表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

「ごめんなさい」


 頭を下げれば「気にしないで」と言って去っていく男性。

 これで何人目だろう。

 いい加減、恋人が欲しいのに、告白してくれる人と付き合いたいとも思えず、かといって「この人が好き!」と思える人もいない。

 いや、本当はいる。

 名前も何も知らない、だけど、どうしても会いたいと想う人。

 亜麻色の髪と灰色の瞳を持った、見た感じ外国のおじ様的な人。

 どうしてその人に会いたいのかは分からない。

 分からないけど……


「多分、好きなんだろうな……」


 漠然とした想いを呟けば、優しい風が頬を撫でた。

 

「あ……」


 不意に、涙が零れた。

 何故だかは分からない。

 けど、凄く懐かしい感じがした。


「なんだろう?」


 そう呟いても一向にそう感じた理由が見つからない。

 ベンチに座って、なんとなくぼーっとしてみる。

 目の前を、手を繋いでいるカップルが通り過ぎた。


「約束したのに」


 まるで恋人にデートをすっぽかされたみたいに呟く自分に、溜息が出る。

 花の女子大生なのに……なんて、親戚のオバサンに言われたみたいに呟けば、不意に涙が出てきた。


「情緒不安定過ぎだよ」


 ひとりごちて、適当に歩く。

 なんとなく家にも帰りたくなくて、ぶらぶらと街を歩けば、徐々に周りが暗くなる。

 暮色の中に透き通った紅色。

 この色が、景色が好きだと言ったのは誰だっただろう。


「あれ?」


 足を止めたついでに周囲を見渡せば、見慣れない景色が広がっていた。

 この歳で迷子とか、笑い話にもならない。


「どうやって此処に来たっけ?」


 あれ? これはかなりまずい? なんて一人で焦っていれば、また優しい風が吹いた。

 今日はよく風が吹くな。なんて、迷子なのを頭の片隅に追いやって思えば、古い社が見えた。

 

「あ……」


 ギュッと胸の何処かが締め付けられて、頭の中で何かが弾けた。

 それと同時に思い出す。

 溢れ出しそうなほど沢山の記憶。

 愛しくて、愛しくて、この命すら投げ出しても構わないと思ったあの人のことを。


「――!」


 声にならない声を上げて、私は駆け出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