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彼と彼女は『不死殺し』  作者: 産業
冒険者の国 王都ゲルム
7/9

鉱山の村パルタ②

「ここがパルタですか……なんというか、その……」

ノルドが口ごもりながらも何かを言おうとするが、思いつかない様子だ。

「何もない村だと言ってしまえばよいではないか。気を使うこともないだろうに」

「そんなことはない……よ?」

語尾が疑問系なのが哀愁を感じさせる。

王国ではほとんどの建造物がレンガ造りであるのだが、パルタの村はほとんどが木造建築だ。

パルタは国境沿いの鉱山の中腹にある村だ。村といっても鉱物の採掘量は大陸随一であるため決して栄えていないわけではない。

しかしあまりにも交通の便が悪いため鉱夫とその家族以外ほとんど住み着かないのが現状だ。

村にあるものといえば出稼ぎに来た鉱夫用の宿屋と雑貨屋、そして小さい冒険者ギルド窓口だけだった。

「と、とりあえず冒険者ギルドに行きましょう。連絡は『メッセージ』でしてあるという話ですから」

ニヤニヤしながら話をそらすノルドを見つめるアリスだが、その意見には賛成だった。

「フリードさんもそれでいいですか?……フリードさん?」

ずっと腕組をして考え事をしている風のフリードに問うも反応が無かったため名前を呼ぶ。それでやっと気づいたというようにフリードはあわてて返事をする。

「――あ、ああ。すまない、聞いていなかった。もう一度言ってくれないか」

その様子に呆れたようにアリスが言う。

「グリフォンの件から様子が変だぞ、筋肉学者。食べ物でも拾って食ったのではないだろうな?」

「ちょっと、アリスってば。そんな言い方は……」

すぐにたしなめに入るノルドだが、フリードは心ここにあらずといった感じだ。

とりあえずといった体で冒険者ギルド――とはいっても受付窓口のみが村の入り口付近にある――へと足を運ぶ。

「すみません、ノルド・ハインケルです。依頼を受けて来たのですが『メッセージ』の確認をお願いできますか?」

受付は初老の男性だ。人当たりはよさそうだがどこかやつれている印象を受ける。

「あ――はい、かしこまりました。すぐに確認いたしますので少々お待ちを――」

すぐに『メッセージ』の確認をする。『メッセージ』とは特定の場所に声や言葉、文字を届ける魔術だ。一般的に魔術の素養があれば誰でも使用する事ができるうえに、一般人でも『メッセージ』の確認をすることができるため重宝されている。

「――はい、承っております。ノルド・ハインケル様とアリス様でございますね。お二人組みとお伺いしておりますが、後ろの男性は……?」

「えっと――旅の途中で出会った仲間です。今回の依頼を手伝ってくださるそうですのでご心配なく」

後ろの男性というのはもちろんフリードのことだが、事ここにいたって真っ先に口を開いてあることないことしゃべりそうな彼が、なぜだか一言も発しない。そのためノルドが簡単に説明をしたかたちになった。

「左様ですか、では村の長に連絡をいたします。詳細は長からお聞きしていただきますようお願いいたします」

受付の男性は最後まで慇懃無礼の姿勢を崩さずノルド達に村長の住む場所を伝えた。




「ここか。長という割にはこぢんまりした家ではないか?」

アリスがまた礼を失した台詞を言う。あわててノルドが身振り手振りで制するがすぐに人がやってきた。

「――これはこれは、わざわざ遠いところから……私が村長のパパリ・タルーマです」

暖簾だろうと思われる布を押し上げて出てきたのはかなり厳つい老人だった。かなりの高齢だと思われるがフリードに勝るとも劣らない体躯をしており、糸目にもみあげとあごまでつながった無精ひげが特徴的だ。しかし口調や態度から温和な性格だということがうかがえた。

