よん廻り 〜15度目の望月〜
今日は『望月の日』だと聞きました。
『望月の日』はとても素敵な月の日らしいのです。
そして、今日はわたくしが産まれてから15度目の望月です。
今日はきっと、彼が来るでしょう。
……こんな日なのですから。
「初めまして、『開かずの姫君』。
俺は……」
「ティージュ」
あ、やってしまいました。
「は?」
彼も思わず素が出たようですね。
「……いえ、貴方の名前は?」
「ルカ、ルカ=エステメルデです。
貴女様の名は?」
「『開かずの姫』です。
そう呼べばよろしいのです」
必ず、彼に名を呼ばせてはいけない。
名は縛りなのだから。
「……是非とも、名をお聞かせいただきたいです」
「いえ、貴方は絶対に名を聞けない。
任務も成功できない」
これは巡る時の中で導かれた答え。
合っていればいいのですけれども……。
「何故……」
合っているのですね。
ああ、良かったです……。
「用件はそれだけなのですか?」
「……名を、教えて下さい」
「申し訳ありません。
伊達に何十年も閉じ込められておりませんから、分かるのです」
「なにを、ですか……?」
「呪術師に名を教えるのは馬鹿のすることですから」
扉越しに、彼が息をのんで舌打ちをしたのが聞こえた。
「けれど、どうしてもというのならば……」
ワザと、わたくしは一拍空けて言います。
「——彼女を、アルトリージェを殺しなさい」
彼はそれを聞くと、すぐに去っていきました。
……多分。
なにぶん、外が見えないので。
彼が十分遠のいたと思ってから、わたくしは確信を持って告げます。
「『貴方は彼女を殺せない。
だって彼女は現界条件を満たしていない。
いても、貴方は彼女を殺せない』」
辺りは、シーンとしていました。
「ねぇ、そうでしょう?」
わたくしは誰に語りかける理由でも無く言い……
次の扉を開けた。
「——次は何が変わるの。
待っているわ、悠久の時の中で……。
早く、来て。
『アルトリージェ』……」
——四 ツ 目 ノ 欠 片——