第18話_1尾目_桜島さん編_奄美大島の森の生き物観察ツアー1
~桜島さん編_奄美大島の森の生き物観察ツアー1~
「はふぅ~♪」
今日は、待ちに待った奄美の森を探検できる日。
具体的には八月第二週の日曜日。天気は晴天。私も元気。――っていうか、元気良過ぎて朝の五時半に目が覚めてしまった。
ウッドデッキの椅子に一人きりで座って、夏の朝の空気を感じつつ、サンゴ礁の広がる海を見ながら、ぼんやりと昨日の出来事を思い出してみる。
いきなり別荘に連れてこられたり、親戚や知人を集めた食事会が開かれたりと、昨日は色々あった。でも、結果的には良かったと私個人は考えている。最後の方、鼎の従妹さん達と羽目を外しちゃった気もしないことはないけれど……一応、従妹さんやお客さん達に対して、鼎がフォローしてくれたみたいだから、気持ち的に引きずったりなんかはしていない。
「ぅんっ♪」
外で飲む朝のコーヒーは最高。それがたとえ常温になった缶コーヒーだったとしても。
波の音が耳に心地良い。
「今日は、どんな生き物と出会えるのかなぁ~」
一人言が口から出てしまうくらい、私の気持ちはうずうずしている。
今回の奄美旅行で一番出遭いたいのがアマミイシカワガエル。何と言っても、緑色の体色にコケみたいな茶色の模様が入っていて、つぶらな瞳が可愛いのだ。ちなみに、鹿児島県の天然記念物だから、採集も飼育も禁止されている。あとイシカワガエルは沖縄にも生息しているけれど、奄美とは別の種類とされていて、アマミイシカワガエルの方が、緑色がより鮮やかな個体が多いとインターネット上のホームページに書いてあった。
高校生の冬休みにバイクで奄美大島一周旅行をした時には、素人がハブのいる森に入るのは危険だと判断してイシカワガエルを捜索することが出来なかったけれど、今回は違う。美希さんの知り合いの自然写真家のお姉さんが森を案内してくれることになっているから。
お姉さんの名前は早馬由香里さん。元々は東京に住んでいたけれど、奄美の自然に惚れて、島に移住した積極的な人だと美希さんから聞いている。年齢は三〇代前半で、漁業をしている旦那さんと、小学生のお子さんが一人いるとのこと。
ちなみに、早馬さんは咲希ちゃんのトンボ採集の師匠でもある。咲希ちゃんいわく、毒蛇のハブがいる奄美でトンボ採集をするのは「楽じゃない」とのこと。水辺や渓谷に棲むトンボを採りに行く時には、安全のために、必ず早馬さんに同行してもらっていると言っていた。
「沙織お姉ちゃん、おはようございます♪」
すぐ後ろから咲希ちゃんに声を掛けられた。
こんなに接近されるまで気がつかないなんて、ぼんやりしすぎていたみたい。
「おはよう。早起きね~」
「沙織お姉ちゃん程じゃないです」
「あら、ごめん。起こしちゃったかしら?」
「いいえ――と言いたいところですが、はい、って言っておきます。だって、気が付いたら沙織お姉ちゃんがいなくなっているんですもん!」
ちょっと不満げな顔で咲希ちゃんが言った。
昨夜は咲希ちゃんと一緒のベッドに寝たから、朝になって私がいないことに気付いたのだろう。……。私が抱き枕にされていた状態から、トイレに行きたくて、半ば無理やり脱出して起きたせいじゃないことを願う。
「沙織お姉ちゃん、良かったら朝のシャワー、ご一緒しませんか?」
可愛い笑顔で咲希ちゃんが提案してくれた。
大明丘家の別荘のお風呂は広い。海で遊んだ後にすぐに浴びられるように、シャワーも二つ付いている。
「うん、それじゃ、一緒にお風呂入ろうっかな♪」
「ありがとうございます!」
咲希ちゃんと手を繋いで、私は家の中に入った。
奄美大島には外来種を除いて両生類が一一種類生息している。
カエルが九種類にイモリが二種類。ちなみに、サンショウウオの仲間は確認されていない。唐揚げにすると鳥肉みたいで美味しいウーパールーパーことアホロートルもペットショップで売っている個体だけ――のはず。アフリカツメガエルも同様。……野良グッピーや野良ソードテールみたいに、野良両生類が存在する可能性は否定できないけれど、ツボカビのこととかを考えると、私の勝手な杞憂であって欲しいなと思う。
