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ハッピー・サマー・ウェディング(前編)

作者: 茶山ぴよ

夏ホラー2007参加作品です

突き刺す太陽光線に瞳孔が麻痺したように、真っ暗な更衣室。


サウナのような暑さ、濡れた水着から充満する塩素の臭気。


暑い暑いとわめきながら、そこから真っ先に出てきたのはギャル系の女子だった。


数が限られているシャワーを、彼女たちが真っ先に使う暗黙の了解が生徒の中にできていた。


……坪井まさみは、一番最後に、ひっそりとシャワーを浴びていた。


更衣室にはまだ生徒たちが残っているのに、誰も、まさみには声をかけない。


まさみも……もはやそんなことは諦めたように、濡れた水着のまま、スポーツタオルで髪を拭きながらシャワーからあがる。


更衣スペースの四角く区切られた木の棚の前にやってきたまさみは無言のまま異変に気づいた。


棚に置いたはずの、自分の制服が……下着も、バスタオルもない。


――うそ。


まさみは血相を変えて、棚中を見て回った。すでに、みんな着替え終わっている。すべての棚に衣服らしきものが入っている気配はない。


まさみは、水着のまま這いつくばった。


スノコの下に落ちてないか、洗面スペースの下のバケツに突っ込まれてないか、ゴミに捨てられてないか。


残っていた生徒たちは、そんなまさみに声を掛けることもなかった。


ただ気の毒そうに、必死で探すまさみを見るだけで……誰も、タオル1つ貸そうとはしなかった。


「あいつら」が怖かったから。


まさみはついに、水着のまま、更衣室を飛び出した。


すでに10分休憩になっていたので、水着のまま裸足で校舎の廊下を走るまさみは、とても目立った。


ようやく教室にたどりついたまさみの目に飛び込んできたのは……。


『忘れ物』


というラクガキと共に、黒板に貼り付けられた下着。


教室には……そこを更衣スペースに使っていた男子がほぼ全員残っていて、水着姿のまさみに一瞬注目が集まり……しかし大半は気まずそうにそっぽを向いた。


まさみは無言で脱兎のごとく黒板に近寄ると、画びょうで止めてあった自分の下着を素早く取った。


しかし制服はどこにもない。


なおも教壇の下をのぞきこむまさみに、壁際に座り込んだ、髪を赤く染めた男子から


「水玉パンツカーワーイイ〜」


とヤジが飛ぶ。続いて机の上に腰パンの足を投げ出した細眉の坊主頭から


「坪井サン、パンツ忘れちゃいけないでしょ」


とバカ声が起きて、たむろしていた数名の男子からひゃっひゃっひゃと下品な笑いが起きた。


すでに教室に戻ってきていたギャル系が、そんなまさみを見て、くすり、と笑う。


「バカじゃん。教室にあるはずないのに」


「ちょー、萌、おかしーよね」


ギャル系のリーダー格・宇佐見ナナが、わざわざ傍らに寄ってきて萌の肩を叩いた。


萌は笑えなかった。笑うはずがない。


だって、まさみは、小学校からの友達だから。


そして……つい1か月前まで、女子に無視されていたのは萌のほうだった。


――あいつ(まさみ)としゃべったら、あんたがあいつと同じ目にあうんだよ。


萌は「ねー」と笑いかけながら威圧してくる宇佐見ナナとその取り巻きが怖い。


――まさみちゃん、ごめん。


下着を握りしめたまま、なおも必死で制服を探しまわるまさみ。


それをさも楽しそうに……高見の見物を決め込む宇佐見ナナらの前で……萌ができる抵抗といえば、次の授業の宿題をやるふりをして、まさみのほうを見ないことだった。


萌はシャーペンを握りしめながら心で叫んだ。


――ごめんね、ごめんね。まさみちゃん。何もできなくて、ごめんね――。






「萌、どうしたの?」


至近距離に、徹さんの整った顔があった。


――よかった。夢だったんだ。


「うなされてたよ。大丈夫?」


こんなとき、むしろこっちの世界のほうこそ夢かも、と私はときどき信じられなくなるときがある。


だけど……頬に触れた徹さんの指の温かさと、カーテンの隙間から差し込むきつい朝日に、ようやく安心できる。


徹さんの整った目が、私を映して優しい形になっている。


