第19話_1尾目_ボトルアクアリウム講座へ行こう
あえて水槽で飼わない理由と楽しさが、ボトルアクアリウムには詰まっていると感じます。
~ボトルアクアリウム講座へ行こう~
八月第三週の月曜日。小中学校の夏休みも終盤。
とはいえ、僕がアルバイトをしている学習塾は、朝から子ども達であふれていた。特に中学三年生と小学六年生は、冬の受験に向けて一生懸命頑張っている。
――と、後ろから肩をつつかれた。
振り向くと、中学三年生のかしまし三人娘、東と南と西がいた。夏祭り以降、更に懐かれたような気がする。でも、今日も悪戯っぽい顔をしているから、ちょっと警戒した方が良さそうな雰囲気。
「大明丘せんせい、ちょっと良いですか?」
ショートヘアの運動部。活発でストレートに何でも言うのは、東。
「先生、質問があるのですが」
ロングストレートの弓道部。真面目で控えめなのが、南。
「けど~、けど~♪ せんせぃ~」
ツインテールの家庭科部。甘えているようで意外と強かな一面を持つ、西。
「せんせぃ~、三角関数の基礎を~、教えて~♪」
西が好奇心を隠し切れないと言った声色で聞いてきた。勉強熱心なのは良いことだけれど――
「えっと、『三角関数』ですよね? 教えても良いのですが、たしか高校一年で教えてもらえる範囲なので、今はまだ必要ない知識ですよ?」
僕の言葉に、三人娘がぶんぶんと首を横に大きく振る。
「大明丘せんせい、それが違うんだよ!」
「そうなのです。実は、私達に必要な知識なのです!」
「です~、です~!」
あれ?
教科書に変わりはないはずだから、中学校では習わないよね? 多分。
「三人とも、どんな理由で知りたいんですか?」
僕の疑問に、三人娘が可愛い――わけない。「あざとい」笑顔を作る。
そして東が口を開いた。
「いや、だってさぁ~、『三角関係の距離感と位置関係』を知るためには、三角関数が必須でしょ? サイン・コサイン・タンジェント♪」
いや、要らないと思う。
っていうか、三角関数じゃ三角関係の距離感は、確実に測れない。
真面目に質問しに来たのかと思えば、やっぱり、この三人娘は三人娘だった。
「あっ、大明丘せんせい、何、その沈黙! じとっとした視線しないでよ!」
「馬鹿にしたぁ~、せんせぃが~、私達のこと~、馬鹿にしたぁ~」
「くっ、何というか、屈辱的です!」
「いや、だって、誰の距離感を知りたいのかは聞かないけれど――受験勉強しましょうよ? せっかく朝から頑張って自習に来ているんですし、三人とも中学三年生ですよね?」
「「「え~」」」
三人娘の声が重なる。
「え~、じゃないです」
「受験勉強には、息抜きが必要なの!」
「そうです。甘いものと色恋は欠かせないのです」
「そうなの~!」
まるで試験期間中の桜島さんを見ているようだ。
――というのは、色々な意味で怒られそうだから頭の中だけにとどめて口には出さない。確か三人とも桜島さんとは夏祭りの時に連絡先を交換していたみたいだし、告げ口されると桜島さんにも「私を子ども扱いするな」と怒られる。
「人生の先輩からのアドバイスです。三角関係に首を突っ込むと、大火傷しますよ?」
僕が何気なく口にした言葉に、三人娘が真面目な顔をする。
「せ・ん・せ・い・が――」
「ま・と・も・な・こ・と・を――」
「お・し・え・て・く・れ・た~。字余り~っ♪」
東、南、西の順番。……どこからどう突っ込もう。一応、三人とも、僕の国語の特別講座、受けたよね?