◇
朝食を食べ終えて、時間は朝の七時すぎ。
「あと三分で由香里ちゃんが迎えに来るってさ~♪ 三人とも準備出来ている~?」
早馬さんと電話をしていた美希さんがスマホから耳を離して、私達に声をかけた。
「出来ています」「出来ているよ」「出来ているもん♪」
私と鼎と咲希ちゃんの言葉が重なると、美希さんが笑顔になった。
鼎が長い柄の青い魚網を手に持ちながら、私の方を見る。
「それじゃ、桜島さん、荷物を持って玄関の外で待っていましょうか。咲希も行こう?」
「そうだね。早く行きましょ♪」「行こう、行こう♪」
鼎と咲希ちゃんと一緒に、今日の荷物を移動させる。
荷物は鼎が持っている魚網以外は、全部リュックに入っている。リュックの中には、お弁当、採集したシリケンイモリを入れるタッパー、保冷剤、三〇センチくらいの柄が付いた熱帯魚網、予備のタオル等々……。他にもデジカメとかスマホとか、虫除けスプレーとか観察用の双眼鏡とか細々としたものがいっぱい入っている。万が一、ハブに噛まれた時のために、毒吸引器も忘れちゃいけない。
ちなみに、今日の服装はハブ対策を念頭に置いている。事前に早馬さんから指定された装備を鹿児島から持って来ているのだ。
まずは安物じゃない厚手の長靴。足首まである革のワークブーツでも良いらしいけれど、今日は水辺に近付くから防水という意味でも、安全靴タイプの長靴にした。頭には、つばの広い麦藁帽子。こちらも硬くてしっかりとした素材のモノを選んである。首にはタオルをしっかり巻く。ハブに首を噛まれるとか恐ろしくて想像もしたくない。
長袖&長ズボンは鹿児島県本土でも基本だけれど、今回は下草が生えている場所を歩くから、夏だけれど革のズボンを履いている。ジーンズ程度じゃ一五ミリ程あるハブの牙は通ってしまうらしい。仕上げに、手には耐突刺手袋を着けている。茂みや岩のすきまに手を突っ込む訳じゃないけれど、念には念を入れておいた方がいいと言われたし、よろけて手をついた瞬間にハブに噛まれたり怪我をしたりするのは嫌だから。
全部、水槽用品と同じで経費にするから、ケチってはいない。
革のズボンと言われて、お気に入りのバイクメーカーの防水革ズボンを選んでしまったのは、安全性や今後の使い回しのしやすさという意味でも、私は悪くないと思う。だって、だって、だって……欲しかったんだもんっ。耐突刺手袋以外は自前で持っていた鼎に、領収書を見せた途端、少し白い目をされたような気もしたけれど気にしちゃいけない。革のズボンだなんて、普通の女の子はあまり持っていないんだよ。
そんなことを考えていたら、玄関の前に深緑色の軽のジープが止まる。運転席のショートカットのお姉さんが、こっちを見て手を振った。ガラスが下りると同時に声を掛けられる。
「おはようさん♪ 桜島沙織ちゃんだよね? 早馬です。はじめまして」
「初めまして。早馬さん、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。――鼎君は、久しぶり♪ 咲希ちゃんは、今日も可愛いわ♪」
「ご、ご無沙汰しています。早馬さん、今日もよろしくお願いします」「師匠、よろしくお願いします!」
鼎と咲希ちゃんの言葉に、早馬さんが頷く。
「もちろんよ♪」
「由香里ちゃん~、今日はうちの息子と二人の娘をよろしくね~♪」
美希さんが早馬さんに声をかける。さらりと娘二人と言われて、何だか嬉しい私がいる。
「任せてね。いつも通り、無事に家まで送り届けるから」
「頼りにしてるわ~」
美希さんと笑い合うと、早馬さんが私達の方を向く。
「それじゃ、沙織ちゃんは助手席に、鼎君と咲希ちゃんは後部座席に乗って頂戴な♪」
「「「了解です」」」
私達が車に乗って、シートベルトを着けたのを確認してから、ゆっくりと車が出ていく。
咲希ちゃんが美希さんにバイバイと手を振っているのが可愛い。とか思っていたら、早馬さんに話しかけられた。
