弐
永遠が欲しいと願っていた女が死んだ。
それは、俺が愛した女だった。
忘れ去られかけてはいるものの、神として名を連ねている俺が出来ることは、彼女の最期を見届けることだけ。
この時ほど、己の無力さを恨んだことはない。
神とて万能ではない。
そう言ったのは俺より高位の神だっただろうか?
それとも、彼女と同じ人間だっただろうか?
「どちらも、だったな」
誰に言うでもなく、ただ人界を見下ろす。
彼女がいなくなっても、世界は変わらずに回る。
求められているかどうかなど関係なく、風を送れば、どこかから楽しげな音が聞こえた。
何度でも見つけてやる。その手を掴んでやる。俺が俺である限り
そう言って人間のする「指切り」という形で、約束した。
否、神である俺は誓った。
あいつがいつ再び人間として生を受けるかなど知らない。
もしかしたら、もう二度と人間としては生を受けないかもしれない。
けれど、控えめに結ばれた指の温もりを思い出すと、「諦める」ということは出来なかった。
「お前も諦めの悪い」
彼女がいなくなってから、数百年。
誰かがそう言って笑った。
嘲笑ではない。
心配してくれているのだ。
時が進めば進むほど、人の心は新しい物に流れ、俺達を忘れていった。
このままでは、いずれ俺達は消えてしまう。
そうなる前に、高位の神々に救いを求め、天へと昇るのが「己」を永らえさせる唯一の術。
だが、そうすれば、人界に降りることはおろか、人界を眺めることも出来はしない。
「約束したんでな」
いつも通りの言葉を返し、人界に目をやる。
残された時間はあとどれくらいだろうか。
この身が消える前に、一目なりともお前に会いたい。