第壱夜 深淵渦巻く夜の街
世界が瘴気に塗れし刻、深淵の夜が訪れる
絶望振り撒く深淵は、全てのものを穢していく
世界の瘴気を浄化せんとする光は
かつての清き世界を取り戻せるだろうか?
絶望の先に待つ未来は、終焉か安寧か
時は平安、世に蔓延る妖怪達がいた
人々の欲望に貪欲な妖怪達は現世の街を恐怖のどん底に陥れた…
そこから時は流れ、現世の街から妖怪が消え失せた現代…
大江山に二人の若者が訪れていた
青年「漸くここまで来たな」
少女「だね、長かった」
青年「とりあえず、先に進もうか」
辺りは薄暗く、木々の揺れる音だけが静かに響いていた
そんな中を二人の若者は足早に歩いていく
その最中、月明かりに照らされて怪しく浮かびでる洞穴を発見する
少女「お兄ちゃん!ここじゃない?酒呑童子に関連する呪物が安置された洞窟」
青年「あぁ、かもな」
少女「じゃあ、私先に行くね!!」
青年「あ、おい待てよ!危ないかも知れないだろ?」
少女が洞穴へと近づいた直後、洞穴の中から黒い霧の様なものが溢れ出てきた
その霧は少女を包み込み、その僅か数秒後に彼女の中に取り込まれていった
しかし、彼女はそのままその場に倒れ込んでしまった
青年「おい!霊華!大丈夫か!?」
霊華「お兄…ちゃん…?」
青年「待ってろ、今すぐ病院に連れて行ってやるからな!!」
青年は少女を背負い、急いで山を降り病院へと車を走らせた
病院に着くと、診察を待つ患者が溢れていた
青年は受付に状況を説明する
青年「す、すみません!先程、大江山へ行った際に妹が黒い霧の様なものに包まれて意識が無くなりかけているんです!!診てもらえませんか?」
看護婦「緊急ですね?分かりました!ただいま、医師を呼んでまいりますので、少々お待ちください」
青年「だってよ。もう少し待てるか?」
霊華「うん…お兄ちゃん..苦しいよ」
看護婦が医師を呼び、戻ってくるまでの間も少女の意識はどんどんと薄れていく
看護婦が医師を連れて戻ってきた頃には既に会話もできない程までになっていた
医師「どうぞ、此方へ」
青年「すみません!こんなに忙しい時に」
医師「いえいえ、急患が優先ですので妹さんの容態は?」
青年「先程までは話せていたんですが...」
医師「なるほど、少し診てみましょうか」
それから数分後、医師が戻ってくると青年に深刻そうな顔で少女の容態を記した書類を提示してきた
医師「一応、診てはみたのですが…」
青年「それで、妹の容態は…?」
医師「それが、私共にもさっぱり…ですが、この胸の辺りにあるものなのですが」
青年「これは…!?」
医師の提示した少女のレントゲン写真の胸部分には、先程大江山で少女を包み込んだ黒い霧の様なものがハッキリと写っていた
医師「おそらく、コレが原因だとは思うのですが、意識不明の仮死状態ですね。おそらく数年間は意識が戻らず、植物状態になるかも知れません」
青年「そんな…」
医師「先程、大江山へ行っていたと仰っていましたよね?」
青年「はい…」
医師「大江山の曰くは知っていますか?」
青年「酒呑童子の件ですよね?」
医師「そうです。その酒呑童子の呪物に関連するものだとすれば、私達も対処できかねます。ですが、当院で妹さんを見守る事はできますが…」
青年「お代は高め…ですよね?」
医師「いえ、今回は容態が容態ですので、お代は結構です。その代わり、当院も責任をもって妹さんを見守らせて頂きます」
青年「ほ、本当ですか!ありがとうございます!!」
医師「それでは、定期的に当院に居らしてください」
それから数日が経ち、青年は少女が仮死状態になってしまった原因となった大江山へと再び赴いていた
青年「やっぱり、ここが原因だよなこの洞窟に一体何が…」
洞穴の奥にはキラキラと光を放つものが祀られていた
青年「ん?あれは、鏡…か?」
青年が鏡に触れると、途端に黒い霧の様なものが溢れ出てきた
青年「こ、コレは!?マズイ!急いで洞窟の外に!!横にあった、刀は念の為持って行こう」
青年が洞穴を出ると同時に、洞穴から溢れでる霧は人の様なものへと姿を変えた
青年「何だコイツら!?とりあえず逃げよう!」
暫く走っていると、道の脇に小さな御堂があるのを発見する
その御堂の門前には赤い鬼の様な怪人が佇んでいた
赤い鬼「ん?何故此処に人間が居るのだ?此処は人間が立ち入れる場所では無いはずだが...」
青年「な、なぁアンタ!助けてくれないか?変な怪人みたいな奴らに襲われてここまで逃げてきたんだ!」
赤い鬼「何?妖か…そうかやはり封印が解けていたか」
青年「封印…?」
赤い鬼「小僧、お前は何用で此処を訪れた?」
青年「妹が仮死状態になった原因を探りに来た」
赤い鬼「そうか、その眼に嘘偽りは無いと見た。良かろう…我が力をお前に貸してやろう
小僧、何か依代は持っておらぬか?」
青年「依代?そんなモノ…あ!これなんてどうだ?
