第11話_熱帯魚水槽と風水の効果
※熱帯魚水槽と風水の関係を書いてあります。真ん中くらいにポイントがまとめてあります。
~熱帯魚と風水の効果~
六月第三週土曜日の夕方。
リビングで晩ご飯の準備をしていたら、桜島さんが帰って来た。
「ただい、まぁ……」
何だか声に元気がない。と思った瞬間、桜島さんが後ろから僕に抱き付いてきた。危ない、カレーの人参を切るための包丁で指を切りそうになった。
「桜島さん、危ないですよ」
言葉に非難の色を込めずに、事実のみを伝える。
「あ、ごめん。でも――ちょっと鼎に抱き付きたかったんだよ」
「少し待って下さいね」
こんな風に甘えてくる桜島さんはちょっと珍しい。
包丁を置いて、蛇口で手を洗ってタオルで拭いて、桜島さんの方を向く。そのまま腕を広げると、桜島さんが腕の中に飛び込んで、ぎゅぎゅっと抱き付いてきた。僕もお返しで同じくらいの強さで抱きしめる。
桜島さんの腕の力がふわりと抜けた。
「……今日はね、自分の無力さを感じたの」
腕の中で桜島さんが呟いた。その表情は見えないけれど、若干、口元が尖っている時の声だった。
「そうですか。でも、甘えん坊な桜島さんが見られて、僕はラッキーですよ?」
しんみりとした空気を変えるために、軽口を叩いてみる。
「もう、怒るぞ?」
桜島さんが小さく笑う。
良かった。そこまで深刻そうではないようだ。でも、フォローは忘れない。ついこの間、フォローを忘れて大変なことになったばかりだから。
「桜島さん、その笑顔です。良かったら……僕に話してみませんか? 言葉にするだけでも、すっきりするかもしれませんよ?」
それとなく桜島さんに言葉を促す。
「うん、ありがと。実はね――」
桜島さんの話をまとめると、「今日のお客さんに、風水に凝っている人がいて色々質問されたけれど、質問に何も答えられなくて役に立てなかった」とのことらしい。真面目そうで嫌なお客さんで無かっただけに、期待に応えられなかったのがとても残念だったと桜島さんは言っていた。
まだらな糸を紡ぐように言葉を選びながら、たどたどしく僕に教えてくれた桜島さんの話を一通り聞き終えた後に、桜島さんに言葉を掛ける。
「桜島さんは良い意味でも、悪い意味でも、真面目ですよね」
「それは褒め言葉?」
桜島さんが少しだけ頬を膨らませる。
「僕は褒めていますよ」
「……私は真面目じゃなくて、お仕事が好きなだけ。それなのに上手く説明出来なかった」
「今回の気持ちを、次に繋げれば良いじゃないですか」
「うん、それは分かっている。ちゃんと次に繋げないといけない」
「それで桜島さんは何から始めようと思っているんですか? 僕も手伝います」
「うん、ありがと♪ それじゃ早速、鼎にも情報収集をお願いしても良いかな?」
こうして、同じ失敗を二回繰り返さないために、僕と桜島さんは熱帯魚と風水の関係について調べてみることにした。手始めに、まずはインターネットで調べてみよう。
◇
僕のノートパソコンを水槽部屋に持ち出して、ソファーに桜島さんと二人で腰掛けながらインターネット検索をかける。
「そもそも、風水って何だろう?」
僕の隣で、スマホを見ながら桜島さんが呟く。それに僕の検索結果を伝える。
「あるホームページでは『古代中国で生まれた、家や墓の吉凶や禍福といった気の流れを物の位置で制御する思想』って定義されています。別のホームページでは『気の力を利用した環境学』となっていますし、もっと別のホームページでは『陰陽五行説を利用した風と水の環境学』となっています」
「何というか『環境学』って言葉がキーワードっぽいわね。私の方でも風水のこと、ざっくりまとめると『人が居る場所が快適になるように気の力を上手く利用する環境学』って出てきたもの」
「でも、いきなり『気』って言われても、普通に暮らしている僕らにはピンと来ませんね」
「そうねぇ……『西に黄色を置けば金運アップ』とかなら私も知っているけれど、効果は無かったわ」
「その言い方だと、桜島さん、やったことがあるんですか?」
「ん? うちのお母さんがね。宝くじを買ったら、紫色の布に包んで西の黄色い虎の置物の下にいつも置いているの。――最高で一〇〇〇円しか当たっていないんだけれどさ」
ちょっと苦笑いの桜島さん。その表情から察するに、桜島さんのお母さんの場合には、全然効果が無いのだろう。
「鼎、もうしばらく、インターネットで風水のことを調べてみようか?」