「俳句になっていませんよ。季語が抜けています」
「失礼だな、『せんせい』が季語なんだよ」
「だよ~、だよ~」
東と西の言葉に、軽い頭痛を覚えた。
「あえて聞きますけれど、どういう意味です?」
「それは『暑苦しい』という意味で、夏の季語なの♪」
……。ちょっと傷付く――なんて顔をしたら、この三人は図に乗りそうだから淡々と流そう。事実、三人娘がちょっとニヤニヤしているし。
「そうなんですか。良かったですね~」
「ぅあっ、冷たっ! 大明丘せんせい、何でそんなに冷たいのっ!?」
「いや、涼しくなって丁度いいんじゃないんですか?」
僕の言葉に、三人娘が少し不機嫌そうな顔をする。
「こんなに冷たいなんて――まさか、大明丘せんせい、彼女さんと喧嘩でもした?」
「したんですか?」「したの~?」
そう言いながら、悪戯っぽい顔で笑ってくる。うん、僕と桜島さんが喧嘩したとは三人娘が思っていないことがバレバレだ。っていうか、人の「弱み」につけ込むのは本当に止めて欲しい。
「いや、桜島さんとは、仲良いですよ?」
「そっか~、それを聞いて安心した」
「した~、した~」「安心です」
「それは……何と言うか、ありがとうございます。でも、一応、他の生徒の目と耳がありますから、桜島さんのことは積極的に、話題にしないでおいて下さいね」
小声で釘を刺しておく。
それが良かったのか、三人娘が満足げな表情で頷いた。
「分かった」「分かったぁ~」「分かりました」
そう言って笑った後に、東が鞄の中から何かのチラシを取り出す。
「――で、本題なんだけれど……コレ、大明丘せんせいも来るの?」
前置きが長かったな~、とは顔にも口にも出さずに、東の手元を覗きこむ。
広げられたのはグリーンファンタジスト与次郎店のイベント告知チラシ。今週末の土曜日に、店内でボトルアクアリウムを作る講座があるのだ。
『ボトルアクアリウムは、『自然を切り取った』成長を続けるインテリアです。だから水草や容器中の生き物を維持するために、スポイトを使ったコップ一杯分の水換えやハサミを使った剪定が必要になります。でも、あなたの生活に刺激と潤いを――(以下、略)」
……この文章、確か桜島さんが考えたやつだ。「ちょっと胡散臭い」って僕が言ったら、桜島さんが二日くらい本気で拗ねたから覚えている。
「せんせぃ~、固まっているけれど~、再起動して~」
「あ、ああ、ごめんね。ちょっといきなりだったから、びっくりしてた」
「で~、せんせぃも~、来るの~?」「来るんですか?」「きちゃう?」
三人娘の期待の眼差し。軽い罪悪感を覚える。
「……悪いけれど、僕は手伝いに行かないですよ。指宿店長からも声がかかっていないですし。でも、代わりと言ったらなんですが、桜島さんはその日バイトなのでお店にいると思います」
「そっか、大明丘せんせいがいないのは、残念だな」
「残念です」
「彼女さんだけか~。せんせぃに~、手とり~、足とり~、私を調教してもらいたかったのに~」
……何だか、不穏な言葉が西の口から聞こえた気がしたけれど、スルーしよう。こういう話題でいちいち子どもに突っ込みを入れるのは、遊ばれそうで嫌だから。
「それにしても、よくそのチラシ見つけられましたね」
僕の言葉に、笑顔で南が頷く。
「はい。一年生の成瀬ちゃんがお店にあったのを見つけてきてくれて、一緒に参加しませんかって誘ってくれたんです」
「ああ、道理で。でも、講座の募集人数、確か先着で一〇人くらいと、少なかったはずですけれど申し込めましたか?」
「もち♪ 電話で四人分、申し込めたよ?」
東が笑顔で、数字の四を右手の指で作った。
「そうですか。それは良かったです。――じゃない!」
思わず語尾が強くなってしまった。
三人が不思議そうな表情で首を傾げ、僕の方を見る。
「「「じゃない?」」」
「三人とも、今度の日曜日に何があるのか、忘れていませんか?」
「日曜日?」「日曜ですか?」「何だっけ~?」
……こいつらは。
