data.3/初めての事故
ーー半年前。
高校生になって初めての梅雨の時期。図書館に寄った帰り道だった。雨上がりの後の綺麗な夕陽を見上げながら、一人で横断歩道を渡っていたとこまでは覚えている。
車の音に反射的に顔を向けた瞬間、下半身が頭と同じ高さになって硬い地面に叩きつけられた。
音も光も一気に消えてーー目を開けたとき、私は白い天井を見上げていた。いや、それしか出来なかった。
「義務化されてる衝突回避システムがついていれば、こんな事故は起きなかったのにーー」
誰かが話している様な話し声が、遠くに聞こえる。
意識はぼんやりとしていて、覚めたり沈んだりを繰り返す。
動かない身体に点滴の落ちる雫、固定されたベッドの感触が少しずつ、はっきりしてきて、私は入院していることをようやく受け入れた。
ーー入院して何日後だったか忘れたが、事故の話を少しずつ聞いた。
私を轢いた車は、そのまま一キロ先の交差点まで暴走し、途中で複数の車と接触しながら、ようやく別の車と衝突して止まったという。
運転していたのは八十を超えた高齢男性で、いわゆる“ビンテージカー”に乗っていた。事故の原因であるブレーキの整備不良だが、その整備は自分で行っていたというのだから呆れるしかない。
しかも事故当日は孫の送迎中で、運転手本人はかすり傷で済んだと聞いて、悪運の強さにさらに腹が立った。
現場検証の際には、「わしの人生、もう終わりじゃ」と呟いてたらしく、その自己中心的な態度に人間性を疑うしかない。
――もし、運転手が目の前に現れたら、私はどうしたんだろう。
「あなたの人生なんて、知ったことじゃない! 私は、これから八十五年、この身体で生きていかなきゃいけないのに……!」
そうやって怒鳴りつけて、胸ぐらを掴んで、ひっぱたいてやりたい――けど……きっとできない。
私は昔から、ずっとそうだった。
何も言えず、声も出せず、涙だけがこぼれて、気持ちはまた胸の奥に沈ませて、全部ノートに書き込んでごまかす。
――そうやってしか、生きてこられなかったから。