私は、そっとうなづくと、彼の胸に頬を寄せた。


この夏に、徹さんと結婚できるなんて、私はまだ信じられない。


そんな幸せが訪れるなんて、あの悪夢のような10年前からみれば、考えもしなかったことだ。


「甘えんぼだな。……でも、もう起きなきゃ、二人揃って会社に遅れちゃうよ」


「……今、何時?」


「7時20分かな」


「うそっ」


私は飛び起きた。


9時の出勤には、8時に出ないと間に合わない。


今から朝ごはんをつくっている余裕はない。


「いいよいいよ、マックで朝は食べよう。それでいいじゃん」


徹さんは笑いながらバスローブをはおってベッドを降りると、カーテンをあけた。


初夏のきつい朝日が、まだベッドの上にいる私に射して、思わず目を細める。


安心した私は、大きく伸びをし……携帯の点滅に気付いた。


メールが着信している。


タイトルなし、見覚えのない発信元に、かすかに不吉な予兆があった。



 >スグ別れないと死ヌ



私は息を飲むと、メールを閉じた。








「あーら、大久保君に青山さん」


マクドナルドから出てきたところを、同じ職場の先輩、野上恭子に目ざとく見つけられてしまった。


会社の最寄駅近くのマックだから仕方ないといえばそうだが。


ちなみに彼女は徹さんと同期、つまり6年先輩だが、短大卒だから私より4つ年上だ。


「月曜から二人揃って朝マック。仲がいいわね」


冗談の皮をかぶりつつも、私に投げられる野上の視線はとても冷たい。しかし徹さんは


「うん、仲いいよ〜」


と澄ましている。こんなとき私はとても気まずくて、どうしていいかわからなくなる。


あまつさえ、今朝の徹さんはご機嫌なのか、野上の前で無邪気にのろけてみせるべく……私の肩に手を乗せてぐいっと引き寄せた。


それと同時に野上の眼がピカッと光るのを見てしまい、私はぞくっとした。


あとで何をされるかわかったもんじゃない。







制服を身に着ける前に、私は念入りに肌にあたる部分や腰を点検する。


タグに隠れてカミソリがないか、おしりの部分が裂けていないか……なんでそんなことをするのかといえば。


それは、私が職場でイジメにあっているからだ。


配属してまもなく、同じ職場の先輩である徹さんにデートに誘われてからだから、もう1年も続いている。


裏でイジメの陣頭指揮をとっているのは、おそらくあの、野上である。


背が高くてイケメン、そして誰にも優しく、仕事ができる徹さん。


それだけでも女性社員に人気があって当然なのに、さらにこの会社の専務の息子で、大物国会議員の甥にさえあたる彼は、私が入社する前からみんなが狙っていたらしい。


そんな、言ってみれば会社の王子様の彼が、私にまっすぐに近づいてきた時、私は嬉しいよりもとまどった。


私はそれほど美人というわけではない。


「萌ちゃんは、キレイ系というよりカワイイ系だよね」


といってくれる友達もいたけれど、つまりは私の容姿はごく普通ということだ。


女としてきわめて平凡な私に、男として極上の徹さんが与えられた。


そんな大幸運のかわりに、私は同僚や先輩の女性社員から執拗なイジメを受けることになったのだ。





会社という場所で、女性社員に総スカンを食うということは、生きる術を奪われるに等しい。


特にうちの会社は古い体質で、男性が営業、女性が営業事務と業務が男女で分断されている。


それゆえに私への仕打ちが徹さんをはじめとする課内の男性社員に気づかれることはなかった。


いや、気付かれても困ると私は必死に耐えて、ひたかくしにした。


隠しているうちにイジメはこの1年の間にどんどんエスカレートした。


着替えの服をこっそりと破かれたり、帰りの靴を隠されたり、椅子を壊されて尻もちをついたり。


コンパクト型の化粧品がいつのまにか粉々になっていることなど日常茶飯事。


長い会議の前に生理用品を隠されて、血でスカートを汚してしまったこともある。


そんな個人的な攻撃はもちろん、一斉同報メールがなぜか私のところにこなかったり、仕事の資料を隠されたり、あげく勝手に削除されたり、大事な電話が来たことを教えてくれなかったり。