桜島さんの言葉に頷いて、再びインターネットの世界に潜り込んでいく。
◇
一通りの調査を終えて、重要そうな項目を文章作成ソフトにコピペで抜粋して、プリントアウトしたところで夕食にすることにした。
今夜はカレー。桜島さんの家ではカレーの中に入れるのは牛肉、僕の実家では豚肉と違っていたから、最初にカレーを作った時には桜島さんに驚かれたのを覚えている。
結局は「どちらも美味しいね」ということになり豚肉でオチが付いたのだけれど、「牛と豚の間を取って鶏肉カレーにする」と言われなくて良かった。チキンカレーのお肉は、どこかパサパサして苦手だから。
ちなみに、飲み物はコーヒーじゃなくて麦茶。最近、蒸々しているから冷蔵庫に麦茶が常備されている。僕も桜島さんも一日の水分摂取量が多いタイプの人間だから、二リットルの容器が一つじゃ足りない。毎日、大きなやかんで麦茶を作っている。
――とか考えていると、桜島さんが僕に話しかけてきた。
「鼎、配膳が終わったよ?」
テーブルの上にはカレーとバジルトマトサラダ。麦茶を置いて――
「鼎、鼎、スプーンとフォークを忘れている」
「あっ」
桜島さんに言われて気が付いた。このまま手づかみで本場風に食べる訳にはいかない。
スプーンとフォークを手渡してくれた桜島さんが席に着いて、手を合わせて僕に視線を向ける。
「「いただきます」」
僕と桜島さんの声が重なった。
◇
「水槽部屋は、部屋が丸ごと水槽みたいな感じだけれど、それでも風水って関係あるのかな?」
カレーを食べながら桜島さんが話しかけてきた。
頭の中で、さっきまで調べていた知識を整理する。
「水は東や東南の方角と相性が良いから、水槽部屋はその場所にあると良いみたいですね」
「う~ん、さっきコンパスで測ってみたけれど、水槽部屋は家の中心に対して北から北西になる場所にあるわ。これって、あまり良い方角とは言えないみたい」
「でも、僕も調べましたけれど『水槽を綺麗に維持していれば大丈夫』みたいな記述がありましたよ?」
「それは私も見た。でも、部屋の南の方角は五行説で火をつかさどる場所だから、水槽を置くのは避けた方が良いっていう記述も見たわ。それに、似たような話だと、家の中心から東西南北に伸びる線上には、水槽を置かない方が良いっていう記述も見た。私達の水槽部屋の場合、どちらにも引っかかっちゃうんだよね」
「そうなんですか。でも、水槽部屋を作ろうと考えたら、多分、ほとんどの人がその条件に引っかかっちゃうと思うんです」
「そうだよね~」
桜島さんが苦笑する。それに僕も笑顔を返す。
「なので、むしろ、プラスになる要因を探してみましょうよ?」
僕のプラスになる要因という言葉に、桜島さんが反応した。
「そういえば、『財方』という場所に水槽を置くと金運が上がるみたいよ?」
その表情は、どこかわくわくしている。桜島さんも金運に興味があるのだろうか?
「財方ですか?」
僕の言葉に桜島さんが頷く。
「財産の方角と書いて、財方。詳しくは財方を説明しているホームページをあとでインターネットで検索してみてほしいのだけれど、角部屋の入口から一番遠い場所――対角線上の端になる部分――が財方と呼ばれる場所になるの。そこに水槽を置くと、金運がアップするらしいわ」
「僕は、金運よりも、桜島さんと仲良くできる風水が良いなぁって思います。この間、喧嘩しちゃいましたから」
冗談っぽく、でもわりと本気で思ったことを口にすると、「そんなこともあったなぁ」といった表情で桜島さんが小さく笑った。
「鼎、そんな風水あるのかな?」
「家族運をアップする風水があるみたいですので、多分、あると思いますよ」
僕の家族という言葉に、桜島さんが何かを想像したらしく嬉しそうに頬を染めたけれど、微笑ましいから気付かなかったことにした。
◇
翌日の日曜日。
午前中から、市立図書館で風水のことを調べる。
本棚の前で、桜島さんが小さな声で呟く。
「それにしても、部屋の中に『水槽を置いて良い』のか『水槽を置いちゃダメ』なのか、はっきりして欲しいわよね」
「そうですね」
風水の本はたくさんあるけれど、水槽について書いてある本はなかなか見つからない。見つかったとしても、「水槽は運気を下げるから置いちゃいけない」と書かれている本が圧倒的に多かった。昨日インターネットで調べた時には、そうでもなかったし、中国や台湾では熱帯魚と風水の関係が発展していそうだから、風水と水槽関連の本もありそうな気がしていたけれど、僕らの勘違いなのだろうか?
