一人から十円ずつ
残酷描写ありと表記しましたが、怖さは全くありません。
―――金が無い
一人立ちしてから、もう二十年が経った。
最初は順調に進んでいた仕事、だが急な倒産により会社と職を同時に無くした。
それによりできた借金の返済のために持ち合わせが全て消え、なんとか次のアテを探していても何も見つからず。ついには虎の子までも使ってしまった。
腹が減った、しかし食べ物を買う金が無い。
アルバイトをしよう、しかし面接を受けるための履歴書を買う金が無い。
親に連絡をしよう、しかし滞納した電話代のせいで携帯は止められている。公衆電話を使う金すら無い。
何も言えてないが、親に会いに行く……為の金が無い。
だから歩いて、どうにか歩いていこうと考え、少しずつ向かっていた。
その途中、ふとしたことを思い出した。
『道行く人から10円ずつもらったら、いったい幾らになるんだろう』
つまり今すれ違っている人たちから10円ずつもらっていったら…それは凄い金額になるだろう。
……まぁ、こんな分かりやすい貧乏人に10円をくれる人なんて、とんでもない善人に決まって――
「はい、10円」
いきなり10円玉を渡された。
「え? い、いきなりなんだい?」
「あれ? いらないの? 今『道行く人から10円ずつもらったら、いったい幾らになるんだろう』って思ってたよね?」
首を傾げたのは、変わった格好の女の子だった。
「思ったって…心でもよめるのかい?」
「まね、てかそういう話もあったよねー、丁度いいから、アナタに面白いことしてあげる」
そういって女の子が10円と入れ替えにポケットから取り出したのは、ガマ口の財布だった。
「これを持って人とすれ違うと、中に10円玉が入るんだよ」
そんなまさか…
「でも一つだけ条件、アナタがこれを持った以前に生まれた人はカウントしないからね♪」
ガマ口を渡された。
「いや、あの…」
「それじゃ、金持ちになってお幸せに――――――はー、しっかしこういうのは妙に大人が多いなぁ」
今度中学校あたりに侵入してみよっかなー、とぼやきながら女の子は行ってしまった。
「……」
まさか、そんな分けがないよな。子供のいたずらだろう。
改めて歩き始める。
向こうから、サラリーマンらしき人が歩いてきて、すれ違った。
チャリン
ん? 今何か、お金の音が…
「まさか…」
ガマ口を開けてみる。
さっきまで無かった筈の10円が、一枚入っていた。
「これは…」
前から高校生の五人組が歩いてきた。
横に避けて、すれ違う
チャリン チャリン チャリン チャリン チャリン
ガマ口を開けると、中の10円玉が6枚になっていた。
「凄い…」
あの子が言っていたのは本当だったんだ。
それからというもの、とにかく人の多いところへ向かって歩いた。
駅前へと、都会へと
両親がいるのは田舎だ。人があまり歩いていないから稼げないだろう。
スクランブル交差点など宝の山に見えた。
50人とすれ違った。久々の食事をとった。
80人とすれ違った。電車で別の地へ行った。
100人とすれ違った。靴と衣服を新しくした。
1000人とすれ違った時。大体のことができた。
すれ違うたび、幸せに近づいていると感じれていた。
しかし、2年が経つと、すれ違っても音を訊けなくなった。
貯めていた10円も徐々に無くなり、このままではまた貧乏にもどってしまう。
どうしたらいい……まだ会っていない人とすれ違わないと――――
そうか
貯まっていた10円を全て使い、始めて飛行機に乗った。
行き先が貯まっていた全財産だったので、よく分からないところに来てしまった。
まぁいい、すれ違える人さえいればいいんだ。
そう思いながら歩いていると、前から3人の家族が歩いてきた。
当たり前のように、すれ違った。
…………
音がしなかった。
なぜだ? 慌ててガマ口を開ける。
中身が無かった。
なぜだ…? 明らかにガマ口を手に入れる前に生まれた人達なのに…
振り返り、3人を見る。
服はボロボロ、髪はぼさぼさ、でも明らかにこの2年以内に生まれた人には見えない。
じゃあ…なぜ…
「ありゃ、こんなところで出会うなんて」
振り向くと、あのガマ口をくれた女の子だった。
「外国に行く、ってのはいい選択だったんだけどね、まさかその分かれ道でハズレを引くなんてさ」
ハズレ…?
「まさか知らないの? 世の中には10円も持っていない人がたぁくさんいるんだよ? そんな人が10円をくれるわけないじゃん」
そんな……
「でも、なかなか楽しめたよ♪ゴールまでの近道をスル―して、遠周りに遠回りを重ねた結果、戻れない行き止まりに辿りついたんだから」
ガマ口を取られた。
「ここでは無意味なものだよ、だから変わりに――」
女の子がポケットから出したのは
「はい、10円」
10円玉一枚だった。
「換金できれば使えるよ、それじゃね♪」
……
女の子が消えるまで見送ってしまった。
手には10円のみ、もちろん外国の地でこれは使えない。
さっき言われたとおり、換金場所を探そう。
その為に、再び歩き始めた。
今にして思えば、少し貯まった10円で、両親の所へ行っていれば、こんなことにはならなかったのではないだろうか?
…今考えても仕方ない
今はただ 歩き続けて いかなくては
腹が減った しかし手には10円のみ
喉が渇いた しかし手の10円では水も買えない
体が重くなった
歩けなく なっ
迷烏の「迷い路話」
2作目ですが、結構とんでもないこと書いてます。
どんなことでも構いません。ご拝読いただけたら、ぜひ感想を。