最終話
俊介は、自分がいたはずの場所に別の人間がいることを、どうやっても受け入れる事が出来なかった。
居場所がなかった。
自分はこれからどこに行けばいいのだろう。
俊介はフラフラと、前に向かって歩くしかなかった。
公園に入っていくと、そこには数人のホームレスたちがいた。公園に住みついているように見えた。
俊介はベンチに座った。お腹が鳴った。そういえば朝食べたきり、何も食べていなかった。
ポケットを探ると小銭が出てきた。三十円。これじゃあパンも買えやしない。
携帯を取り出すが、充電が切れていた。
俊介は溜息をつきながら、ホームレスを眺めるしかなかった。
その時、俊介の隣に、黒いスーツの男が座った。
「残念です」
と低い声で言った。
俊介は、驚いて男を見た。
「チェンジはチャンスだったのです。やり直すチャンス。あなたにはもうその資格すらありませんが」
「やり直すよ。ちゃんと家族を大事にするから。だから、もう一度」
「残念です。あなたにはもうチャンスはありません」
「なんでだよ。チェンジしてくれよ」
「チェンジは三度までなのです。あなたは、もう三回変えられてしまったので」
「そんな……」
俊介は一度目の家族、二度目の家族、三度目の家族を思い出していた。
なぜ俺は、資格を失ってしまったのだろう。
男が気の毒そうに俊介を見て、肩にそっと手を置いた。
「残念です」
再び同じ言葉を残し、男は去って行った。
俊介は、自分の肩を見た。
そこには、赤い紙が貼られていた。
『不要』と書かれた赤い紙。
俊介は必死でその紙をはがそうとするが、どうやってもはがれなかった。
暗い部屋の中で、俊介が首を吊ろうとしていた。
俊介の足元には椅子が置いてある。
俊介はブツブツと呟いている。
「お前なんかいらない。お前なんかいらない。お前なんかいらない」
そして、俊介は大きく目を見開き、
「チェンジ!」
と叫び、足の下にある椅子を蹴った。
暗闇の中、俊介の身体が揺れている。
俊介が悲鳴を上げて、飛び起きた。
眠っていたようだ。
俊介の身体の上には、ダンボールが布団のようにかけられていた。俊介はダンボールを抱えて、ホームレス達の方に歩いていった。
その中の一人の男が、俊介に笑いかけてきた。
「おう、若者。目が覚めたか?」
「はい。目が覚めました」
俊介は、ダンボールを男に差し出した。
「あの、これ、ありがとうございました」
「いいってことよ」
俊介は、深々と頭を下げた。
男は、俊介の肩の赤い紙をチラッと見てから、
「ま、俺たち、人間っていう名の家族だからさ」
そう言って笑った。
「家族……」
「そう。永久にチェンジなしの」
「……よろしくお願いします」
俊介は自分の居場所を見つけたような気がした。
血も繋がっていないし、家もない。
でも、ここから始めようと思えた。
俊介の肩から、赤い紙がはずれ、風に舞うように飛んでいった。
おわり