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え!?婚約破棄?喜んで承諾致しますわ!!~自由を手にした伯爵令嬢は王子様に溺愛される~

作者: 大月 津美姫

「スティーヴン様、今なんと仰いました?」


 レゼグロワ伯爵令嬢、シェリー・アン・モリセット。彼女はたった今聞いた言葉が聞き間違いである可能性を考慮して、目の前の婚約者に問い掛ける。


「だ! か! ら! シェリー!! お前がいつまでも不機嫌な顔をしているなら婚約を破棄する!! と言ったんだ!!」


 彼はスティーヴン・ド・ハンフリー。シェリーの婚約者にして、このユルセモニア王国大公の子息である。大公はユルセモニア王国国王の弟で、この国で二番目に尊い存在と言っても過言ではない。

 そんな王族の血を引くシェリーの婚約は間違いなく“婚約を破棄する”と告げた。


「っ!? え!? 婚約破棄ですか?」


 シェリーは目を見開いて、ぷるぷると身体を震わせる。落ち着くために目の前に用意された茶器に手をつけると、中の紅茶もシェリーの震えに合わせてブルブルと踊った。


「それが嫌なら、もっと愛想よくして、俺の隣にいろ! と言っても、お前には婚約破棄などできる筈もないがな!!」


 ハハハッ! とスティーヴンが高らかに笑う。

 シェリーは何とか紅茶を一口飲み込むと、カップをソーサーに戻してドレスの裾をキュッと掴んだ。


「スティーヴン様……」


 控えめなシェリーの声にスティーヴンは「何だ」と面倒そうに呟いた。


「婚約破棄と仰ったことに間違いはございませんね?」

「はぁ? 何だシェリー、耳が遠くなったのか?? この俺が言い間違える訳がないだろう! バカにしているのか?」


 眉間にシワを寄せて不機嫌を顕にする婚約者にシェリーは「いいえ」と首を横に振って否定する。


「バカになどしていませんわ。ですが、わたくしの勘違いだとか、早とちりだとか後から言われると少々面倒だと思っただけです」


 そう告げると、シェリーはガゼボの外側に控えていた侍女を勢いよく振り返る。


「ミア! 先程の会話しっかり聞こえていましたわね!?」

「はい! お嬢様!! それはもうバッチリと!!」


 意味の分からないやり取りをする婚約者に、スティーヴンは苛立ち始めて貧乏ゆすりをしだす。そんな彼にお構い無く、シェリーは「スティーヴン様! 婚約破棄のお話ですが!」と前置きするとスクッと勢いよく立ち上がった。


「喜んで承諾致しますわ!!」


 満面の笑みで告げたシェリー。

 その思わぬ反応がスティーヴンには理解できず、「は……?」と低い声が出てしまう。

 少ししてスティーヴンは状況を理解したらしく、今度は慌て始めた。


「おい! 待て!! 婚約破棄だぞ!? 意味を分かって言っているのか!?」

「はいっ! 勿論ですわ!!」

「おまっ! 俺はいいぞ? 俺はな!? だが、お前は本当にそれで良いのか!? 大公家との縁談が破談になった伯爵令嬢に縁談なんか来る訳がない!! ここは俺に頭を下げてでも婚約を継続する方が賢明だとは思わないのか!?」

「いいえ。全く」


 キッパリと答えたシェリーは満足そうに頬を緩めた。その様子にスティーヴンは「ハッ!」と声を漏らすと、シェリーに軽蔑の視線を向ける。


「薄々バカだとは思っていたが、どうやら正真正銘のバカだったようだな!!」

「あら、何とでも仰って下さいませ。わたくしは今、晴れて自由の身になれることがとても嬉しいのです!」


 キラキラした瞳でそう言ったシェリーをスティーヴンは信じられない目で見つめる。


「おい。今まで俺がお前にプレゼントしてやった物は伯爵家程度では到底手の届かない物ばかりなんだぞ? この前連れて行ってやった店だって、人気店だからランシーマ大公家の名前がなければ、貸切りにすら出来ないんだぞ? そんな贅沢がこの先出来なくなっても良いのか!?」


