※5 尸解仙はバンカイしたい
「根を詰めるとどうしても食事を忘れることが多くなってね。最近はめっきりなくなっていたけれど、引き籠もっていた頃は二食ほど抜くのはよくあったんだ。だからこれぐらいであればまだまださ。
いやあ、家族には随分心配かけたものだよ」
タマちゃんは食事抜き常習者だったらしい。
さすがに血糖値が足りないのか起きてからは三〇分ほどぼーっとしていた彼女であったが、シャワーを浴びて歯を磨けばスッキリしたのかそんなことを宣った。
ちなみに彼女は石けん派であり、シャンプーはリンスインだった。歯磨きはあったけど歯磨き粉はなかった。
集中するときに体がかゆいとイライラするんだよね、ということらしく風呂は好きなようだが、出会ったときもほつれまくりの緩そうな三つ編みだったし手入れをしている風でもなかった。身だしなみには気を使わない質なのだろう。
とりあえずこの子が背低いの、単純に成長期に食べてなかったからだろうなと思いましたまる。
とはいえこれ以上は危険であることには変わりない。
そのためタマの意識がはっきりたところで外に打って出るための話し合いを始めようとしたが、逆に随分と気合いが入った顔で彼女の方から話題を切り出されることとなった。
「スキル取得のことなんだけど、どうしても進めたいツリーがあるんだ」
タマから各種スキルツリーの操作はできないが、内容を見ることは出来る。
やはり何かしら気になるスキルがあったらしい。
(具体的になんです?)
「祝福を全てと、時空をスキル数で全体の八割付近まで。この二つは絶対に欲しい」
(……本気で言ってます?)
「もちろん、本気だ」
ちょっと想定外どころではない。
彼女の希望通りに行うためには、それだけでレベルがカンストするまでに得られるスキルポイントを最小で七割近く消費してしまう。
少なくともまだレベル半ばを過ぎたぐらいである現段階では希望を叶えることは出来ないし、現在あるスキルポイントもそのことを考えて注がなくてはいけなくなる。
なにより、祝福は回復魔法が主流の系統だ。『押し入れ』で完全回復出来るタマには不要といっていい系統だった。
もっといえば、そもそもタマには『RPGシステム』上での魔法はほとんど必要ない。
俺が魔法陣で描けばいいだけだからだ。
予定では不測の事態に備えることと初期は安く済むのもあって各種一割ほどまでと、とある理由から話し合い次第で時空を三割付近まで進めることも考えていた。だが彼女のスキルツリー進行は外に出た際の生存能力を上げるため、物理関連メインをお願いするつもりだったのだ。
(理由を伺っても?)
「ウルくんを生き返らせるために必要になるからだ」
(俺を生き返らせる目処は立ってると言ってましたけど、もしかしてこれがですか?
確かに祝福は回復系統が多い魔法ですが、最終の『祝福・神の寵愛』でも死者の蘇生は無理ですよ。
ゲーム中でも回復出来るのは戦闘不能までで、イベントなどでしっかり死亡確定した人は生き返りません。城にいた時に死霊兵スズキ自身で『祝福・神の息吹1』を試しましたけど、全然効果なかったですし)
『祝福・神の息吹』シリーズは俗に言う復活の魔法だ。
『祝福・神の息吹1』は祝福のツリーを一割進めた辺りで覚えることが出来る最初期復活魔法ということもあり、消費魔力もそこまでではないため、タマの魔力無しでもあの部屋にあった分だけで発動できた。
だが結果は今伝えたとおりである。
その実験中のログもまだ残っているし、独り言も呟いていたので、彼女が知らないわけがない。
まああれは死霊兵になった状態だったので、死霊兵を解除してただの骨にしなければダメという可能性もあるが。
俺の発言に対し彼女は視線を宙に踊らせて何かを確認すると、頷いた。
「死霊術のスキルツリーはウルくんにも見えているだろう?」
(ええ。見えますね。呪怨と錬金の中間あたりやや時空魔法寄りに、ゲームにはなかったぐねぐねしてるのが)
スキルツリーの形状は、根っこのスタート地点から複数の木が三次元的にニョッキニョッキと生えているという形だ。
一本一本がスキルツリーであり、全ての木の高さが同じなので、最終的な絵面が球状になっている。科学の実験でよくあるプラズマボールを思い浮かべると近い。プラズマが四方八方へと球体内を駆け巡っているあれだ。
魔法も物理も同じスタート地点から生えており、ゲーム中では下側に魔法が五本、上側に物理が五本と、計一〇本の大樹がスキルツリーと呼ばれていた。さらにそれぞれのツリー内部も属性や系統、使用武器種類で複雑に枝分かれしているが今はそれは置いておくとして。
そんなスキルツリーの下半分を占める魔法ツリーの内、呪怨ツリーと錬金ツリーの中間やや時空ツリー寄りから生えた、ほとんど枝のないままぐねぐねと蛇行しつつ球体の上部に行き着いている存在しないはずの一一本目がタマの死霊術ツリーである。
「そこまで見てもその反応であることから察するに、死霊術スキルツリー最先端部分に使用不可の灰色になっている『仙術・地魂天魄現世乃尸解』のスキルアイコンがあるの、ウルくんには見えていないのではないか?」
言われたところを見てみる。
死霊術スキルツリーの先端には、すでに有効となり魔法陣のアイコンが紫に輝く『死霊術・黄泉招致』があるだけだ。というか『死霊術・黄泉招致』の説明文が地味に怖い。黄泉を招く。としか書かれていないんですけど、使うと何が来るというのか。
なにより、『仙術・地魂天魄現世乃尸解』とか。なにそれ死霊術の次は仙術になるのかよ。
だが彼女が言わんとすることはわかった。
(もしかして、俺には死霊術ツリーの未取得魔法は見る事が出来ない?)