そんな中、見つけたのは一冊の本。金魚と風水について書かれたもので、古代中国の思想から始まって魚の飼育方法や風水との関係について詳しく記載されていた。
他にも良さそうな本を追加で二冊発見し、貸出し手続きをして、図書館を出る。
◇
休憩&早めのお昼ごはんにするために、グリーンファンタジストのカフェスペースにお邪魔する。
桜島さんと本を見ていると、指宿店長がやって来た。
「二人とも、こんにちは♪」
「お疲れ様です、指宿店長」「お疲れ様です、店長」
僕と桜島さんの声が重なる。
「面白そうな本を読んでいるじゃない?」
指宿店長が興味津々な顔で覗き込んでくる。
「ええ、僕達、熱帯魚と風水のことを調べているんです」
「昨日、私、お客さんに熱帯魚と風水のことを聞かれたのに上手く対応出来なくて――無力な自分が悔しかったから、調べることにしたんです」
「そっか、そういうことがあったんだ? ――って、桜島ちゃん。お客さんに関する気になった情報は、私にきちんと報告してよ?」
はにかむような、少し困った表情で指宿店長が言った。桜島さんのことを責めていると言うよりも、情報が入らなかったことが勿体無いといった印象の顔だった。それに対して桜島さんが、不思議そうに首を傾げる。
「あの……店長、昨日は午後からお休みだったじゃないですか。私は日報に風水のお客さんのことを書いて帰ったんですけれど、もしかして読んでいないんですか?」
一瞬、指宿店長が固まる。
「え、あ、えっと、ごめん。忙しくて……まだ手がつけられていない状態だった。そりゃ、読んでいない私が悪いわね~」
「もう、店長、しっかりして下さいよ」
桜島さんが小さく笑顔を作る。
「ごめんごめん。ところでさ、風水に関してはどこまで調べられたの?」
「ざっくりと言いますと、私と鼎で基本的な情報――何が良いのか悪いのかの共通項――は整理できたと思います」
「そう。具体的には?」
「えっと、コレが今までにまとめた情報です。本やホームページによっては違うこともあるんですが、ここにまとめた部分はおおむね共通しています」
そう言って桜島さんが一枚の紙を机の上に置く。それはさっきまで僕達が調べていた情報を箇条書きにしたもの。
==ポイント==
・寝室に水槽を置くのは避けた方がいい。
・部屋の入口の対角線上の隅(財方)に水槽を置くと金運アップ。
・汚れた水は運気がダウン。常に綺麗にしておくこと。
・死んだり病気になったりした魚は運気がダウン。健康な状態をキープさせること。
・動きのある水(活水)が好ましい。
・水の気は南の方角と相性が悪いので、南に水槽は置かない方がいい。
・水槽を置く代わりに魚の絵を飾るのもいい。
・魚の色は「赤=幸運」「白・金=財運」「黒=浄化・健康運」とされている。
・縁起の良い魚の数は、一匹、四匹、六匹、九匹。
・水槽の側に観葉植物を置くとさらにいい。
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紙を見ていた指宿店長が口を開く。
「ふうん、こういうルールみたいなモノがあるんだ? 観葉植物も風水的にいいって、良いことを聞いたわ♪」
「えっと、本によっては水槽を部屋に置くこと自体が良くないとする本もあるのですが、僕らが水槽を置くことを良しとする本やホームページの情報だと大体こんな感じになります」
「ねぇねぇ、この情報がもう少しまとまったら、後で私に買い取らせてよ? 風水を気にするお客さん向けに、お店の従業員で情報共有したいから」
「店長、買い取りじゃなくて、ただで良いですよ? そうよね、鼎?」
「ええ、僕もただで構いません」
僕と桜島さんの言葉に指宿店長がはにかむ。
「こらこら、二人とも何を言っているの。私はきちんとした情報が欲しいから、お金を出すと言ったの。無料で中途半端なモノをもらうよりも、有料でしっかりしたモノをもらいたいから。――ってことで、今回もレポート形式でお願いできるかしら?」
僕と視線を合わせてから、桜島さんが口を開く。
「本やホームページから引っ張って来た二番煎じの情報で良いのなら……」
「そうね、それで構わないわ。でも、それだけじゃレポートとしてつまらないから、何か一本、風水的に良いとされるレイアウト水槽を作ってよ。製作途中の写真撮影も忘れずに。お店のディスプレイ水槽用のスペースを使って良いから、風水的に美味しいレイアウト、二人にお願いしても良いかしら?」