 スティーヴンが詰め寄ると「あぁ……その事ですか?」とシェリーは顔をゲンナリさせる。少し話が長くなるため、シェリーは婚約者とのお茶の席に座り直すと口を開いた。


「この際ですもの。はっきり申し上げておきますわ」


 そう前置きして、シェリーはサッと淑女の笑みを浮かべた。


「スティーヴン様から頂いたドレスや装飾品などのプレゼントですが、これっぽっちもわたくしの好みではございませんの」

「はぁ? 何を言う! この国一番の仕立て屋や職人に最高級の材料を使用してオーダーメイドで作らせた物ばかりだぞ!!」

「だとしても、です! 派手な物ばかりで、わたくしには似合いません。というか、ドレスと宝飾品が喧嘩してしまって合わせられませんわ。スティーヴン様は地位とお金に物を言わせるばかりで、全くセンスがありません!!」

「な、なんだと!?」


 カッとスティーヴンが顔を赤くする。


「シェリー! 伯爵令嬢の分際で俺を否定し、意見するのか!? 俺は王位継承権四位なんだぞ? 俺に逆らうということは王家に逆らうのと同義だぞ!!」

「そんな風に脅されても困りますわ。それに、これはスティーヴン様のためでもあります。このままでは隠れて浮気されている恋人にも愛想を尽かされてしまいますわよ」

「なっ……!?」


 何故シェリーがそれを知っている!? と、スティーヴンは固まる。浮気相手であるシャーメインの存在はスティーヴンの従者しか知らない筈だった。


「スティーヴン様ったらバレバレですわよ。だってわたくしに贈られたプレゼント、全てはシャーメイン様に贈るついで(・・・)に色違いで購入された物ですわよね? 社交界で毎回彼女が身に付けている宝飾品の系統がスティーヴン様から戴いた物と被れば嫌でも気付きますわ」


 そこまで言うと、シェリーはクスリと笑う。


「それに、いかにもスティーヴン様のセンスでしたので」

「貴様っ!! これだけ侮辱しておいて、タダで済むと思うなよ!!」

「まぁ! お言葉ですが、わたくしは今までスティーヴン様に言いたいことを我慢してきたのです!! 最後くらいお付き合い頂きますわよ!?」


 そう宣言すると、シェリーは今までの不満をぶちまけ始める。


「大体! スティーヴン様は下町デートの時も公園デートの時も歩くスピードすら合わせて下さらないし、手を繋いだ時だって、わたくしが“痛い”と申し上げても“直ぐ慣れる”と仰るばかりで、少しも気遣って下さいませんでしたわ!!」

「う……」

「ふらりと入ったお店で食事をした時も、わたくしは少食だと申し上げておりますのに、“自分で食べるから”と毎回食べきれない量を注文なさって、最後にはわたくしにも食べろと、押し付けられますわよね? お陰で昼食後はお腹がパンパンで毎回気分が悪くなっていましたのよ!? それに、スティーヴン様と会話してもいつもご自分の自慢ばかり。それもお父上の爵位のお陰で恩恵を受けていることに気付いてすらいない自慢話なんですもの! 聞き飽きましたし、聞いていて余計に気分が悪かったですわ!!」


 そこまで言い切ると、シェリーはふぅっと息を吐く。


「兎に角! わたくしはスティーヴン様に振り回されて、ずぅぅぅぅっと! うんざりしていましたの!! 婚約破棄すれば休日に貴方と会うこともなくなりますし、無理に貴方に合わせることもない。なにより、スティーヴン様との時間に拘束されなくて済みますわ! これからはとっても充実した時間を過ごせるのが楽しみで仕方ありませんの!!」


