参
「ごめんなさい」
頭を下げれば「気にしないで」と言って去っていく男性。
これで何人目だろう。
いい加減、恋人が欲しいのに、告白してくれる人と付き合いたいとも思えず、かといって「この人が好き!」と思える人もいない。
いや、本当はいる。
名前も何も知らない、だけど、どうしても会いたいと想う人。
亜麻色の髪と灰色の瞳を持った、見た感じ外国のおじ様的な人。
どうしてその人に会いたいのかは分からない。
分からないけど……
「多分、好きなんだろうな……」
漠然とした想いを呟けば、優しい風が頬を撫でた。
「あ……」
不意に、涙が零れた。
何故だかは分からない。
けど、凄く懐かしい感じがした。
「なんだろう?」
そう呟いても一向にそう感じた理由が見つからない。
ベンチに座って、なんとなくぼーっとしてみる。
目の前を、手を繋いでいるカップルが通り過ぎた。
「約束したのに」
まるで恋人にデートをすっぽかされたみたいに呟く自分に、溜息が出る。
花の女子大生なのに……なんて、親戚のオバサンに言われたみたいに呟けば、不意に涙が出てきた。
「情緒不安定過ぎだよ」
ひとりごちて、適当に歩く。
なんとなく家にも帰りたくなくて、ぶらぶらと街を歩けば、徐々に周りが暗くなる。
暮色の中に透き通った紅色。
この色が、景色が好きだと言ったのは誰だっただろう。
「あれ?」
足を止めたついでに周囲を見渡せば、見慣れない景色が広がっていた。
この歳で迷子とか、笑い話にもならない。
「どうやって此処に来たっけ?」
あれ? これはかなりまずい? なんて一人で焦っていれば、また優しい風が吹いた。
今日はよく風が吹くな。なんて、迷子なのを頭の片隅に追いやって思えば、古い社が見えた。
「あ……」
ギュッと胸の何処かが締め付けられて、頭の中で何かが弾けた。
それと同時に思い出す。
溢れ出しそうなほど沢山の記憶。
愛しくて、愛しくて、この命すら投げ出しても構わないと思ったあの人のことを。
「――!」
声にならない声を上げて、私は駆け出していた。