリーの初期スキルである『拳武術・正拳突き』のあんまりな威力に、俺は唖然としてしまう。

 実験がまた一つ成功。


 そのまま続けて横蹴りを放ち、残っていた下半身を吹き飛んでいた二匹へとぶつける。

 もつれ合い行動が遅れていた瀕死の一匹と比較的元気な一匹はそれでまた態勢を崩し、そこへ地面に刺さっていた槍を引き抜いたタマが投げつけた。

 槍は奴らを一つにまとめて木に縫い付けてしまったが、威力がありすぎたのか根本近くまで刺さっている。

 それでもどうにか抜け出そうと元気な方が藻掻いていたが、そこで発動する『炎熱・爆炎1』。

 はじけて燃え上がり、完全に絶命した。ログにも流れたから多分大丈夫だろう。


 周囲を警戒する。


 警戒する。


 鳥の囀りどころか、虫の声一つ無い。あるのは昆虫悪魔のなれの果てがパチパチと燃え上がる音だけだ。


(ウルくん)


(はい)


(これ、食べられると思うかい?)


(無理。さっき木の上になんかドングリみたいなのあったから、それにしましょう。

 こんなに派手にやって。このままここにいると多分こいつらの仲間が来ます。さっさと行動しましょうか)


(上手くいったことを褒めてくれてもいいと思うんだけどなあ。

 私かっこよくなかった?)


(めっちゃ格好良かった)


 でもやっぱ、うっすら透ける白い鱗水着に目出し帽は変態だと思うの。




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