 シェリーの勢いに一瞬呆気に取られていたスティーヴンだったが、ハッとする。


「何とでも言うがいい! どうせ社交界で俺たちの婚約破棄が噂になれば白い目で見られるのはシェリー、お前だ!!」


 大公の息子であり、王族に名を連ねる者として、スティーヴンは自分が有利に立っていると確信していた。


「後で泣俺にきついても許さないからな?」

「ええ。構いませんわ。そのようなことだけは断じてありませんもの」


 そう告げると、シェリーは再び立ち上がる。


「スティーヴン様、婚約破棄の件は伯爵邸に帰ったら父に話しておきますわね。それではごきげんよう」


 優雅にカーテシーをして、シェリーは侍女を連れてスティーヴンの元を去って行った。


 その後ろ姿が小さくなっていくのを眺めながら、スティーヴンはドンッ!と怒りに任せてテーブルを叩く。そして、言いたいことを言うだけ言って去って行った婚約者の背中を睨み付ける。


 そもそも伯爵令嬢ごときが大公の息子であり、王位継承権を持つ自分と婚約できたことが、奇跡だということにシェリーが気付いていないことに腹が立った。


 シェリーはデートの時は必ず俺が贈ったドレスを着ていたが、ドレスが高級であればあるほど彼女が劣って見えた。それに比べてシャーメインはいつも美しい姿で俺を出迎えた。俺が贈ったドレスは着るのが勿体なくて、部屋に飾っているという。


 シャーメインはシェリーとは違って良い女だ。

 どうせ婚約破棄するんだ。この際、堂々とシャーメインと婚約してやろう。それから、俺を侮辱したシェリーを後悔させなくてはな。


 ニヤリとスティーヴンは品の悪い笑みを浮かべた。



 ▽▽▽▽▽



「ふははっ!! シェリー! 君は最高だよ!! 凄く面白い!! 遂に我慢できなくなったんだね!!」

「もう! ジョシュア殿下! 笑い事ではありませんわ」


 シェリーは幼なじみのように過ごしてきた、この国の王子であるジョシュアと王宮の庭園を練り歩いていた。

 お互いの母はお喋りに夢中で、暫く終わりそうもないため、頃合いを見計らって小さなお茶会を二人で抜け出すのが幼い頃からの定番だった。


「叔父上の提案で君には辛い思いをさせたね」

「ランシーマ大公閣下のご期待に沿えなかったことは心苦しいですが、婚約破棄が成立してわたくしは今とっても嬉しいのです! 何より、自由を満喫していますもの!!」


 ランシーマ大公は自分の息子の自分本意な性格に悩んでいた。スティーヴンがまだ幼い頃に妻に先立たれ、公務に励んでいた大公が気付く頃には、息子が“自分はこの世の全てを動かすほどの権力と金がある”と勘違いするようになっていたのだ。


 そこで、大公は兄に泣き付く形で相談し、彼らの父の妹であった元第三王女の孫娘、シェリーに白羽の矢が立った。

 理由は第三王女がとても礼儀作法などに厳しい人だったからだ。彼女はシェリーにとって母方の祖母にあたる。

 シェリーはレゼグロワ伯爵家の希望もあって、母方の祖母によって淑女教育が行われていた。だが、いくら完璧な淑女教育が施されようと、自由を大切にするシェリーは根本的にスティーヴンの我が儘で自分勝手な性格に耐えられなかったのである。


「やっと婚約破棄できて清々しましたわ!!」


 嬉しそうに笑うシェリーは向日葵のように眩しい笑顔をジョシュアにみせていた。ジョシュアはそれまでシェリーがスティーヴンのことで我慢を重ねていた分、自由を手にした彼女が特別に輝いて見えた。