「沙織ちゃんは、ちゃんと高い長靴持って来た?」
「はいっ、もちろんです。色々と考えて、安全靴タイプの長靴にしました」
「鉄芯が入っているやつ?」
「いえ、プラスチックの軽いやつです。流石に、重たい靴で山歩きとか嫌ですよ」
「良く分かってる♪ 三人とも、きちんと革のズボンも履いているし、厚手の上着も用意してくれているみたいだし――あっ、希望するならヘルメットが一人分あるけれど使う?」
「ヘルメットですか?」
「そう。頭上からのハブの攻撃を完全に防いでくれるわよ♪ バイクに乗るのにも使えるわ」
「あはは……麦藁帽子より、防御力は高そうですが――」
「女子力は確実に低下するわね♪ どうする?」
早馬さんが私の方を見ながら聞いて来る。黒い革のズボンをはいているとはいえ、今日の私はそれなりのコーディネートを考えている。……鼎の前だから、フィールドに出るとしても可愛い格好をしたいじゃない? でも、バイクの周囲にいないのに、ヘルメットを被るのは、ちょっと抵抗が――
「咲希が、被ります!」
元気良く咲希ちゃんが言った。早馬さんがくすりと笑って口を開く。
「迷っている間に、咲希ちゃんに取られちゃったか」
「えへへっ、早い者勝ちです♪」
「ところで、沙織ちゃんは奄美大島に来るのは二回目だって聞いたけれど、金作原の原生林や、奄美パークは行ったことある?」
「どちらも有ります。金作原は群生するヒカゲヘゴがとても格好良かったことを、奄美パークは森のつり橋から下の湿地にイモリが大量にいたことを覚えています」
「そっか。それじゃ、一度行ったことのある金作原はパスして、私の秘密のポイントに案内するわ♪」
「秘密のポイントですか?」
「ええ。って言っても、私がいつも写真を撮っている山なんだけれど」
「沙織お姉ちゃん、トンボもたくさんいる場所なんですよ」
「そうそう。昆虫も哺乳類も野鳥もいるわ」
「そうなんですか? えっと、早馬さんってアマミノクロウサギだとかルリカケスだとか、奄美の生き物の写真をたくさん撮っていますけれど、普段は、どんな風に写真を撮るんですか? ホームページに載っている写真を見たんですけれど、どうやったら、あんなに近くで生き物の写真が撮れるのかなぁ~、って不思議に思って」
「うふふっ、企業秘密よ♪」
悪戯っぽく早馬さんに笑われてしまう。ちょびっと残念。
そんな気持ちが顔に出てしまったのだろう、早馬さんが小さく噴き出した。
「――冗談よ。そんなに大した秘密じゃないわ。写真や動画は、各生き物の特性に応じて色々な機材を使って撮るだけよ。自動撮影する固定カメラだったり、望遠レンズと高速シャッターを駆使したり。他にも昼間のうちに機材をセットしておいて、夜になったら赤外線やモノの動きに反応するようにシャッターを設定しておけば、色々な動物の写真が撮れるの」
「師匠は、工作が得意なんです。オリジナルのカメラケースとか作れちゃうんですよ」
咲希ちゃんが、自分のことのように嬉しそうに言った。早馬さんが微笑む。
「ホームセンターで売っている衣装ケースとかアクリル板とかを流用しただけだけれどね。アマミノクロウサギとかアマミトゲネズミとかを撮る時には、固定カメラで撮影することが多いから、それなりに頑丈で濡れないようなケースが必要なの」
「固定カメラってことは、夜は、やっぱり危険だから山には入らないんですか? アマミノクロウサギって夜に活動するんですよね?」
「沙織ちゃんは、夜の山に入りたいと思う?」
「入りたくないですね、ハブが怖いので」
「あら? お化けは怖く無いの?」
「ん~、私、霊感が『にぶい』というのか『鈍感』なのか、完全に視えないので怖くはないですね」
「うらやましいわぁ~」「すごいです、咲希はお化けが怖いです!」
二人の声が重なる。思わず笑顔になっている私がいた。だって早馬さんと咲希ちゃんが、親子みたいに揃った反応をするんだもの。
「咲希ちゃんは分かるけれど、その言い方ですと、早馬さんもお化けが怖い人なんですか?」