そういうのはすべて仕事の失敗につながるのが、一番つらい。


徹さんと、この8月に正式に結婚することが決まったこともあり、最近はさらにひどくなった。


でも、私は徹さんにイジメの事実を話さなかった。


告げ口や反撃をしたら、徹さんに軽蔑されてしまうかもしれない。


だいたい社内でイジメられている事実自体、できれば知られたくない。


徹さんに嫌われたくない一心で、私は耐えることを選んだ。







制服に着替えて私が席に着いたときには、徹さんはリーダー席で、すでにパソコンと首っぴきになっていた。


始業前にメールチェックを終わらせ、返信が必要なものは片づけてしまうのが彼のやり方だった。


仕事中の彼はいっそうカッコいい。私は一瞬見とれた。


「青山さん、今日10時からのリーダー会議の資料できてる?」


ふいに徹さんが顔をあげて私に問いかけた。


――何のこと?そんなの聞いてない。


「あれー?金曜日にメールでお願いしなかったっけ? 野上さんと一緒に」


あわてて私はメールボックスをスクロールさせて該当メールを探す。


そんな私をよそに、隣の席の野上は


「はい。営業企画書は私に、金曜3時までのデータ集計は青山さんにって確かにメールで受け取りました」


と勝ち誇ったように答えて、


「ほら、ここCCで来てる。金曜、15時28分」


と自分のパソコン画面を指差す。でも私のところにはそんなメールは着てなかった。


「やってないの?」


徹さんがやや不機嫌な声になる。


「しかたないな。野上さん、手伝ってあげて。10時……いや10時15分でもいいから間に合わせて」


「はーい」


といいながら、野上さんは私を横目でにらむと、


「どうせ間違って消しちゃったんでしょう。退職までは気を引き締めてもらわないと困るわ」


と正論を突き刺した。


――違う。私は消してなんかいない!


