data.11/ 初めての目標
凛と名前で呼び合う時間が重ねるにつれ、私たちは、動かない足を並べながら写真を撮る仲になった。
少し休憩――と、疲れてソファーに横になる私の真似をして、凛も隣でうつ伏せになりながら私を叱る。
「彩夏、サボらない! さあ起き上がって、毎日ちょっとずつでも頑張る!」
「まったく……凛は、なんでそんなに前向きなの?」
私が渋々、身体を起こすと凛も同じように態勢を整える。
「だって、車椅子じゃなくて、自分の足で好きな場所に行きたくない? 動かしたいなら、動かすしかないの。奪われた分、ちゃんと取り戻さなきゃって思うんだ」
その言葉に、私は返す言葉を少し探してから、小さくつぶやく。
「私は……別に、どこにも行きたくない。小説が書ければ、それで十分な気がしてて……」
「えー、それダメでしょ。ネタは歩いて見つけるんだよ?」
そう言って笑ったあと、彼女は唐突に言った。
「じゃあさ――二人で花火、見に行こうよ。病院の掲示板にあったでしょ? 十一月にあるやつ」
「花火……?」
「うん。ちゃんと空を見上げて、音を聞いて、身体で感じるんだよ。それを二人で一緒にやるの。どう――いいよね?」
私はしばらく黙ってから頷いた。
「見たいかも。でも、リハビリってつらいし……」
「よし、決まり! 目標は“花火”だ! 二人で見るって決めたら、頑張れるね」
勢いのまま、凛は療法士さんに向き直り、「もう一回リハビリお願いします!」と元気に叫ぶ。
「ちょっと、ちょっと……凛。私の話、聞いてた?」
黒髪を揺らしながら、手すりにつかまり“すっ”と立ち上がるその姿は、まるで弱さを押し隠して未来を切り開こうとする勇者のようだった。