「三人の志望校を決める、全国模試が有るんです!」
「うぁっ、やぶへびだった!」
「逃げろ~!」
「先生、失礼します!!」
三人が笑いながら逃げて行く。
曲がり角に三人が消えたのを見送っていたら、小さくため息が出てしまった。
まぁ、あの三人は、なぜか成績だけは良いから、息抜きくらい大丈夫……だと思う。多分、きっと。そうじゃないと、お互いに困る。
◇
昼休みの職員室。
昼食を食べ終えて、他の先生達と雑談しながら午後の授業の準備をしていると、携帯に電話が入った。
画面の表示をみると、指宿店長から。すぐに電話に出る。
「もしもし、鼎君? 指宿だけれど♪ 今時間良いかな?」
「こんにちは、指宿店長。お昼休みだから大丈夫ですよ」
そう言いながら、職員室の端っこに移動する。
「ありがとさん。それじゃ、本題に入るけれど、今週末の土曜日のボトルアクアリウム講座に、写真撮影係のバイトとして入らない? そして、いつも通りにレポートをまとめてくれないかな?」
「今週末の土曜日ですか? えっと、その日は、ちょっと用事が――」
断ろうとした僕の言葉を、指宿店長が遮る。
「えぇ~っ、なんで? 塾講師がお休みだということは、桜島ちゃんからしっかりリサーチしてあるわよ?」
「……指宿店長、なかなか手ごわいですね」
「あははっ、まぁね♪ でも、珍しいじゃない? 鼎君が私の振る仕事に喰いつかないなんてさ?」
「ええ。咲希が遊びに来るんですよ」
嘘じゃない。咲希を言い訳に断ろう。そのまま言葉を続ける。
「だから鹿児島市内の案内をしないと――」
「えっ、咲希ちゃん来るの土曜日なのっ!? 日曜日だと思っていたんだけれど!?」
指宿店長が、僕の言葉を再び遮る。
指宿店長、咲希のことを溺愛しているから。――って、あれ?
「あの、桜島さんから聞いていませんでしたか? 咲希の予定が早まって、金曜日に来ることになっているんですけれど」
「聞いてない。っていうか、金曜日に来るなら土曜日に一緒に遊びに来てよ?」
「……」
まぁ、ごもっともな意見だ。普通ならそうするのだけれど……。
この場合、何って言ったら良いんだろう?
「ん? 何だか、今日の鼎君はノリが悪いなぁ~。桜島ちゃんと喧嘩している訳じゃないし、何か講座に来たくない理由があるの?」
「実は、バイト先の学習塾の教え子が、四人もボトルアクアリウムの講座に参加するみたいで……悪戯好きな子達なので、正直に言うと、ちょっと近付くのは遠慮したいんですよ」
「え? なになに? 女の子にいじめられてるの?」
指宿店長から、興味津々といった声が返ってくる。
なんで嬉しそうな声なんですか?
「いじめられてはいませんよ。扱い的には、おもちゃにされている可能性が否定できませんけれどね」
「なにそれ♪ もっと聞かせて!」
「止めて下さいよ、冗談でも。――しかし、相手が女の子だってよく分かりましたね」
「うん、今回の講座の申込者、全員女性だからさ♪」
……それなのに、写真撮影のアルバイトを僕にしろと?
「そういうことを聞いたら、余計に講座に近付きたくなくなります。指宿店長も、僕が女性恐怖症なのを知っていますよね?」
自分で言っておきながら不甲斐無いけれど、僕は女性恐怖症。
高校生以上の女性の近くに行くと、変な汗をかいてしまうくらい、とても緊張する。情けないとは思うけれど、上手く対応が出来ない自分がもどかしい。桜島さんや指宿店長といった例外も最近は増えてきたけれど。
「そうね~。でも、『女性が苦手なことを治せ』って桜島ちゃんに言われているのも、私知っているわよ~? 奄美大島でも色々あったみたいじゃない?」
そう言われると、どんな返事をして良いのか分らない。
指宿店長がゆっくりと言葉を続ける。
「咲希ちゃんが、遊びに来てくれると嬉しいなぁ~。咲希ちゃんも『指宿店長に早く会いたいです!』ってこの間、電話してくれたんだけれどなぁ~」
「……そう、ですか……」