「だけど、スティーヴンは君の悪い噂を広めている」


 レゼグロワ伯爵令嬢のシェリーは婚約者だったスティーヴンから巻き上げるだけ金やプレゼントを巻き上げ、挙げ句侮辱したと、近頃噂になっていた。


「ありもしない嘘の噂が広まるのは何とかしないと。さっきもレゼグロワ伯爵夫人がこのままだとシェリーに縁談が回ってこなくなると嘆いていたからね」

「嘆いても仕方ありません。そのときはその時ですわ! 仮に貰い手がなかったとしても、ジョシュアがこうしてわたくしの傍にいてくれたらそれで良いですわ!!」

「え?」


 ピタッとジョシュアが立ち止まる。

 それを不思議に思ったシェリーが振り返った。


「ジョシュア殿下? どうかなさいまして??」


 ジョシュアは昔からシェリーに恋焦がれていた。しかし、何にも縛られない自由なシェリーだからこそジョシュアは彼女に惹かれていたのだ。


 だが、彼女自身がそれで良いというのならば、話は別だ。


「シェリー、一応聞くけど、本当に良いんだね?」

「え? 何がです? ……あぁ! 貰い手がなかったらって話? それはもう、ジョシュアがそれでも良いって言ってくれるなら喜んで!!」


 幼なじみのような彼が王位を継いでからも、こうしてずっと仲良く同じ関係でいられるのなら、シェリーは満足だと考えていた。


「言ったね? 私はちゃんと確認したからね? 後で違うって言うのは無しだよ?? シェリー」

「へ……?」


 ジョシュアにズイッと覗き込まれたシェリーはあれ? と首をかしげる。


 ……何だか、わたくしが思っているのと、ジョシュアが思っていることが違う気がしますわ。


 そう思ったシェリーは少し前の二人の会話を思い返す。


 そして答えに行き着いたシェリーは、ボンッと顔を赤くした。


「あっ! あれは! 貰い手がなかったらと言うのは、そう言う意味では、っ!──むぐっ!?」


 シェリーはジョシュアの手によって口許を塞がれた。

 そして、シェリーの耳元に唇を寄せたジョシュアが囁く。


「後で違うって言うのは無しだって言ったよね?」

「~~っ!?」


 シェリーは声にならない悲鳴を上げる。シェリーだって、年頃の娘だ。ずっと一緒にいたジョシュアに何も想いを寄せていなかった訳ではない。


 だが彼は、将来ユルセモニア王国の国王となる。

 国王の伴侶となれば、公爵家や侯爵家などの娘から選ぶのが良いに決まっている。伯爵令嬢の自分は余程のことがない限り、彼の伴侶には選ばれないと考えていた。


「そうと決まれば、早速報告に行こうか!」


 フッと笑ったジョシュアが、シェリーの口許を解放すると、その手を優しく握って駆け出す。



「えっ!? えぇっ!? ま、待って!!」


 強引だが、ジョシュアはちゃんとシェリーが付いて来られる早さで走ってくれる。

 いつだって、ジョシュアはシェリーのペースに合わせてくれるのだ。そんな彼だからこそ、シェリーはジョシュアと過ごす時間を心地よく感じていた。


 こうして、ジョシュアはそのままお互いの母にシェリーと婚約すると宣言した。

 そんなの王妃様に反対されるのでは?? と不安に感じていたシェリーだったが、丁度母親同士で「そうなったら良いわね~!!」と話していたところらしい。


 二人の婚約はトントン拍子で進んだ。


 そして、国王の気まぐれな一言で二人の婚約を王家主催の夜会でサプライズ発表することが決まった。



 ▽▽▽▽▽



 淡いオレンジのドレスに身を包んだシェリーはこれでもか、というほど緊張していた。

 今日のドレスはジョシュアが生地から選らんでくれた物だった。

 スティーヴンの時とは違い、シェリーを想って選ばれた素材で仕立てられた、世界に一着しかない愛が籠った逸品である。


「シェリー」


 優しい声がシェリーを呼ぶ。


「いつになく静かだね?」

