今年もお前のせいで童貞卒業出来なかった
「あーあ」
五月にしては暑い。
時々聞こえる虫の音が一瞬、セミのものにさえ聞こえる。
そんな日。
「会うなりため息はやめてよ」
僕のため息に君が反応する。
変わらぬ姿が嬉しく、同時に少し寂しい。
そんな気持ちを隠すために水を引っかける。
「ちょっ、やめてよ。スカートが濡れるじゃない」
「いいじゃん、かからないんだから」
舌打ちが響く。
太陽の下で。
僕の額にうっすら汗が浮いた。
だけど、帽子を被った君は汗一つない。
「ちょっ、いきなり触らないでよ」
冷たい。
当然か。
「うるせえな。こうしないと出来ないんだから」
「だからって……私、まだどいていないのに」
「さっさと退けよ。罰当たり」
「はいはい」
僕の手は薄布を掴む。
それで君の体の代わりを丁寧に拭う。
「もっと優しくやってよ。傷がついたらどうすんの」
「んなこと言われたってなぁ」
本来なら丁寧に扱うべきものだと分かるけれど、君が隣に居る状況じゃ今一つどうしていいか分からない。
触れ続ける僕を見つめながら君がぽつりと言った。
「彼女。出来た?」
「出来ると思う?」
「出来るわけないじゃん。あんたに」
嬉しそうな言葉尻。
ずっと前だったら腹が立っただろう。
だけど、今は流石に違う。
「アドバイスしてあげよっか?」
「いいよ。お前、最近の流行とか知らないだろ」
「女の子が喜ぶことなら知っているけど」
君の人差し指が僕の頬に迫る。
けど、それだけだ。
触れはしない。
「せっかくだから聞くけど」
「なに?」
「僕が来るのは嬉しいの?」
答えを待つ、僅かな間。
僕は息を吸う。
君は特に何もない。
「嫌なわけないじゃん」
「そっか」
期待していた通りの答え。
僕はようやく墓から離れる。
君の墓から。
「あーあ、今年もお前のせいで童貞卒業出来なかった」
日常を呟く。
この非日常の中で。
「はよ、成仏しろよ。馬鹿幽霊」
君はくすくす笑う。
「成仏していいんだ」
分かり切った答えを今度は君に言う。
「ダメに決まってんだろ」
「なら、もうちょっとだけこの世に残ってあげる」
太陽の下で君は笑った。




