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第1話

 古びた一戸建ての前で、野良犬たちがゴミ箱を漁っている。工藤と書かれた表札は、角が欠けていた。 


 家の中から、騒音並みの音量が聞こえてきた。


 一階の居間のソファーに寝転がって、工藤俊介がテレビを観ながら笑っていた。俊介は十八歳だ。


 居間に続いた台所では、俊介の母、由美子が洗い物をしていた。由美子はお皿を洗いながらも気になるのか、目の端で俊介の様子を伺っていた。


 先月、由美子は四十八になったのだが、誰からもおめでとうと言われていない事を気にしていた。テレビの音が大きすぎると、由美子は思った。思ったが、それを口に出すことは絶対にない。


 その時、乱暴にドアが開き、居間に俊介の妹、美香が入ってきた。美香は十六歳である。


 美香は部屋に入ってくるやいなや、



「ちょっと静かにしてよ。あたし、明日試験なんだよ」



 と、訴えるように叫んだ。


 しかし俊介は、美香の訴えに耳を貸す気がないのか、煎餅をバリバリと音をたてながら食べていた。



「ママ、お兄ちゃんに言ってよ」



 美香が由美子に泣き声で訴えたが、由美子は水道の蛇口を最大に開き、こちらも聞こえないふりを決め込んだ。


 ママはいつもそうだと、美香は苛立ったが、今はそれどころではなかった。明日の試験は落とせない。進級がかかっているのだ。


美香は、机の上にあるテレビのリモコンを取り、有無を言わさずボリュームを下げた。



「なにすんだよ」



 俊介が怒鳴った。


 それでも美香は、俊介を無視し、チャンネルを変えた。美香はバラエティ番組よりニュースの方が好きだった。


 画面にはどこかの家が映っていて、数台のパトカーが家を囲むように止まっていた。


アナウンサーが叫んでいる。



『父親の新里信二さん六十歳と母親の新里幸子さん五十四歳が、何者かに刺されたようで、今死亡が確認されました。事件後、高校二年生の長男の姿が見えない事から、警察はこの長男が何か事情を知っているのではと――』



 その時、俊介が美香から奪うようにリモコンを取り返し、チャンネルを変えてしまった。バラエティ番組の中で、芸人が裸で踊っていた。


 さっきのニュースの続きが見たいと、美香は俊介からリモコンを奪おうとした。瞬間、俊介が美香のお尻を強く蹴った。


 美香は俊介を睨みつけた。だが、俊介は素知らぬ顔で、テレビのボリュームを最大に上げた。全ての音がかき消され、美香はあまりの騒音に耳を塞いだ。


 その時父親の啓介が、部屋に入ってきた。啓介は五十一歳だ。少し髪が薄い。


 啓介はただいまと言っているのか、口をパクパクと動かしている。テレビの音量が大きすぎて、何も聞こえなかった。啓介は台所にいる妻を見た。由美子が目配せをしてきたので、台所に行った。その様子を見ていた美香も台所に向かい、三人でひそひそ話を始めた。


 三人が、自分の事でコソコソ話をするのはいつもの事なので、俊介は何も気にならなかった。俊介は素知らぬ顔で、スマホを触り始めた。


 LINEを開き、何の躊躇もなく、友人の敦史に送信した。



『マジ、家族いらねー』




                   つづく

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