「だっ! だだだっ、だって!! こ、こんなに招待客がいらっしゃるなんて思っていなかったんですもの!!」


 今日の夜会は近隣諸国の王族や貴族も招待されていた。

 国王陛下はサプライズで婚約を発表すると言っていた筈なのに、何故こんなに人が多いんですの!? と、シェリーは驚愕したわけである。


「あー、それはね……」


 ジョシュアはシェリーに丁寧に説明してくれる。

 なんと、スティーヴンも今日の夜会で婚約を発表すると言うのだ。


 相手はシェリーもよく知っているシャーメインだ。

 だが、こちらは婚約発表と言っても、公開プロポーズらしい。


「ランシーマ大公は止めるように説得したそうだが、何度言ってもスティーヴンは聞かなかったらしい。スティーヴンが執事に頼んで近隣諸国の王族や貴族を呼んだそうだ」

「……」


 なんということだろう。

 シェリーはサァッと顔を青くする。


「ジョシュア様、わたくしたちの出番はいつですの?」

「スティーヴンの公開プロポーズの後だそうだ……」


 とんでもない空気になることは目に見えていた。


 こんなことになるのであれば、あの時スティーヴンにシャーメインのことを話しておけばよかったと後悔する程、シェリーは打ちひしがれる。だけど、そんな彼女の肩をジョシュアは優しく抱き寄せた。


「シェリー、私が一緒なんだから大丈夫だ」

「……はい。ジョシュア殿下」


 それだけでシェリーは本当に大丈夫な気がした。



 ▽▽▽▽▽



 スティーヴン・ド・ハンフリーは今日のために準備を進めてきた。

 シェリーの悪い噂を流し、自分はシェリーに搾取されていた可哀想な元婚約者であったために、仕方なく婚約破棄したのだと周囲にアピールしてきた。


 だが、今日の公開プロポーズでスティーヴンはこのユルセモニア王国一番の幸せ者になる予定だ。


 だからシャーメインには夜会に必ず出席するように伝えて、近隣諸国の王族や貴族まで呼び寄せた。


 それがどうだ。


「お断り致します」

「は……?」


 目の前にいるシャーメインは跪いて、婚約指輪を差し出すスティーヴンを冷ややかに見下ろしていた。


「何か勘違いされているようですが、わたくしがスティーヴン様を男性としてお慕いしていたことは一度もありません。貴方に付き合っていたのも、センスのないプレゼントを受け取っていたのも、ランシーマ大公閣下にお会いしたかったからですわ」

「え?」


 スティーヴンの中で時が止まる。


「わたくし、ランシーマ大公閣下をお慕いしておりますの。それでアタックし続けた結果、先日遂に良いお返事をいただきまして。正式に婚約者にしていただきましたわ」


 嬉しそうに微笑む彼女の薬指にはキラリと輝く物があった。


「え? は? え?」


 シャーメインが俺じゃなくて、父上と婚約していただと!?


 はははっと周囲から笑い声が聞こえてくる中、ランシーマ大公が二人の元に歩み寄る。


「だから、止めておけとあれほど言っただろう。このバカ息子」


 呆れ半分の大公はシャーメインの肩を抱き寄せた。


「諸々の手続きと、ジョシュアたちのこともあるため、正式な婚約発表は日取りを決めて行う予定だったんだ。それなのにお前は言うことを聞かんからなぁ。国王陛下と相談して、少々灸を据えることにした」

「っ~!!」

「スティーヴン、恥ずかしいか? 惨めか? 腹が立つか? だが、お前は今までレゼグロワ伯爵令嬢にそういった思いをさせていたのだぞ。それがわかるか??」


 ランシーマ大公が問いかけるが、スティーヴンは悔しそうに表情を歪めるだけで、何も言葉がでないらしい。すると、シャーメインが代わりに口を開いた。


「大公様ご安心下さい。これからはわたくしが継母として、スティーヴン様を鍛えますわ。先ずは人を思いやる気持ち、それから女心と……そうそう! 壊滅的なプレゼントのセンスもどうにかしないといけませんわね」

