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今年もお前のせいで童貞卒業出来なかった

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/05/13

 

「あーあ」


 五月にしては暑い。

 時々聞こえる虫の音が一瞬、セミのものにさえ聞こえる。

 そんな日。


「会うなりため息はやめてよ」


 僕のため息に君が反応する。

 変わらぬ姿が嬉しく、同時に少し寂しい。

 そんな気持ちを隠すために水を引っかける。


「ちょっ、やめてよ。スカートが濡れるじゃない」

「いいじゃん、かからないんだから」


 舌打ちが響く。

 太陽の下で。

 僕の額にうっすら汗が浮いた。

 だけど、帽子を被った君は汗一つない。


「ちょっ、いきなり触らないでよ」


 冷たい。

 当然か。


「うるせえな。こうしないと出来ないんだから」

「だからって……私、まだどいていないのに」

「さっさと退けよ。罰当たり」

「はいはい」


 僕の手は薄布を掴む。

 それで君の体の代わりを丁寧に拭う。


「もっと優しくやってよ。傷がついたらどうすんの」

「んなこと言われたってなぁ」


 本来なら丁寧に扱うべきものだと分かるけれど、君が隣に居る状況じゃ今一つどうしていいか分からない。

 触れ続ける僕を見つめながら君がぽつりと言った。


「彼女。出来た?」

「出来ると思う?」

「出来るわけないじゃん。あんたに」


 嬉しそうな言葉尻。

 ずっと前だったら腹が立っただろう。

 だけど、今は流石に違う。


「アドバイスしてあげよっか?」

「いいよ。お前、最近の流行とか知らないだろ」

「女の子が喜ぶことなら知っているけど」


 君の人差し指が僕の頬に迫る。

 けど、それだけだ。

 触れはしない。


「せっかくだから聞くけど」

「なに?」

「僕が来るのは嬉しいの?」


 答えを待つ、僅かな間。

 僕は息を吸う。

 君は特に何もない。


「嫌なわけないじゃん」

「そっか」


 期待していた通りの答え。

 僕はようやく墓から離れる。

 君の墓から。


「あーあ、今年もお前のせいで童貞卒業出来なかった」


 日常を呟く。

 この非日常の中で。


「はよ、成仏しろよ。馬鹿幽霊」


 君はくすくす笑う。


「成仏していいんだ」


 分かり切った答えを今度は君に言う。


「ダメに決まってんだろ」

「なら、もうちょっとだけこの世に残ってあげる」


 太陽の下で君は笑った。


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