店長の言葉に、桜島さんがわくわくした瞳で僕の方を見てきた。お店のディスプレイ水槽を作れることが誇らしいのだろう。頷くことで肯定の返事をすると桜島さんが嬉しそうに口を開いた。
「店長、分かりました。鼎と二人で頑張ります!」
◇
早めの昼食後に、さっそくディスプレイ水槽のレイアウト作成に入る。
ポイントとしては――①魚の色は「赤=幸運」「白・金=財運」「黒=浄化・健康運」を入れる②縁起の良い魚の数は、一匹、四匹、六匹、九匹を守る③水草をふんだんに使ったレイアウトにする④手に入りやすい一般的かつ丈夫な魚と水草を使う――ということに気をつけてレイアウト水槽を作ることにした。
水槽のサイズは「風水尺」というサイズの吉凶を測るメジャーを参考に、一般的な六〇センチ×三〇センチ×三六センチの水槽を使うことにした。風水尺で測ると、偶然なのだろうけれど、普及している六〇センチ水槽は縁起の良いサイズだった。最初に水槽の規格を考えた人が風水のことを意識して作ったのかは分からない。でも豆知識としてディスプレイ水槽のポップに、この情報を書かせてもらうことに決めた。
「鼎、中に入れる魚は何にする?」
「赤、白、金、黒を全部入れたいですし、一種類で最大九匹までしか入れられないことを考えると、小型魚の混泳水槽が良いと思います。そうなると――」
桜島さんとお店の水槽にある在庫を見ながら打ち合わせをする。
その結果、可愛さを狙う「レッドプラティ×九匹&プラチナセルフィンモーリー×四匹&アルビノセルフィンモーリー×一匹&バルーンブラックモーリー×一匹」とする案と、格好良さを狙う「レッドファントムテトラ×六匹&ブラックファントムテトラ×六匹&ハセマニア×九匹&アルビノコリドラスorアルビノミニブッシープレコ×四匹」とする案の二つが出てきた。
「私の好みとしては、テトラ系が好きかな♪ 水草とも合わせやすいし、流木も使えるし」
レッドファントムテトラの泳ぐ水槽を見ながら、桜島さんが笑顔で言った。確かに、流木が使えた方がレイアウト水槽の幅が広がる。おまけに僕の好みもテトラ系だ。
「僕も、テトラ系が良いかなと思います。群泳させたら見栄えも良いと思いますし」
「んじゃ、決まりね。中に入れる水草は何にする?」
「綺麗な水を維持するという意味では、丈夫で成長の早い水草が良いかなと思いますので……ウォータースプライトは入れておきたいです」
僕の言葉に、桜島さんがちょっと呆れたような、じとっとした視線を送ってくる。
「鼎、ウォータースプライト好きだよね? 家の水槽部屋でも大量に栽培しているじゃない?」
「そうですね、簡単に殖やすことができますから」
「わざわざお店のディスプレイ水槽で使うことはないんじゃない?」
「そうですか? ウォータースプライトの丈夫さや水質浄化能力は最強ですよ? ウォータースプライトを入れておけば、水槽にコケも生えませんし」
「……鼎がそこまで言うのなら、今回もウォータースプライトを使おうと思うけれど――せっかくだから、レイアウト的にもっと繊細な葉っぱのベトナムスプライトを使いましょ? 栽培難易度的にも、水質浄化能力的にも変わらないしさ?」
「それだとアルビノミニブッシープレコが悪戯しないですか?」
「大丈夫。ミニブッシープレコは、個体差もあるけれど、流木を入れておけば水草に悪さすることはほとんど無いから」
「そうなんですね。それじゃ、ベトナムスプライトを入れることにして、他の水草は何にしましょうか?」
「店員の立場からすると、初心者のお客さんにもお勧めしやすい水草として、ロタラインディカとかアヌビアスナナとか南米ウィローモスとか、二酸化炭素の添加が不要な水草辺りがチョイスとしては良いかなと私は思う」
「そうですね。ディスプレイ用の水槽ですし、それが良いかもしれません」
「んじゃ、お店のバックヤードから適当に、使えそうな水草を見繕って来ましょ♪」
桜島さんに手を引かれて、僕らはお店の裏へと向かった。
◇
レイアウト水槽を作り始めて約一時間が過ぎた。途中、中に入れる流木の向きについて桜島さんと意見が一致しなくて置き方が決まらない事件があったものの、それ以降は順調に作業が進んで、前景用のピグミーチェーンサジタリアを残り三株植えるだけ。