「くそっ!!」


 スティーヴンが悔しそうに床を殴った。


「ほら、そろそろ今夜の主役の登場だ」


 ランシーマ大公はスティーヴンを引きずるように会場の端へ移動する。そして、大公は声を張って話し始めた。


「お集まりの皆様、大変見苦しい物をお見せしてしまい、申し訳ございません。ですが、今夜サプライズがあると言うのは嘘ではありません。なんと! ジョシュア王子が婚約することになりました!!」


 会場がざわめきに揺れたのが、シェリーたちのところまで伝わってくる。緊張を濃くしたシェリーの手をジョシュアの手が優しく握る。


「それでは、幸せ一杯のお二人に登場していただきましょう!!」


 それを合図に目の前の扉が開いた。


「ジョシュア殿下とレゼグロワ伯爵令嬢、シェリー嬢の入場です!」


 その瞬間、割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 シェリーは隣のジョシュアを見る。ジョシュアもシェリーを見ていて、お互いに照れ笑いしてしまった。


 こうして、スティーヴンが流したシェリーの悪い噂はたった一日の夜会で、ジョシュアとシェリーのおめでたい話題に塗り変わった。

 その後、シャーメインによって、シェリーの悪い噂はスティーヴンが流したデマだということも告げられ、世間がシェリーを見る目は温かいものばかりになった。



 ▽▽▽▽▽



 婚約発表のあと、暫くして夜会の喧騒から逃れたたシェリーたちは、休憩にとバルコニーへやってきた。


「シェリー、これでもう君は正真正銘、私の婚約者だ」


 ジョシュアが嬉しそうに笑う。

 婚約者と言う肩書きに再び縛られることになったシェリーだが、スティーヴンの時のような窮屈さや不満は一切感じなかった。それどころか、ジョシュアの婚約者であることを嬉しく感じている。

 それはきっと、ジョシュアがシェリーを気遣ったり、シェリーに似合うプレゼントをしてくれたり、シェリーを尊重してある程度好きにさせてくれるからというのも理由の一つだろう。

 だけど、一番の理由はお互いが想いを寄せているからだと、シェリーは気付いていた。


「ジョシュア様こそ、これで正真正銘わたくしの婚約者ですわ。なので、一つ我が儘を……聞いてくださいますか?」

「何でもどうぞ」


 そう言って、にこっと笑うジョシュア。だが、シェリーは途端に恥ずかしそうに目を泳がせた。


「で、では……! ジョシュア様に、キスさせてくださいませ!!」


 それはスティーヴンと婚約していた時、彼にはちっとも思わなかった願いだ。それどころか、シェリーは嫌悪感すら抱いていた。

 だけど、ジョシュアとならしてみたいとシェリーはずっと思っていた。


「ふははっ!」


 途端にジョシュアが楽しそうに笑う。


「やっぱり私の婚約者は最高だ!!」

「なっ! もう! ジョシュア様っ!」


 シェリーはバカにされたと思ってムッと唇を尖らせた。

 そんなシェリーの隙を付いて、ジョシュアは愛しい婚約者の可愛らしい願いを叶えたのだった。

最後までお読みくださりありがとうございます!!

連載の息抜きで書きました!

頭の中で話が纏まった時に勢いで書き上げたので、変なところがあったらすみません。

楽しんで頂けていれば幸いです!

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お読みくださりありがとうございました!
◇作者の他の短編作品はコチラ
ガラスの足の伯爵令嬢
◇只今、連載中のお話はコチラ!!
婚約解消寸前まで冷えきっていた王太子殿下の様子がおかしいです!
面白そう!と思っていただけましたら、一度読んでみていただけると嬉しいです!
― 新着の感想 ―
面白かったです! シェリーとジョシュアの甘酸っぱいやり取りにニマニマ、ほっこりしました。 そしてシャーメインが悪役ポジでなく、まさかの大公狙い!しかも恋愛成就させた上にスティーヴンを鍛え直す宣言まで!…
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