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※3 変態(曖昧さ回避)



 走馬燈なんてなかった。


 彼女が『押し入れ』に来て早々放った言葉であった。


「一瞬で視界がブラックアウトしたよ。あれが死ぬってことなんだろうね」


 脱力したようにどさりと座り込んだ狭い木造の室内で、タマが薄い胸部をさすってそんなことを宣う。

 その顔色は青い。やっと実感が伴ってきたのか、さすっていた手も傷口のあった場所を押すような手つきに変わっていた。


(あの傷だと心臓破裂してたはずですからね。マジ焦りましたよ)


 ほぼ胸部からちぎれ飛ぶような傷だった。普通なら助かりようがない。


「ありがとう。ウルくんの処置が的確で助かった。

 処置が遅れていた場合どうなっていたのかわからないが、先に『描画』で『押し入れ』に入れることを確認していたのは不幸中の幸いか」


 何があったかといえば、『押し入れ』から出た瞬間に黒い槍状の何かがタマを貫いたのだ。

 それを俺が『押し入れ』を発動させて、瞬間回復させたということだ。

 状況的にほとんど即死に近い状態だったと思うが、完全に死んでも『押し入れ』に入ったら復活するかどうかはわからない。ゲームであれば制限時間内に魔法などで復活できたし、最悪の場合でも多めのデスペナルティを払うことでホームに戻り完全復活できていたが、『鈴木潤一』がああなった時点でそれは期待できないだろう。


 心臓が破裂すれば血流や神経の問題で脳が瞬間的に多大なダメージを負うはずだ。だが精神的にどうかはまだ分からないが、外的にタマに残ったダメージはなさそうだった。


 死霊兵スズキの『防御術・身挺庇護』は発動していた。

 槍状の何かは、複数放たれていたのだ。

 一つを死霊兵スズキが受け止め、もう一つはそのままタマに直撃した。タマが反応だけでも出来て俺が即座に『押し入れ』に入れることが出来たのは、死霊兵スズキが『防御術・身挺庇護』を発動したログが先に流れたからだ。


(致命の一撃が複数ですね。見えただけでもおそらく同じ投擲攻撃が他に二撃、黒い点でしたが確認しています)


 タマの傷口の向こう、思い返せばそこに一瞬とはいえ小さな黒点が二つあった。

 肉体の枷がなく、その気になれば何倍も早く行動も思考も出来る俺ですら黒点に見えただけなのだ。感覚的にだが、おそらくは銃弾とそう変わらない速度での攻撃だろう。ものが大きかったら見えただけなのだ。


「下手人は?」


(森の中からで、姿はわかりませんでした。位置がばらけていたので敵は複数だと思います)


「同じようなレベルの攻撃が最低でも同時に四つ。厄介だな。

 早くご飯が食べたいのに」


 今し方死にかけたばかりなのに剛毅なことである。


(『防御術・身挺庇護』は一〇分のリキャストタイムがあります。早くても出るのは一〇分後にして下さい。

 どうやってか知りませんが、相手は確実に出待ちしています。

 次も同じ手とは限りません。分かっていても避けられない範囲攻撃の可能性がありますし、その場合『防御術・身挺庇護』でも防げません。ツリーをいじりましょう)


「ツリーを操作するのは待って欲しい。

 質問だが、相手から見た場合、私の姿は消えたように見えただろうか?」


(最初に『押し入れ』発動を見て俺も一瞬遅れて入ったときに、俺はタマさんの姿が消えたのを見てました。外部からは消えたようにしか見えていないかと)


「そうか。

 次にだが、今回スズキくんが『防御術・身挺庇護』した際、どれほどのダメージを受けていたか見ていたかな?」


 黒い何かは槍のように見えた。

 それはエルフ耳の城にいた時にも受けた、女神子による光の投げ槍を連想させた。

 あの一撃は防御特化型である死霊兵スズキの骨を半分ほど吹き飛ばし、最大HPを半減させてほぼ瀕死にまでもっていったのだ。

 タマが受ければどちらにせよ即死だが、死霊兵スズキが複数受けた場合にどこまで耐えられるかの予測は確かに必要であった。


 でもそれはログを見れば分かることだ。


(『防御術・身挺庇護』で防御すると、庇った側も被ダメージが通常から半減したものになります。

 ログを見る限りですが、それ抜きで考えても死霊兵スズキであれば十発ほどは耐えられる程度のダメージ量だと思います。

 元がバラバラの骨片で出来てる死霊兵の場合だと弱点部位などはないと思いますから、ログのダメージだけを参考にしても大丈夫だと思いますよ)


