第3話
「取り換える?」
「まあ学校に例えたら、クラス替えみたいなもんじゃね」
「それ、どうやって取り替えんだよ」
「連絡先、CMでも流れてんじゃん」
「マジかよ」
「俺、番号知ってる。昨日メモったし」
「なんだよ、お前。チェンジすんのかよ」
「まあね。ちょっと面白そうじゃん」
俊介も、確かに面白そうだと思った。
敦史が俊介に顔を近づけ、言った。
「実はチェンジってさ、子供からしか出来ないから、親達慌てふためいてやんの。超ウケる」
「子供の特権か」
「そう。俺ら子供の特権」
「俺がニュース観てない間に、世の中凄い事になってたんだ」
「まあ、お前んとこはもうチェンジされてんだろ。連絡先、必要ないか」
俊介は慌てて言った。
「いや、でもさ、俺そんなの知らなかったし、そんなとこに連絡もしてないのに、なんで家族がチェンジされてんだよ?」
「あ、それ俺」
「え?」
「お前のフリしてかけてみた」
「なんでお前が?」
「だって、昨日、家族いらねーって、俺にラインしてきたじゃん」
そうだった。確かに送った。
「まあ、新しい家族と仲良くやれば」
そう言って、敦史が立ち上がった。
「淳史」
「ん?」
「その番号、教えといて」
敦史がLINEに、家族チェンジ法案の番号を送ってくれた。
俊介は、その番号を食い入るように見つめた。そんな便利な法律が出来たのかと、俊介は味方を得たような気持ちになった。
敦史と別れてから、俊介は家に戻った。
まだあいつらがいるかもしれないと、一瞬ドアの前で躊躇したが、他に行くところもないので、しかたなく家に入っていった。
恐る恐る居間に行くと、やはり朝のおばさんがそこにいた。
おばさんが俊介に
「おかえり」
と親しげに声をかけてきた。
二階の自分の部屋に逃げようとした俊介の腕を、おばさんが強い力で掴み、無理矢理ソファーに座らせてきた。
そして、皮を剥いたリンゴを、俊介の口の前に差し出してきた。
「ねえ、俊ちゃん」
知らないおばさんから名前を呼ばれ、俊介は嫌な気持ちになった。
「え、あ、はい」と一応返事をしたが……,
「何よー。はいなんて他人行儀なんだから」
「いや、あの。他人だし」
人の話を聞いていないのか、おばさんが俊介の手を取り、撫ぜるように触った。
「仲良くしましょうね」
おばさんが、俊介に媚びを売るように、笑いかけてきた。
――なんだ、この女は。ベタベタと気持ちが悪い。そうか。俺にチェンジされないように、媚びてるんだな。
俊介は、なるほどと思った。
再び、おばさんが「あーん」と自分の口を大きく開けながら、俊介にリンゴを差し出してきた。
――やりすぎだっちゅうの。俺の理想の親は、お前なんかじゃねーんだよ。
そう思いながらも、俊介は渋々口をあけ、リンゴを食べた。
「実はあたし、あなたで三人目なのよ。もうこれ以上家族を失いたくないの。だから仲良くしましょうね」
おばさんが俊介に、内緒話をするように打ち明けてきた。
俊介は心の中で呟いた。
――はい。チェンジー。
つづく