「そのようだな。理由としてはおそらく『死霊術』が本来私の能力だからだろう」
逆にスキルツリーを彼女が操作できないのと同じようなものだといえる。
ていうか、死霊術に関連したスキルは全て最初から覚えているものだと思っていた。
だが、そういうことではないのだろう。
(さらにさっきの話ですと、そのスキルは解放条件が祝福全てと時空の八割という、悪い意味で破格条件の複合魔法ってことですか)
ゲーム中にも複合スキルは無数に存在していた。
それらはベースとなるスキルを覚えるなど一定の条件を揃えると今回のように未取得スキルとして表示されるようになり、さらに提示される条件をクリアすることで取得可能となる代物で、よくある属性剣のような物理プラス魔法の小技的なものから、逆属性複合で固定ダメージ化する範囲魔法や剣技と体技の連撃など様々なものがあった。
定額ネトゲ的な制限によりバランスブレイカーなほど強いものは存在しなかったが、普通のツリー取得スキルよりも少しだけ効果が高かったり初速が早かったりと使い勝手がいいものが多かった印象がある。
そう、既存のスキルよりちょっとだけ強くて使い勝手のいいスキルが増えるのだ。
課金によっての戦闘能力強化がほとんどない定額MMOでの話である。
つまりステータスの例と同じように、スキルも一つに極振りするよりもある程度ばらけさせた方が強くなれるということだ。
特殊な付与効果がされている武器の性能を引き出すには一定以上のその武器スキルが必要であったし、その付与効果が魔法効果○割アップなんて代物であったなら、その武器を装備できるように物理系ツリーも進めたプレイヤーは持てない魔法極振りプレイヤー以上のパフォーマンスを出せる場面が多くなる。物理特化も精霊ツリーを進めることで五大属性を得て、先の例にあった属性剣が使えるようになり、弱点を突いたり状態異常を起こすことも出来た。そんなゲームだった。
そのシステムは『RPGシステム』にも継承されていたし、基本的な生存戦略から考えてもタマ自身出来ることが多い方が生き残りやすいことは分かりきっている。
だからこそ多少の無駄は賛成どころかこちらから勧めるほどであったが、タマの安全に不必要とわかりきっている祝福全てに時空八割という条件が手痛すぎた。
一つのスキルツリーを制覇するのに使うスキルポイントは、レベルカンストまでに手に入るスキルポイントの約半分となっており、十本全てほぼ同じである。
つまり祝福ツリーを諦めれば他の有用なツリーを制覇出来るということでもある。
そして時空ツリーはほとんどの枝が後半九割以上からスキル性能が飛躍的に上昇する大器晩成型ツリーである。時空ツリー全体でスキル数の八割となると、消費ポイントの少ない序盤スキルばかりを覚えればツリー制覇までに必要なポイントの五割ほどで賄うことが出来るはず。だがそうなると、高ポイントだが非常に有用な終盤スキルを取りづらくなる欠点がある。
外に出た直後に行われた一斉攻撃。同じ物が来たとして、おそらくは死霊兵スズキの鱗タイツでも十発以上余裕で耐えられるだろうが、出来るのであれば回避するに越したことはない。
物理スキルツリーで体術と防御術を取得しておくことで、今のタマのAGIを始めとしたステータスであれば回避も可能なはずなのだ。
タマは帰らないと言っているが、元世界に逆さで戻ってきた彼女は一人だった。結局、俺は生き返れず、何かしらの理由で帰ってくるしかなったということだ。
いつかは一人になるのなら、一人でも生き残り安いようにしておきたい。苦労が少ないようにしておきたい。
だからなんとか諦めてもらえないかと考えを巡らせていたのだが、
「おそらくウルくんとしては物理ツリーの防御系統を覚えさせたかったのだろうけど、スズキくんを纏うだけでもそう易々と殺されることはなくなる。もし危なければ、ウルくん任せになってしまうが『押し入れ』強制退去すればいいだけだ。
『仙術・地魂天魄現世乃尸解』の内容は資格ある魂魄に蘇生の機会を与える。となっている。かみ砕けば、死者蘇生で間違いはないだろう。
私は絶対にこのスキルが欲しい。そのために、私自身が生き残ることへの努力は惜しまないつもりだよ」
なによりもね、とタマは続ける。
「物理ツリーを進めない対案は既にあるんだ」