「まさか。お化けが怖くて、自然写真家がやっていられると思う? 必要があれば古いお墓の横でも野宿出来るわ」
「それは、すごいですね……」「流石、師匠です」
「事前に、お墓にお線香をあげるのは必須だけれどね。でも、ハブには噛まれたくないから、養蜂用やスズメバチの駆除用に使われている防護服も持っているわよ」
「防護服ですか?」
「そう。夜は、死角が多くなっちゃうし、ハブも活発に動くし、どうしても夜に山奥に入らないといけない時に使っているの。でも、すれ違う人に宇宙人に間違われることもあるから、あまりお勧めしないやつ♪」
「それは、夜の山では最強ですね、色々な意味で」
私の言葉に、咲希ちゃんが同意するように反応する。
「あれ、かっこ良いんですよ。真っ白で宇宙人になれる服」
「そういえば咲希ちゃんは、いつかあの服を着て山の中に入りたいって言っていたわよね」
早馬さんの笑顔に、咲希ちゃんが頷く。
「はいっ、でも、まだ身長が全然足りていないからダブダブなんです。咲希、クラスでも前から三番目のちびっこですから」
「ま、由香里ちゃんも利通さんも身長高いから、焦らなくても咲希ちゃんも身長伸びるわよ」
「はいっ、頑張って牛乳飲んでいます!」
「うふふっ、良い心がけね♪ ――ところで話は変わるけれど、沙織ちゃんは、奄美大島が鹿児島県本土と生き物の分布が大きく異なっていることを知っているかしら?」
「はい。事前にそれなりにお勉強してきました。確か、「渡瀬線」こと「トカラ構造海峡」という分布境界線があるから、生き物の分布が違っているんですよね。毒ヘビが分かりやすいですけれど、渡瀬線より北はマムシとヤマカガシが、渡瀬線より南はハブとかガラスヒバアとかが棲んでいるっていうように」
「そうよ。補足するなら、奄美大島には、ヘビ類はホンハブ、ヒメハブ、アカマタ、ガラスヒバア、ヒャン、リュウキュウアオヘビ、ブラーミニメクラヘビ、アマミタカチホが生息していて、その中で毒蛇はホンハブ、ヒメハブ、ガラスヒバア、ヒャンの四種類。この中で一番知名度が無いと思われるガラスヒバアは、鹿児島県本土のヤマカガシに似たヘビだと考えて良いわ。水辺を好むし、口の奥に毒牙があるし、見た目もどこか似ているしね。ただし、ガラスヒバアの方がかなり攻撃的なところは違うけれど」
「攻撃的と言えば、とりあえず、ハブには遭遇したくないです。二回噛まれたらアナフィラキシーショックを起こす人もいるって話じゃないですか」
私の言葉に、早馬さんがくすりと笑う。
「でも、見てみたいとは思わない?」
「それは……見てみたいという気持ちがあるのは正直なところです。安全なところで、という条件が付きますが」
「咲希もそれが良いと思います。ハブさんはなるべく遭遇しないのが一番ですから」
「あははっ、そうね。二人の言う通りだわ。でも、山の水辺に接近するなら、夏場は特に、嫌でも遭遇しちゃうと思うわ」
「ですよね~」「師匠の言う通りです」
早馬さんの言葉に咲希ちゃんと一緒に頷きながら、ふと思い出したことを口にする。
「あ、そう言えば早馬さん。コブラの仲間と言われるヒャンは、サンゴヘビみたいにとても綺麗だから遭えると良いなぁって私個人は思っているんですけれど、実際、どのくらい珍しいんですか?」
「結構レアだよ。私も、狙って写真を撮るのが難しいくらいに。でも、居る場所には、居るんだよね、こういう生き物。そうだよね、咲希ちゃん?」
「はい、師匠。梅雨頃に一日で五匹も見つけた日がありましたもんね」
「それは羨ましいなぁ。でも、基本的に遭えたらラッキー程度に考えておきます」
「沙織お姉ちゃんは、運が良いから多分、遭えると思いますよ?」
咲希ちゃんの言葉に、早馬さんが頷く。
「運が良いのは、自然観察に必要なことだわ♪ でも――そうだ、後で写真とか動画で良ければ見てみる? 私の家に資料なら沢山あるよ?」
「良いんですか?」
「もちろんよ♪ 普通の観光ガイドみたいなことは出来ないけれど、奄美の森のことなら、多少は経験値を持っているから」
「頼もしいです。よろしくお願いします」
