第2話
翌朝、いつものように俊介が階下に行くと、なぜだか変な感じがした。違和感のようなものが。
俊介は洗面所に行った。そして自分の歯ブラシがない事に気づいた。俊介は舌打ちをした。
「ねえ、俺の歯ブラシないんだけど」
そう言って前を向いた俊介の目に、信じられない光景が映った。
椅子に座っている見知らぬ女の子。
新聞を読んでいる見知らぬ男性。
食事を並べている見知らぬ女性。
――誰だ、こいつら。
俊介が驚きながら見ていると、三人も俊介の方を見た。そして男が、
「おはよう、俊介」
と声をかけてきた。
おはようとはどういうことなんだ。何故知らない人間が、家族のような顔をしてここにいるんだ。
俊介はパニックになりそうな気持ちをなんとか抑え込んで、ただただ立ち尽くしていた。
俊介は食事もとらず、着替えだけして、急いで学校に向かった。
あの家にはいられなかった。
窓際の席で、俊介は朝の光景を思い出していた。
「なんだよ。いったいどうなってんだよ」
――俺の家族はどこにいったんだ。
授業が終わると、俊介は急いで校門を出た。
あいつらがまだ家にいるのか確かめたくて、急ぎ足で歩いていた。
「俊介」
同級生の田辺淳史が、声をかけてきた。
「よお」
「おお」
「なんか元気なくない?」
「……うん、まあ」
「なんかあった?」
敦史に訊かれ、俊介は思い切って打ち明けた。
「俺の家族が、消えた」
公園のベンチで、俊介は敦史が買ってきてくれたコーラを飲みながら話した。
「消えたって、どういう事だよ」
「俺にも何がなんだか、全くわかんねーよ。朝起きたら、見たこともない奴らが、おはようって」
敦史は黙って訊いている。
「普通に家族みたいな顔して、俺んちにいんだよ。やっぱ警察にいった方がいいよな」
立ち上がろうとした俊介を手で制し、敦史が言った。
「それ、家族チェンジだよ」
「え?」
「家族チェンジ」
「家族チェンジ?」
「そう。今月から、気に入らない家族を変える事が出来る、家族チェンジ法案が実施されてるじゃん」
「なんだよ、それ」
「お前、ニュース観てないの?」
「観ねーよ。そんなもん」
「最近家族間の事件が多くてさ、家族が殺し合ったりするだろ」
敦史の言葉で、俊介は昨夜一瞬だけ見たニュースを思い出した。
家の周りに数台のパトカーが止まっている映像を。
アナウンサーの声が蘇る。
『父親の新里信二さん六十歳と母親の新里幸子さん五十四歳が、何者かに刺されたようで、今死亡が確認されました。事件後、高校二年生の長男の姿が見えない事から、警察はこの長男が何か事情を知っているのではと――』
絶対長男が殺ったんだろうと、俊介は思った。
「だから政府が対策として、上手くいかない家族を、事件が起きる前に取り換える事が出来るシステムを作ったんだよ」
つづく