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彼と彼女は『不死殺し』  作者: 産業
冒険者の国 王都ゲルム
5/9

交易都市グノーリア②

約一時間後、先ほどの少年が行き止まりの路地でおびえるような表情を浮かべていた。

「あ……うぅ……」

「さーて、このガキにはどんなお仕置きをしてやろうかな」

「ひっ!?」

筋肉の壁に迫られれば誰だっておびえるだろう。

「まずは部屋に監禁してそれから――」

「あ、あの……フリードさん、もういいですよ。財布も返してもらいましたし」

ノルドがそう言うとフリードは明らかにがっかりしたという表情になる。

それを無視しつつノルドは少年に声を掛けていく。

「君、名前は?」

「……ラウル。ラウル・イルーゼ……」

「ラウル君か、いい名前だね。こんなことをするのはよくないっていうのはわかるよね?」

そう問いかけると少年――ラウルは小さく頷く。

「次からはこういうことをしちゃダメだよ。君にも事情はあると思うけど、悪いことはどんな事情があってもいけないことなんだ」

その言葉を聞いたラウルは涙を浮かべノルドを見やる。次いで言葉を紡ぐ。

「だって……僕が稼がないと弟達が……」

「それこそダメだ。君の弟達が悲しむよ。わかったら僕についてくるんだ」

まだ続けようとしている言葉を遮りノルドが、ほとんど叱るような形で言う。

そのままノルドは歩いていく。フリードはまだ仏頂面だがノルドについて行こうとする。

「あ……う……」

ラウルは戸惑っていた、がやがて数歩遅れた位置まで走ってノルドについてきた。




一方、冒険者ギルド<白露の水面亭>の一室。

「暇だな――」

アリスは一人ノルドの帰りを待っていた。

「暇なんだ――」

とても暇そうだった。




そしてノルド達はというと――

「ここって……?」

「冒険者ギルドのお店だよ」

<白露の水面亭>の目の前にいた。もちろんラウルもいる。

「あの、どうしてこんな場所に……」

その答えはフリードから発せられる。

「助手を募集してるんだよ。ここのマスターがな。お前スリとかしてたなら人が居そうな場所とか知ってるだろうから、情報集めるのにも役に立つだろう?」

そして先ほど見せた不適な笑みを再度浮かべたフリードは<白露の水面亭>の扉をくぐっていった。

「さあ、ラウル君行こうよ。もうこんなことしなくてもよくなるように」

そういうノルドも優しい笑みを浮かべていた。



――数十分後、ラウルはマスターに二つ返事で採用された。その際の条件を提示された。それが助手兼情報集め係になることと、もう一つが――

「ど、どうして僕がこんな格好に――!」

女性用の制服を着ること、というものだった。

もともと中世的な顔立ちのラウルは服装を変えてしまうと女の子そのものだったのだ。

「ほほう……これは……」

なんだか犯罪のにおいがする呟きをするフリードだった。

マスターが言うには「女性の方が男は口を滑らせやすいんだ」とのことらしい。

つまりラウルは街へ情報を集める際にもこの格好でいなければならないのだ。ご愁傷様というべきだろうか。

「あはは……まあ、がんばってね……?」

「がんばれよ、坊主!」

ノルドとフリードの二人はそのまま買出しへと向かっていったのだった。



その日の晩、アリスは大荒れだった。

「なぜ遅くなったのだ。それに、誰だその女は!」

原因は暇だったのとラウルだろうか。やたらと食って掛かるのをノルドは不思議がっていた。

「遅くなったのは悪かったよ、でもラウルは関係ないでしょ?」

ね?と同意を求めるようにラウルに聞くノルドに対し、アリスはさらに不満を募らせていく。

「うるさい、馴れ馴れしくするんじゃない。まったく……」

「理不尽だよ、アリス……」

もともと紹介だけするつもりでラウルを連れてきたノルドだったが、こうなることは予測できなかったらしい。

とりあえず経緯を伝え男であることを告げると驚いた表情を見せたが、多少機嫌は戻ったらしくベッドへと潜りこんでいった。

今日も一日が過ぎていく――



「なんで俺だけ一人部屋なんだ……?」

フリードは四人部屋を一人で使っていたのはどうでもいいことなのだろう。



翌朝。ノルド達は一回のテーブル席で朝食をとっていた。

「……」

「……」

無言で食べるノルドとアリスだったが一人だけ食器の触れ合う音以外を立てている人物がいた。

「うまいなぁ、こりゃ<銀の希望亭>にも勝るとも劣らない味だ、うむ。お前たちもそう思うだろう」

その音の発生源であるフリードは、まるで当たり前だとでもいうような雰囲気を醸し出しつつ、同じテーブルで食事していた。

「あの、フリードさ……」

「貴様ぁ!なぜ同じ場所に座るんだ!貴様は向こうのカウンター席で食べればいいだろう!」

ノルドが遅かったか、といった風に顔に手を当て首を振る。

「なぜって、知らぬ仲でもないだろうに。なぁ?」

これはノルドに同意を求めるセリフだ。思わずノルドも苦笑しつつ頷いてしまう。

「ノルド、後で覚えておくんだな……」

このアリスの言葉には苦笑に冷や汗が追加されてしまうノルドだった。

「まあいい、この際だから多めに見てやる。どうやら目的地が同じということも理解した。だがそこまでだからな、それ以上は付き纏うなよ」

心の底から面倒だと言わんばかりの口調のアリスだが、フリードが同行することに了承したらしい。

それを聞いたノルドは、

「あ、それじゃしばらくの間よろしくお願いしますね」

と言いつつ握手を求めた。

「あぁ、よろしくな少年――?」

フリードがノルドの手を握った途端だった。フリードが怪訝な表情を浮かべた。

そして視線をノルドの顔と手とを一往復させてから手を離した。

「……どうしました?」

その行動にもちろん不思議がるノルドだったが、フリードはなんでもないと誤魔化してしまったため深くは追求しなかった。

その時フリードは気づいた。この少年――見た目以外は大人だが――の手がさまざまな意味で『かたい』という事に。そして恐らく手だけではないのだろうということも。



(ノルドだったか……見た目通りの優男というわけではないようだな。この俺の筋肉をもってしても互角かもしれないな……)

――この学者はやはり学者に向いていないのかもしれない。






グノーリアではさまざまな情報が手に入る。

遺跡、魔物、賞金首、事件――国中どころか世界中の情報が集まっているのかもしれない、そんな場所だ。

そこで情報を集めるのは容易だが『真実』を集めるのは難しい。なにせ又聞きの又聞き、さらにその又聞き――なんてことがあるのだ。それでは尾ひれや背びれが付くのも当たり前というものだ。

その情報をまとめているのは先日<白露の幻影亭>の助手兼情報集め係になったばかりラウル君だった。

「なになに……パルタの村人がいなくなっている事件の簡単に情報をまとめると……

一つ、洞窟にはドラゴンをも凌ぐ魔物が潜んでいて村人をさらっている。

一つ、過去に生贄として捧げられた人たちの復讐ではないか。

一つ、魔物なんていなくて村人が自分たちで食べている

――ってなんですか、これ。どれも信頼性のかけらも無い情報じゃないですか」

ノルドがそう言うのも無理はないし、情報を集めてきたラウルも信じている顔つきではない。

「でも、他に詳しい人はいなかったしそれ以上は難しいよ、ノルドにーちゃん」

すっかり懐かれてしまったノルド『にーちゃん』が、だよねえと頷く。そこへフリードが一言放った。

「やっぱり行くしかないだろうよ。パルタの村へな!」


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