さっきの洞窟に鏡と一緒に安置されてた鈍だけど」
赤い鬼「ふむ、コレも因果か。まぁ、よいその刀にお前の闘志を注ぎ込め」
青年「わかった」
青年が刀へと力を溜めると、青年の腰にベルトの様なものが装着された
青年「何だこれ?ベルトか?」
赤い鬼「小僧、コレをその逢魔ドライバーに装填しろ」
赤い鬼の様な怪人は腰に提げていた紅い勾玉を青年に手渡し、腰に装着された逢魔ドライバーに装填するように命じた
青年「なんだこれ?勾玉?」
赤い鬼「それは、禍魂と言って妖怪の力を封じ込めた特殊な勾玉だ」
青年「その禍魂をこの逢魔ドライバーに装填すればいいんだな?」
赤い鬼「そうだ」
青年「こ、こうか?」
青年が禍魂をベルトに装填すると、赤い鬼の様な怪人は業火へと変わり、青年の身体を包み込んだ
青年「あ、熱い!!」
業火が消えると、青年の身体は白い鬼のような姿へと変化していた
青年「な、何だこれ!!」
赤い鬼「ふむ、この程度の鈍ではこれ程の力しか出せぬのか」
青年「よくわからんが、コレで闘えるんだよな?」
赤い鬼「あぁ、そのハズだが」
赤い鬼の様な怪人がそう言った直後、先程の怪人達が追いついてきた
青年「えぇい!どうにでもなれ!!」
青年は勢いに任せて刀を振り下ろす…が、
怪人の頭部に刃が触れた直後、刀は根元から折れてしまった
青年「は、はぁ!?折れた!?」
赤い鬼「何をしておる!!仕方がない!他の武器を探せ!!」
青年「だったら、さっきの御堂に何かないか?」
青年は御堂の中へ入り武器になりそうなものを探す
すると、御堂の扉を開けた先に刀が安置されている事に気づいた
青年「この刀なら…」
赤い鬼「この刀は…童子切安綱か、忌々しい刀よ。まさか、再度この刀を目にする事になろうとは…」
青年が刀に触れると同時に、忽ち青年の身体は先程よりも強力な業火に呑まれてしまった
そして、業火が晴れると青年の身体は先程の赤い鬼の様な怪人に似た姿となっていた
青年「この刀を持った瞬間に力がどんどん溢れてくるぞ」
赤い鬼「我が力と刀が共鳴したか...コレも因果の招く結果だと言うのか?」
青年は勢い良く御堂を飛び出し怪人に切りかかる。刀が触れると怪人は忽ち炎に包まれ燃え尽きてしまう
青年「よし!これならイける!」
青年は次々に怪人をなぎ倒していく
周囲に怪人が居なくなると、青年の身体は元の姿に戻ってしまった
同時に、青年の身体から業火と共に赤い鬼の様な怪人が現れた
赤い鬼「初陣にしてはなかなかのものだな」
青年「ありがとう、アンタのお陰で助かった」
赤い鬼「小僧、身体に違和感は無いか?」
青年「違和感?無いな」
赤い鬼「そうか、されば好都合だ、小僧、我が計画に協力してはくれぬか?」
青年「計画?」
青年がそう聞くと、赤い鬼の様な怪人はその計画とやらを語り出した
どうやら、この赤い鬼の様な怪人は異界と呼ばれる現世の裏側にある世界の国の長だったが、突如異界に出現した鬼門から溢れ出る瘴気によって、民達が正気を失いこの現世へと出てきてしまっているのだという
そんな事態を終息すべく、自身と周波数の波長が近しい者を探していたらしい
青年「そうだったのか、俺は全然かまわない。むしろ、妹の容態が良くなるかもしれない絶好の機会だ!逃すわけないだろ?」
赤い鬼「有難い、ならば申し訳ないがしばしの間お前の身体に憑依させてもらうぞ」
青年「憑依?」
赤い鬼「何、お前の身体を乗っ取ろうなどというつもりは無い。ましてや、現世では力が制限されているからな」
青年「まぁ、悪さをしないなら別にいいけど...」
赤い鬼「すまんな、しかし、小僧と言い続けるのもこうなると申し訳ないな」
青年「俺は四条禍刻だ!気軽に禍刻でいいぜ?」
赤い鬼「そうか、禍刻か良い名だ。我は酒呑童子だ。これから宜しく頼むぞ」
禍時「あぁ、宜しくな酒呑童子!」
美しく響く謎の声「やれやれ、この身体は居心地が良かったのだがな、まさか力を蓄えている間に来客が来ようとはな...よもや面白い事になりそうだ…」
次回 仮面ライダー逢魔ヶ
酒呑童子「禍刻、妖の気配だ」
《逢魔!定刻…鬼!!》
少女「その人から離れなさい!」
青い鬼「漸く見つけました。我が主の手助けとなる存在を…」
絶望の先に待つ未来は、終焉か安寧か