「記録係のバイトがいないと、いつものレポートが無いと、今後の売り上げが少なくなっちゃうかもしれないのになぁ~」
いや、それを言うのは、ちょっとずるい。
「鼎君、ダメかな?」
指宿店長に畳みかけられてしまった。断ることは、多分、出来ないんだろうな。
「……分かりました。指宿店長は商機を逃すような人じゃないって知っていますけれど、僕に期待してもらえているのは、正直、嬉しいです。咲希も一緒で良ければ、土曜日、お邪魔させて下さい」
「了解♪ ありがとね~」
「……。バイト代、弾んで下さいよ?」
「それはレポートの中身による」
「バッサリですね」
「あははっ、もちろん♪ んじゃ、早速打ち合わせしたいから、今夜か明日、うちのお店に来られるかな?」
頭の中で今日の予定を思い出す。塾講師は夕方一七時に終わるから――
「多少遅くなっても大丈夫でしたら、今夜、大丈夫ですよ? 一九時以降なら伺えます」
「ん、一九時でお願いするわ。それじゃ、よろしくね♪」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「お昼休みに時間を取らせてごめんね。――んじゃね~っ♪」
愉快気な指宿店長の声を聞いて、ゆっくり三秒数えてから電話を切る。
少しだけ憂鬱だなんて――ううん、考えないことにしよう。これも女性に慣れるための一つの訓練だ。
さて、午後の授業も頑張りますか。
◇
あっという間に一週間が過ぎ、咲希を鹿児島空港まで迎えに行ったのは昨日。
桜島さんのお父さんが車を出してくれたから、桜島さんのお母さん(雪さん)も交えてそのまま一緒に霧島観光をしたり、ご飯を食べたり、温泉に入ったりしたけれど……それはまた別のお話。
「お兄ちゃん、考えごと? 次のバス停で降りるんだよね?」
ぼけっとしていたら、咲希についついと指で突かれた。
「あ、ごめん。そうだよ、次の『与次郎一丁目』で降りるよ」
「分かった。降車ボタンを押すね!」
ピンポーンという音が響いて、満足げに微笑む咲希。何となく、咲希が嬉しがっているのが僕にも分かる。子どもの時は、僕も降車ボタンを押したい派の人間だった。
バスを降りて五分くらい歩くと、グリーンファンタジスト与次郎店が見えてくる。
鹿児島市の与次郎は熱帯魚屋さんがしのぎを削る激戦区。グリーンファンタジスト与次郎店のほかにも、個人のお店や全国展開しているお店が並んでいる。
「敵情視察をしていく?」
僕の視線に気付いたのか、咲希がそんなことを聞いてきた。
「ううん、今日は時間があまりないから、ストレートに指宿店長のお店に行こう。それに、お店のみんなが咲希に会いたがっているみたいだし」
「うんっ。咲希もみんなに早く会いたい♪」
そんな話をしながら、お店の入口をくぐる。レジのお姉さんがすぐに僕らに気が付いた。
「あら、咲希ちゃん、いらっしゃい! 鼎君もこんにちは♪」
「瑞穂お姉ちゃん、こんにちは!」「瑞穂さん、こんにちは」
「指宿店長は、イベントコーナーにいるわよ。いつ来るのかなってうずうずしていたから、早く行ってあげて♪」
「はいっ。瑞穂おねえちゃん、また後でお話して下さいね!」
「もち、よ♪」
そう言って手を振る瑞穂さんに手を振り返す咲希を促しながら、イベントコーナーに向かう。
普段は喫茶スペースの延長として使われている場所だけれど、今日はパーテーションで区切られて、ホワイトボードも運ばれていて、ちょっとした講義ができそうなスペースになっている。
そのホワイトボードの前で、指宿店長が三名のスタッフと打ち合わせをしている。その中に、桜島さんも入っていた。
「あ、指宿店長だ!」
「咲希、邪魔しちゃ――」
だめだよ、と言う前に咲希はスタッフの輪に入っていた。
「おぉぅ、咲希ちゃん! いらっしゃい♪」「「いらっしゃい」」「お久しぶり♪」
「お久しぶりです。今日は、よろしくお願いします」
