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4/Fellow Resonances(1)

「……な〜んて、そこまで変な話じゃないんだけどねぇ〜」


 廃部したきっかけを知ろうと尋ねた刹那、まるで事件でもあったかのような重たい空気を出していたにもかかわらず、突如へにゃっとした顔へと戻り驚かせたことを謝罪してきた。


 一体この先生は何をしたいのか。掴みどころがあまりにも無さすぎる上、予想だにしない言動に振り回され、もはや三森の頭の中はパンク寸前だ。


「まぁ、本当に知る覚悟はあるのか知りたかったからさ〜。これで怖気付いたり、北織さんの演奏聞いて次元が違うとか思われてたら〜絶対あの子を引き戻すのは無理だからさ〜」


「そ、それは無いですし。諦めたくはないのでもう一度対決を挑もうかなって思ってたりしてましたけど」


「なら大丈夫だね〜……実はね、前にいた部員は北織さんに全く着いて行けなくて辞めたの。軽音部なんだから軽くできればいいと思ってた。って感じでね〜。まぁすこぶる熱量が違うのは確かにそうだったんだけど……その事がきっかけで色々抱え込んじゃってね〜。それで、また部員(なかま)を失いたくないからって理由で最後の部員でもあった北織さんは軽音部を辞めるって言って、そのまま廃部になったの」


 当時一年だった北織。その頃はまだ憧れを持ち軽音部に取り組んでいたが、その憧れから教えて貰っていた技術と追いつきたいという想いが先へ先へと出てしまい、気づけば北織一人の部活となってしまったのだ。


 当然誘ったところでその前科がある以上、軽音部に近づく人はおらず、孤独となってしまった彼女には辞める他なかった。


 まして、姉世代から存在した軽音部を自らの手で崩壊させたとなれば姉に合わせる顔はなく、再び設立させるのにも勇気が必要。もし作れたとしても、北織に着いていけないと部員が離れていったことが辛くのしかかっていた。


 そのため是が非でも三森には諦めて欲しいと願っているのだ。

 

「……その離れていった人って誰なんですか?」


「え?」


「いや、だって、北織先輩は夢を追うために必死になってるだけで、何も悪いことしてないですよね。だからちょっと私がその人達をぶん殴りに行こうかなと」


 話を聞く限りでは北織が部活を避けてる原因は、見放した仲間にあると気づいた三森。


 ふつふつと湧き上がる怒りが拳を強く握らせる。憧れを抱く澄んだ瞳も怒りと殺意に満ちており、東原は「み、三森さんって、意外とその、や、野蛮だねぇ……?」と、思わず言い淀んでしまう。


 しかしすぐにいつもの柔らかな顔立ちに戻り続けて言った。

 

「でも私の目に狂いはなかったな〜……うん、それじゃあさ、三森さん。もう一度北織さんと対決してみようよ、ちゃんと想いを伝えれば大丈夫だと思うんだ〜」


「でもまた負けますよ私」


「え〜でも、実際筋はかなり良かったし、なにより初めて北織さんの演奏聞いて焦っただけに見えたから勝てると思うけどなぁ〜。でもどことなく迫力が足りない感じもするし……そうだ〜! 練習する時、というかこの後私のお家においでよ〜」


 軽く悩む素振りを見せた東原。どうにかして解決できる策を思いついたのか、手を合わせてその提案を投げかけてきた。


 一歩譲って練習の為にこの部室をというのならばありがたい話でしかないが、一歩どころか、十歩、いや百歩すら進んだのではと感じる話。そもそもなぜ東原の家に招かれなければならないのか。別に拒絶するわけではないものの、その疑問に引っ掛かりを覚えて小首を傾げる。


「……えっと、なんで先生の家に?」


「あ〜、え〜とね〜。私の家、というか敷地内にライブハウスあるんだ〜。親が音楽好きで家の横の地下にライブハウス作ったの〜。で〜ライブない時は練習(リハーサル)スタジオとしても貸し出していてね〜、ここ最近ライブがないのと、一人でドラム叩きに来てる子がいてね〜。その子と練習してみるのもありかなぁって」


「そ、そういうことなら……一瞬ナンパ的な何かかと」


「先生がそんなことするわけないでしょ〜? 兎にも角にも練習〜! 北織さんからは私から連絡するから三森さんは練習に専念しよ〜! てことでライブハウスにれっつご〜!」


「え゛っ、今!?」


 あまりの急展開に脳の情報処理が追いつかず、ハチャメチャな東原に手を引かれるがまま学校を後にした。


 暫くして東原の自宅兼ライブハウスにたどり着いた。ただそこは地下にあるため、一見するとそこがライブハウスだとは正直わからない。けれど利用者がいるという時点で知る人ぞ知る場所であるのは確かだ。


 案内されるがまま二重の扉を開けると、空調が効きつつもグッと重たい空気と、一定のリズムを刻むドラムのビート音が身体の芯を震わせた。


 今の今までバンドを組むことに夢中で、ライブハウスに訪れることはなかったからこそ、新鮮な圧力に爆発する勢いで心臓が高鳴りをみせる。

 

 興奮のまま我先にと中へと入り、ビートを辿る。


「凄い……!」


 練習してたのはたった一人。それもドラムをストレス発散とばかりに強く激しく、けれど乱暴ではなく丁寧に叩いている。


 ギターやベースといった曲を盛り上がらせる音がないのに、彼女が叩くドラムからメロディが不思議と聞こえて、相手を褒め称える三文字が自然と口から出た。


 その声は当然ドラムにかき消されたが、真正面で見つめられていることに気づいたドラマーは、さらにボルテージを上げると締めの三連打で手を止めた。


「誰かと思ったら東原()()と三森さんか……って、三森さん、ギター(それ)背負ってるってことは練習? ていうか三森さんギター弾けたんだ?」


「え、誰……」


 バチッと目が合うやいなや、まるで三森のことを知っているような口ぶりで好奇心の眼差しを送ってくる。


 ダークブラウンのボブだが、インナーがどことなく青味を帯びており、真っ直ぐな眼差しは透き通っていて、深淵に飲まれそうになる。


 だがどうしても彼女のことは思い出せない三森。知り合いにこんな人いたかなと言わんばかりに、怪しく見える彼女を睨みつけながら思考を巡らせる。

 

「いや、クラスメイトの顔くらい覚えて?」


「あっ、え、えぇ……っと」

 

「はぁ、まぁいいけどさ。クラスメイトになってまだそこまで日が経ってる訳じゃないし。改めて、ボクは渡邉晴夏(わたなべはるか)。一応三森さんと同じクラスなんだけどね」

 

「うぐッ……」


 全く思い出す予兆が見られず、ため息を吐いた彼女、晴夏は改めて自己紹介しつつ、嫌味たらしく覚えられていないこと掘り返す。


「まさか君うちの生徒だったなんてね〜。全く偶然もあるものだねぇ〜」


「ボクは最初から気づいてましたけど、だから東原先生って呼んでるんですし」


「なは〜そういう意味だったんだ〜。いやぁ音楽について教えたこともないのになんで先生って呼ぶのか不思議だったんだぁ」


「いや先生こそ気づきましょうよ……ともかく話戻るけど、三森さんも練習だよね。ならボクは休憩がてら避けてるから」


「あ、そのことなんだけどねぇ。私から説明するんだけど、実はかくかくしかじかでねぇ」


「実際にかくかくしかじかって言う人をボクは初めて見ましたよ……」


 てへっと舌を小さく出して誤魔化した後、しっかりと事情を説明して、頭を下げる。当然三森も頭を下げ誠意を示していた。

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