さん廻り 〜ハープのひみつ〜
幾度となく部屋を巡るうち、ハープを見つけました。
何となく使用方法と曲がわたくしの中から湧き出てきました。
暇なので何度も練習していると、上達しますね。
わたくしの部屋の前には何人もの人が尋ねました。
どうやら、わたくしの部屋は『開かずの間』となっているようです。
尋ねてきた人の中には、わたくしに話しかける方が居ます。
その中でも、しつこくわたくしに話しかける方が居ました。
「聞いて下さい、俺は、……俺は——」
その時、彼なのだと確信しました。
わたくしは初めて外の方に声をかけました。
「……どうしてですか?
貴方がが本当にわたくしに会いたいのだとしても、わたくしは貴方の本当の意味で敵なのです。
立ち去りなさい!」
その瞬間、わたくしは初めて声を荒げました。
「嫌です」
「くどいです! 貴方の言葉など聞く耳持ちません、立ち去りなさい!」
「……はい」
彼は渋々帰ってくれました。
わたくしは貴方に祈りましょう……。
「アルトリージェを宜しく頼みますよ……」
わたくしは大きな熊のぬいぐるみを見つめて呟きました。
「クソッ、どうして……」
俺は扉を思いっきり叩く。
ゴンッという音が廊下中に響いた。
『開かずの姫君』は箱入りだから簡単だと思っていたのに……。
「どうして、といってもねぇ?」
「ね。だからわたくし達は止めてあげたのに」
「「行っても拒絶されるだけ、ってねぇ〜」」
鏡写しのような双子はクスクスと俺を嗤う。
確かに、言っていた。
「行っても拒絶されるだけ」と。
「ねえ?」
「どうして彼女は」
「「貴男の言葉に応えたのだと思う?」
「そりゃ、俺がしつこくしたからに決まって……」
「そんな人、」
「いっぱいいたもの」
「ねえ、」
「どうしてだと思う?」
……わからない。どうして『開かずの姫』が俺に応えたのか。
「どうして、だ?」
コイツ等に聞くのは少々癪だが——任務成功の為に。
「理由は簡単」
「それは、わたくし達がわたくし達であるように、」
「「貴男が貴男であるから」」
ふふっと鏡の双子は笑う。
だから、分かるかっての!
「大体、貴男が拒絶されてたのにもう一度迫ろうとしたのマズかったし、」
「しつこくしたのも原因かなぁ?」
「で、」
「最大の原因は」
「「ハープを聞いて、と言ってしまったから」」
「は?それがどうした」
益々この双子の言いたい事が分からない。
たかがハープがどうした……。
「ハープは彼女にとって、」
「大切なモノ」
「忘れてはいけない」
「彼女はあの部屋に……」
「「捕われている」」
捕われる? そこまで酷いのか?
でも、鍵位は開くだろ……。
「いえいえ、内からは開けられない」
「外からも開けられない」
「ゆういつ、どこでも開けられて、」
「ゆういつ、どこも開かない」
「ドアは壊せない」
「壁も壊せない」
「ただ、縛られるだけ」
「ただ、ハープを弾くだけ」
……? 意味が不明だ。
「故に彼女は弾き続ける」
「故に彼女は悲しむ」
! そういうことか。
「お前等の言う『彼女』は俺がハープを理由に迫ったから機嫌を損ねたのか?」
双子は考える素振りを見せた。
もったいぶらずに早く言えよ!
「ん〜」
「ん……」
「「あ!」」
双子は躊躇いがちに言う。
「一応は及第点、かなぁ?」
「だけど、正解とは言い難いな〜」
「わたくし達は立場上、」
「本当の事は貴男に教えられないの〜」
「それが、」
「規則だからぁ」
……この双子、話していると謎が深まるばかりだ。
「そのうち、」
「そのうち、ですよぉ〜♪」
ムカつくほど楽しそうな笑みを双子は浮かべる。
「まあ、貴男が……」
「彼女の本当の名を」
「思い出せれば、」
「ねぇ?」
俺が本当の名を知っている?
それなら回りくどい事なんかしてないさ。
「ま、この貴男には」
「思い出せないけどねぇ☆」
双子はあはははっ、といいながら立ち去って行く。
「くそっ、何だって言うんだよ」
もう一度壁を拳で叩く。
今度は真っ赤な血が一筋流れる。
その瞬間、何かが変わった。
——カラン、と扉の開く音がした。
——3 つ 目 の 欠 片 、 み ぃ つ け た !——