仕事を中断されたのに、四人とも嫌な顔をせずに咲希を迎えてくれた。ちょっと冷や冷やしたから、ほっと胸をなでおろす。と、同時に、桜島さんがこっちを向いた。
「ちょうど良かった、鼎も打ち合わせに入ってよ。一応、この前の店長との打ち合わせで鼎にも流れは説明してあるけれど、改めてここにいる全員で今日の流れを把握したいから」
桜島さんから資料を受け取り、挨拶をしてから輪の中に加わる。
咲希はというと、さっそく指宿店長に後ろから抱きかかえられて、ご機嫌そうな表情だった。
「それじゃ、説明を再開するわ。まずは――」
指宿店長の言葉に頭を仕事モードに切り替えて、話を聞いていく。
今日のレポートも、良いモノを作りたい。
◇
「やっほ~、せんせぃ~、遊びに来たよ~♪」「大明丘せんせい、沙織お姉さん、こんにちは」「今日はよろしくお願いします」
「大明丘先生は一日ぶりで、沙織お姉さんはお久しぶりです」
三人娘と成瀬さんがやって来たのは、ボトルアクアリウム講座が始まる一五分前。
僕と桜島さんで四人に対応する。
「四人とも久しぶり。元気にしてた?」
桜島さんの言葉に四人とも頷く。
見事に動きがシンクロしていたけれど、突っ込みは必要ないだろう。
「もちろんです」「です~」「元気にしてました」
「はいっ!」
東、西、南、成瀬さんの言葉に、桜島さんが微笑む。
「みんな、あんまり緊張しなくて良いからね。講座が始まるまでは、まだ時間があるから、席に座ってもう少し待っていてちょうだいな♪」
「は~い」「はい~」「はい」
「はいっ♪」
素直な返事をした四人。その視線が、桜島さんと僕のちょうど真ん中の――さらに「後ろ」で固まっている。
「ん? どうかしたの?」
桜島さんが後ろを見ると、僕らの影に隠れるようにして、咲希が四人を見ていた。
年上かつ人数が多くて戸惑っているのだろう。人見知りをしない咲希にしては珍しく、不安そうな表情をしている。
「えっと、紹介が遅れてごめんね、咲希ちゃん。――こちらの四人は、鼎の学習塾の生徒さんよ。そして、私のお友達なの♪」
「お兄ちゃんの、生徒さん? 沙織お姉ちゃんの、お友達?」
咲希の疑問形の声に、東が笑顔になって反応する。
「そういうこと。中学三年生の東だよ。大明丘せんせいの妹さん、咲希ちゃんだっけ? よろしくね!」
「私は~、西~。東ちゃんと~、南ちゃんと~、同じで中学三年生~。よろしく~」
「私は南。私も中学三年生です。よろしくお願いします」
「わ、私は中学一年生の成瀬です。よろしくね、咲希ちゃん」
お姉さん四人の自己紹介に、固まっていた咲希が再起動する。
「はいっ。大明丘咲希、小学校五年生です。趣味は、トンボやグッピーといった『水の生き物の観察と飼育』です。よろしくお願いします」
笑顔で咲希が頭を下げる。と、同時に三人娘+成瀬さんが騒がしくなった。
「きゃ~、可愛いっ!」「先生、どこにこんな可愛い妹さんを隠していたんですか?」「なでなでして良いですか?」「あ~、私も~、私も~、撫でたい~」
「さ、咲希は、わんこじゃないんですよ?」
あ、成瀬さんと西の言葉に、ちょっと咲希が拗ねてる。
「それじゃぁ、にゃんこかな? 可愛いから」
東の言葉に、他の三人も同調する。
「可愛い~」「可愛いです」
「先輩の言う通り、可愛いですよね」
可愛いという言葉の連打に咲希が固まる。拗ねるというよりも、照れている時の表情に変わった。
「なでなでしちゃ、ダメかな?」
東の言葉に、しぶしぶと言った表情で、咲希が首を横に振る。
「……一回だけなら、良いですよ?」
「ありがと♪ みんな、一回ずつね!」
東の声に被せるように、他の三人が返事をする。
「「「は~い♪」」」
小さな、とても小さな、咲希の悲鳴が聞こえた気がした。「一人一回とは聞いていないよぉっ!」と。
……仲が良さそうで何よりだ。
(第19話_2尾目_熱帯魚&水草でボトルアクアリウムへ続く)
※長かったので話を三つに分けてみました。次回は、いよいよボトルアクアリウム講座が始まります。




