ふた廻り 〜同じ話、違う話〜
水晶越しで見た彼は、輝いていました。
それは彼が『ルール』の中に居る為なのかは分かりませんが。
彼が望むのは『日常』。わたくしが望むのは『非日常』。
2つは交わる事は無く、物語が進む。
「いったい、いつになれば……
これは、幾度目の夜想曲でしょうか」
ふいに、一度目に聞くはずなのに聞き慣れた夜想曲が聞こえました。
「わたくしは吟遊詩人。
一人の少年の願いを歌ってみせましょう」
壁の向こうで誰かは歌います。
「一人の少年は『ユメ』を追いかけます。
少年の願いは歪で、唯純粋で。
純粋すぎる為に強く言えず、
歪過ぎる為に気付く事ができず。
狂ったユメを作り出しました。
少年は狂ったユメの中で一人、迷路の様に彷徨います。
ずっと、狂ったユメの中に……」
この歌を聴くたびに、どうして気付けないのかと腹が立ちます。
双子の吟遊詩人。
たしか、彼女の方はレイリア=ベールレーズでしたっけ?
「以上、レイリア=ベールレーズでしたぁ〜」
ただ、もう一人の方は知らないですが。
また、あの夜想曲が聞こえました。
「これは何度聞けばいいのですか?」
わたくしはもう一度、夜想曲を聴きました。
「わたくしは吟遊詩人。
一人の少女の願いを歌ってみせましょう」
あら、今度は違うお話みたいです。
「一人の少女は『ソラ』を願う。
少女の願いは綺麗で、純粋で。
綺麗過ぎる為に叶わず、
純粋過ぎる為に抜け出せず。
少女はユメの中で踊り続ける。
少女は願い叶わぬ世界で二人、踊り続ける。
2人、叶わぬ世界の中で……」
この、歌は……。
「さあ、アナタに届いたでしょうか?
以上、ライリア=ベールレーズでしたぁ〜」
隣の部屋では拍手喝采のようでした。
双子の、もう一人……。
あの双子がどうして……、それならば、余計に!
「分かる歌と違う話、ですよー。
え? アンコールですか?
ん〜、あ!」
「あの歌を!!」
あれ、二人は一緒に居るのですか?
「では、『ユメ』を願う少年と、」
「『ソラ』を願う少女の、」
「「協奏曲を!」」
そして紡ぎだされる物語、ですか……?
「『ユメ』を願うはユメの少年」
「『ソラ』を願うは自由の少女」
「少年は歪な世界を望み、」
「少女は悲しい世界を望む」
「少年の願いは叶い、」
「少女の願いは叶わず」
「少年の対価は『家族』」
「少女の対価は『ソラ』」
「しかし、」
「少女に何も無かった訳ではない」
「少女は『ソラ』を対価に、」
「『未来』を手に入れる」
「少年が『本当』を思い出せるか?」
「少女が『ソラ』を見れるか?」
「巡る時の中で、」
「少女は待ち続ける」
「何を?」
「誰を?」
「変わるユメを」
「彼女の存在を」
「少年は一生、夢に囚われ続けるか?」
「是とも否とも言えない」
「だって、それは……」
「「彼女の選択だから」」
しん、と隣の部屋は静まる。
「どうして、ですか……。
どうして!!」
わたくしは激怒を覚えました。
「さあ、御気に召しましたでしょうか?」
「これはある人に依頼でしか歌わなかったので、くれぐれも口外なされないよう」
「アルトリージェに祝福を!!」
それでもう、双子の声は聞こえない。
元々、双子は不安定要素。
何時の日。いつもの時間。
夜想曲は流れない。
だって双子が、
居ないのだから……。
——二 つ 目 の 欠 片ー—