すごく悔しかったけど、すぐにデータ集計をすべくEXCELファイルを開いた。


そのとき画面の隅にメールの着信の表示。徹さんからだ。



 >披露宴の数合わせは忘れないでね。忘れんぼさん(^-^)/



徹さんからだった。


忘れたわけじゃないんだけど……と一瞬くすぶった不満は、最後の顔文字にかき消された。


いいわけばかりするやつと思われたくない。


私はちらりと彼を盗み見た。


徹さんはちょうど課長に何かを報告すべく立ち上がったところだった。


でも私の視線に気が付いた証拠に口角が少し上がる。


そんな一瞬、私は全部我慢できる気がしてしまうのだ。


だけど……メールを見直した私は、気が重くなる……披露宴の招待客のことだ。






披露宴。


最近の私の、一番の悩みだ。


政治家と親戚の名家でかつ、専務の息子だから仕方ないのだが……、結婚が決まった時、披露宴は正式にきちんとしなくてはならないと徹さんに言い渡された。


しかも招待客は徹さんサイドだけで200人を超すらしい。


親類だけでなく、明るい性格の徹さんには友達がとても多い。


私はといえば、内気でただでさえ友達は少ないほうだ。


それでも、日頃それほど交流のない親戚全員と大学時代のゼミ友、サークル友達、高校の同級生、それから唯一の習い事であるお茶の友達とせいいっぱい声をかけた。


それでようやく30人になったと、徹さんに昨日報告してため息をつかれてしまった。


「80人くらい……、うーん、最悪でも50人はそっちでも集めてくれないと、席のバランスがとれないよ」


と徹さんはめずらしく少し口を尖らせた。


「営業1課の女性陣は萌に割り当ててあげただろ」


同じ職場の男性陣は徹さんが、女性陣は私が招待することになっている。


だが……私はそのほぼ全員に断られていた。


ちなみに結婚式と披露宴の日取りは8月12日に設定している。


夏休み2日目というこの日、会社のみんなは


「あらざんねん。夏休みだからハワイにいくことにしてるの」


「あたしは温泉」


「あたしは北海道」


と判で押したように欠席に丸をつけた返信用紙を手渡してきた。


イジメ相手の披露宴なんかに行くはずもない。当然といえば当然である。







「もう一度、会社の人に頼んでくれない?」


徹さんはそう言ったけど絶対無理だと思う。


私は、押入れの中の整理ボックスから中学の卒業アルバムを出していた。


中学時代の友人は、ほとんど高校で別れ別れになり、たしか同窓会も成人式の年に1回あったきりだった。


だけどそのとき「また会おう」と盛り上がっていたことを覚えている。


同窓会がわりにと招待すれば、誘い合って来てくれるかもしれない。


私は中学時代の友人、池田サキ、北野沙織、長尾藍に順番に電話をかけてみることにした。


ちなみに成人式の時に交換した携帯番号は、4年もたっていることもあり、とっくに使われていなくなっていた。


実家にいるといっていた池田サキを選んで、電話をかける。


電話には彼女のお母さんらしき人が出て、一瞬なんと説明すべきか迷う。


「あの、お久しぶりです。中学の時にサキさんと同じクラスだった青山といいますが……」


「ああ……」


普通ならここで気を利かせて本人に代わるだろう。


しかし、お母さんは、どうも受話器を握りしめたまま、絶句しているらしい。


「あの、サキさんはいらっしゃいますでしょうか?」


「あのこは……サキは2年前に亡くなりました」


――うそ。そんなの聞いてない。


驚きのあまり、私が絶句する番だった。


「交通事故で……」


悲しみがまだ生々しいらしく、サキのお母さんの声はだんだん引き絞るような声に変わっていく。


あまりに驚いて、そのあと何と声を掛けて電話を切ったか覚えていない。


いまさらのおくやみを述べるのはひどく骨が折れたような気がする。


中学の時の同級生が、24歳にして『もうすでに一人』、いない。


いや。


私の目の前に、フラッシュのように思い出が蘇る。


――まさみちゃん。


私は目の前の映像をむりやり振り払うと、その次、北野沙織に電話をかけてみた。


あいにく留守だった。私は要件をできるだけ丁寧に録音に残した。


もう一人、長尾藍。


たしか彼女は、成人式の時、東京の大学に進んだと話していたから、実家にはいないかもしれない。


だけど事情を話して携帯番号を教えてもらえればそれでいいやと電話をかける。


「もしもし……。中学の時に藍さんと同級生だった青山といいます。夜分すいません」


「いいえ」


硬い感じの男性の声は、藍の父なのか兄なのかよくわからない。


こういう声は苦手だけど要件は伝えるべきだろう。


「あの……実は、このたび結婚することになりまして、それで……藍さんを披露宴にご招待したいと思いまして……それで藍さんの連絡先を」


