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クレッシェンテ抄録

王宮潜入?

作者: 高里奏


 ルシファーからの理不尽な「おつかい」のせいでまた、王宮に行く羽目になった。

 が、すっかり顔パス有効になっていたようでラミエルがあっさりと中に入れてくれた。

「ほんとに良いのかなぁ?」

 ジルやミカエラは必ず自分も同行する上での許可なのに、ラミエルは門前から動かずにあっさりと私を見送った。

「まぁ、いいや。ジル探そう。ジル」

 ジルに封筒渡してさっさと帰れば何も問題は無い。はずだ。

 そうは言っても迷宮のようなこの王宮。どっちに曲がれば良いか分からない。

 三つに分かれた通路をどっちに曲がるんだっけなんて考えながら適当に右に曲がればペネルがいつもの如く自分のスカートを踏んだらしく、大量の本をぶちまけてド派手に転んだ。

「大丈夫?」

「は、はい……慣れていますから……」

 そう言いながら手探りで眼鏡を探す姿がなんだか可愛い。

 本を拾うのを手伝おうと手を伸ばせば、知らない誰かが本を拾い上げた。

「ポーチェ、またか。君も陛下にお仕えする身ならばもっと注意力を身につけろ」

 そう言ったのはストライプのワンピースからパニエを覗かせたゴスロリちっくなお姉様……。ってか異常にぱっつんな前髪は何があったんだろう。

「ラファエラ様、また、陛下のお着替えに?」

「……言うな」

 ラファエラと呼ばれた彼女はとても不機嫌そうだ。

「髪型が納得いかれないだけでしょう?」

「ネクタイを緩めたいのだが、陛下が今日は一日これで過ごせとおっしゃられるのでな……」

 つまり陛下の着せ替え人形にされているのか。

「この人は?」

「ラファエラ様は宮廷騎士団長補佐です。尤も、普段は陛下のお傍で陛下の護衛をなさっているのですけど」

「実体はただのお人形じゃないの?」

 そう言うとラファエラに睨まれる。

「こいつは?」

「異界の少女よ。陛下のお気に入りなの」

「ああ……なるほど」

 不機嫌そうなラファエラから微かに殺気を感じる。

「随分変わった髪色だな」

「え?」

「……黒でも赤でもない……黒が微かに抜けた……難しいな」

 ラファエラは私の髪を一房摘んで呟く。するとラファエラの髪が黒くなったり栗色になったりと変化を繰り返す。

「え?」 

「ラファエラ様はクレッシェンテで唯一変化自在魔法を使えるの。それ故にジル様も高く評価されています」

 ペネルは言う。

「便利ね」

「まぁな。けど……難しい色だ。これでどうだ?」

 また変化を繰り返し、ようやく一般的な日本人の髪色になった頃、彼女は納得したように頷く。

「まぁ、こんなもんだろ」

「……そんなに珍しい?」

「ああ。クレッシェンテ人も、それ以外も、黒い髪の奴は漆黒だ」

 だから染まらないとラファエラは言う。

「地毛って何色なの?」

「……黒に緑が混ざっている。陛下はこの色も面白くて好きだと言って下さるが、私はあまり好きではない」

 ラファエラは言う。

「どうして?」

「髪の色が単色ではないのは魔力の弱い証拠だと昔から言われている。色が濃ければ濃いほど魔力は高くなる。黒や藍は特に魔力の高いものが多い。それに、混じり気のない金や銀もだ」

