きゅう廻り 〜ルカ〜
……前の扉は閉ざされましたか。
まぁいいです。彼女が来る予兆でしょうか?
ここ最近、『私』と『私』がブレてきています。
つまりそれは……願いの終わりです。
申し遅れました。
わたくしの名前は……。
「『囚われの姫』様。
はじめまして。私は、ルカ=エステメルデと申します」
その前に、彼が来てしまいました。
今度は『囚われ』ですか。
皮肉なモノですね。
「そうですか。
……何が目的なのです?」
「ハープを……」
そして彼は同じ事を繰り返す。
言っても分からないとっても、言葉が喉元まで出かけてしまいました。
……寸前で飲み込みましたが。
「嘘ですね。
本当の目的を申したらいかがですか?」
「……名を聞く事です」
今回は随分と素直ですね。
やはり、魂は覚えているのでしょうか?
わたくしは嘘がきらいです。
ああ、それは虚言でしたね。私自身が最大の嘘なのですから。
「あら、おかしな事を聞かれるのですね?
わたくしは『囚われの姫』です。
貴方がそう申されたのですから」
「そんな屁理屈に私が騙されるとでも?」
少し怒っているのが、扉越しでも感じられました。
怒っても何も始まらない。それが温厚な貴方の口癖でしたのに。
「屁理屈でもなんでもいいです。
わたくしは知らない方に名を教えません。
それに……名ならば『囚われの姫』でも十分でしょう。
随分と長い事そう呼ばれ続けていますから。
それこそ、真名にも勝るのではなくて?」
「真なる名に勝る名はありません。
それに、今ここで貴方と私が話している時点で、少なからずとも『縁』は生まれていますでしょう?」
「……16年間で、一度しか呼ばれなかった名など、わたくしは覚えておりませんわ。
覚える間すら、与えられませんでしたから」
シーンという沈黙がわたくし達を襲いました。
でも、わたくし達は黙ったまま、扉越しのにらみ合いを続けます。
「それでも、」
本当は言いたくないけれど、
「それでも知りたいというならば、」
彼と彼女と貴方の為に。
「アルトリージェを殺しなさい」
……私は悪役となろう。
でも、本当の本当は彼女が……。
ふと、2つの足音が聞こえました。
彼が去ったのでしょうか。
もう一つは?
……わかりました。
「近づいてる……彼女が、近くに!!」
そして私は次の扉を開ける。
扉を開ける度に、彼の罪は多くなるけれど。
それでも私は止まらない。
彼を止めない限りは。
「もうすぐ大詰め。
わたくしとあなた。
だから、きっと……」
「太陽と月が近づいた。
……欠片はもうすぐ戻る」
——あ し お と だ ぁ れ ?——




