第4話
夕食時、俊介は知らないおじさんとおばさんと女の子の三人と、食卓を囲んでいた。
俊介は心の中で、その人達を由美子2、啓介2、美香2と呼ぶことにした。
テーブルの上には、酢豚と唐揚げと春巻きが並んでいた。
「さあ、いっぱい食べてちょうだい」
由美子2が、自信ありげに言った。
美香2が、「わあ、美味しそう。いただきまーす」と言ってから、酢豚を口に入れた。入れた瞬間、口から出した。啓介2も春巻きを口に入れた途端、吐き出した。
俊介は、食べる前から不味いとわかる二人の様子を見てしまい、ごはんを食べたい気持ちがなくなってしまった。だが、由美子2が必死な形相で自分を見つめてくるので、一番マシに見えた唐揚げを渋々口に入れた。そしてすぐに吐き出した。
「うわ、何これ。超クソまず」
由美子2が、傷ついたように俊介を見ている。
「俊介、そんな言い方は駄目だぞ」
啓介2が、俊介に諭すように言った。
「駄目って。みんなもそう思ってんだろ。よくこんなまずいもの作れるよね」
「お兄ちゃん」
「俺の母さんは、料理が上手だった」
「何言ってるの。俊ちゃんの母親は私よ」
「お前なんか、俺の母さんじゃねーよ。お前なんかいらないし」
「ひどい」
由美子2が、机に突っ伏して泣き始めた。
「俊介、母さんに謝りなさい」
啓介2が、自分も口から吐き出しくせに、強い口調で言ってきたことにも、俊介はムカついた。
「いいの?そんな強気で言っちゃって」
啓介2が、黙って俯いた。
「だいたい、俺の親父は、お前みたいに禿げてないし」
「明日、カツラ買ってこようかな」
啓介2が自分の頭に手をやり、媚びたように笑いかけてきた。
調子づいた俊介は、美香2にも、
「俺の妹は、お前みたいに太ってないし」
と言ってやった。
美香2は俯き、耳を真っ赤にし、肩を震わせていた。
「あーあ。これだったら、前の家族の方が良かったなぁ」
そう言ってから、俊介は部屋から出て行った。
残された三人が、俊介のことを恨みがましい目で見ていることには、全く気づかずに。
自分の部屋に戻った俊介は、携帯の画面を見つめていた。そして、電話をかけた。
「あ、もしもし。チェンジしたいんですけど・・・・・・あ、とりあえず母親だけチェンジで。あ、セットになってるんすか。じゃあ、セットでチェンジでいいです」
電話をかける前は緊張したが、電話の相手は理由も訊かず、すぐにチェンジをしてくれると言ってくれたので、俊介は気楽になった。
――なんていい世の中になったんだろう。
そんな俊介を、ドアの隙間から、由美子2が覗いていた。
つづく