 私は外見を弄ることにしか魔力を使えないとラファエラは言う。

「はったり位には使えるがな」

「ふぅん。でも、陛下が好きって言うならきっときれいな色なんだろうね」

 そう言うと、ラファエラは驚いたように私を見る。

「君、変なの」

 彼女が言うと、彼女の髪は黒くなる。

 いや、黒じゃない。

 深い緑が混ざっていて、日の光が当たると見事に美しい。

「綺麗……」

「は?」

「その色凄く綺麗。変えちゃうの勿体無いよ」

 そう告げれば、ラファエラは驚いたように私を見る。

「君……陛下のお気に入りなのわかるよ。それで? 何しにきたの?」

 あ、忘れてた。

「ジルにこれ、届けないといけなかったんだ……」

 騎士団って綺麗な女の人多すぎて困る……。

「ユリウスに? だったら逆方向」

「へ?」

「ユリウスの部屋、あっち。迷ったの?」

 彼女は呆れたように溜息を吐く。

「王宮は広いから慣れない内は大変でしょう? 案内しますよ」

「ありがとう、ペネル!」

 そう言った瞬間、またペネルが転んだ。

 ダメだ。この人、三十歩に一回は転ぶんだった。

「……私が案内しよう」

「え? いいの?」

「……ポーチェに任せれば日が沈む」

 日が暮れるところか沈むんだ。

 さらに追い討ちをかけるかのように、月が出るとまで彼女は言う。

「まぁ、分からなくもないけど……」

 だってペネルだし。

「おいで」

 ラファエラは、本を床に置いて、それから軽く笑んだ。

 不機嫌そうな美人は笑うと幼く見える。

 可愛い人だと思う。

「帰りはユリウスに送ってもらいなよ」

「騎士団長自らにそんなことさせられないよ」

 むしろミカエラに会いたいしと言えば溜息を吐かれる。

「カァーネは今日は休みだ」

「え?」

「今頃自宅でレースでも編んでるんじゃないか? あの子、器用だからね」

 意外すぎる……。

「趣味、トレーニングとかの方が似合う……」

「あ、言えてる。でも、カァーネがいると助かる。こういう服、よく引っ掛けるんだ」

 そう言ってスカートを指す。

「破れたタイツを編み直したりするの上手いよ。カァーネは」

 意外すぎる特技だ。

「ほら、ここだ。ユリウス、居るか?」

 そう、ラファエラが言った瞬間、ドアが開いていきなり手が伸びてきた。

「だれがユリウスだって?」

 紛れも無くジルだ。

 その手はラファエラのネクタイを掴んでいる。

「君……僕の部下だってこと忘れてない?」

「同期の癖に偉そうな口利くな」

「同期だろうが何だろうが僕のほうが上だ。その気になればいつだって君を追い出せる」

「残念だな。陛下がいる限り私はここに残る」

 もの凄く殺気が充満しているこの空間は居心地が悪いが、案外この二人は中が良いかもしれないなんてとんでもない考えが生まれる。

「ん? 君も来てたの?」

「え? あ、うん」

 ジルが急に私を見るから困る。

「何か用?」

「これ、ルシファーから」

 用件だった封筒を渡す。

「相変わらず出世しないね。君は。騎士団で雇ってあげようか」

「いいよ。めんどくさい。訓練大変そうだし。陛下の側近になれるまで何百年とか言われそうだし」

「陛下の側近になりたいの?」

「別に其処まで高望みしないよ。私はとりあえず戸籍もらえるように頑張りたいだけ」

 戸籍もらえないんだもん。陛下の気まぐれで。

「戸籍欲しさに陛下に取り入ろうと?」

「まさか。最悪国に帰れば良いからそこまでしないよ。住む場所と食べるものと着るものがあれば不自由しないし」

 そう言うとジルは微かに笑った。

「君らしい」

「でしょ?」

「今はどこに?」

「メディシナの病院に部屋借りて住んでる。もう直ぐ引っ越すけど」

「ふぅん」

 ジルは興味なさそうに返事して、いかにも高そうでふかふかの椅子に戻って書類に目を落とす。

「ラファエラ、送ってあげなよ。その子一応国賓扱いだから」

「は? 私が?」

「あ、君、明日の夜空けといてね」

「へ?」

「陛下が晩餐にお招き下さるってさ。ディアーナの連中に混ざって貧しいものばっかり食べてる君に栄養あるもの食べさせたいって陛下がおっしゃってね。国中の優秀な料理人を集めての晩餐だ。断ったりはしないだろう?」

 うわっ、二人そろって殺気篭った目で見てくる。

 断ることは許さないって?

「……わかったよ」

 陛下に会うの怖くて避けてるのばれたんだろうか。

「逃げないって」

 ラファエラ怖い。

 ここにミカエラがいなくて良かった。

 彼女がいたら三人に睨まれることになっただろう。

「そうか。では、明日、迎えに行こう」

「あ、ありがとう」

 ラファエラめっちゃ疑ってる。

「ってか、ディアーナってそんなに食生活貧しそうに見える?」

「何を食べているか分からないからそうなるんだよ。何食べてるの?」

「えっと、スープ系多いかな? 朔夜お手製の」

 うん。野菜ばっかりのスープ。

 だって玻璃が魚嫌がるんだもん。

「栄養偏るんじゃない? 肉も食べなよ」

「宗教上の理由って奴みたいだよ」

 朔夜が。

 ってか猛獣使いだからね。彼女。

 きっと動物を殺すのに抵抗があるんだ。

「獅子を丸ごと用意させておこう」

「獅子って……ライオン食べるの?」

「食べるだろ?」

 ラファエラが不思議そうに私を見る。

「食べれたんだ……」

 いや、あんまりそういう冒険したくないな。

「牛とか豚とか……鹿あたりにして欲しいな……」

 カンガルーとか食べる勇気無い。

 可愛いイメージあるし。

「鹿? 鹿を食うのか? 貴様! やはり謀反を!」

「は?」

 だって、鹿バーガーとかあるじゃん。

「鹿は食べないよ。陛下の象徴だからね」

「へ?」

「陛下を守護するのは牡鹿だ」

「へぇ……」

 ある意味凄く宗教的?

「じゃあ、牛か豚にしてください」

 北海道名物否定された気分だよ。

 鹿バーガー好物なのに。

 ちょっと臭いけど。

「羊は?」

「毛を刈るために居るんだろう?」

 ラファエラは首をかしげた。

 可愛い。

「食べないんだ」

「食べたら毛を刈れないだろう」

 まぁ、そうなんだけど。

「なんか、異文化過ぎて……まぁいいや。帰る。今日は帰る」

「ああ。ラファエラ、ちゃんとディアーナのアジトを突きとめるんだ」

「ああ」

 結局仕事かよ。

「残念。酒場に迎えが来るからアジトには行かないんだ」

「へぇ」

 少し不満顔のジル。

 まぁ仕方ないね。

「帰ろうか?」

「ああ」

「またね」

 ジルに手を振るとペネルがこけた音がした。

「……またか」

「ペネルにはミニスカートを穿かせるべきだと思うよ」

「激しく同感だ」

 ラファエラは深い溜息を吐いた。

 外に出ることには既に月がまん丸で、これはお説教覚悟だと思った。

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