「ありがと。ちなみに、奄美大島にカエルが何種類いるのか、沙織ちゃんは知っている?」
「はい、それも一応勉強してきました。奄美大島のカエルの仲間は、ハロウェルアマガエル、リュウキュウアカガエル、アマミハナサキガエル、ヌマガエル、アマミアオガエル、リュウキュウカジカガエル、ヒメアマガエル、そして鹿児島県の天然記念物のオットンガエルに同じく天然記念物のアマミイシカワガエルが棲んでいるんですよね。ちなみに、渡瀬線を挟んでいるのに、なぜかヌマガエルだけが奄美大島にも棲んでいることは、ちょっとした不思議です」
「そう。県本土とは渡瀬線で区切られているのに、ヌマガエルだけは奄美大島にも生息しているの。ちなみに、沙織ちゃんは、イシカワガエルが見たいんだったよね?」
「はい。あと、同じ天然記念物のイボイモリも見てみたいです」
「イボイモリさん、恐竜みたいで格好良いですよね」
咲希ちゃんの言葉に頷きを返す。
「そう。ゴツゴツ感が魅力的なのよね♪」
「ですです♪」
私と咲希ちゃんのやりとりを聞いて小さな笑顔を作った早馬さんが、ゆっくりと口を開く。
「それじゃ、生き物の補足説明。有尾類はアマミシリケンイモリに鹿児島県の天然記念物のイボイモリが棲んでいるのは、優秀な沙織ちゃんも知っていると思う。もちろん天然記念物だからイボイモリの採集や飼育は禁止されていることも、ね?」
「あ、でも、観察するだけなら大丈夫ですよね?」
双頭イモリのサクラダを飼育している者としては、一度、お目にかかっておきたいというのが正直な気持ち。
「もちろんよ。イボイモリも見つけられるように、ポイントの案内を考えているわ。――そう言えば、沙織ちゃんはアマミシリケンイモリを少し採集したいんだったよね?」
「はい。シリケンイモリも沖縄産のものとは違って、赤いラインが入る個体が多いらしいので、綺麗な個体を見つけられたら、数匹採集して持って帰りたいなと思っています」
「沙織お姉ちゃん、咲希も手伝います」
咲希ちゃんの元気な声に、早馬さんが微笑む。
「了解。水辺に大量にいるから、好きな柄の個体を選んで良いわよ。でも、夢中になってハブに近付かないように気をつけてね?」
「もちろんです」「はいっ、師匠」
「ちなみに、イボイモリとイシカワガエルがいるポイントは、重なっているけれど少し違うわ。イボイモリは乾燥にも比較的強いから、水気さえあれば水辺から多少、離れている場所にもいるの。川沿いの林道の倒木の下とか畑の刈り草の下とかね。もちろん、小川の脇にある水たまりとか、土砂で半分埋まった排水路とか排水マスとかにもいる。そういう場合は、シリケンイモリに混ざるようにしているから、イボイモリを間違えて捕まえて持って帰らないように気をつけてね? 万が一、間違えて捕まえてしまっても、その場ですぐに逃がせば法律的には問題ないけれど、そもそも積極的に捕まえたり、触ったりして良い生き物じゃないから」
「もちろんですよ。私も法的な意味で捕まりたくありませんから」
「咲希も、イボイモリさん捕まえないように注意します」
「よろしい。んじゃ、イシカワガエルの話に移るけれど、イシカワガエルは基本的に夜行性。アカガエルの仲間だから、常緑広葉樹の生える山の渓流の近くに棲んでいて、昼間は岩のすきまや木の洞とかで休んでいるわ。でも、繁殖期や夏の暑い時期には水辺に集まっているから、これから向かうポイントは昼間でもイシカワガエルが見れると思う」
「本当ですか!?」
思わず声が出ていた。くすりと早馬さんに笑われてしまう。
「本当よ。沙織ちゃんはカエル好きなんだね」
「はいっ、私、アルビノアマガエルを飼うくらい、カエルが好きなので嬉しいです!」
――そんな話をしながら、私達を乗せた車は奄美の森へと移動していく。
ああ、早く、フィールドに着かないかなぁ?
(第18話_2尾目_桜島さん編_奄美大島の森の生き物観察ツアー2に続く)
※(2015/12/17)本文が長かったため、話を二話に分割しました。内容的には最後の二行が追加されただけになります。