「藍はもういません」


また。飲んだ固唾が合図のように、心臓がどくっと打ち始める。


「3年前に、母と一緒に交通事故で死にました」


それでようやく、このつっけんどんな男性が藍のお兄さんだとわかった。


うそ……こんな偶然があるだろうか。


打ち始めた心臓は、体全体を震わせそうになる。


何て言えばいいのかわからなくて、でも言葉も見つけることすらできなくて……そんな私の携帯にプップッと割り込み音が入った。


画面を見るとさっき留守だった北野さんの実家の番号だ。


藍の兄さんは、かなり一方的に電話を切ってくれた。


私は震えが止まらない手で通話ボタンを押す。


きっと沙織が、掛け直してくれたのだろう。


「もしもし」


自分の声が震えていることに気づいて、私は大きく息を吸い込む。


「青山さん?久しぶりねえ……」


沙織本人ではなく、お母さんの声。そういえば北野沙織の家には2〜3回遊びにいったことがある。私はあいまいに返事をした。


「ご結婚されるのね。おめでとう」


「ありがとうございます」


私は答えながら焦りがジリジリとつま先からやってくるのを感じた。


沙織を招待したい旨は留守電に残したはずだ。だったら沙織本人が掛けてくれば、てっとり早いのに。


それをしないのは……。すでに私は嫌な予感にわざと目をそらしていた。


「あの沙織さんは……」

「それで実はね」


つい同時に声を出して、一瞬沈黙が漂う。


「沙織はね……もういないの」


息が喉で凍りつく。






中学時代に仲が良かった3人がみんなすでにこの世にいない。


偶然だろうか。


私はいてもたってもいられなくて、卒業アルバムから3年の時にクラスをまとめていたひょうきんもの加藤優太くんに電話をかけることにした。


幼稚園が一緒だった彼は学校のいろいろな噂に詳しかった。成人式のときも欠席者の近況などを話してくれたはずだ。


「青山さん……元気でよかった、懐かしいなあ」


優太くんの開口一番セリフに違和感を感じた。


『元気でよかった』なんて、まるで元気じゃないことを心配しているような口調じゃないか。


だがまずは、要件を伝える。


「いいよ。2次会の会費程度でいいなら10人くらいは集められるよ」


披露宴の人集めを軽く引き受けてくれた優太くんに私は手をあわせたくなった。


それでお互い軽く近況報告をしたあとで、私はさっきの『元気でよかった』について蒸し返してみた。


ああ、それそれ、と彼はため息とともに吐きだすように言った。


「青山さん、2年のときは4組だったよね」


――2年。


ごとり、と心臓が動き出す。


「う…うん。そうだけど?」


結構噂になってるけど、と前置きをして彼が話し出した事実に、私は思わず息が止まった。


なんと、2年4組の女子のうち8人がすでにこの世の人ではないという!


優太くんはさらにとどめを刺すべく


「一番最初は、高校に入って自殺した坪井まさみってコなんだよね」


といった。頭を殴られたような衝撃。


「それ以来、事故や事件で次々と死んでいってるんだ……。いや1人、なんとか命が助かった人がいたか」


「それ誰」


「宇佐見って、すっげーカワイイけど意地悪いギャル系いたじゃん。あのコ、去年顔に劇薬ぶっかけられて、二度と人に会えなくなったんだって」


宇佐見ナナはまさみイジメの首謀者だった。


「でさ、4組だった青山さんに聞きたいんだけど」


「な、何?」


思わず声がうわずってしまう。


――私は、私は何もしていない。何もできなかったけど何も加担していない。


言い訳が耳元でこだまするようだ。


「その坪井さん、2年のときにひどいイジメにあってたんだって?」


――ああ!


私は、携帯を持ったまま、頭を抱えた。どこからかまさみちゃんの声がする。


『萌ちゃんは何にも悪いことしてないじゃん。何で無視するの!』


2年の最初に無視されていたのは私のほうだった。


まさみちゃんへのイジメは、正義感の強いまさみちゃんが、私への無視に対して抗議したことから始まったのだ。


――私は何もしていない。……だけど何もしてあげられなかった。


優太くんの問いに、私はかろうじてうなづくしかできない。


「やっぱりそっかー。それでかな、坪井さんの呪いなんて言うやつもいるんだな、これが」


あの事件以来、交流を絶ったとはいえ、小学校から仲が良かった私は葬儀に出席した。


祭壇の上にあった、まさみの遺影がサブリミナルのように脳にフラッシュする。


死人が……生きている人を呪い殺すなんて、果たして本当にありうるのだろうか。




電話を切った私は……メールの着信表示を見つけた。


開く前からある予感があった。

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