「あ、ご丁寧に。僕はノルド・ハインケルです。彼女はアリス。そして旅の途中で出会ったフリード・ゴートです――それで、依頼の内容ですが……」

自己紹介もそこそこにすませ本題に入る。すると「ここではなんですから……」と村長が中へと入るよう促す。

断る理由もないのでお邪魔させてもらい、話を聞くこととなった。

「それでは……どこまで存じ上げておられるかわかりませんので始めから、ということでよろしいですかな?」

「ええ、それでかまいません」

「わかりました……まず、この村は鉱山を主要財源として生活しております。それはこの村の興した際からずっとです。ですがこの鉱山には神がおられました。そして無断で神の土地を掘り、荒らしたとされパルタの村は神によって災厄がもたらされました――ええ、お察しの通りで、疫病です。現在でも特効薬は見つかっておりません。そのため鉱山どころではなくなり、村は存亡の危機となりました――。そこで我々の先祖達はどうにか怒りを鎮めようとしたのです。それが生贄……村の生娘をほこらのある地底湖へお供えしていたのです。すると疫病は徐々に無くなっていきました。そして現在では完全になくなったとされています。ですが、数年ほど前までは疫病もないというのに生贄の習慣は続いていました。悪しき習慣であると私も思います――しかし、それほどまでにこの村は神にすがってしまっていたのです。ですがそれも数年前までのこと……。私が村長になったと同時にその悪しき習慣を絶たねばと思い、生贄を捧げることをやめさせたのです。生贄をやめさせても災厄は起こらなかった。私はこのまま生贄の風習がなくなると思っていました――数日前までは……」

そこまで話した村長の顔には暗い影が落ちていた。

ノルドがその後を続ける。

「そして最近になって、行方不明者が出ている……ということですね?」

村長は苦しげに頷く。

「それも生贄の条件に合う娘だけがいなくなっているのです。私もほとほと困り果てておりまして……」

「だいたいは了解しました。ですがどのようなモンスターや現象が起こるかわからないため依頼料は――」

ノルドがそこまで言うと村長も理解したのか、もちろんですと答えた。





長旅で疲れたでしょうから今日は客間でお休み下さい、と村長に勧められたのは一向が村民から情報を収集しているときだった。たしかに日も暮れてきていたため断る理由も無く、村長に用意してもらった食事を平らげたノルド達は村長の家の客間に居た。

「情報は村長がおっしゃっている以上のことはありませんでしたね」

そういって疲れたように敷布団の上に座り込むノルド。それに反応したのはアリスだった。

「なんだ、あれくらいで疲れたのか。軟弱者だなまったく……」

呆れたように言うが自身もすぐに座ってしまうところを見ると疲れてるのはノルドと同じようだ。

ノルド達三人は村で情報収集していたのだが結果はなしのつぶて。それどころか警戒してすぐに家の中へと入ってしまった住人もいるほどだった。

それほどまでに、この村の住人は恐怖の日々が続き憔悴しているようだった。

しかし、その中でも気になったのは村人の様子ではなかった。

「…………」

終始無言だったフリードだった。その様子にいぶかしみつつも原因がわからないため触らぬ神に――という状態だった。

「……どうしたんでしょうね、いったい?」

小声でアリスに話しかけるノルドだったが「私が知るか」と言われ苦笑い。

アリスのさっさと寝るぞという一言でノルドは布団にもぐった。

明日は実際に洞窟に行ってみるということを反応はないものの一応といった体でフリードには伝えてから。




洞窟までは徒歩では数時間といったところだが村長の好意で馬車を使わせてもらっていた。

「馬車にはあまりいい思い出が……」

最近の出来事を思い返したノルドが苦笑する。最近苦笑してばかりのような気がするなぁとしみじみ思うノルド。

「二度あることは、になるのか三度目のになるか楽しみだな?」

不敵な笑みを浮かべそう宣ったのはアリスだがさすがのノルドもそれには顔を引きつらせる。

そんなことをしゃべっていたがさすがに馬車、すぐに洞窟前まで到着してしまう。

御者がここにはいたくないという表情を浮かべるのですぐに帰させ、三人は洞窟前で足を止める。

外見は切り立った崖の下にあるためゴツゴツとした岩肌が見えており、なんとなく人を寄せ付けない雰囲気をかもし出している。

入り口には松明があるが火は灯されていないため奥の様子は覗えない。

「いかにも何か住み着きそうな洞窟ではありますね。洞窟を好む動物ってわかりますか、フリードさ……あ」

聞きながら振り向いてからしまったというような表情をするノルドだが、問われたフリードはやはり無言だ。この二日間彼の口から言葉を聞いた覚えがないので、さすがに不安になってきたノルドだが彼の性格故か苦笑いで済ませてしまっていた。

なにはともあれ行くしかないということでアリスを先頭に洞窟内へ入っていく。松明はアリスが銃で火を点けていたのだがこれにもノルドは苦笑していた。



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