ちなみに、僕が水槽に水草を植える係で、桜島さんは後ろから現場監督をしている。
「うんっ、なかなか良い感じに出来たんじゃない?」
僕が最後の水草を植え終わったのを確認して、桜島さんが言葉を口にした。
タオルで手を拭きながら桜島さんの隣に移動して、レイアウトのバランスを見る。我ながら、良い感じに作れたと思う。
「良いんじゃないでしょうか」
「良いよね? それじゃ――店長を呼んで、見てもらおう♪」
桜島さんがそう言った時、ちょうど指宿店長がこちらの方にやってくるのが見えた。
「店長、チェックをお願いします!」
「おっ、出来た? 見せて見せて♪」
指宿店長が僕と桜島さんの隣にやってくる。そして水槽の正面、横、斜めと見てからゆっくりと口を開いた。
「悪くないね。作業前に見せてもらった配置図通りにレイアウトも出来ているし、メインになる流木の角度も良いと思う。ちょっと水草が斜めっているところもあるけれど、ライトで光を一日当てれば揃ってくれるだろうし――でも、ちょっとだけ惜しいのは、流木が目立ち過ぎているところかな。バランスを取るために、SSサイズの流木を二、三個だけ水槽内に配置してみてよ」
「流木ですか?」
僕の言葉に、指宿店長が頷く。
「うん。メインの流木が中央にあるでしょ? そこから隠れた根が生えているみたいに、左右にバランス良く小さめの流木を配置してみると、もっと自然な印象になると思うの」
指宿店長が指で、うねるように流木の配置を教えてくれる。確かに言われてみると納得がいく。イメージ的に、かなり小さめの流木でも良さそうな印象だった。
「分かりました。追加してみます」
「うん。私はグリーンインテリアコーナーにいるから、流木を配置したらまた教えて♪」
そう言うと、指宿店長は小さく手を振って僕らから離れた。
◇
流木を追加して指宿店長のチェックを受けてOKを貰った後――水を回す時間を兼ねて――喫茶スペースで休憩を取る。ソイルによる微弱な水の濁りを取るために、フィルターを作動させて一時間くらい放置するのだ。別に水を回さずに軽く濁った状態で魚を入れても良いのだけれど、何となく気分的に僕らは水の濁りが取れてから魚を入れることに決めた。
コーヒーを飲みながら、桜島さんと手分けをして広告用のポップや説明文を作っていく。レポートも忘れずに文章をまとめていく。
そんなことをしていたら、あっという間に一時間が過ぎた。ポップや説明文が完成し、指宿店長に提出するレポートもパソコンに文章を打ち込んで写真を合わせるだけという状態まで作成できた。
◇
「それじゃ、鼎、放すわよ?」
桜島さんの言葉に、視線を返して頷く。
水合わせをした魚達を桜島さんが水槽に放した。すぐに水中でレッドファントムテトラとブラックファントムテトラの群れが出来た。ハセマニアは水槽内で散って、アルビノブッシープレコは流木の影に隠れた。二、三日もすれば水槽に馴染んで、それなりの発色を見せてくれるだろう。
桜島さんがタオルで手を拭いて、ライトの位置を調整する。
「これで、完成ね♪ お疲れさま」
桜島さんが僕の方を見て微笑む。そして、レイアウト水槽を眺めながら、満足そうな表情を桜島さんが浮かべる。
「風水ってさ、即効果があるんだね♪」
視線を水槽に向けたまま、桜島さんが嬉しそうに言った。
「もう効果が出たんですか? 早いですね」
冗談っぽく言った僕の言葉に、桜島さんがはにかむ。
「そうだよ? 金運アップの効果があるのかは分からないけれど、今日も鼎が優しくしてくれたの♪ だから、即効性があるんだよっ♪」
なるほど。確かに甘えるような桜島さんの笑顔が見られたから、そういう意味では僕としても仲良くなれる風水の効果がすぐにあったと言える。だから熱帯魚の飼育に風水を取り入れるのも悪くないなと思えた。それを家の外で口にするのは恥ずかしい気がしたけれど、思ったことを素直に口にすることにした。僕は桜島さんが好きだから。
「僕も可愛い桜島さんが見られて、嬉しいです」
桜島さんが満足そうに笑う。こういう時の桜島さんはいつもの五割増しで可愛くなる。視線が引きつけられて、ずっと見ていたくなる。
視線が重なった僕らの後ろで、指宿店長がにやにやとした笑顔を浮かべているのに気が付いたのは、その十秒後だった。
(第12話へつづく)