「ああ、違うんだ。実際に攻撃を受けた際に、スズキくんの体が削れたかどうかが気になったんだ」


 あ、そっち。うんまあこれ以上最大HP減るとなると、下手したら死霊兵が戦闘不能のバットステータスくらいかねないしねえ。


(そちらですか。

 見えた限りですが、全く傷ついていませんでしたね。HPだけ減った状態でした。

 とはいえ例え欠損してたとしても、『描画』の効果で『押し入れ』に入った時点でそのまま欠損も回復していると思いますよ)


 そう考えると、女神子の光る投げ槍がどれだけやばい攻撃だったのかとゾッとするね。


「そうか。それは良かった」


 なるほどなるほどと数度頷き、今度はぶつぶつと何事かまともな音にならない呟きをこぼしながらタマは考え込み始めた。

 その視線は、膝の上に置いた死霊兵スズキに注がれている。

 魔力の流れが色で見える『描画』を常時起動させている俺には彼女が魔力を練りに練って何かを行っているのがわかっていたので、待つことにした。


 さっきまでご飯ご飯言っていたのに、むしろお腹が空くほど雑念が消えて集中力って増しちゃうもんなんだよねえ。絵描きがそうなんだから、文書きも同じなのかもしれない。


 そんなことを考えながら俺も筆を進めていたら、結局一時間ほど経ってから不意にタマが立ち上がった。


「ふう……こんな感じかな」


 呟くと共に彼女がシーツを脱ぎ捨てると、『死霊術・死霊兵改造 発動』のログが流れた。

 タマと、彼女が両手でかかげ持った死霊兵スズキそれぞれを中心に紫に輝く魔法陣が広がる。

 魔法陣が消えると、死霊兵が白い光を放ちながら砕け散ってタマへと集い、その矮躯を覆っていった。

 さすがにそこまで見れば彼女が何をしたのか俺にもわかった。


(死霊術の自由度高いですねえ。変身シーンが裸から開始とかわかってる――……ぇ?)


 白い光が徐々に消えていき、タマの姿が露わになる。


 そこには全身を薄く死霊兵スズキの骨に覆われた、とても、すごく、実に反応に困る女の子の姿があった。


 文字通り全身骨片づくしである。

 小指の爪ほどの大きさと薄さになった骨の欠片が、鱗状に全身を覆っていたのだ。

 流石に目と鼻穴だけは開いているが、ぼさぼさの髪も一纏めにされてしまっていて、頭部のサイズがなんかおかしなことになっていた。

 本人もそのことがわかっているのか、喋れないらしくログに(安全第一さ)と流してきたが、俺は(そうですね)と生返事しか出来ない。

 どういった時間配分だったのかの知らないけど、デザインの自由度も多少はあったようなことが先ほどの一言会話で察せられるので、一時間かけてこれはちょっとどうかと思う絵描きの心境をご理解いただけるだろうか。

 全身鎧で間接部が曲がらないとかいうコントをやらかさない程度に可動部は作ってあったが、やはり非常に動きづらいらしく、どうにもぎこちない動きで歩き出す姿を哀れまずにはいられない。


 つうか素っ裸に人の骨貼り付けるなよ。肌直貼りかよ。骨片薄くしすぎて若干透けてるんですけどどうなのよ人として。逆に素っ裸より変態度高くてドキドキしちゃうわ割とマジで。

 全身魚鱗タイツ痴女ロリである。鱗のあたりがきっと新ジャンルだろう。


 死霊兵スズキは完全防御型の壁用ペットだ。

 体そのものである骨を薄くしようがどうしようが、その防御力の元となる頑強(VIT)のステータス値が下がるわけではない。物理的にあり得ない骨だけの存在であり、むしろステータスなどという数値が存在の根幹をなしているせいか、視覚的には薄くなり脆くなってそうに見えても、実際はそんなことがなさそうなのが先の事例からわかる。その体の構成素材そのものがVITや防御力の影響を受けているのだ。

 つまりはメチャクチャ硬い。そんな物を体に貼り付ければ動きづらくて当たり前である。


 ついでに言えばその高VIT値を遺憾なく防御力へと変換補助するために、筋力(STR)体力(CON)もそこそこ高くなっている。

 俺がやっていたMMORPGは行動内容によってレベルアップ時の上昇ステータス分が六割自動的に振られていた。残りの四割が自由値となり、プレイヤーによって手動で割り振る部分となっていた。

