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ユメソラ  作者: 里依紗
8/10

なな廻り 〜護衛騎士〜

 ある時です。護衛騎士と名乗る彼女が現れました。

 彼女はわたくしの良き話し相手でした。

 少し無愛想な方でしたが、端々にわたくしを気遣う言葉がありました。

 ミルテア=ラッジェ。それが彼女の名前。

「ミルテア、今日は何かの日ですか?」

 だって今日は人の足音が大きくて、後を絶たないから。

「今日はアリシラ姫様の誕生日です」

「そうですか……今日、でしたね……」

 アリシラは愛しい私の従妹いとこでした。

 でも、アリシラはそれを覚えていないでしょうね。

 わたくしの、事も……。

「このミルテア、命尽きるまで貴女様をお守り致しますから……」

「ありがとう、ミルテア。

でもね、わたくしはきっと、貴女の本当の主になれないから。貴女を戒める言葉は掛けられない」

「どうすれば、私を騎士と認めて下さるのですか?」

「そうね……」

 長い時を一緒に過ごしてくれるならば、と言いかけたけれど、そこはいい留まった。

「姫様?」

「え、ああ……。

わたくしと同じ廻りを最期まで果たしてくれたなら、騎士と認めます」

「廻り……?」

「そう、時の廻り。

わたくしと同じ、廻りを……」

「例え、貴女様と時の廻りの中で意思を違えようとも、ずっと……ずっとおそばに居て差し上げますから。

ですから、最期は私も一緒に逝かせてもらいますよ、姫様。

貴女が死ぬならば、私もご一緒に。

ですが、死ねという命令は受けられませんよ。

そうすれば、貴女様のおそばに居られませんから。

……憎まれても構いません。それで、姫様のお傍に居られるのならば」

「……ミルテア。わたくしが最期の時を果たした時には、彼女を貴女に……」

 もうこんな時間。

 このわたくしの体は、一定時間を過ぎると強制的に眠ってしまう。

 まだ、伝えたい事が……、今日伝えなくては……。

 そしてわたくしの意識は沈むかの様に深い闇へ落ちた。



「ぅん……?」

 朝、だと思いました。

 かなり眠った感覚があります。

 そうです、ミルテアにあのことを言いませんと……。

「ミルテア、今は何時?」

 しーんと静まり返り、返事は無いのです。

 おかしいですね、いつもならば直ぐに返事が来ますのに……。

 確かめる為に木製の扉を叩くと、その扉は今まであかなかった事が嘘の様に、キィィ……と開きました。

 驚きつつも、開いた扉の先には、血の海。

 その血の海と倒れた体達の中に、ミルテアを探しました。

 でも、ミルテアはその中から見つかりませんでした。

 ミルテアを探すために、血の海をチャプチャプと歩きます。

 服の裾が血にまみれてもわたくしは気にしず、歩きました。

「ミルテア、どこですか……?」

「誰か居ないの!?」

 わたくしのの呟いた声と誰かの叫び声は重なりました。

 かなり甲高くて、わたくしと似た声質……。

 廊下の角まで歩いたとき、わたくしは誰かとぶつかりました。

「「キャア!」」

 まったく同じ様に聞こえる声。

 一瞬、どちらがどちらの声とも分かりませんでした。

 ぶつかって二人共血の海に尻餅をつき、両者のドレスは真っ赤に染まります。

 純白のドレスが深紅のドレスへと早変わりですね。

 と、それどころではなく……。

 わたくしは顔を上げ、彼女を見ました。

 彼女とわたくしは少しづつ似ている部分がありました。

 濃さは違えど、桃色の髪の色。輪郭、口元。

「貴女は?」

「わたくしは……」

 まるで、自分自身に問いかけているような錯覚に陥ります。


「彼女を探せ、逃すな。

場内の者は一人残らず殺せ!」


 その声はミルテアの声でした。

 どうしてですか、ミルテア……。

 昨夜の事は嘘だったのですか……?

「ミルテアぁ……。

どうして父様を裏切ったのよ!

どうして!!」

 わたくしと良く似た彼女は泣いていました。

 この様子からして、この子も殺されてしまいます。

 ……そうです! あの部屋ならば!!

「こちらです!」

 そしてわたくしは動揺している彼女の腕を引いて、あの部屋へ戻りました。

「ここならば殺される事は少ないでしょう」

 ここは完全防備の檻なのですから。

 許可無く入る事は許されません。

 わたくしが許可を出せば、一時しのぎにはなるでしょう。

 ミルテアがこの軍団を率いてるとすれば、この部屋に手は出さないでしょうから。

「あなた、魔術は使えますか!?」

「え、ええ……たしなみ程度には」

「十分です!」

 先ほど気付きましたが、扉の下には脱出用の符が置いてありました。

 きっとミルテアでしょう。

 この符は起動に時間がかかるのが難点ですが……。

「この符を使って下さい!

時間はわたくしが稼ぎますから!!」

「え、ちょっと!」

 彼女の返事を聞かず、わたくしは扉を閉めます。

「……さて、やりましょう。

わたくしだって負けませんからね?」

 後ろを向いて、わたくしは防護の結界を張りました。ついでに電撃の魔術をまとわせて。

 これは長く持ちませんが、時間稼ぎには十分でしょう。

 予想通り、数人の反乱軍の者がこの壁に剣を突き立てました。

 びりびりと剣から電撃が伝わりました。

 それをみた他の兵士達は責めあぐねていました。

「どうした、なにが……これはこれは、姫」

 姫? ……やはり、彼女はわたくしの……。

「私にこんな壁のなど紙切れ同然ですよ」

 そういって、わたくしの防護の結界は破られかけました。

 彼女に電撃が走りました。

「姫……、魔術の腕をあげたようですね」

 あ、符が発動したのですね、彼女の気配はありません。

 ミルテア、本当にわたくしがわからないのですか……。

 ごめんなさい、一度復讐にかられてしまった貴女の心では、分かるはずも無いですよね。

 もう必要ありません。防護の結界を解きましょう。

「……観念なされましたか、姫。

聞き分けの良い方は好きですよ。

では……」

 剣が、わたくしの心臓をめがけてこちらへ来る。

「わたくしは約束を違う方は嫌いですよ。

さようなら、裏切りのミルテ、ア……」

 ミルテアは目を見開き、手を止めようとしましたが、もう、間に合わないでしょうね。

 ずぷり、と嫌な音がわたくしを貫きました。

 そんな悲しそうな顔をしないでください……。

「ミ……テ、ア……」

 もう、声にはできないけれど。

「え……。

ひめさま……?

姫様ぁーーーー!!」

 ごめんなさ……。

 これでわたくしは次の扉を開ける。

 次も貴女が居ると良いですね。


——そ し て 騎 士 の 主 は 眠 っ た——

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