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27話 はい、どうぞ!

 話はバルトが飛び出す日から数日遡る。

 銀嶺草が芽を出した頃だ。


*ルカ視点*


 やっぱり、伝説の薬草なだけあって育つのが少し遅いな。


 でも、名前の通り銀色に輝いている。


 これは面白い。


「ルカ、これすごくギラギラしてるね!」


「うん。やっぱり、名前の通りだな」


「ねえねえ、外交という山場も超えたし、久しぶりにお菓子作ってみない?」


 お菓子作りかぁ。


 俺は昔を思い出した。



俺が転生してから、3年ほど経った頃の話だ。


 その日、木に登って遊んでいたら、うっかり足を滑らせて落ちてしまった。


 痛くて泣きそうになった俺を、リーリャは優しく抱き上げてくれた。


 傷を丁寧に手当してもらい、泣き止まない俺と一緒にキッチンでクッキーを作った。


 焼きたてのクッキーの甘い香りと味に、少しずつ気持ちも落ち着くのを感じた。


 あの時のクッキー、本当に美味しかった。



「ねぇ、ルカ聞いてる?」


「うん、今日はクッキーを焼こう!」


 リーリャは「うん!」とパッと表情を輝かせた。


 外交という大きな仕事を終えたご褒美だ。

 たまにはこうして、五歳児らしい時間を過ごすのも悪くない。


 用意したのは、俺の畑で採れた自慢の甘いカボチャと、小麦粉だ。


 蒸し上げたカボチャを潰すと、それだけで高級なスイーツのような甘い香りがキッチンいっぱいに広がる。


「ルカ、お砂糖はこれくらい?」


「うん、カボチャが十分甘いから、いつもより少なめで大丈夫だよ」


 俺は踏み台に登り、一生懸命にボウルの中の生地を混ぜる。


 外交の時は【読心】で相手の腹の内を探るのに必死だったけれど、今はただ、バターとカボチャが混ざり合っていく優しい感覚に集中していた。


「あはは! ルカ、鼻の先に粉がついてるよ」


「えっ、どこ? ……あ、手がベタベタで拭けない……」


 リーリャがクスクス笑いながら、布巾で俺の顔を優しく拭いてくれる。


 こういう穏やかな時間は、なんだか時間が引き延ばされるように感じられた。


 生地を平らに伸ばし、型抜きを始める。


 丸い形や、小さな花の形。中には、あの巨大な『精霊樹』をイメージした少し複雑な形にも挑戦してみた。


 かまどに入れて数分。


 香ばしい、幸せな香りが漂い始める。


「いい匂い……。もう焼けたかな?」


「もう少し。表面が少しキツネ色になったらだよ」


 焼き上がったクッキーは、カボチャの色を反映して綺麗な黄金色をしていた。


 熱々のうちに一枚、リーリャと半分こして口に運ぶ。


「サクサク……。おいしい!」


「うん、大成功だね」


 カボチャの自然な甘みが口いっぱいに広がり、鼻から抜けるバターの香りが心地いい。


「……でも、少し作りすぎちゃったかな」


 お皿の上に山積みになった黄金色のクッキーを見て、俺は苦笑した。


「ふふ、ルカが一生懸命こねるからだよ。でも、これだけあればみんな喜ぶんじゃない?」


 リーリャの言葉に、俺はポンと手を打った。


「そうだね。……よし、余った分はみんなに配りに行こう!」


 俺は小さなカゴにクッキーを詰め込み、リーリャと一緒に街へ繰り出した。


「マルチェリオさーん、これ差し入れ」


「おや、ルカ君! 本日はどのようなご用件で……おや、その芳醇なバターの香りは?」


 商人のマルチェリオさんは、独特のねっとりとした口調で俺の名前を呼んだ。


「ルカ君、これ……このカボチャの糖度、そしてこの絶妙な食感。いいですな。これを商品化すれば売れますぞ」


「あはは、今日は配るだけだから。また今度ね」


 商売っ気たっぷりのマルチェリオさんをかわして、薬草屋のフィオナさん、そして、市民たちに配り終えた後。


 門の方へ向かうと、そこには街の最強の盾、ソルシダと、その背後で槍の手入れをしていた少年、ユーノの姿があった。


「ソルシダ、お疲れ様。これ、差し入れだよ」


「……! ルカ様自らのお届け物、恐縮です」


 ソルシダは恭しく膝をつき、まるで聖遺物を受け取るような手つきでクッキーを口に運んだ。


「……至高。この味を守るため、私は一生この門を通る不届き者を許しません」


(忠誠心が重いんだよな……)


 すると、ソルシダの陰からひょいと顔を出したユーノが、ツンとした態度で俺を見た。彼は6歳。


 この街の警備隊の中では最年少だが、ソルシダの部下として必死に背伸びをしている。


「……ふん。なんだよ、ただのクッキーかよ」


「ユーノ! ルカ様に対して失礼だぞ!」


 ソルシダが叱りつけるが、俺は笑ってユーノにカゴを差し出した。


「ユーノの分もあるよ。はい」


「……っ。ま、まぁ、ルカがそこまで言うなら、しょうがねぇな。食ってやるよ」


 ソルシダの見ていないところで呼び捨てにしつつ、ユーノはひったくるようにクッキーを受け取った。


 そして一口齧った瞬間、彼の強気な瞳が大きく揺れる。


「……ッ、う、うまくねーし! 全然うまくねーし!(もぐもぐ)」


「口の周り、カボチャ色だよ?」


「うるせー! これは……その、戦うための燃料だ!

 だから、もう一枚もらうぞ」


 頬を膨らませて必死にクッキーを詰め込むユーノを見て、リーリャが「かわいいね」と笑う。


「みんな、喜んでくれたね。ルカ」


「うん。……やっぱり、この街を作ってよかったよ」


 俺たちはしばらくの間、笑顔あふれる平和な街並みを眺めていた。


(……この平和が、ずっと続けばいいんだけどな)


「あっ、アリスちゃん。クッキー食べる?」


 アリスちゃんの顔に笑顔が溢れる。


「えっ、いいの!」


「うん。はい、どうぞ!」

 ここまで読んでいただきありがとうございます!


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