 だがその自由値も、単一ステータスに極振りしても実行値である攻撃力や防御力にはならなかったり使い勝手が悪くなりすぎたりして、絶対に他の関連ステータスも自由値で上げる必要があるゲームだった。物理防御力であれば第一にVITを、次にSTRとCONといった具合だ。被クリティカル率を下げるためには器用さ(DEX)敏捷性(AGI)も重要度が高かったりするため、対物理特化のキャラクターメイクでもVIT極振りはまずありえない選択であった。

 ラノベ内ネトゲの如く夢のVR技術など使われていないMMOである。リアルステによる差など、PCスペックに回線とあとはリアルラックくらいしかない。普通のゲームだ。

 ゲーム中ではほとんどの実行値はマスクデータだったのだが、長年続いたことにより検証厨がエネミーへのダメージ値や移動速度などを計算式として算出し、それによる最適なステータスの自由値振りが当たり前に行われるようになっていた。


 死霊兵スズキのそれも壁用ペットとして物理防御に特化している。

 だがそれはレベルアップ時におけるステータス自動割り振り分しか今のところは反映されていない。


 元々ペットは単体で同レベルのプレイヤーキャラクターの強さを超えないよう調整されている。その調整内容というのが、魔法生物系であれば主人プレイヤーのMATと精神力(MND)集中力(SES)の合計からステータス合計値を算出するというものだ。ちなみに魔獣系の場合はSTRとVITとSESの合計からとなっており、主人とペットのレベルが同一の際にやっとその合計値がそのままペットステータスに反映される仕様となっていた。ペットのレベルが低いと、その分だけ自動割り振りステータスも低い状態となるということだ。

 そしてゲーム中、STR、VIT、CON、DEX、AGI、SES、MND、MATとステータスの種類は八つもあった。

 ゲームとしては多すぎるし、普通に考えて、そのうちの三つだけの合計値の割り振りでは弱くなりすぎるのではと思われた。

 だがペットがいるということはその主人プレイヤーも一緒にいるということであり、ほとんどの状況で主人とペットの二人で戦うことになる。それだけでも対通常エネミー戦、対プレイヤー戦では有利になる。ターゲットの移動や得意不得意の分散などを考えたら当たり前だ。それぞれが物理スキルや魔法スキルを使い、主人に至ってはアイテムまで使うのだ。その仕様上銭投げプレイなどと呼ばれていたが、高額な強化・回復アイテムを惜しげもなく使うプレイヤー達は持久力に優れ、非常に厄介な強さを持っていた。


 そして最初からタマのMATはレベルキャップに達したプレイヤーのそれをはるかに上回っていた。その時の数値はゲーム的にはありえないことに、ほぼ完全に近いMAT極振りである。

 そこにさらにレベルアップによる自動割り振りもMATやMND、SESに多く注がれており、その分死霊兵スズキもレベルアップによってステータスが解放され、自動割り振りされた分、頑丈になっていっていた。とっくにゲーム終盤の大型ボスエネミーと相対するレベルのVIT値も超えている。


 なんにせよだ。鱗状にしたところで、そんな物を体に張り付かせればまともに動くことなど出来ないだろう。


 だがそんなことを考えながら新しい鱗タイツのデザイン案を考えていたのだが、いつの間にかタマはその格好のまま準備運動のようなことをしていた。

 さっきまであったような間接部駆動の問題など全くないかのような柔軟な動きである。


(スズキくんを動かすのと同じだね。操作系統が想像以上に複雑化したけれど、馴れれば問題なさそうだ。

 こつは魔力と指示の流し方か。骨と筋肉に沿って指示を流す感じだ)


 お、おう。そうですかそうですか。


 よくよく見れば鉄のように硬いはずの鱗が間接部を曲げるときに限ってその部分だけ上手いこと曲がり、逆に駆動の補助をしている様子だった。

 そりゃそうだよね。死霊兵の時に軟骨もない骨だけが軽やかな動きを見せていたのだ。硬いはずの骨自体が多少の柔軟性を持って稼動することぐらい、想定範囲内だろう。そしてそれを術者が自在に操れるのも当然と言えば当然か。


 これなら外に出てもあの槍で即殺されることはなさそうだ。


 ショババババッと繰り出される拳とヒュボッボッボッボッと空を切る蹴撃のモーションを絵に興しつつそんなことを考えていたら、ぱたりとその動きが止まってバタリと倒れてしまった。


 死霊兵スズキの鱗タイツが光と共に剥がれ、元の球体になる。


「――あっつ」


 そら全身密閉タイツですからね。




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