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 彼女を探し続けて、また幾多もの時が流れた。

 思った通り、人々の心から俺のことは徐々に消えていき、もう人界を眺めて彼女を探すことはできなくなっていた。


「堕ちなかったのが、せめてもの救い、か?」


 一人自嘲気味に笑っていると、ガランガランと珍しく本坪鈴が鳴った。

 あまりにも必死に呼ぶその音に、応えなければと心が動く。

 ありったけの神気を纏い、人界へ降りれば、そこには永きに渡って求めていた彼女の姿があった。

 

「お願い、応えて!」


 懐かしい声に、何かを想うよりも早く体が動いた。

 戸を開け、彼女を抱きしめて中へと戻る。

 愛しい者がここに居るのだと、温もりが伝えていた。


「会いたかった……」


 涙に濡れた声が聞こえる。

 それに答えるように少しだけ腕に力をいれれば、彼女の体が大きく震えた。

 なにか言わねば。と思うが、どの言葉も想いを伝えるには足りない。


「もうどこにも行かないで」


 彼女の言葉に、瞠目する。


 それは、俺の台詞だ。


 そんな言葉を飲み込めば、つっと彼女が顔を上げた。

 あの時と変わらない、黒曜石のような瞳が俺を映す。

 その瞬間、神気が増した。

 

 生き存えた


 本能的にそう思った。


「どうやら……」

「え?」

「どうやら、俺はもう一度、お前を愛せるようだ」


 どうする?


 そう問えば、彼女の瞳が大きく見開かれた。

 時代は変わり、一度死した彼女は彼女であって、彼女ではない。

 記憶があろうと、彼女の魂であろうと、再び生を受けた彼女は別の道を歩む事もできる。

 もう「神に愛された」という言葉に、意味は無い。

 選ばせるべきだ。というのは、彼女を失ってからずっと考えていたことだ。

 敢えて彼女から視線を外し、腕の力をを抜く。


 人間のように考え、退路を用意する。

 

 それが、今の俺が彼女にしてやれることだった。

 どんな答えを出そうと、俺はそれを受け入れるだけだ。

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